浦原隊長の食卓シリーズ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ある日、目覚めたらそこは一面の雪景色だった。
「浦原さん、浦原さん!見てください、雪ですよ!雪!」
昨晩シンシンと降り続いていた雪は、それは見事な積雪の結果になっていた。
厚さは10cmくらいだろうか。新雪に足を踏み入れれば間違いなく冷たいであろう深さ。
「まぁ、冬っスからねぇ」
朝食の味噌汁を啜り、鮭の塩焼きを口に運ぶ。
丁度いい塩加減に思わず頬が綻びそうになった。
「でもこんなに積もるのは初めて見ました」
窓の外をチラチラ眺めながら「何だかワクワクしますね」と名無しが子供っぽく笑う。
子供っぽく、と言ったら語弊があるだろうか。実際彼女はまだ幼く、紛うことなき未成年なのだから。
「そこの引き出しに襟巻と手袋がありますから、大きいと思いますけど好きに使ってください」
行儀悪く箸で引き出しを指し示せば、ぱっと表情を明るくした名無しがゴソゴソとすぐさま漁り出す。
黒い襟巻と、紺色の手袋。男物だから当たり前だが、大きいしデザインはお世辞にも可愛いとは言えない代物だ。
「いいんですか?雪遊びに使っちゃって」
「もちろん。」
即答で返事を返せば、はにかんで笑う彼女。あぁ、可愛い。
待ちきれないように襟巻をぐるりと首元に巻きつければ、顔の下半分がすっぽりと毛糸に隠れてしまう有様だ。
そう、まるで顔を少しだけ出している亀のように。
「…浦原さんの匂いがしますね」
照れくさそうに笑う名無しの笑顔を見て、ボクは思わず目眩を覚えた。
そんな風に笑うのは、本当に反則だ。
***
浦原を見送り、いつもより手早く家事を済ませたら後はもうお楽しみタイムだ。
人手と積雪がもう少しあればカマクラも出来たかもしれない。が、ないものねだりはやめておこう。
最初は小さな雪玉を、コロコロころころと新雪の上を丁寧に転がしていく。
徐々に太っていく雪玉を定位置に置いて、それより一回り小さな雪玉を作っていった。
「よい、しょっと」
腰の高さ程の雪玉二つは、少し小ぶりではあるが立派な雪だるまとなった。これは誰がどう見ても雪だるまだ。
「…枝とか鼻が欲しいなぁ」
隊首私室の裏庭をウロウロ歩き、折れた小枝。手頃な石をかき集めていく。
どうせなら隊首私室の窓から見えるように作りたい。あぁ、浦原に似せて作ったらどんな反応をしてくれるだろう。
うずうずと浮き足立つ気持ちは最早抑えようもない。
いくつになっても、積雪が珍しい地域に住んでいた身としては、雪景色とは心躍るものなのだ。
(今日の晩ご飯は暖かいものにしようかなぁ)
ふわりと靄に変わる白い息を吐き出しながら、名無しは夕方には帰ってくるであろう待ち人を思いながら夕飯のメニューを考えた。
***
隊首私室に近づくにつれ、嗅いだことのない香りが鼻腔を擽った。
出汁の匂いではない。
牛乳を似たような、柔らかくて、少しだけ香ばしいような。
浦原が僅かに首を傾げながら隊首私室の扉を開けば、いつも通り台所に立っている名無しの姿。
「あ、おかえりなさい。浦原さん」
「ただいまっス。…今日の夕飯って、何っスか?」
「たまには洋食もいいかと思って。」
コトコト煮込んでいるのは、白い何か。
牛乳と、小麦と、野菜の皮と、鶏肉を使った跡が、台所にて綺麗に片付けられていた。
「ホワイトシチューですよ。食べたことは?」
「ないっスねぇ。牛乳を煮込んでいるんっスか?」
「はい。小麦粉とバターと…まぁ色々混ぜたベースのスープに、野菜と鶏肉を煮込んだ料理ですね」
なるほど。
和食にはない、珍しい組み合わせだ。
ホカホカと湯気が立ち込める鍋は、何とも言い表せない食欲をそそる香りがした。
彼女と暮らし始めて和食以外にもありつけるようになったのだから、本当に物珍しく有難い話だ。
科学者としては、新しい食材の組み合わせに舌づつみを打つと同時に、新しい発見と刺激になるのだから。
「雪といえばホワイトシチューのイメージなんですよね。おでんもちょっと迷いましたけど。」
「あー、おでんもいいっスね。…ところでなんで雪といえばホワイトシチューなんっスか?」
「えっと…」
大きなどんぶりにホワイトシチューをよそう名無しに問いかければ、少し困ったように小さく彼女は笑う。
「冬になると、雪国の地域でホワイトシチューを家族みんなで囲って食べている広告の宣伝がよく流れていたんです。ちょっと憧れといいますか。」
白いとろみのついたシチューの中には、じゃがいも・ほうれん草・人参・玉ねぎ・鶏肉と具沢山だった。
ほろりと少し煮崩れた野菜はきっと味がしみて美味しいのだろう。
「いいんっスか?ボクなんかと囲っちゃって。」
「浦原さんなら大歓迎ですよ。」
機嫌よく笑う名無しを見て、ボクは思わず頬が僅かに熱くなるのを必死に隠した。
だってほら。いい歳こいた死神が、こんな小さな女の子に年甲斐もなくときめくなんて。
…いやこれは不可抗力だから仕方ないことなのだけど。
「そうそう、見てください!シチューより力作なんですよ!」
黒い瞳をキラキラさせて、彼女はスラリと窓の襖を開け放つ。
こちらと視線が絡む、雪だるまが三体。
「……もしかしてボクと涅サンとひよ里サンっスか?」
「はい!」
歪ながらも辛うじて形を保っている雪だるま。
一発で当てれた自分を褒めてやりたい。
特徴としては、ボクのくせ毛と、ひよ里のツインテール。左端に鎮座しているマユリの雪だるまに至っては少し妖怪じみた見た目をしている。
…本人が見たらなんと言うだろうか。
(あぁ、でも涅サンなら一周回って大爆笑しそうっスね)
彼女に対して随分甘やかし気味の副局長を思いながら、ボクは本日の食卓の席に着くことにした。
浦原隊長の食卓#ホワイトシチュー
「あ、美味しいっスね」
「よかった、お口にあって。…白いご飯に合わせるのもいいんですけど、苦手な人は苦手みたいなのでお米は炊かなかったんですけど…」
「これおかわりあるんっスか?」
「勿論!しっかり食べて温まってくださいね」
少し霜焼け気味の指先で器を持つ、彼女の小さな手。
なるほど、これは新しい冬の風物詩かもしれない。
ほこほこと綻ぶ名無しの笑顔を見て、ボクはゆるりと目元をついつい細めてしまった。
それは粉雪が僅かに夜闇を舞う、寒い寒い冬の一幕。
「浦原さん、浦原さん!見てください、雪ですよ!雪!」
昨晩シンシンと降り続いていた雪は、それは見事な積雪の結果になっていた。
厚さは10cmくらいだろうか。新雪に足を踏み入れれば間違いなく冷たいであろう深さ。
「まぁ、冬っスからねぇ」
朝食の味噌汁を啜り、鮭の塩焼きを口に運ぶ。
丁度いい塩加減に思わず頬が綻びそうになった。
「でもこんなに積もるのは初めて見ました」
窓の外をチラチラ眺めながら「何だかワクワクしますね」と名無しが子供っぽく笑う。
子供っぽく、と言ったら語弊があるだろうか。実際彼女はまだ幼く、紛うことなき未成年なのだから。
「そこの引き出しに襟巻と手袋がありますから、大きいと思いますけど好きに使ってください」
行儀悪く箸で引き出しを指し示せば、ぱっと表情を明るくした名無しがゴソゴソとすぐさま漁り出す。
黒い襟巻と、紺色の手袋。男物だから当たり前だが、大きいしデザインはお世辞にも可愛いとは言えない代物だ。
「いいんですか?雪遊びに使っちゃって」
「もちろん。」
即答で返事を返せば、はにかんで笑う彼女。あぁ、可愛い。
待ちきれないように襟巻をぐるりと首元に巻きつければ、顔の下半分がすっぽりと毛糸に隠れてしまう有様だ。
そう、まるで顔を少しだけ出している亀のように。
「…浦原さんの匂いがしますね」
照れくさそうに笑う名無しの笑顔を見て、ボクは思わず目眩を覚えた。
そんな風に笑うのは、本当に反則だ。
***
浦原を見送り、いつもより手早く家事を済ませたら後はもうお楽しみタイムだ。
人手と積雪がもう少しあればカマクラも出来たかもしれない。が、ないものねだりはやめておこう。
最初は小さな雪玉を、コロコロころころと新雪の上を丁寧に転がしていく。
徐々に太っていく雪玉を定位置に置いて、それより一回り小さな雪玉を作っていった。
「よい、しょっと」
腰の高さ程の雪玉二つは、少し小ぶりではあるが立派な雪だるまとなった。これは誰がどう見ても雪だるまだ。
「…枝とか鼻が欲しいなぁ」
隊首私室の裏庭をウロウロ歩き、折れた小枝。手頃な石をかき集めていく。
どうせなら隊首私室の窓から見えるように作りたい。あぁ、浦原に似せて作ったらどんな反応をしてくれるだろう。
うずうずと浮き足立つ気持ちは最早抑えようもない。
いくつになっても、積雪が珍しい地域に住んでいた身としては、雪景色とは心躍るものなのだ。
(今日の晩ご飯は暖かいものにしようかなぁ)
ふわりと靄に変わる白い息を吐き出しながら、名無しは夕方には帰ってくるであろう待ち人を思いながら夕飯のメニューを考えた。
***
隊首私室に近づくにつれ、嗅いだことのない香りが鼻腔を擽った。
出汁の匂いではない。
牛乳を似たような、柔らかくて、少しだけ香ばしいような。
浦原が僅かに首を傾げながら隊首私室の扉を開けば、いつも通り台所に立っている名無しの姿。
「あ、おかえりなさい。浦原さん」
「ただいまっス。…今日の夕飯って、何っスか?」
「たまには洋食もいいかと思って。」
コトコト煮込んでいるのは、白い何か。
牛乳と、小麦と、野菜の皮と、鶏肉を使った跡が、台所にて綺麗に片付けられていた。
「ホワイトシチューですよ。食べたことは?」
「ないっスねぇ。牛乳を煮込んでいるんっスか?」
「はい。小麦粉とバターと…まぁ色々混ぜたベースのスープに、野菜と鶏肉を煮込んだ料理ですね」
なるほど。
和食にはない、珍しい組み合わせだ。
ホカホカと湯気が立ち込める鍋は、何とも言い表せない食欲をそそる香りがした。
彼女と暮らし始めて和食以外にもありつけるようになったのだから、本当に物珍しく有難い話だ。
科学者としては、新しい食材の組み合わせに舌づつみを打つと同時に、新しい発見と刺激になるのだから。
「雪といえばホワイトシチューのイメージなんですよね。おでんもちょっと迷いましたけど。」
「あー、おでんもいいっスね。…ところでなんで雪といえばホワイトシチューなんっスか?」
「えっと…」
大きなどんぶりにホワイトシチューをよそう名無しに問いかければ、少し困ったように小さく彼女は笑う。
「冬になると、雪国の地域でホワイトシチューを家族みんなで囲って食べている広告の宣伝がよく流れていたんです。ちょっと憧れといいますか。」
白いとろみのついたシチューの中には、じゃがいも・ほうれん草・人参・玉ねぎ・鶏肉と具沢山だった。
ほろりと少し煮崩れた野菜はきっと味がしみて美味しいのだろう。
「いいんっスか?ボクなんかと囲っちゃって。」
「浦原さんなら大歓迎ですよ。」
機嫌よく笑う名無しを見て、ボクは思わず頬が僅かに熱くなるのを必死に隠した。
だってほら。いい歳こいた死神が、こんな小さな女の子に年甲斐もなくときめくなんて。
…いやこれは不可抗力だから仕方ないことなのだけど。
「そうそう、見てください!シチューより力作なんですよ!」
黒い瞳をキラキラさせて、彼女はスラリと窓の襖を開け放つ。
こちらと視線が絡む、雪だるまが三体。
「……もしかしてボクと涅サンとひよ里サンっスか?」
「はい!」
歪ながらも辛うじて形を保っている雪だるま。
一発で当てれた自分を褒めてやりたい。
特徴としては、ボクのくせ毛と、ひよ里のツインテール。左端に鎮座しているマユリの雪だるまに至っては少し妖怪じみた見た目をしている。
…本人が見たらなんと言うだろうか。
(あぁ、でも涅サンなら一周回って大爆笑しそうっスね)
彼女に対して随分甘やかし気味の副局長を思いながら、ボクは本日の食卓の席に着くことにした。
浦原隊長の食卓#ホワイトシチュー
「あ、美味しいっスね」
「よかった、お口にあって。…白いご飯に合わせるのもいいんですけど、苦手な人は苦手みたいなのでお米は炊かなかったんですけど…」
「これおかわりあるんっスか?」
「勿論!しっかり食べて温まってくださいね」
少し霜焼け気味の指先で器を持つ、彼女の小さな手。
なるほど、これは新しい冬の風物詩かもしれない。
ほこほこと綻ぶ名無しの笑顔を見て、ボクはゆるりと目元をついつい細めてしまった。
それは粉雪が僅かに夜闇を舞う、寒い寒い冬の一幕。