#12.5 short story
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この日が、大切なあなたが生まれた日ならば。
私は全力でお祝いしましょう。
first anniversary!
「浦原さんの誕生日?」
「なんや。知らんかったんかいな」
饅頭を片手にひよ里がなんとなしに頬杖をつく。
「まぁあのアホの誕生日なんかどーでもえぇわな」と笑いながら彼女は湯呑の茶をのんびり啜った。
「大晦日が誕生日なんだね。…ってことは、1ヶ月ちょっと先かぁ…」
11月の下旬。
秋も色褪せ、冬の足音が瀞霊廷にも近づいてきた霜月。
準備するには時間があるようで、意外と短いタイムリミットだ。
「何あげたら喜んでくれるかな…」
残念ながら貴賎はほぼ無いに等しい。
あるといえばあるのだが、生活費として渡されているお金である。
大事に使うことに越したことはないし、そこから浦原へのプレゼントを買うのもちゃんちゃらおかしな話だ。
「なんや。わざわざ名無しが気張る必要ないんとちゃうか?」
「でもお世話になっているし…何かバイトしようかな…」
食べかけていた饅頭を皿に起き、うんうん頭を悩ませている彼女へ、ふと頭上から影が落ちる。
「どうしたんだネ、賢くなさそうな顔をクシャクシャにして」
「あ。マユリさん。」
無遠慮に上を見上げれば、相変わらず奇怪な化粧を施した技術開発研究所の副局長がのっそりと顔を覗き込んできていた。
当初は面妖な見た目の彼にも内心驚いていたが、今は見慣れてしまえばなんてことはない。
むしろどこか愛嬌のある顔にすっかり馴染んでしまった。あぁ、慣れって怖い。
「それが…かくかくしかじか」
「ふむ。」
掻い摘んで話をすれば、細い顎を擦りながらマユリが小さく首を傾げる。
「私はそこまであの男に対して身を粉にする必要性はないと思うがネ、」と前置きをし、名案を思いついたように目を細めた。
「ならば私の元でバイトをしてみるかネ?」
「い、いいんですか!?」
「勿論。」
「待て待て名無し!簡単に承諾してみぃ、解剖されるわ薬漬けにされるわ、絶対ロクな目にあわんで!?」
ひよ里の言うことは尤もだろう。
ここに阿近がいたならば『そこに関しては同意だな』と呆れて肩を竦めるはず。
「なるほど…ヤバいのはちょっと。」
「何、霊力をちょっとばかり込めていくだけの簡単なバイトだヨ。ノルマは一日、死神50人分くらいのネ」
「なんだ。それくらいなら余裕ですね」
霊力バカと渾名された彼女にとって、それは息を吐くように簡単なことだった。
事情を知らない死神が聞いたならそれこそ全力で止めるところだが、残念ながらひよ里ですら「あぁ、それなら」と制止していた腕をパッと下ろした。
「契約成立だネ。早速明日から働いてもらおうじゃないか」
満足そうにマユリが笑い、饅頭を頬張った名無しが元気よく頷いた。
***
「最近コソコソ何してるんっスか?」
それは夕飯を食べている時だった。
里芋の煮っころがしを半分ほど齧り、浦原が突然訊ねてくる。
思わず一瞬目が泳ぐが、なるべくサプライズで贈りたい。ならば黙っておくのが吉だろう。
「なんの話です?」
「涅サンと最近コソコソしてるじゃないっスかぁ。」
「まぁ危なくないことならいいんっスけど」と言いながら、咀嚼し終えた里芋を嚥下する。
お気に召したのだろう、半分ほど残っていた里芋をすぐに頬張り、やや疲れ気味の目元をほろりと綻ばせた。
「大丈夫ですよ、霊力を入れてくれ~って頼まれてるだけですから。」
「あぁ、なるほど。」
心配かける訳にもいかないから当たり障りのない模範解答を返せば、浦原は納得したように頷いた。
嘘ではない。
ただそこに多少なりとものお小遣いが発生しているだけだ。
全く『別に金子に興味はないからネ。これで霊力が買えるのなら安いモノだヨ』と言っていたマユリには感謝しかない。
おかげで買おうとしている物の目標金額に到達出来そうだ。
「それにしてもお仕事お忙しそうですね?」
「ま、師走っスからぁ」
尸魂界にも年末繁忙期という概念があるとは。
祖父母の小料理屋が、毎年ささやかな忘年会で賑わっていたことをぼんやり思い出した。
「ご飯終わった後、お風呂に湯を張りますからゆっくり浸かってくださいね。」
「いやぁ、軽く洗うだけでいいっスよぉ」
「駄目ですよ。疲れてる時にこそしっかり浸かって身体を温めなきゃ、それこそ風邪を引いてしまいますから」
お風呂上がりに蜂蜜を入れた生姜湯でも用意しようか。
実際私が人並みに出来るのは、彼が快適に過ごせるように身の回りを整えるくらいだけなのだから。
「名無しサンは心配性っスねぇ」
「そりゃあ大事な浦原隊長のお身体ですから。なーんて。」
冗談めかしてそう答えれば、それはそれは浦原は綻ぶように目元をゆるりと細めた。
***
迎えた当日。
朝はいつも通り見送って、お昼は取り寄せたプレゼントを受け取りに行った。
仕事風景を一度見たことがあるが、毛筆で書類を書くのは仕方ないが、設計図すら筆で書いているのは少々勝手が悪そうだったのだ。
名無しがいた現代ではもっと便利な筆記用具が出ているが…まぁ今の時代だとこれが限度だろう。
しっとりとした黒の艶がそこはかとなく高級感があって見た目もいい。
祖父が趣味で集めていたのを思い出して、ついついこれを選んでしまったが…彼は気に入ってくれるだろうか?
紺色のリボンが掛けられた上質そうな箱。
万年筆と、インクと、お手入れセットまで入った一品だ。
これで少しは仕事が捗ればいいのだけど。
上司や目上の人に贈るのはあまりよくないらしいが、同居人となったら話は別だろう。
それに珍しい物好きだし、多分大丈夫、な、はず。…多分。
(部屋も綺麗にしたし、好きそうなご飯も用意したし、ひよ里ちゃん曰く今日は早く帰ってきてくれるみたいだし、)
本当は大晦日だからそれらしい料理がいいのだろうけど、今日は特別だ。
はじめてのバイト。
はじめて贈る、プレゼント。
はじめてだらけで柄にもなく、緊張と期待と不安で胸が高鳴った。
「…喜んでくれるかなー…」
祝う方もこんなに待ち遠しくなるなんて。
あぁ。早く彼の驚いた顔が見てみたいな。
それはまだ無自覚でほんのり淡い、まだ小さな小さな恋心。
私は全力でお祝いしましょう。
first anniversary!
「浦原さんの誕生日?」
「なんや。知らんかったんかいな」
饅頭を片手にひよ里がなんとなしに頬杖をつく。
「まぁあのアホの誕生日なんかどーでもえぇわな」と笑いながら彼女は湯呑の茶をのんびり啜った。
「大晦日が誕生日なんだね。…ってことは、1ヶ月ちょっと先かぁ…」
11月の下旬。
秋も色褪せ、冬の足音が瀞霊廷にも近づいてきた霜月。
準備するには時間があるようで、意外と短いタイムリミットだ。
「何あげたら喜んでくれるかな…」
残念ながら貴賎はほぼ無いに等しい。
あるといえばあるのだが、生活費として渡されているお金である。
大事に使うことに越したことはないし、そこから浦原へのプレゼントを買うのもちゃんちゃらおかしな話だ。
「なんや。わざわざ名無しが気張る必要ないんとちゃうか?」
「でもお世話になっているし…何かバイトしようかな…」
食べかけていた饅頭を皿に起き、うんうん頭を悩ませている彼女へ、ふと頭上から影が落ちる。
「どうしたんだネ、賢くなさそうな顔をクシャクシャにして」
「あ。マユリさん。」
無遠慮に上を見上げれば、相変わらず奇怪な化粧を施した技術開発研究所の副局長がのっそりと顔を覗き込んできていた。
当初は面妖な見た目の彼にも内心驚いていたが、今は見慣れてしまえばなんてことはない。
むしろどこか愛嬌のある顔にすっかり馴染んでしまった。あぁ、慣れって怖い。
「それが…かくかくしかじか」
「ふむ。」
掻い摘んで話をすれば、細い顎を擦りながらマユリが小さく首を傾げる。
「私はそこまであの男に対して身を粉にする必要性はないと思うがネ、」と前置きをし、名案を思いついたように目を細めた。
「ならば私の元でバイトをしてみるかネ?」
「い、いいんですか!?」
「勿論。」
「待て待て名無し!簡単に承諾してみぃ、解剖されるわ薬漬けにされるわ、絶対ロクな目にあわんで!?」
ひよ里の言うことは尤もだろう。
ここに阿近がいたならば『そこに関しては同意だな』と呆れて肩を竦めるはず。
「なるほど…ヤバいのはちょっと。」
「何、霊力をちょっとばかり込めていくだけの簡単なバイトだヨ。ノルマは一日、死神50人分くらいのネ」
「なんだ。それくらいなら余裕ですね」
霊力バカと渾名された彼女にとって、それは息を吐くように簡単なことだった。
事情を知らない死神が聞いたならそれこそ全力で止めるところだが、残念ながらひよ里ですら「あぁ、それなら」と制止していた腕をパッと下ろした。
「契約成立だネ。早速明日から働いてもらおうじゃないか」
満足そうにマユリが笑い、饅頭を頬張った名無しが元気よく頷いた。
***
「最近コソコソ何してるんっスか?」
それは夕飯を食べている時だった。
里芋の煮っころがしを半分ほど齧り、浦原が突然訊ねてくる。
思わず一瞬目が泳ぐが、なるべくサプライズで贈りたい。ならば黙っておくのが吉だろう。
「なんの話です?」
「涅サンと最近コソコソしてるじゃないっスかぁ。」
「まぁ危なくないことならいいんっスけど」と言いながら、咀嚼し終えた里芋を嚥下する。
お気に召したのだろう、半分ほど残っていた里芋をすぐに頬張り、やや疲れ気味の目元をほろりと綻ばせた。
「大丈夫ですよ、霊力を入れてくれ~って頼まれてるだけですから。」
「あぁ、なるほど。」
心配かける訳にもいかないから当たり障りのない模範解答を返せば、浦原は納得したように頷いた。
嘘ではない。
ただそこに多少なりとものお小遣いが発生しているだけだ。
全く『別に金子に興味はないからネ。これで霊力が買えるのなら安いモノだヨ』と言っていたマユリには感謝しかない。
おかげで買おうとしている物の目標金額に到達出来そうだ。
「それにしてもお仕事お忙しそうですね?」
「ま、師走っスからぁ」
尸魂界にも年末繁忙期という概念があるとは。
祖父母の小料理屋が、毎年ささやかな忘年会で賑わっていたことをぼんやり思い出した。
「ご飯終わった後、お風呂に湯を張りますからゆっくり浸かってくださいね。」
「いやぁ、軽く洗うだけでいいっスよぉ」
「駄目ですよ。疲れてる時にこそしっかり浸かって身体を温めなきゃ、それこそ風邪を引いてしまいますから」
お風呂上がりに蜂蜜を入れた生姜湯でも用意しようか。
実際私が人並みに出来るのは、彼が快適に過ごせるように身の回りを整えるくらいだけなのだから。
「名無しサンは心配性っスねぇ」
「そりゃあ大事な浦原隊長のお身体ですから。なーんて。」
冗談めかしてそう答えれば、それはそれは浦原は綻ぶように目元をゆるりと細めた。
***
迎えた当日。
朝はいつも通り見送って、お昼は取り寄せたプレゼントを受け取りに行った。
仕事風景を一度見たことがあるが、毛筆で書類を書くのは仕方ないが、設計図すら筆で書いているのは少々勝手が悪そうだったのだ。
名無しがいた現代ではもっと便利な筆記用具が出ているが…まぁ今の時代だとこれが限度だろう。
しっとりとした黒の艶がそこはかとなく高級感があって見た目もいい。
祖父が趣味で集めていたのを思い出して、ついついこれを選んでしまったが…彼は気に入ってくれるだろうか?
紺色のリボンが掛けられた上質そうな箱。
万年筆と、インクと、お手入れセットまで入った一品だ。
これで少しは仕事が捗ればいいのだけど。
上司や目上の人に贈るのはあまりよくないらしいが、同居人となったら話は別だろう。
それに珍しい物好きだし、多分大丈夫、な、はず。…多分。
(部屋も綺麗にしたし、好きそうなご飯も用意したし、ひよ里ちゃん曰く今日は早く帰ってきてくれるみたいだし、)
本当は大晦日だからそれらしい料理がいいのだろうけど、今日は特別だ。
はじめてのバイト。
はじめて贈る、プレゼント。
はじめてだらけで柄にもなく、緊張と期待と不安で胸が高鳴った。
「…喜んでくれるかなー…」
祝う方もこんなに待ち遠しくなるなんて。
あぁ。早く彼の驚いた顔が見てみたいな。
それはまだ無自覚でほんのり淡い、まだ小さな小さな恋心。