浦原隊長の食卓シリーズ
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「じゃあ名無しサン、いってきますね」
「はい。お仕事、頑張ってください」
十二番隊の隊首私室。
いつも通り見送り、いつも通り彼は仕事に出掛ける。
壁に掛けられたカレンダーを見遣れば、師走の文字。
今日は現世でいうところの、
「……まぁ、尸魂界にクリスマスなんて文化はないかぁ」
浦原隊長の食卓#はじめてのクリスマス
「そいや現世でなんかお祭りでもあるんか?」
先日、現世へ調査に赴いたひよ里が頬杖をつきながら問うてくる。
もうすぐ元旦だが……はて、祭りとは?
「どしたんっスか?」
「どこやかしこもキラキラ灯りがついとったんねん。地味な屋敷の軒先の木とか、飾りがゴテゴテついとったし、」
言葉とは裏腹に、ひよ里は少し興奮した様子で語る。
木を飾り付けして、キラキラとした灯り……?
「そら、クリスマスやろ。」
サボりがてら書類を持ってきていた平子が、来客用の椅子にふんぞり返ってのんびり答える。
左手には饅頭、右手には湯呑み。完全に寛いでしまっていた。
「『くりすます』っスか?」
「なんや、喜助知らんかったんかいな。」
「最近あまり外に出てないんでぇ」
「引きこもりも程々にな。アレや、現世のどっかのカミサマが生まれて…まぁ盛大なお誕生日みたいなもんや」
日本で最近浸透してきた、いわゆる外国の文化らしい。
豪華な食事にケーキ、もみの木に飾りつけをしてとある神様の生誕祭を行う行事…だそうだ。
「んで、今日から明日にかけての深夜に、サンタクロースっちゅうオッサンが寝てる子供にプレゼントをこっそり渡すらしいで。」
「なんやそれ。不法侵入やんけ」
饅頭を頬張りながら解説する平子に対して、ひよ里が容赦ないツッコミをする。
まぁ平子に指摘しても仕方ないことなのだが。何せ現世の文化なのだから。
「……って、その饅頭!ウチのとっておいた満天堂の饅頭やないか!」
「堅いこと言うなや、そんなみみっちぃこと言っとるとサンタクロースからプレゼントもらえんで」
「アホか!尸魂界に『さんたくろーす』はおらんし、そもそもウチはガキちゃうわ!」
丸めた書類で平子の頭を、とても子気味いい音を立ててスパン!と殴るひよ里。
立て続けに平子にマウント取ったかと思うと胸倉を掴んで揺さぶり始めた。
こうなった彼女を止められる人は尸魂界でも数人しかいない。
その内の一人は、今はのんびり十二番隊隊首私室で過ごしているのだろうけど。
(クリスマス、っスか)
そんなやりとりを尻目に見ながら、浦原は山積みにされた書類に判を押していくのだった。
***
「ただいま帰りましたぁ」
少しだけ残業を済ませ、ちょっと寄り道をして部屋に帰る。
和食中心の食事の香り…ではなく、今日は珍しく香ばしい匂いが部屋いっぱいに立ち込めていた。
「おかえりなさい、浦原さん」
キッチンから顔をひょこりと出す名無し。
無邪気に笑いながら「ちょうどご飯、出来たところですよ」と髪を揺らした。
「洋食、っスか?」
「はい。たまにはいいかな、って」
それにしては食事が豪華な気がする。
「この牛肉薄切りにしたのは何っスか?」
「ローストビーフですよ。香草と香辛料をまぶして、周りを焼いて、余熱で火を通した料理です。」
「あ、これは知ってるっスよ。前作ってくださったポテトサラダっスよね?」
「はい。」
嬉しそうに破顔した名無し。
よく見てみれば人参が星型に飾り切りされていた。
こういうところが本当に彼女の料理は手が込んでいるな、と感心させられる。
「この器は何っスか?」
「シチューパイです。この蓋しているものがパイで、中にビーフシチューが入ってます。熱いので気をつけてくださいね」
あとは色鮮やかなサラダに、一口サイズのコロリとしたハンバーグ。
なるほど、『クリスマスの豪華な食事』とはこれか。
「どれも美味しいっスねぇ」
「それはよかった。」
「特にこの、ローストビーフっスか?柔らかくていいっスねぇ」
「自信作ですから!」
ふふん、と自信満々に笑う彼女は可愛いの一言に尽きる。
大人顔負けの料理の腕なのに、こんな風に子供っぽく笑う笑顔が浦原は好きだった。
「クリスマスだからっスか?」
「あれ?浦原さんご存知だったんですか?」
「最近現世でも浸透し始めたお祭りらしいんで。まぁ平子サンから聞いたんっスけど」
現世は今、怒涛の時代・大正だ。
西洋文化が生活の中に根付いてきたせいだろう、異文化が広く知れ渡ることになっているのは。
「私の時代では結構メジャーなイベントだったんですよ。」
「そうなんっスか?」
「はい。ほら、日本人ってお祭り事はなんでも好きですから」
パイシチューのパイをサクリと崩しながら名無しが笑う。
なるほど、催事が好きな尸魂界に似たようなものか。
「来年は大きなもみの木も用意しちゃいます?」
「あはは、本格的なクリスマスになっちゃいますね」
異国の神の生誕には正直全く興味はないが、彼女が楽しそうに笑ってくれるならなんでも用意しよう。
百年と数年後、あまりに大きなツリーを用意して浦原が呆れられるのは、また別の話。
***
寝静まった深夜。
ふかふかの布団にくるまって、静かな寝息をたてる名無し。
今日の夕飯をお腹いっぱいに食べたからか、いつもより深い眠りについているようだった。
襖をそろりと開けて、気配を消して側に寄る浦原。
隠密機動にいた時よりも、細心の注意を払って。
(サンタクロースはきっと隠密の達人っスね)
子供に見つからないよう贈り物を届けるなんて、もはや匠の技だろう。
(今晩のボクは、さながらサンタクロース代理っス)
帰りに寄った小間物屋で選んだ小包を置いて小さくほくそ笑む。
彼女は気づくだろうか?気に入るだろうか?
ほんのちょっとの不安と、高鳴る高揚感。
誰かに贈り物なんて生まれてこの方、初めてだ。
「メリークリスマス、っス。名無しサン」
頬に掛かった黒髪を指でそっと払い、柔らかな頬に口付けをひとつ落とす。
願わくば、来年も再来年も、ずっと彼女と穏やかに過ごせますように。
「はい。お仕事、頑張ってください」
十二番隊の隊首私室。
いつも通り見送り、いつも通り彼は仕事に出掛ける。
壁に掛けられたカレンダーを見遣れば、師走の文字。
今日は現世でいうところの、
「……まぁ、尸魂界にクリスマスなんて文化はないかぁ」
浦原隊長の食卓#はじめてのクリスマス
「そいや現世でなんかお祭りでもあるんか?」
先日、現世へ調査に赴いたひよ里が頬杖をつきながら問うてくる。
もうすぐ元旦だが……はて、祭りとは?
「どしたんっスか?」
「どこやかしこもキラキラ灯りがついとったんねん。地味な屋敷の軒先の木とか、飾りがゴテゴテついとったし、」
言葉とは裏腹に、ひよ里は少し興奮した様子で語る。
木を飾り付けして、キラキラとした灯り……?
「そら、クリスマスやろ。」
サボりがてら書類を持ってきていた平子が、来客用の椅子にふんぞり返ってのんびり答える。
左手には饅頭、右手には湯呑み。完全に寛いでしまっていた。
「『くりすます』っスか?」
「なんや、喜助知らんかったんかいな。」
「最近あまり外に出てないんでぇ」
「引きこもりも程々にな。アレや、現世のどっかのカミサマが生まれて…まぁ盛大なお誕生日みたいなもんや」
日本で最近浸透してきた、いわゆる外国の文化らしい。
豪華な食事にケーキ、もみの木に飾りつけをしてとある神様の生誕祭を行う行事…だそうだ。
「んで、今日から明日にかけての深夜に、サンタクロースっちゅうオッサンが寝てる子供にプレゼントをこっそり渡すらしいで。」
「なんやそれ。不法侵入やんけ」
饅頭を頬張りながら解説する平子に対して、ひよ里が容赦ないツッコミをする。
まぁ平子に指摘しても仕方ないことなのだが。何せ現世の文化なのだから。
「……って、その饅頭!ウチのとっておいた満天堂の饅頭やないか!」
「堅いこと言うなや、そんなみみっちぃこと言っとるとサンタクロースからプレゼントもらえんで」
「アホか!尸魂界に『さんたくろーす』はおらんし、そもそもウチはガキちゃうわ!」
丸めた書類で平子の頭を、とても子気味いい音を立ててスパン!と殴るひよ里。
立て続けに平子にマウント取ったかと思うと胸倉を掴んで揺さぶり始めた。
こうなった彼女を止められる人は尸魂界でも数人しかいない。
その内の一人は、今はのんびり十二番隊隊首私室で過ごしているのだろうけど。
(クリスマス、っスか)
そんなやりとりを尻目に見ながら、浦原は山積みにされた書類に判を押していくのだった。
***
「ただいま帰りましたぁ」
少しだけ残業を済ませ、ちょっと寄り道をして部屋に帰る。
和食中心の食事の香り…ではなく、今日は珍しく香ばしい匂いが部屋いっぱいに立ち込めていた。
「おかえりなさい、浦原さん」
キッチンから顔をひょこりと出す名無し。
無邪気に笑いながら「ちょうどご飯、出来たところですよ」と髪を揺らした。
「洋食、っスか?」
「はい。たまにはいいかな、って」
それにしては食事が豪華な気がする。
「この牛肉薄切りにしたのは何っスか?」
「ローストビーフですよ。香草と香辛料をまぶして、周りを焼いて、余熱で火を通した料理です。」
「あ、これは知ってるっスよ。前作ってくださったポテトサラダっスよね?」
「はい。」
嬉しそうに破顔した名無し。
よく見てみれば人参が星型に飾り切りされていた。
こういうところが本当に彼女の料理は手が込んでいるな、と感心させられる。
「この器は何っスか?」
「シチューパイです。この蓋しているものがパイで、中にビーフシチューが入ってます。熱いので気をつけてくださいね」
あとは色鮮やかなサラダに、一口サイズのコロリとしたハンバーグ。
なるほど、『クリスマスの豪華な食事』とはこれか。
「どれも美味しいっスねぇ」
「それはよかった。」
「特にこの、ローストビーフっスか?柔らかくていいっスねぇ」
「自信作ですから!」
ふふん、と自信満々に笑う彼女は可愛いの一言に尽きる。
大人顔負けの料理の腕なのに、こんな風に子供っぽく笑う笑顔が浦原は好きだった。
「クリスマスだからっスか?」
「あれ?浦原さんご存知だったんですか?」
「最近現世でも浸透し始めたお祭りらしいんで。まぁ平子サンから聞いたんっスけど」
現世は今、怒涛の時代・大正だ。
西洋文化が生活の中に根付いてきたせいだろう、異文化が広く知れ渡ることになっているのは。
「私の時代では結構メジャーなイベントだったんですよ。」
「そうなんっスか?」
「はい。ほら、日本人ってお祭り事はなんでも好きですから」
パイシチューのパイをサクリと崩しながら名無しが笑う。
なるほど、催事が好きな尸魂界に似たようなものか。
「来年は大きなもみの木も用意しちゃいます?」
「あはは、本格的なクリスマスになっちゃいますね」
異国の神の生誕には正直全く興味はないが、彼女が楽しそうに笑ってくれるならなんでも用意しよう。
百年と数年後、あまりに大きなツリーを用意して浦原が呆れられるのは、また別の話。
***
寝静まった深夜。
ふかふかの布団にくるまって、静かな寝息をたてる名無し。
今日の夕飯をお腹いっぱいに食べたからか、いつもより深い眠りについているようだった。
襖をそろりと開けて、気配を消して側に寄る浦原。
隠密機動にいた時よりも、細心の注意を払って。
(サンタクロースはきっと隠密の達人っスね)
子供に見つからないよう贈り物を届けるなんて、もはや匠の技だろう。
(今晩のボクは、さながらサンタクロース代理っス)
帰りに寄った小間物屋で選んだ小包を置いて小さくほくそ笑む。
彼女は気づくだろうか?気に入るだろうか?
ほんのちょっとの不安と、高鳴る高揚感。
誰かに贈り物なんて生まれてこの方、初めてだ。
「メリークリスマス、っス。名無しサン」
頬に掛かった黒髪を指でそっと払い、柔らかな頬に口付けをひとつ落とす。
願わくば、来年も再来年も、ずっと彼女と穏やかに過ごせますように。