星霜を辿る
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「なんか俺だけ距離がある気がする。」
中間考査を終えた後。
テストに立ち会っていた夜蛾の忘れ物を届けに、名無しが席を立っていた時のことだ。
五条が名無しの席を指差しながら、不服そうに呟いた。
「そりゃ入学式早々に雑魚チビって言うからじゃない?」
「なんだよ、事実だろ。アイツ四級だし」
「あのね、悟。私達は特級だけど、大体の呪術師は四〜三級から下積みをするものだよ。」
五条の隣に座る夏油は呆れた顔で諌めるが、恐らく五条当人には全く響いていない。
生まれもっての才覚がある故に、下積みというものがピンと来ないのだろう。
五条反対側──同じく夏油の隣に座る家入は、早く吸いたそうに火のついていない煙草を咥えながら天井を仰いでいる。
「五条、この間任務一緒だったろ?少しは仲良くなったんじゃないの?」
「………………。」
家入の指摘に沈黙を貫く五条。
バツが悪そうな彼を、夏油は目元を訝しげに細めて問い詰めた。
「まさか悟、名無しを放ったらかしでとっとと祓いに行ったんじゃ」
図星。
露骨に視線を逸らす五条。
夏油は呆れ返り、家入は煙草を弄びながら口元を歪めた。
「うわ、サイテー」
「仕方ねぇだろ!範囲が広い、建物壊すなって夜蛾センから小言言われるし『分担した方が早く済むかな?』って名無しが」
早口で捲し立てるように言い訳を連ねる五条。
頭が痛いと言わんばかりに夏油はこめかみをそっと押える。
「悟、あのなぁ…」
「ちゃんと等級がデカそうなヤツはこっちで祓った。あっちは蠅頭とかの雑魚ばっかだったし」
「報告書は?」
それを夜蛾が黙っているとは思えない。
恐らく五条が早く行きたそうにしていたのを見兼ねて名無しが提案したのかもしれないが──。
《正確》に報告していたのなら夜蛾からの拳骨は二人とも間逃れない。
ただ、そんな話は聞いていない……となれば。
「……アイツが書いとくって言ったから…任せた……けど…」
『ちゃんと五条特級術師と祓いました!』と上手に書いているのだろう。つまるところ報告書の偽装である。
きちんと報告すれば夜蛾からの説教はあったかもしれないが、名無しの等級も正当に上がっていた可能性もある。
そう。彼は『手柄』を欲する様子がない。
何か理由があるのか、はたまたそれを抜きにしても五条と同行したくなかったのか。
今のところ後者の理由が濃厚である。
「悟……」
「それやっぱり嫌われてんじゃない?」
指を差すように煙草で『ピッ』と名無しの席を示す家入。
表情に《ザマァミロ》と書いてあるように見えるのは気のせいか。
「……マック食いに行った時は別に仲悪ィ雰囲気じゃなかっただろ。」と小声で抗議する五条の語尾は、どことなく自信なさげである。
それもそう。いくら他人に気を遣うのは疲れるだとか、雑魚に合わせるのは面倒だとか豪語していても、同級生の誰とでも分け隔てなく接しているはずの名無しから一歩引かれている事実は──流石の五条も少しは気にしていたのだ。
特に、任務や等級、それらが絡まない普段の場面では一見ただの同級生として接しているから、尚更。
「世話されて絆されてるのかい?小学生か?」
「それは名無しが世話焼きなだけで、多分私や夏油が口元にケチャップつけてても拭いてくれたか、教えてくれるなりしてるよ」
入学式当日、ファーストコンタクトで悪口を言われた被害者の会が、ここぞとばかりに当人 不在の中、容赦なく援護射撃をしていく。
「なんなら夜食もらったし、ソファで寝落ちしたら毛布かけて携帯まで充電してもらったよ、私は」
「私は入寮が早かったからね。入学前に二人で買い物も行ったよ」
ドヤッと勝ち誇るように笑う家入。
涼しげに笑ってはいるが、どことなく自慢げな夏油。
五条のプライドを煽るには十分な破壊力を持っていた。
ガラッと開く教室の扉。
夜蛾の忘れ物を届けた名無しが、何も知らぬままのこのこと教室に戻ってきたのだ。
「ただいまー。今日は任務もないから後は解散だって夜蛾先生が──」
「名無し!」
掴まれる肩。
サングラス越しの本気 になった視線。
鬼気迫る雰囲気。
目を見開いてフリーズした名無し。
そして了承も拒否すらする間を与えず、走り出す五条。
「遊びに行くぞ!」
「へ、あっ、うぉっ、お!?何、何!?」
暴走する大型犬に引き摺られる飼い主、もしくは拉致。
ピュゥッと廊下を風が吹き抜けるように、五条による名無し誘拐は華麗に行われた。
「……一応追いかけておく?」
「まぁ…大丈夫じゃないかな、多分。」
***
「五条くん、どこ行くの?」
行き先を決めぬまま秋葉原駅で降り、二人の間に流れた長い沈黙を破って名無しが問うた。
が、まさかの回答である。
「名無しはどっか行きたいとこねーの?」
「えっ。…ノープラン?」
「悪ィかよ」
拗ねたように……いや、これはバツが悪そうな顔だろうか。
口先を子供っぽく尖らせたまま、五条は雑多な電気街を眺めている。
「どこか行きたいところがあるのかと思った」
それもそう。
名無しの知っている『五条悟』は美味しいフルーツパーラー、バズっていたクレープ屋、宣伝もロクにされていない妙なB級映画へ連れ出したりとお出掛け先の候補は枚挙に暇がなかったからだ。
勿論、行き先をこちらが提案する場合もあったが、『じゃあついでに』『近くだし』と自分の行きたい行き先をするりとスマートに追加するのが非常に上手かった。
だからきっと目的地があると思ったのだが──さて、どうしたものか。
濃紺のガラス板越しに泳ぐ青。
今は無下限を張っていないのだろう。その青は南国の海を切り取ったような眩い天色ではなく、やわらかな空色だった。
五条が恐る恐る口を開く。そして以下の台詞である。
「…………あー、じゃあ趣味は?休日過ごし方とか」
「………………ぷっ、」
「あーははは!似合わなーい!お見合いじゃん、あはは!」
名無しは思わず声を上げて笑う。
知っている五条悟とも違う。今まで見ていた『五条くん』とも違う。
今までの彼は自信満々で、不遜で、勝気で、少年のようで。
──まさか、こんなしおらしい一面があると思わなかったのだ。
嬉しい。寂しい。可愛い。笑いすぎて 涙が出る。
「お〜ま〜え〜なぁ!」
「待った、待って、違う違う、馬鹿にしてるわけじゃなくて…」
「くくっ…」と笑いを堪えながら目尻の涙を指で拭う。
今だけは、彼とのデートをめいっぱい楽しもう。
「いいよ、五条くんが好きそうなとこ行こう。」
08.彼との距離感
私の趣味も、遊びに行く先も、
全部ぜんぶ、貴方が教えてくれたものなのにね。
中間考査を終えた後。
テストに立ち会っていた夜蛾の忘れ物を届けに、名無しが席を立っていた時のことだ。
五条が名無しの席を指差しながら、不服そうに呟いた。
「そりゃ入学式早々に雑魚チビって言うからじゃない?」
「なんだよ、事実だろ。アイツ四級だし」
「あのね、悟。私達は特級だけど、大体の呪術師は四〜三級から下積みをするものだよ。」
五条の隣に座る夏油は呆れた顔で諌めるが、恐らく五条当人には全く響いていない。
生まれもっての才覚がある故に、下積みというものがピンと来ないのだろう。
五条反対側──同じく夏油の隣に座る家入は、早く吸いたそうに火のついていない煙草を咥えながら天井を仰いでいる。
「五条、この間任務一緒だったろ?少しは仲良くなったんじゃないの?」
「………………。」
家入の指摘に沈黙を貫く五条。
バツが悪そうな彼を、夏油は目元を訝しげに細めて問い詰めた。
「まさか悟、名無しを放ったらかしでとっとと祓いに行ったんじゃ」
図星。
露骨に視線を逸らす五条。
夏油は呆れ返り、家入は煙草を弄びながら口元を歪めた。
「うわ、サイテー」
「仕方ねぇだろ!範囲が広い、建物壊すなって夜蛾センから小言言われるし『分担した方が早く済むかな?』って名無しが」
早口で捲し立てるように言い訳を連ねる五条。
頭が痛いと言わんばかりに夏油はこめかみをそっと押える。
「悟、あのなぁ…」
「ちゃんと等級がデカそうなヤツはこっちで祓った。あっちは蠅頭とかの雑魚ばっかだったし」
「報告書は?」
それを夜蛾が黙っているとは思えない。
恐らく五条が早く行きたそうにしていたのを見兼ねて名無しが提案したのかもしれないが──。
《正確》に報告していたのなら夜蛾からの拳骨は二人とも間逃れない。
ただ、そんな話は聞いていない……となれば。
「……アイツが書いとくって言ったから…任せた……けど…」
『ちゃんと五条特級術師と祓いました!』と上手に書いているのだろう。つまるところ報告書の偽装である。
きちんと報告すれば夜蛾からの説教はあったかもしれないが、名無しの等級も正当に上がっていた可能性もある。
そう。彼は『手柄』を欲する様子がない。
何か理由があるのか、はたまたそれを抜きにしても五条と同行したくなかったのか。
今のところ後者の理由が濃厚である。
「悟……」
「それやっぱり嫌われてんじゃない?」
指を差すように煙草で『ピッ』と名無しの席を示す家入。
表情に《ザマァミロ》と書いてあるように見えるのは気のせいか。
「……マック食いに行った時は別に仲悪ィ雰囲気じゃなかっただろ。」と小声で抗議する五条の語尾は、どことなく自信なさげである。
それもそう。いくら他人に気を遣うのは疲れるだとか、雑魚に合わせるのは面倒だとか豪語していても、同級生の誰とでも分け隔てなく接しているはずの名無しから一歩引かれている事実は──流石の五条も少しは気にしていたのだ。
特に、任務や等級、それらが絡まない普段の場面では一見ただの同級生として接しているから、尚更。
「世話されて絆されてるのかい?小学生か?」
「それは名無しが世話焼きなだけで、多分私や夏油が口元にケチャップつけてても拭いてくれたか、教えてくれるなりしてるよ」
入学式当日、ファーストコンタクトで悪口を言われた被害者の会が、ここぞとばかりに
「なんなら夜食もらったし、ソファで寝落ちしたら毛布かけて携帯まで充電してもらったよ、私は」
「私は入寮が早かったからね。入学前に二人で買い物も行ったよ」
ドヤッと勝ち誇るように笑う家入。
涼しげに笑ってはいるが、どことなく自慢げな夏油。
五条のプライドを煽るには十分な破壊力を持っていた。
ガラッと開く教室の扉。
夜蛾の忘れ物を届けた名無しが、何も知らぬままのこのこと教室に戻ってきたのだ。
「ただいまー。今日は任務もないから後は解散だって夜蛾先生が──」
「名無し!」
掴まれる肩。
サングラス越しの
鬼気迫る雰囲気。
目を見開いてフリーズした名無し。
そして了承も拒否すらする間を与えず、走り出す五条。
「遊びに行くぞ!」
「へ、あっ、うぉっ、お!?何、何!?」
暴走する大型犬に引き摺られる飼い主、もしくは拉致。
ピュゥッと廊下を風が吹き抜けるように、五条による名無し誘拐は華麗に行われた。
「……一応追いかけておく?」
「まぁ…大丈夫じゃないかな、多分。」
***
「五条くん、どこ行くの?」
行き先を決めぬまま秋葉原駅で降り、二人の間に流れた長い沈黙を破って名無しが問うた。
が、まさかの回答である。
「名無しはどっか行きたいとこねーの?」
「えっ。…ノープラン?」
「悪ィかよ」
拗ねたように……いや、これはバツが悪そうな顔だろうか。
口先を子供っぽく尖らせたまま、五条は雑多な電気街を眺めている。
「どこか行きたいところがあるのかと思った」
それもそう。
名無しの知っている『五条悟』は美味しいフルーツパーラー、バズっていたクレープ屋、宣伝もロクにされていない妙なB級映画へ連れ出したりとお出掛け先の候補は枚挙に暇がなかったからだ。
勿論、行き先をこちらが提案する場合もあったが、『じゃあついでに』『近くだし』と自分の行きたい行き先をするりとスマートに追加するのが非常に上手かった。
だからきっと目的地があると思ったのだが──さて、どうしたものか。
濃紺のガラス板越しに泳ぐ青。
今は無下限を張っていないのだろう。その青は南国の海を切り取ったような眩い天色ではなく、やわらかな空色だった。
五条が恐る恐る口を開く。そして以下の台詞である。
「…………あー、じゃあ趣味は?休日過ごし方とか」
「………………ぷっ、」
「あーははは!似合わなーい!お見合いじゃん、あはは!」
名無しは思わず声を上げて笑う。
知っている五条悟とも違う。今まで見ていた『五条くん』とも違う。
今までの彼は自信満々で、不遜で、勝気で、少年のようで。
──まさか、こんなしおらしい一面があると思わなかったのだ。
嬉しい。寂しい。可愛い。
「お〜ま〜え〜なぁ!」
「待った、待って、違う違う、馬鹿にしてるわけじゃなくて…」
「くくっ…」と笑いを堪えながら目尻の涙を指で拭う。
今だけは、彼とのデートをめいっぱい楽しもう。
「いいよ、五条くんが好きそうなとこ行こう。」
08.彼との距離感
私の趣味も、遊びに行く先も、
全部ぜんぶ、貴方が教えてくれたものなのにね。