星霜を辿る
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『正体を上層部に勘づかれても面倒ですし、男として過ごしますね。大丈夫大丈夫、髪をバサッと切って、認識阻害の呪具をしっかり身につけておきますから』
とまぁ、見事に大見得を切られた。
『以前五条さんから貰ったものが…あ、ほら。』とポケットから指輪の呪具を漁り、笑顔で押し切られた時には胃に穴が空くかと思った。
それは元々高専の忌庫にあったものだ。
五条家の権力で買い取って与えたのかもしれないが、右手の薬指に合うサイズに変更するあたり、教師としてどうなのだと頭が痛くなった。
そして、現在。
「今のところ問題ないか?」
彼女が──いや、今現在は《彼》である──夜蛾の遠い親戚だと偽って入学してから三日経過した。
主語がない問いかけに対して「大丈夫ですよ」と、実にあっさりと答える名無し。
彼女の話を聞いた限りの、夜蛾の主観ではある。だからこれは推測だ。
恐らく彼女は、夏油傑のことをよく思っていない。
あまり感情移入することなく、歴史書を読み解くように説明してくれた未来の話。
その中で僅かに感じ取れた違和感。
高級な木製家具にたまたま出来てしまったささくれ程度のものだが、それでも直感で感じ取れた。
嫌いというベクトルなのか、苦手というベクトルなのか。
それを図り知ることは出来ないし、聞いたところで曖昧に濁されるだけだろう。夜蛾も無闇に踏み入る事はしない。
しかし彼女は実に無害な同級生らしく振舞っている。
否、語弊があった。彼女の目的が絡まなければ無害以外の何者でもない。
早朝のランニング。自主的な校内の清掃。他の教職や補助監督が模範的な生徒だと舌を巻く程に。
『それはもう、夜蛾先生の遠縁の親戚ですから』なんて、悪戯っぽく笑う態度は除き、だ。
「今日は生活必需品を買いに行ってこようかと。お金はまた後日、貯めてお返ししますね」
「必要経費だ。気にしなくていい。必要な物があれば何でも言いなさい。」
「いいんですか?」
ぱっと明るくなった彼女の表情を見て、直感で《しまった》と息を呑む。
「実は──」
こそこそと背伸びして耳打ちしてくる彼女の話を聞くため、膝を曲げて耳を傾ける。
内緒話で聞かされた願いは、予想していなかったもの。
作るのは構わないが、それは所謂《博打》に近いものではないのか。
それを運用する目的は一つしかないのだが、その手段が彼女の考えているプランの、一体どこに組み込まれるのか理解不能だった。
「…………それは必要なものなのか?」
「勿論。むしろそれがなければ状況をひっくり返すのは難しいんじゃないですかね?」
言い切るということは確信があるのだろう。
赤字にならないのなら好きにすればいい。
「わかった。考えておこう。」
「よかった、ありがとうございます」
鼻歌でも歌いそうなくらい軽やかに去っていく名無し。
その背中を見送りながら、俺は小さく首を傾げた。
「……FXや株でも始めるのか?」
***
「名無しはこの辺り詳しいのかい?」
「そうでもないよ。夜蛾先生に大体の地理は教えて貰ったけど、詳しいことはあんまり。」
小柄な同級生の隣を歩きながら他愛ない会話をかわす。
高専の最寄り駅から、東京の都心部へ。
池袋の東口から外へ出れば、地元に建っていたものよりも随分と立派な商業ビルが所狭しと並んでいた。
「本当に付き合わせてよかった?入学まであと少しだし、忙しくなかった?」
隣を歩いていた彼がこちらを無遠慮に見上げる。
身長差が20cm以上はゆうにあるせいか、少しばかり首が痛そうだった。
「いや、やることももうないし、丁度この辺りの散策もしたかったんだ」
「そうか。ならいいんだ」
納得したように小さく頷き、ポケットから一枚のメモを取り出す名無し。
いるものをリスト化するあたり、彼のまめな性格が垣間見れた。
「何を買うんだい?」
「ジャージと、適当に私服をいくつか。あとは文房具とか、生活用品。だから東急ハンズで適当にすませようかと」
自分の身の回りに頓着がないのか、それとも財布事情なのか。
「服はユニクロでいいかな」なんて、買い物する気があるのがないのか、実にやる気のない返答が呟かれる。
「折角街まで出たのに、かい?」
「そっちの方が手早く済むかと思ったんだけど」
「荷物持ちは手伝うよ。だから、どうせならゆっくり見ればいいんじゃないか?」
一瞬、意外そうに目を丸くされる。
……もしかして私と買い物があまり乗り気じゃなかったとか?まさかね。
嫌われるようなことは心当たりないし、会話の中で引っかかるような物言いをしたつもりはない。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。夏油くんは力持ちっぽそうだしね」
杞憂だったか。
嬉しそうに笑う彼を見て小さく胸を撫で下ろした。
「それなりだよ。」
「またまたご冗談を。」
***
「本当に試着しなくていいのかい?」
名無しの買い物は実に手早かった。
素材の確認。価格の確認。サイズの確認。鏡でチェック。そして買い物かごへ。1分も経過していない。
『こっちの色の方がいいんじゃないか?』とか迷うことがない。
「大体Sサイズ買っておけば入るし。」
「まぁ、細いから入るだろうけど。そういう問題かい?」
「サイズも把握しているし、別にこだわりもないから」
背丈はないものの、顔立ちは整っているのに勿体ない。
あどけなさがまだ残る少女のような顔立ちは、中性的で愛嬌がある。
物腰も柔らかで、さぞかし中学時代はモテただろうに。実に勿体ない。
「夏油くんは…………試着しないと大変そうだね。二の腕とか」
「あぁ、細身の服だと窮屈にはなるかな」
「将来ラピュタの親方になりそう」
…筋肉でシャツを破るような?
「ふふっ」と含み笑いをする名無しは実に楽しそうだ。一体何を想像しているのやら。
「胸筋とかもっと鍛えたらなるかな?」
「女の子より胸が大きくなったりして。やーい巨乳男子。」
「男も女の子も大きいのはいいことだよ。」
勿論、女の子には『好きな子の胸だったら大きさなんて関係ないよ』と言うのが常套句だ。
本音を言えば、そりゃ小さいよりはあった方が嬉しい。あと感度。
「うわぁ…セクハラ…」
「ちょっと待った。名無しから振った話だろ?」
「性癖の話まではしてないよ。筋肉トークの流れだったよね?」
「ちなみに名無しは?」
興味半分、意趣返し半分。
一瞬『えぇ…』と露骨に目を細めるが、真面目に考える辺り彼の性格がよく出てる。
五秒程間を置いて、真剣な顔で導き出した答えは
「……手フェチ、か、な?」
03.彼のこと
「…………何というか…むっつりっぽいな…」
「えっ…おっぱい星人よりは健全だと思う…」
「……意外と名無し、口悪いな?」
とまぁ、見事に大見得を切られた。
『以前五条さんから貰ったものが…あ、ほら。』とポケットから指輪の呪具を漁り、笑顔で押し切られた時には胃に穴が空くかと思った。
それは元々高専の忌庫にあったものだ。
五条家の権力で買い取って与えたのかもしれないが、右手の薬指に合うサイズに変更するあたり、教師としてどうなのだと頭が痛くなった。
そして、現在。
「今のところ問題ないか?」
彼女が──いや、今現在は《彼》である──夜蛾の遠い親戚だと偽って入学してから三日経過した。
主語がない問いかけに対して「大丈夫ですよ」と、実にあっさりと答える名無し。
彼女の話を聞いた限りの、夜蛾の主観ではある。だからこれは推測だ。
恐らく彼女は、夏油傑のことをよく思っていない。
あまり感情移入することなく、歴史書を読み解くように説明してくれた未来の話。
その中で僅かに感じ取れた違和感。
高級な木製家具にたまたま出来てしまったささくれ程度のものだが、それでも直感で感じ取れた。
嫌いというベクトルなのか、苦手というベクトルなのか。
それを図り知ることは出来ないし、聞いたところで曖昧に濁されるだけだろう。夜蛾も無闇に踏み入る事はしない。
しかし彼女は実に無害な同級生らしく振舞っている。
否、語弊があった。彼女の目的が絡まなければ無害以外の何者でもない。
早朝のランニング。自主的な校内の清掃。他の教職や補助監督が模範的な生徒だと舌を巻く程に。
『それはもう、夜蛾先生の遠縁の親戚ですから』なんて、悪戯っぽく笑う態度は除き、だ。
「今日は生活必需品を買いに行ってこようかと。お金はまた後日、貯めてお返ししますね」
「必要経費だ。気にしなくていい。必要な物があれば何でも言いなさい。」
「いいんですか?」
ぱっと明るくなった彼女の表情を見て、直感で《しまった》と息を呑む。
「実は──」
こそこそと背伸びして耳打ちしてくる彼女の話を聞くため、膝を曲げて耳を傾ける。
内緒話で聞かされた願いは、予想していなかったもの。
作るのは構わないが、それは所謂《博打》に近いものではないのか。
それを運用する目的は一つしかないのだが、その手段が彼女の考えているプランの、一体どこに組み込まれるのか理解不能だった。
「…………それは必要なものなのか?」
「勿論。むしろそれがなければ状況をひっくり返すのは難しいんじゃないですかね?」
言い切るということは確信があるのだろう。
赤字にならないのなら好きにすればいい。
「わかった。考えておこう。」
「よかった、ありがとうございます」
鼻歌でも歌いそうなくらい軽やかに去っていく名無し。
その背中を見送りながら、俺は小さく首を傾げた。
「……FXや株でも始めるのか?」
***
「名無しはこの辺り詳しいのかい?」
「そうでもないよ。夜蛾先生に大体の地理は教えて貰ったけど、詳しいことはあんまり。」
小柄な同級生の隣を歩きながら他愛ない会話をかわす。
高専の最寄り駅から、東京の都心部へ。
池袋の東口から外へ出れば、地元に建っていたものよりも随分と立派な商業ビルが所狭しと並んでいた。
「本当に付き合わせてよかった?入学まであと少しだし、忙しくなかった?」
隣を歩いていた彼がこちらを無遠慮に見上げる。
身長差が20cm以上はゆうにあるせいか、少しばかり首が痛そうだった。
「いや、やることももうないし、丁度この辺りの散策もしたかったんだ」
「そうか。ならいいんだ」
納得したように小さく頷き、ポケットから一枚のメモを取り出す名無し。
いるものをリスト化するあたり、彼のまめな性格が垣間見れた。
「何を買うんだい?」
「ジャージと、適当に私服をいくつか。あとは文房具とか、生活用品。だから東急ハンズで適当にすませようかと」
自分の身の回りに頓着がないのか、それとも財布事情なのか。
「服はユニクロでいいかな」なんて、買い物する気があるのがないのか、実にやる気のない返答が呟かれる。
「折角街まで出たのに、かい?」
「そっちの方が手早く済むかと思ったんだけど」
「荷物持ちは手伝うよ。だから、どうせならゆっくり見ればいいんじゃないか?」
一瞬、意外そうに目を丸くされる。
……もしかして私と買い物があまり乗り気じゃなかったとか?まさかね。
嫌われるようなことは心当たりないし、会話の中で引っかかるような物言いをしたつもりはない。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。夏油くんは力持ちっぽそうだしね」
杞憂だったか。
嬉しそうに笑う彼を見て小さく胸を撫で下ろした。
「それなりだよ。」
「またまたご冗談を。」
***
「本当に試着しなくていいのかい?」
名無しの買い物は実に手早かった。
素材の確認。価格の確認。サイズの確認。鏡でチェック。そして買い物かごへ。1分も経過していない。
『こっちの色の方がいいんじゃないか?』とか迷うことがない。
「大体Sサイズ買っておけば入るし。」
「まぁ、細いから入るだろうけど。そういう問題かい?」
「サイズも把握しているし、別にこだわりもないから」
背丈はないものの、顔立ちは整っているのに勿体ない。
あどけなさがまだ残る少女のような顔立ちは、中性的で愛嬌がある。
物腰も柔らかで、さぞかし中学時代はモテただろうに。実に勿体ない。
「夏油くんは…………試着しないと大変そうだね。二の腕とか」
「あぁ、細身の服だと窮屈にはなるかな」
「将来ラピュタの親方になりそう」
…筋肉でシャツを破るような?
「ふふっ」と含み笑いをする名無しは実に楽しそうだ。一体何を想像しているのやら。
「胸筋とかもっと鍛えたらなるかな?」
「女の子より胸が大きくなったりして。やーい巨乳男子。」
「男も女の子も大きいのはいいことだよ。」
勿論、女の子には『好きな子の胸だったら大きさなんて関係ないよ』と言うのが常套句だ。
本音を言えば、そりゃ小さいよりはあった方が嬉しい。あと感度。
「うわぁ…セクハラ…」
「ちょっと待った。名無しから振った話だろ?」
「性癖の話まではしてないよ。筋肉トークの流れだったよね?」
「ちなみに名無しは?」
興味半分、意趣返し半分。
一瞬『えぇ…』と露骨に目を細めるが、真面目に考える辺り彼の性格がよく出てる。
五秒程間を置いて、真剣な顔で導き出した答えは
「……手フェチ、か、な?」
03.彼のこと
「…………何というか…むっつりっぽいな…」
「えっ…おっぱい星人よりは健全だと思う…」
「……意外と名無し、口悪いな?」