星霜を辿る
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「事情があって等級を誤魔化してるゥ?なんだそりゃ」
「声が大きいよ、五条くん」
帰りの電車が復旧するまでの間、名無しへの事情聴取と時間潰しも兼ねてファミレスへ立ち寄る。
適当にメニューを選び夕飯を平らげたあと、俺はデザートにメロンパフェをつつきながら事情聴取。名無しはティラミスを咀嚼しながらボソボソと抗議してきた。
やはり聖橋での飛び乗りは全て計算済だったらしい。
乗客に怪我人はいるものの、死者はゼロ。連絡が取れなかった運転手も呪霊によって重傷を負ってはいるが、命に別状はないようだ。
人混みの中、周りの非呪術師を傷つけることなく呪霊だけを祓う。
よりによって《見えない何か》によって危害を加えられ、一般人がパニックに陥った車両内で、だ。
「とある呪詛師を探してて、相手には見つからないよう、なるべくこっそり探したい。でも等級が高かったらその分目立つし、地道にコツコツ等級上げていく方が高専では目立たないかな〜と思って…夜蛾先生にお願いして偽装工作をしてました……とか、えっと……その…そんな感じ…」
嘘をついていた後ろめたさからか、語尾が消え入るように萎れていく。
事情は分かった。だが肝心な部分をまだ聞けていない。
「で。本当は何級なわけ」
「……………………いち。」
「嘘だろ、マジか。」
こんなもやしみたいにひょろいヤツが。
俺の反応を見て「まぁそう見えないよね」なんて苦笑いしている名無しが一級術師。
見るからに穏やかで、他人と競うことも苦手そうで──
(…いや、そうでもないのか?)
今日一日遊んで分かった。
格ゲーも上手い。競うことが苦手というより、爪を隠していると言った方が正しい。
穏やかそうに見えて、やることなすことが大胆不敵。
判断の早さ、思い切りの良さ、記憶力。
どれをとっても遜色ない。
現に今回の祓除、俺の出番は呪霊の数を見ただけだ。
夜蛾先生が一枚噛んでいるなら、これ以上等級について嘘をつく理由もないだろう。
「傑のヤツ、ひっくり返るだろうな。今回の件知ったら」
「えー…あー…この件、他の二人には黙ってて…」
「は?別に傑と硝子はいいだろ?アイツらと呪詛師が繋がってるか疑ってんの?」
「二人が悪いわけじゃない」
名無しが、首を振る。
「…それでも、駄目。」
「わーったよ。仕方ねぇな…」
食べきったティラミスの皿を眺めながら、名無しが俯き加減で小さく抗議する。
切実そうな声音。込み入った事情があるのだろう。
パフェに刺さっていたポッキーを咀嚼しながら、俺は天井を仰ぎ見た。
コイツといると調子が狂う。
それでも不思議と不快ではないのだから、おかしな話だ。
「交換条件。生得術式の開示。全部な。それでいいだろ」
「え、ええ……」
「でなきゃ口が滑るかもな」
脅しのような交換条件だが、今後一緒の任務になることも増えるだろう。
お互いの手札は分かっている方がいい。
「ほら、早くしろ。」と催促すれば、苦虫を噛み潰したような表情で、名無しは渋々白状した。
「………………陰陽五行……」
「うわ、また古い術式だな。いいのもってんじゃん」
宇宙や自然界の現象を説明する為の理論体系。
古くから天文学、医学、風水、占いなど、呪術との関わりも密接な呪術だ。
日本での起源は五世紀から六世紀頃。
それを生業とする陰陽師が現れたのが七世紀後半。
最盛期となったのは平安時代。
怨霊に対する御霊信仰──つまり、呪霊に対する術を手に入れた時代だ。
五条家のルーツである菅原道真と同じくらい古い歴史を持つが、戦国時代に突入すると家の断絶、地方への迫害、術式を記した書物の消失など、不運に見舞われて今や相伝である原型 の術式を完全に継ぐ者はいないとされている。
「だから水とか火とか言ってたのか。物質の認識・分解・再構築…相生と相剋の原理を利用した術式か、なるほどね。」
五条家で学んだ知識が、まさかこんなところで役に立つとは。
もう存在しない術式の勉強をしたところで無駄では?と嫌々覚えていたが、事実は小説よりも奇なり。
まさか術式を扱える術師と会えるとは思ってもみなかった。勉強って大事だな。
俺が一人で頷いている間、名無しは困ったようにアイスティーを啜っていた。
授業で行う挙手のように、スッと手を挙げた名無しは困ったように眉を寄せる。
「そっちはむしろオマケで、」
手持ち無沙汰なのか、ストローでカランと氷をかき混ぜる。
「本当は術式の解読と、分解……解呪の方が…得意なはず……なんだけどなぁ……」
ガックリと項垂れ、溜息を吐き出す。
溜息もつきたくなるだろう。何せ本人は、
「ガッツリ呪われてるもんなー」
「笑えるよね」
いや、笑えるか。
名無しの深刻そうな表情を見る限り、命に別状はないのだろうが、かなり厄介な呪いらしい。
「何の呪いなわけ?」
「…………それは……内緒。」
「は〜?開示が条件だろ?」
「生得術式の、ね。」
確かにそうだ。そうなのだが。
呪いの種類が判明すれば五条家にある禁書を漁ることだって出来たのに、どうやら意地でも掛かっている呪いを白状するつもりはないらしい。
「……じゃあなんか見せろよ。出来るだろ、一発芸。」
「え、ファミレスで?」
「高専の方が見られちゃまずいんじゃないの?」
出来るとしても水を凍らせたり、パフェの付け合せになっているミントを枯らせたり、その程度のものだと思っていた。
「五条くん、無下限張って。」
「あ?……ほら。」
名無しに言われるがまま、無下限を張る。
術者の周囲に呪力で《無限》を具現化させ、纏い、あらゆる干渉を防ぐ術式。
名無しが見えない壁に等しい、それに触れる。
止まる。
止まる。
止まる。
名無しの手が、俺の手に触れた。
「は?」
「こういうことも一応、」
へらっと気の抜けたような笑みを浮かべながら名無しが手を離す。
目を疑った。これは、無下限の突破だ。
さっき言っていた術式の解読、分解、解呪。こういうことか、と納得すると同時に興奮した。
「すげっ、それどうやったんだ?呪力の流れを逆探知?違うな、術式を読んで同質の呪力と同調……いや、無下限に対して六眼なしでそれは無理か。うわ、全然分かんねー、おもしれー!」
未知の術式との遭遇に心拍が高鳴る。
見えないからこそ面白い。
未解決事件に取り掛かる名探偵はきっとこんな気持ちなのだろう。
思考は早口に言葉となり、名無しの手を取り観察してみる。
しかし残穢があってもよく見えない。何の変哲もない薄い手のひらだ。
「名無し、もう一回」
「無理。疲れすぎて…鼻血が出……あ。」
たらりと落ちる赤。
名無しが慌てて紙ナプキンで押さえ、ファインセーブではあるが止まる気配はない。
11.About yourself
「うわ、ティッシュ!」
「えーん、五条くんの術式が変態すぎて鼻血出たー」
「誰が変態だ!」
「声が大きいよ、五条くん」
帰りの電車が復旧するまでの間、名無しへの事情聴取と時間潰しも兼ねてファミレスへ立ち寄る。
適当にメニューを選び夕飯を平らげたあと、俺はデザートにメロンパフェをつつきながら事情聴取。名無しはティラミスを咀嚼しながらボソボソと抗議してきた。
やはり聖橋での飛び乗りは全て計算済だったらしい。
乗客に怪我人はいるものの、死者はゼロ。連絡が取れなかった運転手も呪霊によって重傷を負ってはいるが、命に別状はないようだ。
人混みの中、周りの非呪術師を傷つけることなく呪霊だけを祓う。
よりによって《見えない何か》によって危害を加えられ、一般人がパニックに陥った車両内で、だ。
「とある呪詛師を探してて、相手には見つからないよう、なるべくこっそり探したい。でも等級が高かったらその分目立つし、地道にコツコツ等級上げていく方が高専では目立たないかな〜と思って…夜蛾先生にお願いして偽装工作をしてました……とか、えっと……その…そんな感じ…」
嘘をついていた後ろめたさからか、語尾が消え入るように萎れていく。
事情は分かった。だが肝心な部分をまだ聞けていない。
「で。本当は何級なわけ」
「……………………いち。」
「嘘だろ、マジか。」
こんなもやしみたいにひょろいヤツが。
俺の反応を見て「まぁそう見えないよね」なんて苦笑いしている名無しが一級術師。
見るからに穏やかで、他人と競うことも苦手そうで──
(…いや、そうでもないのか?)
今日一日遊んで分かった。
格ゲーも上手い。競うことが苦手というより、爪を隠していると言った方が正しい。
穏やかそうに見えて、やることなすことが大胆不敵。
判断の早さ、思い切りの良さ、記憶力。
どれをとっても遜色ない。
現に今回の祓除、俺の出番は呪霊の数を見ただけだ。
夜蛾先生が一枚噛んでいるなら、これ以上等級について嘘をつく理由もないだろう。
「傑のヤツ、ひっくり返るだろうな。今回の件知ったら」
「えー…あー…この件、他の二人には黙ってて…」
「は?別に傑と硝子はいいだろ?アイツらと呪詛師が繋がってるか疑ってんの?」
「二人が悪いわけじゃない」
名無しが、首を振る。
「…それでも、駄目。」
「わーったよ。仕方ねぇな…」
食べきったティラミスの皿を眺めながら、名無しが俯き加減で小さく抗議する。
切実そうな声音。込み入った事情があるのだろう。
パフェに刺さっていたポッキーを咀嚼しながら、俺は天井を仰ぎ見た。
コイツといると調子が狂う。
それでも不思議と不快ではないのだから、おかしな話だ。
「交換条件。生得術式の開示。全部な。それでいいだろ」
「え、ええ……」
「でなきゃ口が滑るかもな」
脅しのような交換条件だが、今後一緒の任務になることも増えるだろう。
お互いの手札は分かっている方がいい。
「ほら、早くしろ。」と催促すれば、苦虫を噛み潰したような表情で、名無しは渋々白状した。
「………………陰陽五行……」
「うわ、また古い術式だな。いいのもってんじゃん」
宇宙や自然界の現象を説明する為の理論体系。
古くから天文学、医学、風水、占いなど、呪術との関わりも密接な呪術だ。
日本での起源は五世紀から六世紀頃。
それを生業とする陰陽師が現れたのが七世紀後半。
最盛期となったのは平安時代。
怨霊に対する御霊信仰──つまり、呪霊に対する術を手に入れた時代だ。
五条家のルーツである菅原道真と同じくらい古い歴史を持つが、戦国時代に突入すると家の断絶、地方への迫害、術式を記した書物の消失など、不運に見舞われて今や相伝である
「だから水とか火とか言ってたのか。物質の認識・分解・再構築…相生と相剋の原理を利用した術式か、なるほどね。」
五条家で学んだ知識が、まさかこんなところで役に立つとは。
もう存在しない術式の勉強をしたところで無駄では?と嫌々覚えていたが、事実は小説よりも奇なり。
まさか術式を扱える術師と会えるとは思ってもみなかった。勉強って大事だな。
俺が一人で頷いている間、名無しは困ったようにアイスティーを啜っていた。
授業で行う挙手のように、スッと手を挙げた名無しは困ったように眉を寄せる。
「そっちはむしろオマケで、」
手持ち無沙汰なのか、ストローでカランと氷をかき混ぜる。
「本当は術式の解読と、分解……解呪の方が…得意なはず……なんだけどなぁ……」
ガックリと項垂れ、溜息を吐き出す。
溜息もつきたくなるだろう。何せ本人は、
「ガッツリ呪われてるもんなー」
「笑えるよね」
いや、笑えるか。
名無しの深刻そうな表情を見る限り、命に別状はないのだろうが、かなり厄介な呪いらしい。
「何の呪いなわけ?」
「…………それは……内緒。」
「は〜?開示が条件だろ?」
「生得術式の、ね。」
確かにそうだ。そうなのだが。
呪いの種類が判明すれば五条家にある禁書を漁ることだって出来たのに、どうやら意地でも掛かっている呪いを白状するつもりはないらしい。
「……じゃあなんか見せろよ。出来るだろ、一発芸。」
「え、ファミレスで?」
「高専の方が見られちゃまずいんじゃないの?」
出来るとしても水を凍らせたり、パフェの付け合せになっているミントを枯らせたり、その程度のものだと思っていた。
「五条くん、無下限張って。」
「あ?……ほら。」
名無しに言われるがまま、無下限を張る。
術者の周囲に呪力で《無限》を具現化させ、纏い、あらゆる干渉を防ぐ術式。
名無しが見えない壁に等しい、それに触れる。
止まる。
止まる。
止まる。
名無しの手が、俺の手に触れた。
「は?」
「こういうことも一応、」
へらっと気の抜けたような笑みを浮かべながら名無しが手を離す。
目を疑った。これは、無下限の突破だ。
さっき言っていた術式の解読、分解、解呪。こういうことか、と納得すると同時に興奮した。
「すげっ、それどうやったんだ?呪力の流れを逆探知?違うな、術式を読んで同質の呪力と同調……いや、無下限に対して六眼なしでそれは無理か。うわ、全然分かんねー、おもしれー!」
未知の術式との遭遇に心拍が高鳴る。
見えないからこそ面白い。
未解決事件に取り掛かる名探偵はきっとこんな気持ちなのだろう。
思考は早口に言葉となり、名無しの手を取り観察してみる。
しかし残穢があってもよく見えない。何の変哲もない薄い手のひらだ。
「名無し、もう一回」
「無理。疲れすぎて…鼻血が出……あ。」
たらりと落ちる赤。
名無しが慌てて紙ナプキンで押さえ、ファインセーブではあるが止まる気配はない。
11.About yourself
「うわ、ティッシュ!」
「えーん、五条くんの術式が変態すぎて鼻血出たー」
「誰が変態だ!」
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