泡影に游ぐ
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悟の部屋にあるDVDプレイヤーを兼ねていたプレステ2が壊れてしまい、さて、どこで映画を見るかと考えあぐねた結果。
ななしの部屋へ、容赦ない突撃。
廊下ですれ違った私も連行され、二人揃うなら『硝子も呼ぼうぜ』と連絡を入れ、あれよあれよとななしの部屋へ全員で転がり込む事となった。
……なったの、だが――。
まどろみに揺蕩う
誰かの寝相が静かに蠢き、私は音もなく目を覚ました。
『映画館っぽくしよーぜ』なんて悟が言い出して部屋は暗室に。
今は備え付けの液晶テレビだけが煌々とついており、映像が映像なら画面から髪を振り乱した女が這い出てきそうな雰囲気すらある。
あまりにも酷い出来の、B級映画以下のデビルマンを見せられ、口直しにハリーポッターを見て、その後は……何を見たかよく覚えていなかった。007の古い映画だったかもしれない。
DVDプレイヤーと化していたななしのプレステ2の電源は落とされ、消し忘れたテレビの暗い光だけが部屋の中の唯一の光源だ。
暗がりに慣れた目を擦り、辺りを見渡せば文字通り『雑魚寝』になっていた。
毛足が柔らかそうなラグの上で悟は堂々と寝ている。
私はベッドに凭れて寝ていたようで、少しだけ首が痛かった。
硝子はというと……ちゃっかりななしのベッドを占領している。いいのかい、それ男子のベッドだけど。
ななしはというと、
――バサリ、
(ん?)
辺りを見渡そうと上半身を起こせば、無防備に肩からずり落ちる布。もとい、毛布。
よく見れば悟の肩にはななしの私服であろう温かそうなアウターが。
硝子にはきちんと肩まで布団が掛けてあった。
風邪を引かないための配慮だろうか。
押しかけてきたのは私達だというのに、細やかな心遣いになんだか鳩尾辺りがむず痒くなってしまう。
当の本人はというと、部屋の隅で膝を抱えてくうくうと寝息を立てていた。
こじんまりと肩を丸めている姿はまるで小動物のようで、同級生の男子に向ける言葉ではないのは重々承知だが『可愛らしい』としか形容できなかった。
「……ななし、ななし。」
寝るにしてももう少し広くスペースを使えばいいのに。
熟睡しているところ申し訳ないのだが、彼の肩を掴んで軽く揺する。勿論、起こして身体を横たわらせるためだ。
(……細い。)
筋肉が、とか、悟の言う『チビ・ヒョロ・ガリ』とかそういうのではない。
骨格が、細い。
どちらかというと女の子の肩のような――
「……ななし。寝るならせめて横になった方がいい。」
雑念に近い妙な勘ぐりを振り払うように首を一振し、今度は背中に手を当てて軽く左右に揺すった。
「んー…」
「ななし?」
重く閉じられた瞼が、緩く薄く開かれる。
いつものくるりとした目元とは真逆の、眠そうに細められた目付き。
しかし、覚醒しきれていない眠気眼は睡魔に勝てなかったのか、なんとか開いていた上瞼は呆気なく落ちてしまった。
「…………ねむい。」
口元を必要最低限だけ動かし紡いだ、抗議の一言。
それをぽそりと呟いたあと、ななしは再びころりと寝入ってしまった。
……私の肩の下あたりで。
(そう来たか……)
腕に凭れ掛かる、不愉快ではない重み。
私の腕がななしの柔らかそうな頬をもったり押し潰し、そこではすうすうと規則的な寝息が再び立てられていた。
あどけない子供のような寝顔だと笑いそうになるが同時に、寝ぼけているとこんなにも無防備になるのかと心配してしまう。
普段の彼は、誰に対しても少し壁があるように見えるから。
(……まぁ、今はいいか。)
ななしの肩へブランケットを掛けて、余った分をちゃっかり拝借。
二人分の体温を包んだ毛布は、まだ少し肌寒い春には心地よい温かさで。
とろりとろりと微睡んでいく意識をやわらかく手放して、私は瞼をそっと閉じたのだった。
次の日、ななしの狼狽えた声で全員起床した。
……なんて、言うまでもないか。
ななしの部屋へ、容赦ない突撃。
廊下ですれ違った私も連行され、二人揃うなら『硝子も呼ぼうぜ』と連絡を入れ、あれよあれよとななしの部屋へ全員で転がり込む事となった。
……なったの、だが――。
まどろみに揺蕩う
誰かの寝相が静かに蠢き、私は音もなく目を覚ました。
『映画館っぽくしよーぜ』なんて悟が言い出して部屋は暗室に。
今は備え付けの液晶テレビだけが煌々とついており、映像が映像なら画面から髪を振り乱した女が這い出てきそうな雰囲気すらある。
あまりにも酷い出来の、B級映画以下のデビルマンを見せられ、口直しにハリーポッターを見て、その後は……何を見たかよく覚えていなかった。007の古い映画だったかもしれない。
DVDプレイヤーと化していたななしのプレステ2の電源は落とされ、消し忘れたテレビの暗い光だけが部屋の中の唯一の光源だ。
暗がりに慣れた目を擦り、辺りを見渡せば文字通り『雑魚寝』になっていた。
毛足が柔らかそうなラグの上で悟は堂々と寝ている。
私はベッドに凭れて寝ていたようで、少しだけ首が痛かった。
硝子はというと……ちゃっかりななしのベッドを占領している。いいのかい、それ男子のベッドだけど。
ななしはというと、
――バサリ、
(ん?)
辺りを見渡そうと上半身を起こせば、無防備に肩からずり落ちる布。もとい、毛布。
よく見れば悟の肩にはななしの私服であろう温かそうなアウターが。
硝子にはきちんと肩まで布団が掛けてあった。
風邪を引かないための配慮だろうか。
押しかけてきたのは私達だというのに、細やかな心遣いになんだか鳩尾辺りがむず痒くなってしまう。
当の本人はというと、部屋の隅で膝を抱えてくうくうと寝息を立てていた。
こじんまりと肩を丸めている姿はまるで小動物のようで、同級生の男子に向ける言葉ではないのは重々承知だが『可愛らしい』としか形容できなかった。
「……ななし、ななし。」
寝るにしてももう少し広くスペースを使えばいいのに。
熟睡しているところ申し訳ないのだが、彼の肩を掴んで軽く揺する。勿論、起こして身体を横たわらせるためだ。
(……細い。)
筋肉が、とか、悟の言う『チビ・ヒョロ・ガリ』とかそういうのではない。
骨格が、細い。
どちらかというと女の子の肩のような――
「……ななし。寝るならせめて横になった方がいい。」
雑念に近い妙な勘ぐりを振り払うように首を一振し、今度は背中に手を当てて軽く左右に揺すった。
「んー…」
「ななし?」
重く閉じられた瞼が、緩く薄く開かれる。
いつものくるりとした目元とは真逆の、眠そうに細められた目付き。
しかし、覚醒しきれていない眠気眼は睡魔に勝てなかったのか、なんとか開いていた上瞼は呆気なく落ちてしまった。
「…………ねむい。」
口元を必要最低限だけ動かし紡いだ、抗議の一言。
それをぽそりと呟いたあと、ななしは再びころりと寝入ってしまった。
……私の肩の下あたりで。
(そう来たか……)
腕に凭れ掛かる、不愉快ではない重み。
私の腕がななしの柔らかそうな頬をもったり押し潰し、そこではすうすうと規則的な寝息が再び立てられていた。
あどけない子供のような寝顔だと笑いそうになるが同時に、寝ぼけているとこんなにも無防備になるのかと心配してしまう。
普段の彼は、誰に対しても少し壁があるように見えるから。
(……まぁ、今はいいか。)
ななしの肩へブランケットを掛けて、余った分をちゃっかり拝借。
二人分の体温を包んだ毛布は、まだ少し肌寒い春には心地よい温かさで。
とろりとろりと微睡んでいく意識をやわらかく手放して、私は瞼をそっと閉じたのだった。
次の日、ななしの狼狽えた声で全員起床した。
……なんて、言うまでもないか。