泡影に游ぐ
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ランニングが終わった後。
コップに並々と作った『それ』を一気に飲み干す。
独特の喉越し。
なんとも言えない味。
「う、不味い……」
残念な流動食を口にして、つい独り言を漏らしてしまった。
私と彼の距離
「夏油くん。」
「ん?」
珍しい。彼が私に話しかけてくるなんて。
「つかぬ事を聞くんだけど、いいかな?」
「どうしたんだい、改まって」
数少ない同級生だというのに、彼の――ななしの態度は入学して二週間経っているにも関わらずよそよそしいものだった。
……何かあれば『チビ』だの『雑魚』だの彼に絡んでくる悟とよく一緒にいるからか。
もしかしたら苦手意識を私にも抱いているのかもしれない。
「………………プロテインの味って、どうにかならないのか?」
ぽそりと問うてきた質問は、予想していたものよりも酷くかけ離れていたもので。
「よく知ってるね。私が飲んでるの」
「この間、買って帰って来てたのを見たから」
よく見ている。
これが悟なら『うえー、何見てんだよ。ストーカーかよ、気持ち悪ィ』なんて毒づいているのかもしれないが、私は素直に「あぁ、なるほど」と感心した。
彼は、周りをよく見ている。
「今晩、味がマシになる方法教えてあげようか」
断られるかと思いきや、思いのほか切実だったらしい。
コクコクと小さく何度も頷く姿を見て、『あぁ、弟がいたらこんな感じなんだろうか』と私はちょっと失礼な事を考えてしまった。
***
「悟にもっとガツンと怒ってもいいんじゃないのかい?」
彼が持っていたプロテインは、そもそも味付け――フレーバーがないものだった。
いくつかオススメのものを分け与え、牛乳とスムージーを混ぜたものを試飲させたら大層気に入ってくれたようで、私も何だか嬉しくなった。
そして、ななしの機嫌が良くなったところを見て先程の問いを投げ掛けたのだ。
……悟が言っていることは紛れもない事実なのかもしれないが、言い方というものがある。
現に、ななしはこの後『走りに行ってくる』と言っていたし、彼は彼なりに見えない努力を重ねていた。
『ただ何となく高専に来た』というわけではないらしい。
まぁ、そもそも高専にやってくる生徒は、大抵一癖も二癖もある人間だから、当然といえば当然なのだ。
事情も知らずただ一方的に詰る悟にも、それを一切言い返さず流しているななしに対しても、私の立場は外野とはいえ、ただ只管に靄のような感情が積もっていった。
だが今私の目の前にいる彼は心底驚いたように目を丸くしているではないか。
心外だ。そう言わんばかりに。
「……いや、別にいいや。怒ったら疲れるし、雰囲気も悪くなる。メリットがないだろう?」
メリット。
まるで一個人の――いや、ななし自身の感情を度外視したような物言いだ。
けれど彼の言っていることは『その通り』だった。
だからこそ私は何も言えなかったし、言葉が喉の奥で引っ掛かったような気分になって。
雪のように淡々とした冷たささえ感じる彼の冷静さに、息苦しさすら感じた。
「それに五条くんが言っていることだって間違いじゃない。ぐうの音も出ない正論だよ」
「チビ・ガリ・ヒョロだったけ」と呟き、小さく笑うななし。
消え入りそうな声で「その通りだ、全く」と零した声は自嘲めいた色を含めていたが、その表情は俯き加減だったため見ることが叶わなかった。
「……私から悟に言おうか?」
「嫌だな、それは最高にカッコ悪いだろ?」
まるで告口だ。
困ったような表情で顔を上げたななし。
「それもそうだね。すまない」と私は謝罪の言葉を口にした。
少し、配慮が足りなかったな。
彼も男なんだから見栄やプライドくらいあるだろうに。
「気持ちだけ受け取っておくよ。心配してくれてありがとう。」
そう言って、買ったのはいいものの甘ったるすぎて余らせていた苺味のプロテインを一気に飲み干すななし。
満足そうに小さく頷き「うん、美味しい。」と笑う彼から
――どうしても、目が離せなかった。
コップに並々と作った『それ』を一気に飲み干す。
独特の喉越し。
なんとも言えない味。
「う、不味い……」
残念な流動食を口にして、つい独り言を漏らしてしまった。
私と彼の距離
「夏油くん。」
「ん?」
珍しい。彼が私に話しかけてくるなんて。
「つかぬ事を聞くんだけど、いいかな?」
「どうしたんだい、改まって」
数少ない同級生だというのに、彼の――ななしの態度は入学して二週間経っているにも関わらずよそよそしいものだった。
……何かあれば『チビ』だの『雑魚』だの彼に絡んでくる悟とよく一緒にいるからか。
もしかしたら苦手意識を私にも抱いているのかもしれない。
「………………プロテインの味って、どうにかならないのか?」
ぽそりと問うてきた質問は、予想していたものよりも酷くかけ離れていたもので。
「よく知ってるね。私が飲んでるの」
「この間、買って帰って来てたのを見たから」
よく見ている。
これが悟なら『うえー、何見てんだよ。ストーカーかよ、気持ち悪ィ』なんて毒づいているのかもしれないが、私は素直に「あぁ、なるほど」と感心した。
彼は、周りをよく見ている。
「今晩、味がマシになる方法教えてあげようか」
断られるかと思いきや、思いのほか切実だったらしい。
コクコクと小さく何度も頷く姿を見て、『あぁ、弟がいたらこんな感じなんだろうか』と私はちょっと失礼な事を考えてしまった。
***
「悟にもっとガツンと怒ってもいいんじゃないのかい?」
彼が持っていたプロテインは、そもそも味付け――フレーバーがないものだった。
いくつかオススメのものを分け与え、牛乳とスムージーを混ぜたものを試飲させたら大層気に入ってくれたようで、私も何だか嬉しくなった。
そして、ななしの機嫌が良くなったところを見て先程の問いを投げ掛けたのだ。
……悟が言っていることは紛れもない事実なのかもしれないが、言い方というものがある。
現に、ななしはこの後『走りに行ってくる』と言っていたし、彼は彼なりに見えない努力を重ねていた。
『ただ何となく高専に来た』というわけではないらしい。
まぁ、そもそも高専にやってくる生徒は、大抵一癖も二癖もある人間だから、当然といえば当然なのだ。
事情も知らずただ一方的に詰る悟にも、それを一切言い返さず流しているななしに対しても、私の立場は外野とはいえ、ただ只管に靄のような感情が積もっていった。
だが今私の目の前にいる彼は心底驚いたように目を丸くしているではないか。
心外だ。そう言わんばかりに。
「……いや、別にいいや。怒ったら疲れるし、雰囲気も悪くなる。メリットがないだろう?」
メリット。
まるで一個人の――いや、ななし自身の感情を度外視したような物言いだ。
けれど彼の言っていることは『その通り』だった。
だからこそ私は何も言えなかったし、言葉が喉の奥で引っ掛かったような気分になって。
雪のように淡々とした冷たささえ感じる彼の冷静さに、息苦しさすら感じた。
「それに五条くんが言っていることだって間違いじゃない。ぐうの音も出ない正論だよ」
「チビ・ガリ・ヒョロだったけ」と呟き、小さく笑うななし。
消え入りそうな声で「その通りだ、全く」と零した声は自嘲めいた色を含めていたが、その表情は俯き加減だったため見ることが叶わなかった。
「……私から悟に言おうか?」
「嫌だな、それは最高にカッコ悪いだろ?」
まるで告口だ。
困ったような表情で顔を上げたななし。
「それもそうだね。すまない」と私は謝罪の言葉を口にした。
少し、配慮が足りなかったな。
彼も男なんだから見栄やプライドくらいあるだろうに。
「気持ちだけ受け取っておくよ。心配してくれてありがとう。」
そう言って、買ったのはいいものの甘ったるすぎて余らせていた苺味のプロテインを一気に飲み干すななし。
満足そうに小さく頷き「うん、美味しい。」と笑う彼から
――どうしても、目が離せなかった。