蜃気楼トリップ
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「はぁ?何言ってんの、ここは僕と名無しの愛の巣だよ?」
「五条さん。管理人室です。誤解を生む発言は控えて下さい」
「いやいや、出張前もあれだけムゴッ!」
五条のよく回る口を手で押さえれば、手のひらの下でもごもごと言葉が空回る。
一瞬脳裏に数日前の情事が過ぎるが、それはそれ。
大きく酸素を吸い込んで、それなりに得意なポーカーフェイスで表情筋を整えた。
「ちなみに五条さんの職員寮に、五条さんと一緒に住むのはダ、」
「嫌に決まってんだろ。」
「ですよね。」
ダメ元で若い五条に問うてみるが、やはり却下らしい。
元はと言えば同じ人格・同じ人間なのだからウマがあってもいいはずなのに、なぜだろう。
『意気投合』とはかけ離れた光景しか今のところ想像できないのが困ったところだ。
まぁお互い『男とひとつ屋根の下なんて』と顔に書いているので、五条と五条の二人きり同棲は絶望的だ。
そう。例えるなら──磁石のN極とN極をくっつけようとしても、絶対にくっつかないと反発しあっているような。
「だーかーら、僕がここ!お前は僕の職員寮の部屋を貸してやるから。」
「私は一人でゆっくり寝たいです」
「酷い!いつも僕と一緒に寝てるのに!」
そういうことを仮にも未成年の前で言うんじゃない。
名無しの手を掴んでさめざめと抗議してくる五条。
演技がかった白々しい声でとんでもない台詞を叫ぶ彼へ、名無しは問答無用で無言の制裁を加えた。
具体的に言うと、フカフカのクッションを五条の顔面に押し当てた。少し黙って欲しい。
「むぐ…寮の一部屋二部屋空いてるんじゃないの?」
「すみません、元々部屋数がないせいで今は満室です。辛うじて残っている空き部屋も用具入れとして使われちゃってますし、片付けないことには使えませんね…」
「じゃあ追い出そ♡」
「五条さん、もう少し自分に優しくしてあげたらどうですか…?」
クッションを抱き抱え、五条が意気揚々と提案するものだから流石の名無しも呆れ返ってしまった。
同族嫌悪の騒ぎではない。
……五条からすれば、もしかするとヤンチャ時代を目の前に突きつけられ、黒歴史上映会をされている気分なのかもしれないが。
「やーい、ガキに怒られてやんの。」
「あなたより確実に年上ですし、二十歳もとっくのまに迎えていますから子供じゃないです。」
「は?……童顔…いや…若作りしすぎじゃね?」
「そういうことにしておきましょう。」
説明するのも億劫なので、とりあえず今はそれでいい。
もしかすると六眼で何となく察しはついているのかもしれないが──五条曰く、元々あった生得術式と合わさって『ぐしゃぐしゃ』に見えるらしい。
良く言えば簡単には看破されにくい。
デメリットを挙げるなら、呪術師の本能的に『得体が知れない』と警戒されやすい。初めて会った伏黒の時のように。
まぁこの場で説明するべきことではないのは確かだ。そんなことは今、どうでもいいのだ。
「ってことは俺が一番ピチピチだな。」
「そーだよ、クソガキ。敬え」
「はぁ?お前なんかオッサンだろ。臭ってきてんぞ、加齢臭。」
「はぁ?この僕が加齢臭あるわけないでしょ?そうだよね、名無し。」
「返答に困るキラーパスしてくるのやめて頂けます?していませんよ、今のところは」
東堂ほどではないが、いい匂いがする──というのは黙っておこう。
余計な火種は蒔かず、心の内へ留めるに限る。
「というか年齢や加齢臭はどうでもいいんですよ。」
「どうでもよくないよ。」
「どうでもいいです。赤ちゃんでもおじいちゃんでも、五条さんは五条さんでしょう」
その言葉に機嫌を良くしたのか、ぽぽぽっと花が咲くような空気を纏いながら五条が名無しの頭を撫で回す。
五条の一挙一動に反応を返していたら話が進まないと踏んだのか、名無しは諦めて若い五条へ声をかけた。
「それより若い五条さ……ややこしいな…」
「あぁ、俺?そーだな…悟くん♡でいいんじゃね?」
「は?」
(五条さん顔怖いですよ)
頭上で殺気を放つのはやめて頂きたい。
あと若い五条は大人五条の反応を見て愉しむのはやめて欲しい。
「では五条くんで。」
「つれねーの」
不満そうにする若い五条を後目に、名無しは思わず半袖の露出した腕をそっと摩った。
「どしたの、名無し。」
「自分で言っておいてなんですけど……くん付けがあまりにもむず痒くて。」
ついつい鳥肌がたってしまった。
この呼び方に慣れる日は、いつか来るのだろうか。
蜃気楼トリップ#04
「で、五条さ…くんの、寝泊まりするところの件なんですけど。」
「──もう面倒なのでお二人でジャンケンで決めてください…」
名無しは悟った。
この台風のような二人の前では、自分の安息など風に舞う枯葉に等しいのだと。
「オーケー、グーでこのクソガキを吹っ飛ばせばいいんだよね?」
「この年甲斐もなくスカしたオッサンをグーでぶっ飛ばせばいいんだな?」
「それ、やった日には荒川の河川敷にお二人を捨ててきますからね?」
「五条さん。管理人室です。誤解を生む発言は控えて下さい」
「いやいや、出張前もあれだけムゴッ!」
五条のよく回る口を手で押さえれば、手のひらの下でもごもごと言葉が空回る。
一瞬脳裏に数日前の情事が過ぎるが、それはそれ。
大きく酸素を吸い込んで、それなりに得意なポーカーフェイスで表情筋を整えた。
「ちなみに五条さんの職員寮に、五条さんと一緒に住むのはダ、」
「嫌に決まってんだろ。」
「ですよね。」
ダメ元で若い五条に問うてみるが、やはり却下らしい。
元はと言えば同じ人格・同じ人間なのだからウマがあってもいいはずなのに、なぜだろう。
『意気投合』とはかけ離れた光景しか今のところ想像できないのが困ったところだ。
まぁお互い『男とひとつ屋根の下なんて』と顔に書いているので、五条と五条の二人きり同棲は絶望的だ。
そう。例えるなら──磁石のN極とN極をくっつけようとしても、絶対にくっつかないと反発しあっているような。
「だーかーら、僕がここ!お前は僕の職員寮の部屋を貸してやるから。」
「私は一人でゆっくり寝たいです」
「酷い!いつも僕と一緒に寝てるのに!」
そういうことを仮にも未成年の前で言うんじゃない。
名無しの手を掴んでさめざめと抗議してくる五条。
演技がかった白々しい声でとんでもない台詞を叫ぶ彼へ、名無しは問答無用で無言の制裁を加えた。
具体的に言うと、フカフカのクッションを五条の顔面に押し当てた。少し黙って欲しい。
「むぐ…寮の一部屋二部屋空いてるんじゃないの?」
「すみません、元々部屋数がないせいで今は満室です。辛うじて残っている空き部屋も用具入れとして使われちゃってますし、片付けないことには使えませんね…」
「じゃあ追い出そ♡」
「五条さん、もう少し自分に優しくしてあげたらどうですか…?」
クッションを抱き抱え、五条が意気揚々と提案するものだから流石の名無しも呆れ返ってしまった。
同族嫌悪の騒ぎではない。
……五条からすれば、もしかするとヤンチャ時代を目の前に突きつけられ、黒歴史上映会をされている気分なのかもしれないが。
「やーい、ガキに怒られてやんの。」
「あなたより確実に年上ですし、二十歳もとっくのまに迎えていますから子供じゃないです。」
「は?……童顔…いや…若作りしすぎじゃね?」
「そういうことにしておきましょう。」
説明するのも億劫なので、とりあえず今はそれでいい。
もしかすると六眼で何となく察しはついているのかもしれないが──五条曰く、元々あった生得術式と合わさって『ぐしゃぐしゃ』に見えるらしい。
良く言えば簡単には看破されにくい。
デメリットを挙げるなら、呪術師の本能的に『得体が知れない』と警戒されやすい。初めて会った伏黒の時のように。
まぁこの場で説明するべきことではないのは確かだ。そんなことは今、どうでもいいのだ。
「ってことは俺が一番ピチピチだな。」
「そーだよ、クソガキ。敬え」
「はぁ?お前なんかオッサンだろ。臭ってきてんぞ、加齢臭。」
「はぁ?この僕が加齢臭あるわけないでしょ?そうだよね、名無し。」
「返答に困るキラーパスしてくるのやめて頂けます?していませんよ、今のところは」
東堂ほどではないが、いい匂いがする──というのは黙っておこう。
余計な火種は蒔かず、心の内へ留めるに限る。
「というか年齢や加齢臭はどうでもいいんですよ。」
「どうでもよくないよ。」
「どうでもいいです。赤ちゃんでもおじいちゃんでも、五条さんは五条さんでしょう」
その言葉に機嫌を良くしたのか、ぽぽぽっと花が咲くような空気を纏いながら五条が名無しの頭を撫で回す。
五条の一挙一動に反応を返していたら話が進まないと踏んだのか、名無しは諦めて若い五条へ声をかけた。
「それより若い五条さ……ややこしいな…」
「あぁ、俺?そーだな…悟くん♡でいいんじゃね?」
「は?」
(五条さん顔怖いですよ)
頭上で殺気を放つのはやめて頂きたい。
あと若い五条は大人五条の反応を見て愉しむのはやめて欲しい。
「では五条くんで。」
「つれねーの」
不満そうにする若い五条を後目に、名無しは思わず半袖の露出した腕をそっと摩った。
「どしたの、名無し。」
「自分で言っておいてなんですけど……くん付けがあまりにもむず痒くて。」
ついつい鳥肌がたってしまった。
この呼び方に慣れる日は、いつか来るのだろうか。
蜃気楼トリップ#04
「で、五条さ…くんの、寝泊まりするところの件なんですけど。」
「──もう面倒なのでお二人でジャンケンで決めてください…」
名無しは悟った。
この台風のような二人の前では、自分の安息など風に舞う枯葉に等しいのだと。
「オーケー、グーでこのクソガキを吹っ飛ばせばいいんだよね?」
「この年甲斐もなくスカしたオッサンをグーでぶっ飛ばせばいいんだな?」
「それ、やった日には荒川の河川敷にお二人を捨ててきますからね?」