蜃気楼トリップ
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寮の管理人室に到着して、真っ先に五条を風呂場へ押し込んだ。
名無し自身も泥と雨に塗れているが、風呂より先に確かめなければいけないことがあった。
土泥がついたシャツとズボンは洗面台へ、濡れてしまった下着は洗濯機へ。
部屋干しにしていた部屋着へ袖を通して、スマホの着信履歴から手早く五条の番号へダイヤルを回した。
コール音がここまで待ち遠しいと思うことも早々ないだろう。
もしかしたら仕事中かもしれないが、それはそれだ。
とにかく今は無事かどうかを確認したかった。
『もっしも〜し!名無しちゃんのだぁい好きな五条悟っでぇぇす!』
七海が聞いたらウンザリしそうなテンションで電話が繋がった。
いつもなら【そんなテンションで疲れませんか?】と言ってしまいそうだが、今はただ安堵の息と共に胸を撫で下ろす。
「五条さん、そっちは大丈夫ですか?」
『ん?任務のこと?それはさっき終わって、今サービスエリアでうなぎパイの会計してること。』
「それは何よりです。……身体に異変とかは?」
『健康そのものだけど。帰って確かめてみる?ベッドで。』
「いえ。何もないならいいんですけ……いや、よくないな…ちょっとこっちは面倒なことになりまして……」
仮説を立てていた。といっても机上の空論に近いものだが。
何かしらの呪いで名無しの知っている『五条悟』が記憶諸共若返ったとしたら、と。
高専に戻ってくる術は説明しづらいが、東京の都心部から高専まで『移動』できる人なのだ。可能性はゼロじゃないと思っていたが…。
(見当違いか……)
『面倒なことって?』
「それが」
「だーれと電話してんの?」
名無しの手から取り上げられるスマートフォン。
背後から摘むように攫って行ったのは言うまでもない。シャワーから上がった若い五条らしき人物その人だ。
『は?今僕の声しなかった?』
「ん?なにこれ。通話相手…『五条悟』?俺じゃん。」
「あー…やっぱこっちの五条さん(仮)も五条さんなんですね…」
『ちょっと名無し。どうなってんの。』
辛うじて電波の向こうから聞こえてくる声は、先程よりもワントーン低くなっている。
それもそうだろう。
出張中の五条からすればドッペルゲンガー騒ぎなのだから。
「帰ったら説明……は上手くできる自信がありませんが、出来るだけ早めに帰ってきて下さると嬉しいです。
――って、ちょっと。なんでズボンだけなんですか!シャツも用意してましたよね!?」
「んー?見つからなかった〜。」
『はぁ!?待った!どういうこ、』
ブチッ。
切られる通話。
五条が持っていたスマートフォンはベッドへ放り投げられ、薄い端末はタオルケットの上をぽよんと跳ねた。
「……勝手に通話切らないでくださいよ、もう」
「普通さぁ、男と二人きりなのに電話しちゃう?」
意味が理解出来ず、名無しは小さく首を傾げる。
「?、こっちの五条さんが五体満足か確認するために電話しただけですよ。」
「うわ。嘘、天然?この状況でも?」
壁に押し付け、覆い被さる五条。
所謂『壁ドン』と言うには些か距離が近い気がする。
しっとりと生乾きになっている髪が、名無しの鼻先を掠めるような距離。
サングラスを取った双眸が値踏みするように彼女を凝視した。
「風邪引くのでシャツ着たらどうです?持ってきましょうか?」
「はぁ?こんな顔がいい男が目の前で半裸だぞ?キャーキャー言うのが普通じゃねーの?」
「そういうのは間に合ってますので。」
一息つき、「それに、」と続ける。
「気持ちが篭ってもいないのに、ドキドキするわけないじゃないですか。」
見透かすような声。
図星を突かれ、五条は小さく目を見開いた。
が、そんな表情は一瞬にして切り替わり、口角を小さく上げながら名無しの顎を指先で持ち上げる。
「ふーん。こんな状況でも?」
近づく唇。
呼吸が混ざるような距離。
視界がお互いの顔で埋め尽くすような近さ。
数瞬にも一瞬にも思えるような刹那。
蜃気楼トリップ#02
触れる直前、その鈍い音は響いた。
ゴンッ
「いっっってぇ!」
「気が済みましたか?シャワー浴びてくるのでちゃんと服を着てくださいね。」
勢いよく名無しが頭突きを食らわせば、五条は額を抑えて蹲り、呻いた。
お互いの額が赤くなるほどの衝撃だが、名無しはというとどこか吹く風、呆れたように五条を見下ろしていた。
「ん、の、……可愛げがねぇ…!」
「……可愛げがなくてすみませんね。」
恨めしそうに名無しを見上げる五条。
――しかし、目のいい彼は見逃さなかった。
背を向け、脱衣所へ向かう名無しの耳が、茹で上がるほどに真っ赤になっていることを。
名無し自身も泥と雨に塗れているが、風呂より先に確かめなければいけないことがあった。
土泥がついたシャツとズボンは洗面台へ、濡れてしまった下着は洗濯機へ。
部屋干しにしていた部屋着へ袖を通して、スマホの着信履歴から手早く五条の番号へダイヤルを回した。
コール音がここまで待ち遠しいと思うことも早々ないだろう。
もしかしたら仕事中かもしれないが、それはそれだ。
とにかく今は無事かどうかを確認したかった。
『もっしも〜し!名無しちゃんのだぁい好きな五条悟っでぇぇす!』
七海が聞いたらウンザリしそうなテンションで電話が繋がった。
いつもなら【そんなテンションで疲れませんか?】と言ってしまいそうだが、今はただ安堵の息と共に胸を撫で下ろす。
「五条さん、そっちは大丈夫ですか?」
『ん?任務のこと?それはさっき終わって、今サービスエリアでうなぎパイの会計してること。』
「それは何よりです。……身体に異変とかは?」
『健康そのものだけど。帰って確かめてみる?ベッドで。』
「いえ。何もないならいいんですけ……いや、よくないな…ちょっとこっちは面倒なことになりまして……」
仮説を立てていた。といっても机上の空論に近いものだが。
何かしらの呪いで名無しの知っている『五条悟』が記憶諸共若返ったとしたら、と。
高専に戻ってくる術は説明しづらいが、東京の都心部から高専まで『移動』できる人なのだ。可能性はゼロじゃないと思っていたが…。
(見当違いか……)
『面倒なことって?』
「それが」
「だーれと電話してんの?」
名無しの手から取り上げられるスマートフォン。
背後から摘むように攫って行ったのは言うまでもない。シャワーから上がった若い五条らしき人物その人だ。
『は?今僕の声しなかった?』
「ん?なにこれ。通話相手…『五条悟』?俺じゃん。」
「あー…やっぱこっちの五条さん(仮)も五条さんなんですね…」
『ちょっと名無し。どうなってんの。』
辛うじて電波の向こうから聞こえてくる声は、先程よりもワントーン低くなっている。
それもそうだろう。
出張中の五条からすればドッペルゲンガー騒ぎなのだから。
「帰ったら説明……は上手くできる自信がありませんが、出来るだけ早めに帰ってきて下さると嬉しいです。
――って、ちょっと。なんでズボンだけなんですか!シャツも用意してましたよね!?」
「んー?見つからなかった〜。」
『はぁ!?待った!どういうこ、』
ブチッ。
切られる通話。
五条が持っていたスマートフォンはベッドへ放り投げられ、薄い端末はタオルケットの上をぽよんと跳ねた。
「……勝手に通話切らないでくださいよ、もう」
「普通さぁ、男と二人きりなのに電話しちゃう?」
意味が理解出来ず、名無しは小さく首を傾げる。
「?、こっちの五条さんが五体満足か確認するために電話しただけですよ。」
「うわ。嘘、天然?この状況でも?」
壁に押し付け、覆い被さる五条。
所謂『壁ドン』と言うには些か距離が近い気がする。
しっとりと生乾きになっている髪が、名無しの鼻先を掠めるような距離。
サングラスを取った双眸が値踏みするように彼女を凝視した。
「風邪引くのでシャツ着たらどうです?持ってきましょうか?」
「はぁ?こんな顔がいい男が目の前で半裸だぞ?キャーキャー言うのが普通じゃねーの?」
「そういうのは間に合ってますので。」
一息つき、「それに、」と続ける。
「気持ちが篭ってもいないのに、ドキドキするわけないじゃないですか。」
見透かすような声。
図星を突かれ、五条は小さく目を見開いた。
が、そんな表情は一瞬にして切り替わり、口角を小さく上げながら名無しの顎を指先で持ち上げる。
「ふーん。こんな状況でも?」
近づく唇。
呼吸が混ざるような距離。
視界がお互いの顔で埋め尽くすような近さ。
数瞬にも一瞬にも思えるような刹那。
蜃気楼トリップ#02
触れる直前、その鈍い音は響いた。
ゴンッ
「いっっってぇ!」
「気が済みましたか?シャワー浴びてくるのでちゃんと服を着てくださいね。」
勢いよく名無しが頭突きを食らわせば、五条は額を抑えて蹲り、呻いた。
お互いの額が赤くなるほどの衝撃だが、名無しはというとどこか吹く風、呆れたように五条を見下ろしていた。
「ん、の、……可愛げがねぇ…!」
「……可愛げがなくてすみませんね。」
恨めしそうに名無しを見上げる五条。
――しかし、目のいい彼は見逃さなかった。
背を向け、脱衣所へ向かう名無しの耳が、茹で上がるほどに真っ赤になっていることを。