2012 winter┊︎short story
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12月7日。なんてことない、ただの平日。
呪術界や呪詛師界隈からしてみれば、忌々しい『五条悟』の誕生日なわけだが、僕としては別に誕生日だからといって特別思い入れはない。
仕事がなくなるわけでもないし、かといって実家にいた時のように仰々しく祝われることもない。
学生の時は《誕生日》というイベントにかこつけてどんちゃん騒ぎすることが年に四回、七海達が入学してからは六回に増えて、減っていった。
今となってはただ年齢を書く書類があれば、今日から数字がひとつ増える日。誤字に暫く気をつけなきゃな、なんてぼんやり考えるだけだ。
それだけだったのに。
「五条さん、誕生日おめでとうございます。」
高専到着30分前に名無しから届いた『学生寮に寄って欲しい』というメッセージ。
軽い足取りで彼女の部屋に立ち寄れば、プレゼントの包みを抱えた名無しが機嫌よく笑っていた。
「覚えてたんだ?」
「勿論。プレゼントもご用意しました。」
見覚えのある部屋着ブランドのマーク。
「開けていい?」と僕が問えば、名無しは即座に首を縦に振った。
「寒くなってきたので暖かそうなルームウェアと、レンジで温めたら使えるホットアイマスクになります」
ホットアイマスクは流石にジェラピケではないらしい。
モコモコのルームウェアと一緒に入っている、やたらと可愛いアイピロー。
具体的に言えば、寝そべったクマ。彼女の趣味だろうか。可愛い。
──実用的なプレゼントを貰ったのはいつぶりだろう。学生の時以来かもしれない。
誕生日プレゼントといえば無駄に豪華な調度品だとか滅多に使いもしない茶器だとか、ここ数年はそんな物が多かった。
何より「いつもお仕事お疲れ様です。」と掛けてくれた労いの言葉が、一番のプレゼントだ。
「今まで貰ったプレゼントで一番嬉しいかも。」
「またまた。予算がその…五条さんの身の丈に合ってなくて申し訳ないです……」
「こういうのは気持ちでしょ。名無しの誕生日に僕が金の延べ棒あげたら嬉しい?」
「資産価値としては魅力的ですけど、正直ドン引きですね。」
「そういうこと。」
僕がそう答えると納得したように名無しは頷いた。
「ケーキはお腹に入りますか?」
個室の廊下にある、なけなしの台所と小さな冷蔵庫。
寮に備え付けられている冷蔵庫の中には、立派なケーキの白い箱。
「知らないの?ケーキって別腹なんだよ?」
「贅肉になるところは同じなのが複雑ですけどね…」
悩ましげに顔を顰める彼女だが、至って標準体型な上、長年の監禁も相まってまだ肉は足りないくらいだ。
今度お礼に美味しい焼肉屋でも連れて行くことにしよう。
小さな台所で小ぶりなホールケーキを取り出し、ロウソクを一本一本バランスよく刺していく名無し。
虹色のそれらはとても可愛らしく、それを真剣に飾りつける名無しの横顔はもっと可愛かった。
最後の一本を刺し終え、ライターを片手に名無しが小さく首を傾げる。
「五条さん、なんの願い事するんですか?」
「願い事?」
「ご存知ないですか?ロウソクを消す時、願い事しながら消すと叶うらしいですよ。ドイツが発祥らしくて、魔除けの一種なんですって。
まぁアメリカに伝来した時には悪魔祓いの風習はなくなって、願い事をするって習慣になったそうですけど」
呪術に通じているような、通じていないような風習。
神様だとか迷信は、僕も名無しもあまり信じていない性質だが「まぁ、願い事するのはタダですから。」と彼女は笑いながらロウソクに火を灯す。
だが、困った。
願い事なんて、考えたこともなかった。
「どうしようかな。大体叶ってるんだよねぇ。まぁ、上層部ぶっ壊した〜い♡…なんて望み、誕生日に願うには物騒だし?」
「やだなぁ、そんな願い事…」
形のいい眉を渋そうに寄せて、名無しは首を大きく傾げた。
「じゃあ……欲しいものとか?」
彼女の口から出てきた言葉。
それは即座に答えが出てきた。
「それはあるかな。」
「そうなんですか?五条さんの財力ならポンと買えそうですけど…プレミア品とか…?」
ゆらゆら揺れるロウソクの明かりに照らされた名無しは興味深そうに瞬きを繰り返す。
しかしすぐに視線を落とし「でも……気になるけど…プレゼント渡した後には…聞きたくないような……」なんてブツブツ葛藤しだす始末。
そんな百面相すら可愛いと思うのだから、僕も大概毒されている。
「プレミアはまぁ、つくんじゃない?」
「そうなんですか?それは中々、手に入らないですよね…」
真剣な顔で頷く彼女だが、まぁそもそも。
(物じゃないし。)
僕の為にプレゼントを用意して、ケーキも用意して。
この繁忙期、誕生日当日に高専へ戻れる保証もないのに、健気に用意してくれる名無しが、愛おしくないはずがなかった。
蝋が溶けかけているロウソクを一思いに吹き消せば、あたたかな色の灯火は白い煙を立てて消えてしまう。
欲しいもの。願うもの。
神様なんて信じていないけど、神頼みしてでも欲しいものは──
「改めて。五条さん、誕生日おめでとうございます。」
「ん。ありがと。」
神頼み、君頼み。
「願い事、叶うといいですね。」
なんて、無邪気に笑うキミが欲しいなんて。
呪術界や呪詛師界隈からしてみれば、忌々しい『五条悟』の誕生日なわけだが、僕としては別に誕生日だからといって特別思い入れはない。
仕事がなくなるわけでもないし、かといって実家にいた時のように仰々しく祝われることもない。
学生の時は《誕生日》というイベントにかこつけてどんちゃん騒ぎすることが年に四回、七海達が入学してからは六回に増えて、減っていった。
今となってはただ年齢を書く書類があれば、今日から数字がひとつ増える日。誤字に暫く気をつけなきゃな、なんてぼんやり考えるだけだ。
それだけだったのに。
「五条さん、誕生日おめでとうございます。」
高専到着30分前に名無しから届いた『学生寮に寄って欲しい』というメッセージ。
軽い足取りで彼女の部屋に立ち寄れば、プレゼントの包みを抱えた名無しが機嫌よく笑っていた。
「覚えてたんだ?」
「勿論。プレゼントもご用意しました。」
見覚えのある部屋着ブランドのマーク。
「開けていい?」と僕が問えば、名無しは即座に首を縦に振った。
「寒くなってきたので暖かそうなルームウェアと、レンジで温めたら使えるホットアイマスクになります」
ホットアイマスクは流石にジェラピケではないらしい。
モコモコのルームウェアと一緒に入っている、やたらと可愛いアイピロー。
具体的に言えば、寝そべったクマ。彼女の趣味だろうか。可愛い。
──実用的なプレゼントを貰ったのはいつぶりだろう。学生の時以来かもしれない。
誕生日プレゼントといえば無駄に豪華な調度品だとか滅多に使いもしない茶器だとか、ここ数年はそんな物が多かった。
何より「いつもお仕事お疲れ様です。」と掛けてくれた労いの言葉が、一番のプレゼントだ。
「今まで貰ったプレゼントで一番嬉しいかも。」
「またまた。予算がその…五条さんの身の丈に合ってなくて申し訳ないです……」
「こういうのは気持ちでしょ。名無しの誕生日に僕が金の延べ棒あげたら嬉しい?」
「資産価値としては魅力的ですけど、正直ドン引きですね。」
「そういうこと。」
僕がそう答えると納得したように名無しは頷いた。
「ケーキはお腹に入りますか?」
個室の廊下にある、なけなしの台所と小さな冷蔵庫。
寮に備え付けられている冷蔵庫の中には、立派なケーキの白い箱。
「知らないの?ケーキって別腹なんだよ?」
「贅肉になるところは同じなのが複雑ですけどね…」
悩ましげに顔を顰める彼女だが、至って標準体型な上、長年の監禁も相まってまだ肉は足りないくらいだ。
今度お礼に美味しい焼肉屋でも連れて行くことにしよう。
小さな台所で小ぶりなホールケーキを取り出し、ロウソクを一本一本バランスよく刺していく名無し。
虹色のそれらはとても可愛らしく、それを真剣に飾りつける名無しの横顔はもっと可愛かった。
最後の一本を刺し終え、ライターを片手に名無しが小さく首を傾げる。
「五条さん、なんの願い事するんですか?」
「願い事?」
「ご存知ないですか?ロウソクを消す時、願い事しながら消すと叶うらしいですよ。ドイツが発祥らしくて、魔除けの一種なんですって。
まぁアメリカに伝来した時には悪魔祓いの風習はなくなって、願い事をするって習慣になったそうですけど」
呪術に通じているような、通じていないような風習。
神様だとか迷信は、僕も名無しもあまり信じていない性質だが「まぁ、願い事するのはタダですから。」と彼女は笑いながらロウソクに火を灯す。
だが、困った。
願い事なんて、考えたこともなかった。
「どうしようかな。大体叶ってるんだよねぇ。まぁ、上層部ぶっ壊した〜い♡…なんて望み、誕生日に願うには物騒だし?」
「やだなぁ、そんな願い事…」
形のいい眉を渋そうに寄せて、名無しは首を大きく傾げた。
「じゃあ……欲しいものとか?」
彼女の口から出てきた言葉。
それは即座に答えが出てきた。
「それはあるかな。」
「そうなんですか?五条さんの財力ならポンと買えそうですけど…プレミア品とか…?」
ゆらゆら揺れるロウソクの明かりに照らされた名無しは興味深そうに瞬きを繰り返す。
しかしすぐに視線を落とし「でも……気になるけど…プレゼント渡した後には…聞きたくないような……」なんてブツブツ葛藤しだす始末。
そんな百面相すら可愛いと思うのだから、僕も大概毒されている。
「プレミアはまぁ、つくんじゃない?」
「そうなんですか?それは中々、手に入らないですよね…」
真剣な顔で頷く彼女だが、まぁそもそも。
(物じゃないし。)
僕の為にプレゼントを用意して、ケーキも用意して。
この繁忙期、誕生日当日に高専へ戻れる保証もないのに、健気に用意してくれる名無しが、愛おしくないはずがなかった。
蝋が溶けかけているロウソクを一思いに吹き消せば、あたたかな色の灯火は白い煙を立てて消えてしまう。
欲しいもの。願うもの。
神様なんて信じていないけど、神頼みしてでも欲しいものは──
「改めて。五条さん、誕生日おめでとうございます。」
「ん。ありがと。」
神頼み、君頼み。
「願い事、叶うといいですね。」
なんて、無邪気に笑うキミが欲しいなんて。