2013 spring┊︎short story
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高専に入学して一ヶ月。
俺は、衝撃の現場を見てしまった。
「こんばんは、五条さん。」
「いらっしゃーい、名無し。」
ビニール袋を下げた先輩と、室内だというのにサングラスをかけた五条先生。
担任である日下部先生のところへ用があった為、偶然その現場を目撃してしまったのだが──。
(えっ、あの二人付き合ってんの?)
生徒と教師。
世間一般から見れば教育委員会待ったナシの話だが、ここは呪術高専。教育委員会なんて存在するはずがない。
俺は別にその辺は『本人達の自由』と思っているが、まさかの。あの先輩が。
呪術界で名を知らぬ者はいない《五条悟》と付き合っているとなると話は変わってくる。
数年前まで女遊びが凄い、という噂も絶えなかったあの人が、遂に先輩にまで手を出したとなると。
(待ってくれ、情報が完結しないんだけど!?)
あのふわふわの先輩と、女関係で悪名高い五条さんが。
付き合っているとなると、つまり部屋で、そういう事で。
バクバクと、身体の内側から叩きつけるような心拍が、やたらと煩い夜のことだった。
次の日。
(なんっで、今日に限って!)
校庭で待っていたのは担任の日下部先生ではなく、昨日目撃してしまった二人の姿。
アイマスクと白髪が印象的な担任の方は「今日は僕らと実習だよん。」と軽い口調で言うではないか。
「猪野くん?大丈夫?」
「だ、大丈夫っス。先輩と初めて実習するんで、緊張してるだけっス!」
入学してから顔を合わせば挨拶はするし、話だって普通にしていた。
なのに、気まずい。
ななし先輩のはにかんだ笑顔が、今は罪悪感と下世話な疑惑で直視できない。
「私も、先輩や後輩と実習したことないの。お互い怪我しないように頑張ろう。」
今日は取り壊し予定の廃病棟に取り付いた呪霊を祓う授業らしい。
俺は初めての実習や実戦ではないにも関わらず、肩肘が強ばるのを感じた。
「んじゃ〜、初めてのチームプレイになるけど、ガンバ♡」
なんて呑気かつ軽々しい口調で、問題の人物その1が楽しそうに笑った。
猪野琢真の疑惑?
古びた病院の地下一階から八階まで、ありとあらゆる呪霊を祓った俺は、正直疲労困憊だった。
お世辞にも広いと言えない院内は俺の術式と相性が悪い。
いや。練度の差もあるのだろうけど、それでも同行していた先輩は軽い様子で次々に呪霊を仕留めていった。
(なんか、イメージが全然、)
にこにこ笑う、朗らかな先輩。
少し小柄で、話しかけても大抵機嫌よく話を聞いていた彼女の印象は、この数時間で塗り替えられた。
勿論、《おっかない》だとかそういうのじゃなくて。
「で。どうだった?初めての複数人での実習。」
俺の擦り傷を消毒する為に救急箱を補助監督の車まで取りに行ったななし先輩がいない時、五条さんが俺の顔を覗き込んだ。
「先輩のイメージ、もっと普通で、ふわふわしてるかと思ったんっスけど……」
「強かった?」
「呪霊、全部ワンパンっスね。」
朽ちたパイプ椅子を持ったかと思いきやナイフに作り替え、気温が下がったと思いきや空気中の水分から作った氷の針を投擲し、年季の入ったコンクリート壁に手をつけば串刺しの大針で呪霊を貫いた。
魔法か手品のような術式を、呆気に取られつつ尋ねれば本人曰く『至って単純な術式だよ。分解と再構築を…こう、触って、呪力流して…』と身振り手振り教えてくれた。
……言わんとしていることは分かるし、理屈も分かる。
しかしそれは全部『分解』するものと『再構築』するものを『理解する必要がある』という前提だ。
それを実感した瞬間、この先輩の頭の中はどうなっているんだ、と尊敬を通り越して呆れてしまった。どこが単純なのか。
「でしょ〜。そりゃ名無しだし。」と笑いながら五条さんは小さく頷く。
きっとあの最強のお眼鏡に適う、自慢の生徒なのだろう。
…不思議と嫉妬や羨望は湧いて来ず、『そりゃその反応だよな』と俺も小さく頷いた。
──もしかしたら、付き合っているからこそ『彼女』が褒められて嬉しいのかもしれないが。
「……あの、五条センセ?」
「何?」
「先輩と付き合ってるんっスか?」
恐る恐る尋ねてみれば、至極嬉しそうに頬を綻ばせる五条さん。
「そう見える〜?」と言いながら両頬に手を当てる姿は、控えめに言ってちょっと気持ち悪い。
「……というか、この間の夜、先生の部屋にお邪魔していたのを目撃してしまったというか…」
正直に答えれば、ピタリと止まる五条さんの動き。
俺は直感で『ヤバい』『地雷踏んだかも』と背筋が凍った。
──凍ったはずだった。
「猪野。」
「は、はい。」
「凄くない?映画をさ、二人っきりで見てんのに何にも起こらないんだよ?これってやっぱり脈ナシなわけ?」
(……ん?)
なぜ、恋愛相談のくだりになっているのだろう。
「……あれ?付き合ってんじゃ」
「そうだったらいいんだけどね。」
マジか。
あの距離感で?
夜、男の部屋に行っているのに?
──いや。まさか『そう』意識されていないのだとすれば、辻褄が合うけど。
「まさかの片思いっスか!?」
「今のとこ。」
「ウソでしょ、あの五条悟が?」
「どの五条悟かはさておき、マジマジ、大マジ。
映画見終わったらさ、飲み物とか片付けて『じゃあ明日も午前中授業あるので、失礼しますね。おやすみなさい』って。
だってイマドキの高校生、そんな健全なデートする?もっとこう、くんずほぐれつの爛れたアレじゃないの? 」
「今時の高校生を何だと思ってるんっスか?」
天を仰ぐ五条先生は、一体アイマスク越しに何を見ているのだろう。
…この様子から察するに、恐らく連戦連敗なのだろう。御三家で、呪術界最強の男が。
「……まぁ、本当に脈ナシだったら映画も一緒に見ないんじゃないんっスか?」
かける言葉が(色々)見つからず、俺は一縷の望みをかけて五条さんを励ました。
「猪野ォ……いい子じゃん……」
「は、はぁ。どうも。」
遠くから救急箱を持ったななし先輩が走ってくる。
……俺よりむしろこの人 の方が手当て必要では?
そんな、鈍い先輩と残念な担任の組み合わせ。
俺は、衝撃の現場を見てしまった。
「こんばんは、五条さん。」
「いらっしゃーい、名無し。」
ビニール袋を下げた先輩と、室内だというのにサングラスをかけた五条先生。
担任である日下部先生のところへ用があった為、偶然その現場を目撃してしまったのだが──。
(えっ、あの二人付き合ってんの?)
生徒と教師。
世間一般から見れば教育委員会待ったナシの話だが、ここは呪術高専。教育委員会なんて存在するはずがない。
俺は別にその辺は『本人達の自由』と思っているが、まさかの。あの先輩が。
呪術界で名を知らぬ者はいない《五条悟》と付き合っているとなると話は変わってくる。
数年前まで女遊びが凄い、という噂も絶えなかったあの人が、遂に先輩にまで手を出したとなると。
(待ってくれ、情報が完結しないんだけど!?)
あのふわふわの先輩と、女関係で悪名高い五条さんが。
付き合っているとなると、つまり部屋で、そういう事で。
バクバクと、身体の内側から叩きつけるような心拍が、やたらと煩い夜のことだった。
次の日。
(なんっで、今日に限って!)
校庭で待っていたのは担任の日下部先生ではなく、昨日目撃してしまった二人の姿。
アイマスクと白髪が印象的な担任の方は「今日は僕らと実習だよん。」と軽い口調で言うではないか。
「猪野くん?大丈夫?」
「だ、大丈夫っス。先輩と初めて実習するんで、緊張してるだけっス!」
入学してから顔を合わせば挨拶はするし、話だって普通にしていた。
なのに、気まずい。
ななし先輩のはにかんだ笑顔が、今は罪悪感と下世話な疑惑で直視できない。
「私も、先輩や後輩と実習したことないの。お互い怪我しないように頑張ろう。」
今日は取り壊し予定の廃病棟に取り付いた呪霊を祓う授業らしい。
俺は初めての実習や実戦ではないにも関わらず、肩肘が強ばるのを感じた。
「んじゃ〜、初めてのチームプレイになるけど、ガンバ♡」
なんて呑気かつ軽々しい口調で、問題の人物その1が楽しそうに笑った。
猪野琢真の疑惑?
古びた病院の地下一階から八階まで、ありとあらゆる呪霊を祓った俺は、正直疲労困憊だった。
お世辞にも広いと言えない院内は俺の術式と相性が悪い。
いや。練度の差もあるのだろうけど、それでも同行していた先輩は軽い様子で次々に呪霊を仕留めていった。
(なんか、イメージが全然、)
にこにこ笑う、朗らかな先輩。
少し小柄で、話しかけても大抵機嫌よく話を聞いていた彼女の印象は、この数時間で塗り替えられた。
勿論、《おっかない》だとかそういうのじゃなくて。
「で。どうだった?初めての複数人での実習。」
俺の擦り傷を消毒する為に救急箱を補助監督の車まで取りに行ったななし先輩がいない時、五条さんが俺の顔を覗き込んだ。
「先輩のイメージ、もっと普通で、ふわふわしてるかと思ったんっスけど……」
「強かった?」
「呪霊、全部ワンパンっスね。」
朽ちたパイプ椅子を持ったかと思いきやナイフに作り替え、気温が下がったと思いきや空気中の水分から作った氷の針を投擲し、年季の入ったコンクリート壁に手をつけば串刺しの大針で呪霊を貫いた。
魔法か手品のような術式を、呆気に取られつつ尋ねれば本人曰く『至って単純な術式だよ。分解と再構築を…こう、触って、呪力流して…』と身振り手振り教えてくれた。
……言わんとしていることは分かるし、理屈も分かる。
しかしそれは全部『分解』するものと『再構築』するものを『理解する必要がある』という前提だ。
それを実感した瞬間、この先輩の頭の中はどうなっているんだ、と尊敬を通り越して呆れてしまった。どこが単純なのか。
「でしょ〜。そりゃ名無しだし。」と笑いながら五条さんは小さく頷く。
きっとあの最強のお眼鏡に適う、自慢の生徒なのだろう。
…不思議と嫉妬や羨望は湧いて来ず、『そりゃその反応だよな』と俺も小さく頷いた。
──もしかしたら、付き合っているからこそ『彼女』が褒められて嬉しいのかもしれないが。
「……あの、五条センセ?」
「何?」
「先輩と付き合ってるんっスか?」
恐る恐る尋ねてみれば、至極嬉しそうに頬を綻ばせる五条さん。
「そう見える〜?」と言いながら両頬に手を当てる姿は、控えめに言ってちょっと気持ち悪い。
「……というか、この間の夜、先生の部屋にお邪魔していたのを目撃してしまったというか…」
正直に答えれば、ピタリと止まる五条さんの動き。
俺は直感で『ヤバい』『地雷踏んだかも』と背筋が凍った。
──凍ったはずだった。
「猪野。」
「は、はい。」
「凄くない?映画をさ、二人っきりで見てんのに何にも起こらないんだよ?これってやっぱり脈ナシなわけ?」
(……ん?)
なぜ、恋愛相談のくだりになっているのだろう。
「……あれ?付き合ってんじゃ」
「そうだったらいいんだけどね。」
マジか。
あの距離感で?
夜、男の部屋に行っているのに?
──いや。まさか『そう』意識されていないのだとすれば、辻褄が合うけど。
「まさかの片思いっスか!?」
「今のとこ。」
「ウソでしょ、あの五条悟が?」
「どの五条悟かはさておき、マジマジ、大マジ。
映画見終わったらさ、飲み物とか片付けて『じゃあ明日も午前中授業あるので、失礼しますね。おやすみなさい』って。
だってイマドキの高校生、そんな健全なデートする?もっとこう、くんずほぐれつの爛れたアレじゃないの? 」
「今時の高校生を何だと思ってるんっスか?」
天を仰ぐ五条先生は、一体アイマスク越しに何を見ているのだろう。
…この様子から察するに、恐らく連戦連敗なのだろう。御三家で、呪術界最強の男が。
「……まぁ、本当に脈ナシだったら映画も一緒に見ないんじゃないんっスか?」
かける言葉が(色々)見つからず、俺は一縷の望みをかけて五条さんを励ました。
「猪野ォ……いい子じゃん……」
「は、はぁ。どうも。」
遠くから救急箱を持ったななし先輩が走ってくる。
……俺よりむしろ
そんな、鈍い先輩と残念な担任の組み合わせ。