2011 winter┊︎short story
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
五条悟は、寝相が悪い。
一人暮らしなのにやたらと大きなベッドは、ベッドから落ちない為……というなんとも拍子抜けする理由だった。
何だかんだでベッドの端を寝床として借りている名無し。
最初は恥ずかしいやら申し訳ないやらで、床で寝るだのソファで寝るだの、抵抗したのだが――。
もぞり。
大体、夜中の3時。
終電もなくなり、誰もが寝静まった穏やかな夜。
背後で寝返りを打つ気配。
布ずれの音。
つっぱるシーツ。
ムクリと起き上がる身体。
ぼんやりと光るナツメ球の灯りに照らされた影が、ゆらりと揺れる。
ぺた、ぺた、ぺた。
フローリングをひたひた歩く裸足の足音が、少しずつ離れていく。
――今日はお手洗いらしい。
遠くで水を流す音が壁越しに聞こえた。
いつもはこの時間帯に布団を蹴飛ばしたりベッドから落ちたり、まぁなんと言うか……騒がしい。
勿論、静かな時もあるにはあるのだが、確率的には――猫の深夜の運動会がない日と同じくらいかもしれない。
ぺた、ぺた、ぺた。
覚束無い足取りで戻ってくる気配。
さて、今日の寝相はどうだろう。
一昨日は枕に足を乗せて寝直していた。
昨日は布団を床に落としていた。
…あれは同じ布団で寝る身としては、少し寒かった。
耳をすまして狸寝入りをしつつ、出来る限り寝相を整えようとあれやこれを考えていた。
いたの、だが。
むぎゅぅ。
「…………………へ、」
思わず間抜けな声が零れた。
背中に当たるのは子供のような体温。
足に絡むのは名無しのものではない、長い長い脚。
やや覆い被さるように倒れて来たのは、見紛うはずもない。五条悟その人だった。
「ちょっと、五条さん?五条さんってば、」
名無しを抱き枕のように抱え込む五条の身体は、ピクリとも動かない。
熟睡しきっているその眠りが醒めることはなく、規則的で、非常に穏やかな寝息だけが寝室に響いた。
(うっそ…)
本当に寝てる。
肩口ですうすうと繰り返される呼吸。
ふわふわの猫毛のような髪が、うなじに当たって擽ったい。
なんとか抜け出そうと藻掻いてみるが、文字通りびくともしない。
大声を出したら起きてくれるかもしれないが……今は深夜だ。近所迷惑だけは避けたい。
何より、五条だって疲れているのだろう。
無理矢理起こすのはどうしても気が引けてしまった。
(……………といっても、朝までこれかぁ…)
ちゃんとこの後眠れるのだろうか。
名無しは駆け足のような鼓動に気づかぬふりをして、そっと瞼を閉じたのであった。
おやすみミッドナイト
――明け方。
たまたま眠りが浅くなって、五条悟はゆるゆると瞼を開けた。
深い朝靄がビルの群れを撫でている、夜明け前。
普段なら数秒で再入眠に入るのだが、今回は違った。
腕の中が、あたたかい。
猫のように丸まった小さな身体。
薄くて、力を込めれば折れてしまいそうな肩。
静かに寝息を立て、上下する背中。
名無しが。
腕の中で。
寝ている。
相変わらずベッドの淵で行儀よく寝ているところから察するに、『五条が寝惚けて名無しを抱き枕にした』というのが正しいだろう。
(道理で、夢見がよかったわけだ。)
最近は以前よりも眠りの質が上がったと思っていたが、今日はすこぶるいい。
――やさしい夢を見た。
その中では当たり前のように彼女がいて、隣で柔らかく笑っていた。
これを夢見がいいと言わずして、なんというのか。
……それにしても、
(あったかい。)
ぽかぽか、ぬくぬく。
お揃いのシャンプーの匂いと、胸板と背中越しに伝わるトクトクと波打つ心臓の鼓動。
まるで歩くような早さのそれは、五条をもう一度眠りに誘うような音だった。
――もう少し、もう少しだけ。
微睡むような体温の名無しを抱き抱え直して、五条は幸福な二度寝を満喫するのであった。
数時間後。
名無しが全力で慌てふためいたのは、言うまでもない。
――余談だが、その日から五条の寝相は一層悪くなり、眠りの質は向上したとか。
一人暮らしなのにやたらと大きなベッドは、ベッドから落ちない為……というなんとも拍子抜けする理由だった。
何だかんだでベッドの端を寝床として借りている名無し。
最初は恥ずかしいやら申し訳ないやらで、床で寝るだのソファで寝るだの、抵抗したのだが――。
もぞり。
大体、夜中の3時。
終電もなくなり、誰もが寝静まった穏やかな夜。
背後で寝返りを打つ気配。
布ずれの音。
つっぱるシーツ。
ムクリと起き上がる身体。
ぼんやりと光るナツメ球の灯りに照らされた影が、ゆらりと揺れる。
ぺた、ぺた、ぺた。
フローリングをひたひた歩く裸足の足音が、少しずつ離れていく。
――今日はお手洗いらしい。
遠くで水を流す音が壁越しに聞こえた。
いつもはこの時間帯に布団を蹴飛ばしたりベッドから落ちたり、まぁなんと言うか……騒がしい。
勿論、静かな時もあるにはあるのだが、確率的には――猫の深夜の運動会がない日と同じくらいかもしれない。
ぺた、ぺた、ぺた。
覚束無い足取りで戻ってくる気配。
さて、今日の寝相はどうだろう。
一昨日は枕に足を乗せて寝直していた。
昨日は布団を床に落としていた。
…あれは同じ布団で寝る身としては、少し寒かった。
耳をすまして狸寝入りをしつつ、出来る限り寝相を整えようとあれやこれを考えていた。
いたの、だが。
むぎゅぅ。
「…………………へ、」
思わず間抜けな声が零れた。
背中に当たるのは子供のような体温。
足に絡むのは名無しのものではない、長い長い脚。
やや覆い被さるように倒れて来たのは、見紛うはずもない。五条悟その人だった。
「ちょっと、五条さん?五条さんってば、」
名無しを抱き枕のように抱え込む五条の身体は、ピクリとも動かない。
熟睡しきっているその眠りが醒めることはなく、規則的で、非常に穏やかな寝息だけが寝室に響いた。
(うっそ…)
本当に寝てる。
肩口ですうすうと繰り返される呼吸。
ふわふわの猫毛のような髪が、うなじに当たって擽ったい。
なんとか抜け出そうと藻掻いてみるが、文字通りびくともしない。
大声を出したら起きてくれるかもしれないが……今は深夜だ。近所迷惑だけは避けたい。
何より、五条だって疲れているのだろう。
無理矢理起こすのはどうしても気が引けてしまった。
(……………といっても、朝までこれかぁ…)
ちゃんとこの後眠れるのだろうか。
名無しは駆け足のような鼓動に気づかぬふりをして、そっと瞼を閉じたのであった。
おやすみミッドナイト
――明け方。
たまたま眠りが浅くなって、五条悟はゆるゆると瞼を開けた。
深い朝靄がビルの群れを撫でている、夜明け前。
普段なら数秒で再入眠に入るのだが、今回は違った。
腕の中が、あたたかい。
猫のように丸まった小さな身体。
薄くて、力を込めれば折れてしまいそうな肩。
静かに寝息を立て、上下する背中。
名無しが。
腕の中で。
寝ている。
相変わらずベッドの淵で行儀よく寝ているところから察するに、『五条が寝惚けて名無しを抱き枕にした』というのが正しいだろう。
(道理で、夢見がよかったわけだ。)
最近は以前よりも眠りの質が上がったと思っていたが、今日はすこぶるいい。
――やさしい夢を見た。
その中では当たり前のように彼女がいて、隣で柔らかく笑っていた。
これを夢見がいいと言わずして、なんというのか。
……それにしても、
(あったかい。)
ぽかぽか、ぬくぬく。
お揃いのシャンプーの匂いと、胸板と背中越しに伝わるトクトクと波打つ心臓の鼓動。
まるで歩くような早さのそれは、五条をもう一度眠りに誘うような音だった。
――もう少し、もう少しだけ。
微睡むような体温の名無しを抱き抱え直して、五条は幸福な二度寝を満喫するのであった。
数時間後。
名無しが全力で慌てふためいたのは、言うまでもない。
――余談だが、その日から五条の寝相は一層悪くなり、眠りの質は向上したとか。