2012 winter┊︎short story
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「名無し、夕方から始まるガキ使見ながら年越ししよ……って、何してるの?」
12月31日。大晦日。
僕にとって初めての生徒は色気もへったくれもないジャージ姿で、寮の備品であるバケツと雑巾を携え忙しなく働いていた。
「見れば分かるでしょう。大掃除ですよ。」
冬だというのに汗をかくほど一生懸命していたのか。
ふぅ、とジャージの袖で汗を拭い、「ここ最近、忙しかったり天気が悪かったりでタイミングがなかったので」と苦笑いを浮かべた表情は、少しだけ恥ずかしそうだった。
「えーーー。折角GTGが死ぬ気で(そして伊地知に無理を言って)仕事片付けたっていうのに。」
「私も今、死ぬ気で大掃除しているので。」
「大掃除しなくても死なないよ?」
「死にませんけど、寮の部屋って借り物ですから。一年に一度くらいは完璧にお掃除するのはマナーかと思って。」
「真面目ちゃんめ。」
「美徳だと言ってください。」
時刻は15時を過ぎた頃合い。
窓から差し込む西日に照らされた表情は、ちょっとだけ自慢げに見えた。可愛い。
「第一、なんでガキ使見ながら年越しが、片手にコーラなんです?」
「ん?口にコーラを含んで、吹き出した方が負けってゲーム、面白くない?」
「それ、私の部屋でやるつもりだったんですか?やめてくださいよ。」
じとりとした目で見られるのも悪くないな、なんて感じるあたり僕も大概だと思う。
「ところで、いいんですか?年末の年越しをこんな一端の生徒を相手にしながらなんて。」
「何言ってんの。可愛い生徒と年越しなんて最高じゃないの」
『担任と生徒』という関係性がもどかしくなる時もあるけど、今はこの口実がありがたい。
呪術界の人手不足に比例して高専の生徒数も先細りの傾向があるせいか、僕の初担任のクラスは名無し一人だけ。
だからこうして簡単に二人きりになることだって比較的容易い。面倒な任務とか、任務とか、任務にを片付けた前提の話になるけど。
「それとも年越し、何か予定でもあるの?」
「いえ。掃除以外はいつも通り過ごすつもりでしたけど」
「えー。年越しだよ?ニューイヤーだよ?新時代の幕開けだっていうのに、そんな仕事に疲れたアラサーみたいな過ごし方で許されると思ってんの?」
「仕事で疲れてるアラサー、って意味でしたら五条さんは最大級のブーメランですよ。」
「僕はまだメンタルはピチピチの18歳だから」
「……小学生の間違いでは…」
出会った当初よりも辛辣になった言葉の端々も、遠慮がなくなってきた証だと思うと頬がにやけてしまう。
「いいのかな?そんなこと言っちゃって。」
後ろ手で隠していた伊勢丹の袋。
中から取り出し掲げたのは立派な化粧箱。
蓋を開ければ見るからに上質なさしが入った、赤々とした肩ロース。
躊躇う名無しを陥落させるための必殺兵器……ならぬ、必殺肉だ。
餌付け?買収?鈍いこの子と過ごすためなら手段は選ばないよ。僕、ずるい大人だし。
「見て。伊勢丹で買った霜降りすき焼肉。しかも近江牛。」
「お、おうみうし!?」
「今年最後の晩餐、いいお肉ですき焼とか最高だと思わない?」
雑巾をぐっと握り締め、考え込むこと数秒。
「…………シメはおうどんですか?」
「勿論。」
「超特急で大掃除終わらせるので、五条さんはベッドの上で待っててください。」
シワひとつない、洗いたてのシーツの海。掃除中の部屋、唯一の安全地帯とも言えるだろう。
……僕が真っ先に連想したヤラシイ意味は十中八九ないだろう。悲しいけど。
「手伝おうか?」
「は、恥ずかしいものを見られたら爆発する自信があるので、出来ればそこで一歩も動かず待って頂けると。」
爆発しちゃうのか。
……いや、それより恥ずかしいものって何。
大晦日の誘い方
「むしろ見たくなってくるやつじゃん。」
「やめてください、悪趣味ですよ。」
苦笑いする名無し。彼女の言葉に甘えて、ベッドへ無遠慮に横になれば洗剤の香りと名無しの匂いが鼻腔を擽る。
(元旦……初詣デートとか悪くないよね)
次なる一手を企みながら、僕はふかふかの枕へ顔を埋めるのであった。
12月31日。大晦日。
僕にとって初めての生徒は色気もへったくれもないジャージ姿で、寮の備品であるバケツと雑巾を携え忙しなく働いていた。
「見れば分かるでしょう。大掃除ですよ。」
冬だというのに汗をかくほど一生懸命していたのか。
ふぅ、とジャージの袖で汗を拭い、「ここ最近、忙しかったり天気が悪かったりでタイミングがなかったので」と苦笑いを浮かべた表情は、少しだけ恥ずかしそうだった。
「えーーー。折角GTGが死ぬ気で(そして伊地知に無理を言って)仕事片付けたっていうのに。」
「私も今、死ぬ気で大掃除しているので。」
「大掃除しなくても死なないよ?」
「死にませんけど、寮の部屋って借り物ですから。一年に一度くらいは完璧にお掃除するのはマナーかと思って。」
「真面目ちゃんめ。」
「美徳だと言ってください。」
時刻は15時を過ぎた頃合い。
窓から差し込む西日に照らされた表情は、ちょっとだけ自慢げに見えた。可愛い。
「第一、なんでガキ使見ながら年越しが、片手にコーラなんです?」
「ん?口にコーラを含んで、吹き出した方が負けってゲーム、面白くない?」
「それ、私の部屋でやるつもりだったんですか?やめてくださいよ。」
じとりとした目で見られるのも悪くないな、なんて感じるあたり僕も大概だと思う。
「ところで、いいんですか?年末の年越しをこんな一端の生徒を相手にしながらなんて。」
「何言ってんの。可愛い生徒と年越しなんて最高じゃないの」
『担任と生徒』という関係性がもどかしくなる時もあるけど、今はこの口実がありがたい。
呪術界の人手不足に比例して高専の生徒数も先細りの傾向があるせいか、僕の初担任のクラスは名無し一人だけ。
だからこうして簡単に二人きりになることだって比較的容易い。面倒な任務とか、任務とか、任務にを片付けた前提の話になるけど。
「それとも年越し、何か予定でもあるの?」
「いえ。掃除以外はいつも通り過ごすつもりでしたけど」
「えー。年越しだよ?ニューイヤーだよ?新時代の幕開けだっていうのに、そんな仕事に疲れたアラサーみたいな過ごし方で許されると思ってんの?」
「仕事で疲れてるアラサー、って意味でしたら五条さんは最大級のブーメランですよ。」
「僕はまだメンタルはピチピチの18歳だから」
「……小学生の間違いでは…」
出会った当初よりも辛辣になった言葉の端々も、遠慮がなくなってきた証だと思うと頬がにやけてしまう。
「いいのかな?そんなこと言っちゃって。」
後ろ手で隠していた伊勢丹の袋。
中から取り出し掲げたのは立派な化粧箱。
蓋を開ければ見るからに上質なさしが入った、赤々とした肩ロース。
躊躇う名無しを陥落させるための必殺兵器……ならぬ、必殺肉だ。
餌付け?買収?鈍いこの子と過ごすためなら手段は選ばないよ。僕、ずるい大人だし。
「見て。伊勢丹で買った霜降りすき焼肉。しかも近江牛。」
「お、おうみうし!?」
「今年最後の晩餐、いいお肉ですき焼とか最高だと思わない?」
雑巾をぐっと握り締め、考え込むこと数秒。
「…………シメはおうどんですか?」
「勿論。」
「超特急で大掃除終わらせるので、五条さんはベッドの上で待っててください。」
シワひとつない、洗いたてのシーツの海。掃除中の部屋、唯一の安全地帯とも言えるだろう。
……僕が真っ先に連想したヤラシイ意味は十中八九ないだろう。悲しいけど。
「手伝おうか?」
「は、恥ずかしいものを見られたら爆発する自信があるので、出来ればそこで一歩も動かず待って頂けると。」
爆発しちゃうのか。
……いや、それより恥ずかしいものって何。
大晦日の誘い方
「むしろ見たくなってくるやつじゃん。」
「やめてください、悪趣味ですよ。」
苦笑いする名無し。彼女の言葉に甘えて、ベッドへ無遠慮に横になれば洗剤の香りと名無しの匂いが鼻腔を擽る。
(元旦……初詣デートとか悪くないよね)
次なる一手を企みながら、僕はふかふかの枕へ顔を埋めるのであった。