2013 spring┊︎short story
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電器屋の前を通れば、ズラリと並べられたテレビから流れる他愛ない映像が視界に入った。
『今、超話題!イケメン俳優が大注目のドラマの主演に!』
なんて、よくある情報番組の一コマ。
学園モノのドラマなのか、ブレザーを着込んだ俳優は確かに『イケメン』なのだろう。
だが。
(……いや、格好良いんだろうけど。)
それでもほぼ毎日顔をつき合わせている彼の方が顔がいいな。…なんて思ってしまうあたり、価値観が大分狂わされている。
価値観が狂う=痘痕もえくぼ、という意味でない。
身内の贔屓目というわけもない。
目を、肥されすぎた。
理由は明確。顔面偏差値が世界トップレベルの五条悟がすぐ隣にいるのだから。
かくいう例の当人は新規出店したクレープを幸せそうに頬張っている。
いつもの目隠しをつけ、仕事着である黒い服を身に纏った長身の銀髪の男が、ストロベリーとアイスクリームを盛りに盛ったクレープにかぶりついている姿が些か滑稽である――という事実を、名無しは喉の奥へ呑み込んだ。
なにせ、空気の読める彼の生徒なので。
「どしたの、名無し。僕の顔、何かついてる?」
「生クリームなら少し。」
私の視線に気づいた五条さんが小さく首を傾げながら問うてくる。
嘘ではないが当たり障りのない事実を咄嗟に述べれば、彼は躊躇うことなくその長い脚を中腰になるまで曲げてきた。
「ん。」
一文字に込められた『拭いて。』のポーズ。
ハンカチを持っていないことはないのだろうが、断る理由も特に思いつかない。
生徒というより家族のような距離感。
居心地が悪い気はしないのだが、どうしても気恥しいと思うのは仕方ないだろう。
……こんな綺麗な顔に触れられるなんて、ある意味私の立場は特権階級だろう。
おろして間もないフワフワのタオルハンカチで良かった。使い古したハンカチでこの顔に触れるのは罪悪感が半端ないから。
ふわりとした毛脚越しに口角へ触れ、機嫌良さそうに上がっている口元が綺麗になったことを確認して私は小さく頷いた。
「はい。取れましたよ。」
「ん、ありがと。」
満足そうに、少し子供っぽく。
にこにこ笑いながらお礼を言う担任教師から視線を外し、再びガラス越しのテレビ画面へ視線を戻した。
(……この人の怖いところは、怪しい目隠ししてても顔が良いオーラ出てるとこなんだよねぇ。)
要所要所の所作に品の良さが滲み出ているせいだろうか。
何れにせよ、数年前の美意識からやたらとハードルが上がってしまったことは紛れもない事実である。
おかげでテレビで見る顔面偏差値も少し物足りなくなってしまった。
「ふーん。名無し、こういうのが好みなんだ?」
クレープから零れそうになっているアイスクリームを頬張りながら、わざわざ足を止めて五条さんがテレビを見遣る。
丈夫そうなガラス板に映った五条さんの立ち姿ひとつ取っても褒める点が沢山あった。
姿勢がいい。足が長い。陽の光に当たってキラキラ揺れる銀髪は紡がれたばかりの紬糸のようだ。
ポケットに手を入れて、もう片手でクレープを持っている姿もモデルさながらで、悔しいが貶せる要素はひとつも見当たらなかった。
「そういうのじゃないですけど。五条さんのせいで目が肥えてしまったな、と思っただけですよ。」
今日も担任は顔がいい
「そこは僕の『おかげ』って言ってよね〜」
「はいはい。」
上機嫌で笑う五条さんを尻目に、私は小さく肩を竦めるのであった。
『今、超話題!イケメン俳優が大注目のドラマの主演に!』
なんて、よくある情報番組の一コマ。
学園モノのドラマなのか、ブレザーを着込んだ俳優は確かに『イケメン』なのだろう。
だが。
(……いや、格好良いんだろうけど。)
それでもほぼ毎日顔をつき合わせている彼の方が顔がいいな。…なんて思ってしまうあたり、価値観が大分狂わされている。
価値観が狂う=痘痕もえくぼ、という意味でない。
身内の贔屓目というわけもない。
目を、肥されすぎた。
理由は明確。顔面偏差値が世界トップレベルの五条悟がすぐ隣にいるのだから。
かくいう例の当人は新規出店したクレープを幸せそうに頬張っている。
いつもの目隠しをつけ、仕事着である黒い服を身に纏った長身の銀髪の男が、ストロベリーとアイスクリームを盛りに盛ったクレープにかぶりついている姿が些か滑稽である――という事実を、名無しは喉の奥へ呑み込んだ。
なにせ、空気の読める彼の生徒なので。
「どしたの、名無し。僕の顔、何かついてる?」
「生クリームなら少し。」
私の視線に気づいた五条さんが小さく首を傾げながら問うてくる。
嘘ではないが当たり障りのない事実を咄嗟に述べれば、彼は躊躇うことなくその長い脚を中腰になるまで曲げてきた。
「ん。」
一文字に込められた『拭いて。』のポーズ。
ハンカチを持っていないことはないのだろうが、断る理由も特に思いつかない。
生徒というより家族のような距離感。
居心地が悪い気はしないのだが、どうしても気恥しいと思うのは仕方ないだろう。
……こんな綺麗な顔に触れられるなんて、ある意味私の立場は特権階級だろう。
おろして間もないフワフワのタオルハンカチで良かった。使い古したハンカチでこの顔に触れるのは罪悪感が半端ないから。
ふわりとした毛脚越しに口角へ触れ、機嫌良さそうに上がっている口元が綺麗になったことを確認して私は小さく頷いた。
「はい。取れましたよ。」
「ん、ありがと。」
満足そうに、少し子供っぽく。
にこにこ笑いながらお礼を言う担任教師から視線を外し、再びガラス越しのテレビ画面へ視線を戻した。
(……この人の怖いところは、怪しい目隠ししてても顔が良いオーラ出てるとこなんだよねぇ。)
要所要所の所作に品の良さが滲み出ているせいだろうか。
何れにせよ、数年前の美意識からやたらとハードルが上がってしまったことは紛れもない事実である。
おかげでテレビで見る顔面偏差値も少し物足りなくなってしまった。
「ふーん。名無し、こういうのが好みなんだ?」
クレープから零れそうになっているアイスクリームを頬張りながら、わざわざ足を止めて五条さんがテレビを見遣る。
丈夫そうなガラス板に映った五条さんの立ち姿ひとつ取っても褒める点が沢山あった。
姿勢がいい。足が長い。陽の光に当たってキラキラ揺れる銀髪は紡がれたばかりの紬糸のようだ。
ポケットに手を入れて、もう片手でクレープを持っている姿もモデルさながらで、悔しいが貶せる要素はひとつも見当たらなかった。
「そういうのじゃないですけど。五条さんのせいで目が肥えてしまったな、と思っただけですよ。」
今日も担任は顔がいい
「そこは僕の『おかげ』って言ってよね〜」
「はいはい。」
上機嫌で笑う五条さんを尻目に、私は小さく肩を竦めるのであった。