2011 winter┊︎short story
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「唇、痛くない?」
五条さんと暮らし始めて数日経った頃。
夕飯後の食器を洗っていると唐突に訊ねられた。
「えーっと…カサカサして、気にはなりますけど…」
「リップクリーム買っとけば良かったね。」
ふわりと逆立った銀髪を掻きながら五条さんが小さく溜息をつく。
「だ、大丈夫ですよ。唇がカサカサでも困りはしませんし…」
「いやぁ、ダメダメ。女の子なのに」
「ちょっと待ってね」と言った五条さんが食器棚の奥から何かを取り出す。
金色のトロリとした液体。
小瓶に入ったそれは――
「……………はちみつ?」
「そうそう。リップクリームの代わりになるかな〜って。」
とぷり。
瓶の蓋を開けて、人差し指を差し入れる。
大きくて長い指が僅かに泡を纏って、粘り気のあるはちみつをたっぷり掬いとった。
「ほ〜ら、名無し。唇に塗ってあげる。」
「じ、自分でします」
「何言ってるの。洗い物してるし、早くしなきゃ蜂蜜垂れちゃうでしょ、勿体ないよ?」
そう言われたら断るに断れない。
数瞬考えた後、観念して「じゃあ…」と小さく頷いた。
蜂蜜を纏った指がガサガサの唇をなぞる。
……ちょっとこれは色んな意味で恥ずかしい。
不格好な皮膚に触れられるのも、このシチュエーションも。
あまりにもいたたまれなくて視線を右往左往させてしまった。
「はい、出来た。」
「ありがとう、ございます」
「うんうん。舐めたら駄目だよ。」
そう言いながら、余った蜂蜜がついている指を「ちゅっ」と音を立てて口に含む五条さん。
その光景がどうしようもなく見てて恥ずかしくなって、私は視線を再び食器に戻した。
甘ったるくなった唇をもにもにと擦り合わせ、心臓を落ち着かせるためにゆっくり、大きく、酸素を思い切り吸い込んだ。
ハニーリップはいかが?
(可愛いなぁ)
下心はない。はず。
そう、これは保湿。親切心。家庭療法だ。
やましい気持ちはないはずのだが……。
恥ずかしそうに宙を泳ぐ視線。
居心地悪そうに唇を擦り合わせる横顔。
幾分か艶やかになった唇は、食べてしまいたくなる程だった。
(甘いんだろうなぁ)
五条悟の中心に去来した、靄のような名前のない感情。
それに名前がつくのは、もう少し先の話。
五条さんと暮らし始めて数日経った頃。
夕飯後の食器を洗っていると唐突に訊ねられた。
「えーっと…カサカサして、気にはなりますけど…」
「リップクリーム買っとけば良かったね。」
ふわりと逆立った銀髪を掻きながら五条さんが小さく溜息をつく。
「だ、大丈夫ですよ。唇がカサカサでも困りはしませんし…」
「いやぁ、ダメダメ。女の子なのに」
「ちょっと待ってね」と言った五条さんが食器棚の奥から何かを取り出す。
金色のトロリとした液体。
小瓶に入ったそれは――
「……………はちみつ?」
「そうそう。リップクリームの代わりになるかな〜って。」
とぷり。
瓶の蓋を開けて、人差し指を差し入れる。
大きくて長い指が僅かに泡を纏って、粘り気のあるはちみつをたっぷり掬いとった。
「ほ〜ら、名無し。唇に塗ってあげる。」
「じ、自分でします」
「何言ってるの。洗い物してるし、早くしなきゃ蜂蜜垂れちゃうでしょ、勿体ないよ?」
そう言われたら断るに断れない。
数瞬考えた後、観念して「じゃあ…」と小さく頷いた。
蜂蜜を纏った指がガサガサの唇をなぞる。
……ちょっとこれは色んな意味で恥ずかしい。
不格好な皮膚に触れられるのも、このシチュエーションも。
あまりにもいたたまれなくて視線を右往左往させてしまった。
「はい、出来た。」
「ありがとう、ございます」
「うんうん。舐めたら駄目だよ。」
そう言いながら、余った蜂蜜がついている指を「ちゅっ」と音を立てて口に含む五条さん。
その光景がどうしようもなく見てて恥ずかしくなって、私は視線を再び食器に戻した。
甘ったるくなった唇をもにもにと擦り合わせ、心臓を落ち着かせるためにゆっくり、大きく、酸素を思い切り吸い込んだ。
ハニーリップはいかが?
(可愛いなぁ)
下心はない。はず。
そう、これは保湿。親切心。家庭療法だ。
やましい気持ちはないはずのだが……。
恥ずかしそうに宙を泳ぐ視線。
居心地悪そうに唇を擦り合わせる横顔。
幾分か艶やかになった唇は、食べてしまいたくなる程だった。
(甘いんだろうなぁ)
五条悟の中心に去来した、靄のような名前のない感情。
それに名前がつくのは、もう少し先の話。
1/3ページ