この瞬間がすき
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
駄菓子屋業の仕入れに付き合って、助手席でのんびり外の景色を眺める名無し。
空座町の外に出るのは、珍しい。
この日限りは虚退治や魂葬は一護に全てお願いする連絡を入れれば、『律儀だな。働きすぎなんじゃねーの?ついでだから羽伸ばしてこいよ』と言われた。
彼らしい気遣いだ。だからこそ、彼の周りには人が自然と集まるのだろうけど。
一応今回は『浦原商店』の仕事だから、紺色のエプロンを身につけた。
羽伸ばしてこいと言われたが、別にデートではない。
まぁ珍しい遠出に、少しだけ浮かれているのは事実だった。
エアコンの効いた車内。
業務用のバンの座席はお世辞にも快適とは言い難いが、それでも不規則に揺れる様子はまるで揺りかごのようだった。
眠気を誘う陽気を振り払うように、ドリンクホルダーに入れていたコーヒーを一口飲んだ。
「名無しサン、ボクにもお茶頂けます?」
「はいはい」
ペットボトルのキャップを開け、運転をしている浦原に渡せば「いやぁ、すいません」と礼を言われた。
ハンドルを持つ手。骨張った、男の手だ。
何かを創り出せる科学者の手。
誰かを守れる強い手。
どんな時も離さないでくれる、あたたかい手。
私の好きな手だ。
ペットボトルを持っていても、マグカップを持っていても、バンドルを握っていても、絵になるとはこの事なんだろう。
「どうかしました?」
「んー…カッコイイなぁって」
そう言えば、少しだけ驚いたような照れたような顔をする浦原。
「手が。」
間髪入れずそう付け足せば「手が、っスか」と少し不満そうに前を向いた。
うそ。全部好き。
その手も、その表情も、全部全部。
この瞬間がすき#運転
仕入れが終わった帰り道。
『免許取りましたから。帰りは運転を任せてください』
そう言った彼女に運転を任せた。
サイドポケットに入れていた初心者マークをバンの前と後ろに誇らしく貼り付ける背中が、なんだか可愛らしくて頬が緩んだ。
機械音痴の名無しに運転免許が取れるのか、と少しハラハラしたが、取ってしまえばあっという間だった。
教本があればキチンと各部位の名前も、運転方法もキチンと理解し覚えられるらしい。
元々几帳面で丁寧な性格も相まって、実に快適な助手席だ。
オーディオから流れるのは、時々雑音が交じるFMラジオ。最近流行りのバラード曲をピックアップして流していた。
夕暮れの色に染まる帰り道。
行きは真上からさんさんと照らしていた太陽も、今はゆっくりと地平線へ沈もうとしていた。
バラードを機嫌よく鼻歌で口吟む名無し。
夕陽に照らされた横顔は、柔らかな茜色に包まれている。
濁りのない両目は、虹彩が鮮やかな橙色を反射し琥珀色に染まっていた。
真横から見れば人間の眼球は、驚く程に角膜が透き通っている。
横から見た彼女の双眸は、まるで透明の硝子に守られた蜂蜜色の宝石のようだった。
普段の彼女は可愛いの一言に尽きるが、ふとした瞬間に見せる表情は、外見年齢にそぐわない程の儚さを見せる。
その瞬間が綺麗だと思うのは少し皮肉のようにも思えた。儚い瞬間が、美しいだなんて。
「どうかしました?」
「いやぁ。綺麗だなぁ、って」
「あぁ。こんなに立派な夕日だと、明日は晴れでしょうね」
お洗濯物いっぱい干せますね。
笑いながら名無しは答える。
夕日のことじゃなくて、
「名無しサンが、ですよ」
目を丸くさせ、一瞬視線が絡む。
かぁっと一瞬にして赤みが増す頬。きっとこれは、夕陽のせいじゃない。
「…バカ」
そっぽを向いて、再び視線を前に戻す。
拗ねたような、恥ずかしがっているような顔があまりに愛らしくて自然と笑みが零れた。
浦原の視線に居心地の悪さを感じたのか、「運転に集中できないから、あんまりこっちを見ないでください」と彼女は口先を尖らせた。
空座町の外に出るのは、珍しい。
この日限りは虚退治や魂葬は一護に全てお願いする連絡を入れれば、『律儀だな。働きすぎなんじゃねーの?ついでだから羽伸ばしてこいよ』と言われた。
彼らしい気遣いだ。だからこそ、彼の周りには人が自然と集まるのだろうけど。
一応今回は『浦原商店』の仕事だから、紺色のエプロンを身につけた。
羽伸ばしてこいと言われたが、別にデートではない。
まぁ珍しい遠出に、少しだけ浮かれているのは事実だった。
エアコンの効いた車内。
業務用のバンの座席はお世辞にも快適とは言い難いが、それでも不規則に揺れる様子はまるで揺りかごのようだった。
眠気を誘う陽気を振り払うように、ドリンクホルダーに入れていたコーヒーを一口飲んだ。
「名無しサン、ボクにもお茶頂けます?」
「はいはい」
ペットボトルのキャップを開け、運転をしている浦原に渡せば「いやぁ、すいません」と礼を言われた。
ハンドルを持つ手。骨張った、男の手だ。
何かを創り出せる科学者の手。
誰かを守れる強い手。
どんな時も離さないでくれる、あたたかい手。
私の好きな手だ。
ペットボトルを持っていても、マグカップを持っていても、バンドルを握っていても、絵になるとはこの事なんだろう。
「どうかしました?」
「んー…カッコイイなぁって」
そう言えば、少しだけ驚いたような照れたような顔をする浦原。
「手が。」
間髪入れずそう付け足せば「手が、っスか」と少し不満そうに前を向いた。
うそ。全部好き。
その手も、その表情も、全部全部。
この瞬間がすき#運転
仕入れが終わった帰り道。
『免許取りましたから。帰りは運転を任せてください』
そう言った彼女に運転を任せた。
サイドポケットに入れていた初心者マークをバンの前と後ろに誇らしく貼り付ける背中が、なんだか可愛らしくて頬が緩んだ。
機械音痴の名無しに運転免許が取れるのか、と少しハラハラしたが、取ってしまえばあっという間だった。
教本があればキチンと各部位の名前も、運転方法もキチンと理解し覚えられるらしい。
元々几帳面で丁寧な性格も相まって、実に快適な助手席だ。
オーディオから流れるのは、時々雑音が交じるFMラジオ。最近流行りのバラード曲をピックアップして流していた。
夕暮れの色に染まる帰り道。
行きは真上からさんさんと照らしていた太陽も、今はゆっくりと地平線へ沈もうとしていた。
バラードを機嫌よく鼻歌で口吟む名無し。
夕陽に照らされた横顔は、柔らかな茜色に包まれている。
濁りのない両目は、虹彩が鮮やかな橙色を反射し琥珀色に染まっていた。
真横から見れば人間の眼球は、驚く程に角膜が透き通っている。
横から見た彼女の双眸は、まるで透明の硝子に守られた蜂蜜色の宝石のようだった。
普段の彼女は可愛いの一言に尽きるが、ふとした瞬間に見せる表情は、外見年齢にそぐわない程の儚さを見せる。
その瞬間が綺麗だと思うのは少し皮肉のようにも思えた。儚い瞬間が、美しいだなんて。
「どうかしました?」
「いやぁ。綺麗だなぁ、って」
「あぁ。こんなに立派な夕日だと、明日は晴れでしょうね」
お洗濯物いっぱい干せますね。
笑いながら名無しは答える。
夕日のことじゃなくて、
「名無しサンが、ですよ」
目を丸くさせ、一瞬視線が絡む。
かぁっと一瞬にして赤みが増す頬。きっとこれは、夕陽のせいじゃない。
「…バカ」
そっぽを向いて、再び視線を前に戻す。
拗ねたような、恥ずかしがっているような顔があまりに愛らしくて自然と笑みが零れた。
浦原の視線に居心地の悪さを感じたのか、「運転に集中できないから、あんまりこっちを見ないでください」と彼女は口先を尖らせた。
6/13ページ