晴着に花めく
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「揃ったな。じゃあ、名無しの成人という節目に、かんぱ〜い。」
硝子さんの簡単な音頭の後、ジョッキの子気味良い音が居酒屋の個室に響いた。
***
「『写真バチバチに撮られたと思ったら、飲み屋に連れていかれた。なんで?』って顔してんね。」
「大体あってます、けど。」
周りを見れば、硝子さん。七海さん。伊地知さん。そして五条さんの面々。
こう言ってはなんだが、私が知りうる人物の中で、いつか過労死しそうなメンバーが揃っていた。
「よく皆さん都合がついたな、と感心しまして…」
「そりゃね。なんてったって大人だもん。社会人の基本はスケジュール管理だよ、名無し。」
「……伊地知さんが普段以上に疲れているように見えるんですけど。」
「気の所為っしょ。」
一番のしわ寄せは彼だったかもしれない。
後でしっかりお礼を言っておこう。
「ななしさん。成人おめでとうございます。簡単なものですが、こちら私と伊地知君からです。」
「わ、わ、ありがとうございます。七海さん、伊地知さん。なんかすごくお洒落なパッケージ……」
箱の大きさの割にずっしり重い。
七海さんの隣でニコニコしている伊地知さんが「割れ物なのでお気をつけて」と紙袋に入れてくれた。
「気合い入れすぎだろ?お前らさぁ。」
「消え物にしろって言ったのは五条さんでしょう?」
駆けつけ一杯のクリームソーダを飲みながら五条さんが七海さんに絡む。
……ノンアルコールで絡み酒してる…。
憐れな七海さんを尻目に、伊地知さんは中の品の説明をしてくれた。
「ボディスクラブやシャンプーなど、家入さんにお伺いしたお店で購入したので間違いないと思いますよ」
「ありがとうございます。大事に使いますね!」
私に足りない女子力が上がりそうだ。
箱から既にいい匂いがしそうなプレゼントに、私は思わず顔を綻ばせた。
「私からはこれ。」
「間違いなくお酒ですね。」
「獺祭。…の、ちょっといい奴。それと酒器ね。」
黒紺の箱に『磨』と金の箔押しが施されたお酒。
桐箱の中は江戸切子の片口とぐい呑みが二つ入っていた。
「硝子さんと一緒に飲めますね。」
「そう、その為に買ったし。楽しみにしてる」
半分以上硝子さんが飲み干しそうだ。
それでも次の女子会の約束をしてくれたように聞こえて、つい頬が綻んだ。やっと一緒に飲むことが出来る。
「じゃあ最後に僕。何でも買ってあげるけど、何がいい?名無し。」
「え。……あの無茶苦茶高そうな振袖がお祝いだったのでは?」
「あれは僕の我儘だもん。ノーカンでしょ。」
あれに上乗せして頼めと。
恐らく他の三人とプレゼントの内容を被せたくなかったか、はたまた時間が単純になかったからか。
振袖と写真だけでも貰いすぎだというのに、望むものといえば──
「…………じゃあ、図書券?」
「小学生かよ。今時のキッズもそんなこと言わないってば。」
と、子供が好みそうなクリームソーダのアイスをつつく五条さん。
「何でもいいよ。富?権力?」
「私をなんだと思っているんですか。」
独裁者じゃあるまいし。
私が呆れ返っていると、ビールを飲み干した七海さんが真面目な顔でアドバイスをくれた。
「ななしさん、アメリカの上位10位の株でも買ってもらっておけば後々資産が増えますよ。」
「それお前が欲しいものだろ、七海ィ」
それはそれで魅力的だが、株運用はいまいちよく分からない上、本当に五条さんなら買いかねない。
冗談なのか本気なのか分からない提案を丁重に断り、私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「本当に図書券で十分ですよ。欲しい本とかありましたし…」
──後日、図書カード十万円分渡された時は目眩がした。
《足りない?欲しかったらまだあげるよ》なんて言うものだから、呪術師 の金銭感覚をどうしてやろうか、と頭を悩ませることになるのは、まだもう少し先の話。
***
「ところで、振袖どんなの着たの?」
「あ。私は写真撮っていないんです。」
ハイボールをスイスイ飲みながら硝子が名無しに尋ねる。
彼女のスマホの中にはまだデータがない。なぜなら僕がまだ送っていないから。
「見たい?見たいでしょ。どうしよっかな〜」
「名無しの成人祝いなんだから見せるのは当然だろ。早く見せろって。」
「いやん!硝子のエッチ!」
なんて軽口を叩けば、ゴミを見るような目で見られた。冗談だってば。
ふんふんと鼻歌を歌いながらFaceIDでスマホのロックを解除する。
たまたま画面が見えたのだろう。
伊地知が「早速ロック画面にしてる…」と小声で呟いていた。エッチだな、アイツ。
すいすいとカメラロールを開けば、画面いっぱいに振袖を着た名無しのサムネイルが並ぶ。
スタジオで撮ったもの。スタジオの日本庭園風の中庭で撮ったロケーションフォト。
カメラマンの後ろからお邪魔して、写真を撮らせてもらった成果がこちらだ。
「……これはまた。」
「五条さん、貢ぎすぎるのも重荷になるって学んだ方がいいですよ」
「まぁ七海。こんなんでも金は誰より持ってるから、こうやって経済回すのはいいことだろ」
呆気に取られる伊地知と、呆れる七海。硝子は大分慣れてしまったらしく、特に驚く様子もなかった。
「に、似合いませんよね…」
飲みやすそうなカクテルのグラスを持ったまま、名無しが肩身狭そうに縮こまる。
何言ってんの、僕が選んだんだ振袖。可愛い名無し。パーフェクトに決まってる。
「似合うに決まってるでしょ。こういうセンスだけはいいトコのボンボンなんだから」
「紺青と白というのが上品でいいですね」
「いつもと違う雰囲気ですが、とてもお綺麗ですよ。」
硝子の貶しは聞こえないふりをして、僕は名無しへの賞賛を噛み締めるように耳を傾けた。
「でしょ。写真はあげないけどね。」
晴着に花めく#04
五条家の新しい家宝にでもしようか。
そんなことをぼんやり考えながら、僕はお宝写真が増えたスマホを大事にポケットへしまい込んだ。
硝子さんの簡単な音頭の後、ジョッキの子気味良い音が居酒屋の個室に響いた。
***
「『写真バチバチに撮られたと思ったら、飲み屋に連れていかれた。なんで?』って顔してんね。」
「大体あってます、けど。」
周りを見れば、硝子さん。七海さん。伊地知さん。そして五条さんの面々。
こう言ってはなんだが、私が知りうる人物の中で、いつか過労死しそうなメンバーが揃っていた。
「よく皆さん都合がついたな、と感心しまして…」
「そりゃね。なんてったって大人だもん。社会人の基本はスケジュール管理だよ、名無し。」
「……伊地知さんが普段以上に疲れているように見えるんですけど。」
「気の所為っしょ。」
一番のしわ寄せは彼だったかもしれない。
後でしっかりお礼を言っておこう。
「ななしさん。成人おめでとうございます。簡単なものですが、こちら私と伊地知君からです。」
「わ、わ、ありがとうございます。七海さん、伊地知さん。なんかすごくお洒落なパッケージ……」
箱の大きさの割にずっしり重い。
七海さんの隣でニコニコしている伊地知さんが「割れ物なのでお気をつけて」と紙袋に入れてくれた。
「気合い入れすぎだろ?お前らさぁ。」
「消え物にしろって言ったのは五条さんでしょう?」
駆けつけ一杯のクリームソーダを飲みながら五条さんが七海さんに絡む。
……ノンアルコールで絡み酒してる…。
憐れな七海さんを尻目に、伊地知さんは中の品の説明をしてくれた。
「ボディスクラブやシャンプーなど、家入さんにお伺いしたお店で購入したので間違いないと思いますよ」
「ありがとうございます。大事に使いますね!」
私に足りない女子力が上がりそうだ。
箱から既にいい匂いがしそうなプレゼントに、私は思わず顔を綻ばせた。
「私からはこれ。」
「間違いなくお酒ですね。」
「獺祭。…の、ちょっといい奴。それと酒器ね。」
黒紺の箱に『磨』と金の箔押しが施されたお酒。
桐箱の中は江戸切子の片口とぐい呑みが二つ入っていた。
「硝子さんと一緒に飲めますね。」
「そう、その為に買ったし。楽しみにしてる」
半分以上硝子さんが飲み干しそうだ。
それでも次の女子会の約束をしてくれたように聞こえて、つい頬が綻んだ。やっと一緒に飲むことが出来る。
「じゃあ最後に僕。何でも買ってあげるけど、何がいい?名無し。」
「え。……あの無茶苦茶高そうな振袖がお祝いだったのでは?」
「あれは僕の我儘だもん。ノーカンでしょ。」
あれに上乗せして頼めと。
恐らく他の三人とプレゼントの内容を被せたくなかったか、はたまた時間が単純になかったからか。
振袖と写真だけでも貰いすぎだというのに、望むものといえば──
「…………じゃあ、図書券?」
「小学生かよ。今時のキッズもそんなこと言わないってば。」
と、子供が好みそうなクリームソーダのアイスをつつく五条さん。
「何でもいいよ。富?権力?」
「私をなんだと思っているんですか。」
独裁者じゃあるまいし。
私が呆れ返っていると、ビールを飲み干した七海さんが真面目な顔でアドバイスをくれた。
「ななしさん、アメリカの上位10位の株でも買ってもらっておけば後々資産が増えますよ。」
「それお前が欲しいものだろ、七海ィ」
それはそれで魅力的だが、株運用はいまいちよく分からない上、本当に五条さんなら買いかねない。
冗談なのか本気なのか分からない提案を丁重に断り、私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「本当に図書券で十分ですよ。欲しい本とかありましたし…」
──後日、図書カード十万円分渡された時は目眩がした。
《足りない?欲しかったらまだあげるよ》なんて言うものだから、
***
「ところで、振袖どんなの着たの?」
「あ。私は写真撮っていないんです。」
ハイボールをスイスイ飲みながら硝子が名無しに尋ねる。
彼女のスマホの中にはまだデータがない。なぜなら僕がまだ送っていないから。
「見たい?見たいでしょ。どうしよっかな〜」
「名無しの成人祝いなんだから見せるのは当然だろ。早く見せろって。」
「いやん!硝子のエッチ!」
なんて軽口を叩けば、ゴミを見るような目で見られた。冗談だってば。
ふんふんと鼻歌を歌いながらFaceIDでスマホのロックを解除する。
たまたま画面が見えたのだろう。
伊地知が「早速ロック画面にしてる…」と小声で呟いていた。エッチだな、アイツ。
すいすいとカメラロールを開けば、画面いっぱいに振袖を着た名無しのサムネイルが並ぶ。
スタジオで撮ったもの。スタジオの日本庭園風の中庭で撮ったロケーションフォト。
カメラマンの後ろからお邪魔して、写真を撮らせてもらった成果がこちらだ。
「……これはまた。」
「五条さん、貢ぎすぎるのも重荷になるって学んだ方がいいですよ」
「まぁ七海。こんなんでも金は誰より持ってるから、こうやって経済回すのはいいことだろ」
呆気に取られる伊地知と、呆れる七海。硝子は大分慣れてしまったらしく、特に驚く様子もなかった。
「に、似合いませんよね…」
飲みやすそうなカクテルのグラスを持ったまま、名無しが肩身狭そうに縮こまる。
何言ってんの、僕が選んだんだ振袖。可愛い名無し。パーフェクトに決まってる。
「似合うに決まってるでしょ。こういうセンスだけはいいトコのボンボンなんだから」
「紺青と白というのが上品でいいですね」
「いつもと違う雰囲気ですが、とてもお綺麗ですよ。」
硝子の貶しは聞こえないふりをして、僕は名無しへの賞賛を噛み締めるように耳を傾けた。
「でしょ。写真はあげないけどね。」
晴着に花めく#04
五条家の新しい家宝にでもしようか。
そんなことをぼんやり考えながら、僕はお宝写真が増えたスマホを大事にポケットへしまい込んだ。