晴着に花めく
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「名無しちゅわ〜ん!表情が堅いわ!アナタそれでミス・高専は狙えないわヨ!」
「女子生徒はもうほぼ私だけですし、そんなコンテスト聞いたことありませんけど?」
緊張した面持ちの名無しが、呆れたように目を細める。
例えエントリーが名無し以外いたとしても、僕の中のミス・高専のグランプリは間違いなく彼女のものなのに。
写真が得意じゃないのは知っていた。
何故なら僕のスマホのロック画面も彼女の寝顔ばかりだから。
カメラを向けても硬い表情でピースサインをするばかりで、写真慣れしていない田舎の中学生のようで……
──いや、よく考えたら一年程前まで中学生のようなものだった。
一番青春を謳歌するはずだった時間を奪われて、今も同じ学年の級友はおらず、ただストイックに呪霊を祓い、学ぶ。
友人と馬鹿をやったり、ふざけたり、遊んだりという青春は、未だ彼女に与えられていないのだ。
写真慣れしていない理由を理解して、僕は考えを改めた。
そりゃ証明写真のような、もしくはお見合い写真のようなものしか撮れないわけだ。
……いや、釣書に添えられるような写真が撮れたとしても、誰にも渡す気がないのだが。
「仕方ないなぁ。後からにしようかと思ったけど、先に僕と撮ろうか。」
「げっ!ぜ、絶対に嫌……」
「……待って、『げっ!』て何さ。不覚にも僕かなり傷付いたんだけど。」
「だ、だって、顔面偏差値の差が圧倒的すぎるんですよ?」
そう訴える彼女も十分可愛い上、化粧しているから今日は特に綺麗だ。
けど、僕が言っても『お世辞』だと笑われてしまうだろう。困ったものだ。
なので、開き直っちゃえ。
「それは仕方ないんじゃない?」
「仕方ないですけど。」
「だって、成人式の写真って保護者と一緒に何枚か撮ったりするんでしょ?」
わざとらしく首を傾げて問えば、「それは、まぁ。」と歯切れの悪い肯定が返ってきた。
あともうひと押し。
「でなきゃ僕、一緒に写真撮る気満々で大はしゃぎして新品のスーツ着てきた残念なヤツになっちゃう。ヤダ〜名無しちゃん一緒に撮ってよ〜」
我ながら白々しい駄々だが、どうやら効果覿面だったらしい。
「……………………撮ります…」
「そう来なくちゃ。」
アンティークな椅子を用意してもらい、名無しに座ってもらう。
振袖の柄がよく見えるように、背筋をしゃんと伸ばして座る彼女はちゃんと年齢に見合った、立派な成人に見えた。
「そういえば、五条さんは和服じゃないんですね。」
「僕も紋付袴だと名無しの振袖が映えないでしょ?僕はあくまでオマケだもん」
先ほど述べた答えも嘘ではないが、本当の理由は簡単かつ単純。スーツの方が『保護者感』が出るかと思ったから。
そして紋付袴は他にも着る機会があるかと思ったからだ。
例えばそう。結婚式とか。
晴着に花めく#03
「名無し。」
カメラから視線を逸らした五条さんが、私を見下ろす。
「凄く綺麗だし、可愛い。──成人おめでとう。」
綿菓子のようにやわらかく、甘い笑顔。
直視するにはそれがあまりにも優しくて、「撮りますよ」とカメラマンさんの声につられてレンズの方を見遣る。
大丈夫だろうか、顔は赤くないだろうか。
──カシャッ
落ちるシャッター音。
次のシャッターが落ちる数秒の間に、彼だけに届くくらいの音でそっと声を絞った。
「ありがとうございます、五条さん。」
「女子生徒はもうほぼ私だけですし、そんなコンテスト聞いたことありませんけど?」
緊張した面持ちの名無しが、呆れたように目を細める。
例えエントリーが名無し以外いたとしても、僕の中のミス・高専のグランプリは間違いなく彼女のものなのに。
写真が得意じゃないのは知っていた。
何故なら僕のスマホのロック画面も彼女の寝顔ばかりだから。
カメラを向けても硬い表情でピースサインをするばかりで、写真慣れしていない田舎の中学生のようで……
──いや、よく考えたら一年程前まで中学生のようなものだった。
一番青春を謳歌するはずだった時間を奪われて、今も同じ学年の級友はおらず、ただストイックに呪霊を祓い、学ぶ。
友人と馬鹿をやったり、ふざけたり、遊んだりという青春は、未だ彼女に与えられていないのだ。
写真慣れしていない理由を理解して、僕は考えを改めた。
そりゃ証明写真のような、もしくはお見合い写真のようなものしか撮れないわけだ。
……いや、釣書に添えられるような写真が撮れたとしても、誰にも渡す気がないのだが。
「仕方ないなぁ。後からにしようかと思ったけど、先に僕と撮ろうか。」
「げっ!ぜ、絶対に嫌……」
「……待って、『げっ!』て何さ。不覚にも僕かなり傷付いたんだけど。」
「だ、だって、顔面偏差値の差が圧倒的すぎるんですよ?」
そう訴える彼女も十分可愛い上、化粧しているから今日は特に綺麗だ。
けど、僕が言っても『お世辞』だと笑われてしまうだろう。困ったものだ。
なので、開き直っちゃえ。
「それは仕方ないんじゃない?」
「仕方ないですけど。」
「だって、成人式の写真って保護者と一緒に何枚か撮ったりするんでしょ?」
わざとらしく首を傾げて問えば、「それは、まぁ。」と歯切れの悪い肯定が返ってきた。
あともうひと押し。
「でなきゃ僕、一緒に写真撮る気満々で大はしゃぎして新品のスーツ着てきた残念なヤツになっちゃう。ヤダ〜名無しちゃん一緒に撮ってよ〜」
我ながら白々しい駄々だが、どうやら効果覿面だったらしい。
「……………………撮ります…」
「そう来なくちゃ。」
アンティークな椅子を用意してもらい、名無しに座ってもらう。
振袖の柄がよく見えるように、背筋をしゃんと伸ばして座る彼女はちゃんと年齢に見合った、立派な成人に見えた。
「そういえば、五条さんは和服じゃないんですね。」
「僕も紋付袴だと名無しの振袖が映えないでしょ?僕はあくまでオマケだもん」
先ほど述べた答えも嘘ではないが、本当の理由は簡単かつ単純。スーツの方が『保護者感』が出るかと思ったから。
そして紋付袴は他にも着る機会があるかと思ったからだ。
例えばそう。結婚式とか。
晴着に花めく#03
「名無し。」
カメラから視線を逸らした五条さんが、私を見下ろす。
「凄く綺麗だし、可愛い。──成人おめでとう。」
綿菓子のようにやわらかく、甘い笑顔。
直視するにはそれがあまりにも優しくて、「撮りますよ」とカメラマンさんの声につられてレンズの方を見遣る。
大丈夫だろうか、顔は赤くないだろうか。
──カシャッ
落ちるシャッター音。
次のシャッターが落ちる数秒の間に、彼だけに届くくらいの音でそっと声を絞った。
「ありがとうございます、五条さん。」