ファーストドライブ!
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「お待たせしました、ワカサギランチの天ぷらと、フライになります。」
店員さんが丁寧な所作で持ってきてくれたのは、二つの定食。
五条さん曰く、箱根の名物と言えばワカサギらしく『ご飯はワカサギ食べに行くの一択でしょ』と旅行前から宣言していた。
「いただきます」と手を合わせ、ご飯、味噌汁を一口二口食べた後、お待ちかねのワカサギのフライを頭からがぶりとかぶりつく。
油っぽくなく、軽い食感のフライ。
添えられたソースをまだつけていないからか、魚の風味が口いっぱいに広がった。
何より淡水湖で獲れたワカサギにも関わらず、臭みがなく、脂がのった白身は手放しで絶賛するには十分だった。
「わ、美味しい!何もつけなくても味がしっかりしてて、いくらでも食べられちゃいます!」
口の中がサクサクと子気味良い食感で心地いい。
熱々の白いご飯を併せれば箸が止まらなくなってしまいそうだ。
カロリー?そんなもの、旅行先で気にしたら負けだ。
目の前に座る五条さんもワカサギの天ぷらに満足ているようで、機嫌良さそうに笑っている。
「天ぷらも美味しいよ。僕は抹茶塩つけて食べるのが好き〜」
普段の言動はちょっと…いや、時々…そこそこ残念だというのに、相変わらず食事の所作は『美しい』の一言に尽きる。
育ちの良さが板についており、『なるほど御三家』と妙な所で腑に落ちた。
フライとはまた違った揚がり具合の天ぷらは世辞抜きで美味しそうだ。
……五条さんが美味しそうに食べているから、余計に。
「食べてみる?」
「いいんですか?」
「モチのロン。はい、あーん♡」
一瞬、思考がフリーズする。
目の前にはまだ揚げ油の熱が残る、美味しそうなワカサギの天ぷら。
しかもご丁寧に、抹茶塩までいい塩梅につけられたそれは、ゴクリと生唾を飲んでしまいそうになる。
目の前には上機嫌でワカサギを差し出す五条さん。
ただの『上機嫌』ではなく、少しだけからかいの色が滲んでいる表情は、きっと見間違いじゃない。
ワカサギの天ぷらの約束された美味しさと、鳥の給餌のような『あーん』という行為の恥と外聞とプライドを取るか。
天秤に掛けられた二つのどちらかに傾くかなんて、脳内会議にて一瞬で議決した。
その間、0.5秒。
恥をかなぐり捨てて差し出されたワカサギを頬張る。
フライとはまた違う、上品な味付けは同じ魚だとは思えない程だったが、どちらも甲乙付け難いくらい美味しい。
ワカサギの魅力には敵わなかった。
「……無茶苦茶恥ずかしいんですけど、無茶苦茶美味しいです。」
「でも食べるんだ?」
「絶対『あーん』じゃなきゃあげな〜い、とか無理難題仰るんでしょう?」
むっと眉を寄せて抗議すれば「分かってんじゃん。」と五条さんが笑う。
やっぱりからかっていたのか。本当に人が悪い。
「で。名無し♡僕にもワカサギのフライちょーだい♡」
キャッキャと黄色い声でおねだりする五条さん。
『あげない』という選択肢は勿論ない。
小皿に乗せて「はい。」と差し出せば、にぱっとご機嫌の笑顔が一気に急降下していった。ジェットコースターかな?
「オイオイオイオ〜イ、名無しちゃん。普通ここではデートらしく、『はい、どうぞ♡』ってあーんしてくれるんじゃないの?」
「えぇ…普通に食べたらいいじゃないですか」
「やだ。あーんして。」
この人に恥や外聞を気にするという考えはないのか。
──こんな恋人みたいな真似。
そんな考えが過ぎった途端、つい最近自覚してしまった恋心が膿んだ傷のようにぐじゅりと疼く。
胃の中がズンと重くなり、鈍色の自己嫌悪で僅かに息が詰まる。
目の前の彼に悟られない程に、瞬きを一つ二つ繰り返す。
弱々しくみぃみぃと鳴き、虫の息に近いその感情を、腹の奥底で強く強く捻り潰した。
──こんな感情、彼に対して抱くこと自体がどうかしている。
「我儘な三歳児を相手にしている気分です」
「名無しに構ってもらえるなら、僕いくらでも幼児プレイするけど?」
「五条さん、大人の尊厳は捨て……いや、既に捨てていましたね。」
「オーイ、頼れるGTGに対してそれはないんじゃな〜い?」
平常心を保てた私は、呆れたように小さく溜息をつく。
餌を待つツバメの雛鳥のように、口を開けて待つ五条さんに『諦める』という選択肢は、どうやらないらしい。
もう一度私はため息をついて、キツネ色に揚がったワカサギのフライを彼の口元に運んだ。
ファーストドライブ!#06
「今日だけですよ。」
差し出せば、形のいい口元がサクリとフライを美味しそうに頬張る。
我儘を聞いて貰えたからか、フライが美味しかったからなのか、五条さんは至極満足そうに頬を綻ばせて微笑んだ。
「ん。美味しい。」
店員さんが丁寧な所作で持ってきてくれたのは、二つの定食。
五条さん曰く、箱根の名物と言えばワカサギらしく『ご飯はワカサギ食べに行くの一択でしょ』と旅行前から宣言していた。
「いただきます」と手を合わせ、ご飯、味噌汁を一口二口食べた後、お待ちかねのワカサギのフライを頭からがぶりとかぶりつく。
油っぽくなく、軽い食感のフライ。
添えられたソースをまだつけていないからか、魚の風味が口いっぱいに広がった。
何より淡水湖で獲れたワカサギにも関わらず、臭みがなく、脂がのった白身は手放しで絶賛するには十分だった。
「わ、美味しい!何もつけなくても味がしっかりしてて、いくらでも食べられちゃいます!」
口の中がサクサクと子気味良い食感で心地いい。
熱々の白いご飯を併せれば箸が止まらなくなってしまいそうだ。
カロリー?そんなもの、旅行先で気にしたら負けだ。
目の前に座る五条さんもワカサギの天ぷらに満足ているようで、機嫌良さそうに笑っている。
「天ぷらも美味しいよ。僕は抹茶塩つけて食べるのが好き〜」
普段の言動はちょっと…いや、時々…そこそこ残念だというのに、相変わらず食事の所作は『美しい』の一言に尽きる。
育ちの良さが板についており、『なるほど御三家』と妙な所で腑に落ちた。
フライとはまた違った揚がり具合の天ぷらは世辞抜きで美味しそうだ。
……五条さんが美味しそうに食べているから、余計に。
「食べてみる?」
「いいんですか?」
「モチのロン。はい、あーん♡」
一瞬、思考がフリーズする。
目の前にはまだ揚げ油の熱が残る、美味しそうなワカサギの天ぷら。
しかもご丁寧に、抹茶塩までいい塩梅につけられたそれは、ゴクリと生唾を飲んでしまいそうになる。
目の前には上機嫌でワカサギを差し出す五条さん。
ただの『上機嫌』ではなく、少しだけからかいの色が滲んでいる表情は、きっと見間違いじゃない。
ワカサギの天ぷらの約束された美味しさと、鳥の給餌のような『あーん』という行為の恥と外聞とプライドを取るか。
天秤に掛けられた二つのどちらかに傾くかなんて、脳内会議にて一瞬で議決した。
その間、0.5秒。
恥をかなぐり捨てて差し出されたワカサギを頬張る。
フライとはまた違う、上品な味付けは同じ魚だとは思えない程だったが、どちらも甲乙付け難いくらい美味しい。
ワカサギの魅力には敵わなかった。
「……無茶苦茶恥ずかしいんですけど、無茶苦茶美味しいです。」
「でも食べるんだ?」
「絶対『あーん』じゃなきゃあげな〜い、とか無理難題仰るんでしょう?」
むっと眉を寄せて抗議すれば「分かってんじゃん。」と五条さんが笑う。
やっぱりからかっていたのか。本当に人が悪い。
「で。名無し♡僕にもワカサギのフライちょーだい♡」
キャッキャと黄色い声でおねだりする五条さん。
『あげない』という選択肢は勿論ない。
小皿に乗せて「はい。」と差し出せば、にぱっとご機嫌の笑顔が一気に急降下していった。ジェットコースターかな?
「オイオイオイオ〜イ、名無しちゃん。普通ここではデートらしく、『はい、どうぞ♡』ってあーんしてくれるんじゃないの?」
「えぇ…普通に食べたらいいじゃないですか」
「やだ。あーんして。」
この人に恥や外聞を気にするという考えはないのか。
──こんな恋人みたいな真似。
そんな考えが過ぎった途端、つい最近自覚してしまった恋心が膿んだ傷のようにぐじゅりと疼く。
胃の中がズンと重くなり、鈍色の自己嫌悪で僅かに息が詰まる。
目の前の彼に悟られない程に、瞬きを一つ二つ繰り返す。
弱々しくみぃみぃと鳴き、虫の息に近いその感情を、腹の奥底で強く強く捻り潰した。
──こんな感情、彼に対して抱くこと自体がどうかしている。
「我儘な三歳児を相手にしている気分です」
「名無しに構ってもらえるなら、僕いくらでも幼児プレイするけど?」
「五条さん、大人の尊厳は捨て……いや、既に捨てていましたね。」
「オーイ、頼れるGTGに対してそれはないんじゃな〜い?」
平常心を保てた私は、呆れたように小さく溜息をつく。
餌を待つツバメの雛鳥のように、口を開けて待つ五条さんに『諦める』という選択肢は、どうやらないらしい。
もう一度私はため息をついて、キツネ色に揚がったワカサギのフライを彼の口元に運んだ。
ファーストドライブ!#06
「今日だけですよ。」
差し出せば、形のいい口元がサクリとフライを美味しそうに頬張る。
我儘を聞いて貰えたからか、フライが美味しかったからなのか、五条さんは至極満足そうに頬を綻ばせて微笑んだ。
「ん。美味しい。」