ファーストドライブ!
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「高〜い!見てください、五条さん。山から煙が出てますよ!」
鼻につく、温泉を濃くした匂い。
湯気に含まれた様々な物質の中で、恐らく飛び抜けて臭うのは、この硫黄の匂いだろう。
「硫黄って独特の匂いだよね。名無しは平気?」
「このくらいなら。……もしかして五条さん、無下限ブロックしてます?」
「ライブ感味わいたいし?今はフィルター外してるよ。」
それで毒ガスを吸うのもどうなんだろう。
致死量には至らない量とはいえ、オートで機能する無下限を解除しなくてもいいだろうに。
「便利ですね。空気清浄機みたい。」
「僕からプラズマクラスター出てそう?」
「……一家に一人、五条さん… 」
うるさそう。
真っ先に考えついた感想は、その一言に尽きた。
いや。セキュリティ面で安全だとか目が肥えるとか、色々メリットがあるのだろうが、意外とお喋りな彼が空気清浄機になったと仮定したとして。
「それにほら。癒し系の顔してるでしょ?」
きゅるん。
そんな効果音が付きそうな、可愛子ぶった表情。
顔面偏差値の高さ故に、その辺の女の子よりも随分と板についている。
まぁ、それが癒し系かどうかはさておき。
「…………。」
「えっ、名無し。どういう感情の顔?それ。」
「……癒し系ではないですけど、顔がいいから腹立たしいことに可愛いんですよね…って顔です」
「あ、どうせ置いてもらうんだったら名無しの寝室がいいな♡」
「嫌ですよ、ずっと喋ってて寝させてくれなさそう。この空気清浄機。」
***
ひとつ食べれば、寿命が七年延びるらしい。
「中は思った以上に普通の卵で安心しました。」
「燻製っぽいような、ちょっと硫黄の香りがして独特だけどね〜。硝子ならこれ片手に酒飲み始めそう」
「この間味玉作ったら、それを片手にお酒飲んでましたね。」
「その味玉、僕食べていないんだけど?」
「……すみません…硝子さんと二人で食べちゃいました…」
少しだけバツの悪そうな顔で、黒たまごを頬張っていた名無しは苦笑いを浮かべる。
たまごを飲み込んだ僕が「また今度作ってね」と頼めば、彼女は綻ぶように笑って、大きく頷いた。
「そういえば昔、傑の奴がゆで玉子一口で食べててさぁ。
なんだろうね?あれ。喉が丈夫なのか、口がデカいのか。近藤勇かよ、みたいな」
そういえば呪霊を取り込む際も丸呑みだったな、と思い出す。
いつか窒息して倒れて救急車でも呼ぶのでは?なんて思ったが、彼との学生時代では終ぞ起きなかったハプニングだ。
隣の名無しを見れば、嫌そうな表情──ではなかった。
予想に反して意外そうな、そして少しだけ困ったような表情で僕の顔を見つめていた。
「どうしたの?」
「いえ。五条さんは話題に出すの、躊躇うかと思っていたので」
彼女の言葉に「あぁ」と納得したような呟きが思わず口から零れる。
確かに親友との訣別は、喉に魚の小骨が刺さったような、やるせない気持ちになったのは事実だ。
けれど。だからといって彼の『親友』という立場がなくなったわけではない。
──それに。
多分、恐らく、きっと。本人にはとてもじゃないが言えないけれど。
名無しと出会わなければ彼との再会もなかったはずだ。
傑が、八百比丘尼を求めることがなければ。
僕らが顔を突き合わせることなんて、『呪詛師・夏油傑の抹殺』という任務が下された時が最期の邂逅だっただろう。
再び会った傑との再会は、殺し合いでも、朗らかなものでもなかったが、それでも。
アイツが五体満足で、思うように自由に生きているなら、不謹慎ながらもそれでもいいと僕は思った。
呪術師として、彼女の教師として、僕の立場上それを口にすることは、きっとないのだろうけど。──僕だけのささやかな秘密だ。
だから、別に平気なんだ。
学生時代の思い出はもしかしたら僕が都合のいいように美化してしまった楽しい思い出かもしれないが……それでもいいと、僕は思った。
「名無しは傑の話が出るの、嫌?」
「いえ。話題に出るのは全然。五条さんの大事な思い出話ですし、それはそれ。これはこれ、ってヤツですよ。」
『大事な思い出話』
そう言ってくれる人間が、果たして呪術界に何人いるだろう。
身勝手な願望だと自覚していたが、名無しに『名前も聞きたくない』と言われなかったことに胸を撫で下ろした。
「……そ。良かった。硝子は兎も角、学長とかは名前が出る度に複雑そうな顔になるし、周りも当然腫物みたいな扱いするしさぁ。まぁ、腫物みたいなものなんだけど。」
僕がそう言えば名無しは納得したように頷いた。
「まぁ当然でしょう。私だって苦手ですよ。
だって『所持している呪霊にあげたいから、ちょっと血肉食べさせてやってくれないか?』なんて、私は試食コーナーのソーセージか?って話なんですよ。」
「ごほッ!」
飲んでいたペットボトルのお茶が、気管に入った。
スーパーで買い物をする傑。
試食コーナーでソーセージ販売する名無し。
想像しただけでシュールな絵面で面白いが、名無しからすればたまったものじゃないだろう。
しかし我慢できなかった僕は、どうしてもこの渾名を呟かずにはいられなかった。
ファーストドライブ!#05
「……ななし=シャウエッセン=名無し…」
「勝手にミドルネームにしないでください!」
鼻につく、温泉を濃くした匂い。
湯気に含まれた様々な物質の中で、恐らく飛び抜けて臭うのは、この硫黄の匂いだろう。
「硫黄って独特の匂いだよね。名無しは平気?」
「このくらいなら。……もしかして五条さん、無下限ブロックしてます?」
「ライブ感味わいたいし?今はフィルター外してるよ。」
それで毒ガスを吸うのもどうなんだろう。
致死量には至らない量とはいえ、オートで機能する無下限を解除しなくてもいいだろうに。
「便利ですね。空気清浄機みたい。」
「僕からプラズマクラスター出てそう?」
「……一家に一人、五条さん… 」
うるさそう。
真っ先に考えついた感想は、その一言に尽きた。
いや。セキュリティ面で安全だとか目が肥えるとか、色々メリットがあるのだろうが、意外とお喋りな彼が空気清浄機になったと仮定したとして。
「それにほら。癒し系の顔してるでしょ?」
きゅるん。
そんな効果音が付きそうな、可愛子ぶった表情。
顔面偏差値の高さ故に、その辺の女の子よりも随分と板についている。
まぁ、それが癒し系かどうかはさておき。
「…………。」
「えっ、名無し。どういう感情の顔?それ。」
「……癒し系ではないですけど、顔がいいから腹立たしいことに可愛いんですよね…って顔です」
「あ、どうせ置いてもらうんだったら名無しの寝室がいいな♡」
「嫌ですよ、ずっと喋ってて寝させてくれなさそう。この空気清浄機。」
***
ひとつ食べれば、寿命が七年延びるらしい。
「中は思った以上に普通の卵で安心しました。」
「燻製っぽいような、ちょっと硫黄の香りがして独特だけどね〜。硝子ならこれ片手に酒飲み始めそう」
「この間味玉作ったら、それを片手にお酒飲んでましたね。」
「その味玉、僕食べていないんだけど?」
「……すみません…硝子さんと二人で食べちゃいました…」
少しだけバツの悪そうな顔で、黒たまごを頬張っていた名無しは苦笑いを浮かべる。
たまごを飲み込んだ僕が「また今度作ってね」と頼めば、彼女は綻ぶように笑って、大きく頷いた。
「そういえば昔、傑の奴がゆで玉子一口で食べててさぁ。
なんだろうね?あれ。喉が丈夫なのか、口がデカいのか。近藤勇かよ、みたいな」
そういえば呪霊を取り込む際も丸呑みだったな、と思い出す。
いつか窒息して倒れて救急車でも呼ぶのでは?なんて思ったが、彼との学生時代では終ぞ起きなかったハプニングだ。
隣の名無しを見れば、嫌そうな表情──ではなかった。
予想に反して意外そうな、そして少しだけ困ったような表情で僕の顔を見つめていた。
「どうしたの?」
「いえ。五条さんは話題に出すの、躊躇うかと思っていたので」
彼女の言葉に「あぁ」と納得したような呟きが思わず口から零れる。
確かに親友との訣別は、喉に魚の小骨が刺さったような、やるせない気持ちになったのは事実だ。
けれど。だからといって彼の『親友』という立場がなくなったわけではない。
──それに。
多分、恐らく、きっと。本人にはとてもじゃないが言えないけれど。
名無しと出会わなければ彼との再会もなかったはずだ。
傑が、八百比丘尼を求めることがなければ。
僕らが顔を突き合わせることなんて、『呪詛師・夏油傑の抹殺』という任務が下された時が最期の邂逅だっただろう。
再び会った傑との再会は、殺し合いでも、朗らかなものでもなかったが、それでも。
アイツが五体満足で、思うように自由に生きているなら、不謹慎ながらもそれでもいいと僕は思った。
呪術師として、彼女の教師として、僕の立場上それを口にすることは、きっとないのだろうけど。──僕だけのささやかな秘密だ。
だから、別に平気なんだ。
学生時代の思い出はもしかしたら僕が都合のいいように美化してしまった楽しい思い出かもしれないが……それでもいいと、僕は思った。
「名無しは傑の話が出るの、嫌?」
「いえ。話題に出るのは全然。五条さんの大事な思い出話ですし、それはそれ。これはこれ、ってヤツですよ。」
『大事な思い出話』
そう言ってくれる人間が、果たして呪術界に何人いるだろう。
身勝手な願望だと自覚していたが、名無しに『名前も聞きたくない』と言われなかったことに胸を撫で下ろした。
「……そ。良かった。硝子は兎も角、学長とかは名前が出る度に複雑そうな顔になるし、周りも当然腫物みたいな扱いするしさぁ。まぁ、腫物みたいなものなんだけど。」
僕がそう言えば名無しは納得したように頷いた。
「まぁ当然でしょう。私だって苦手ですよ。
だって『所持している呪霊にあげたいから、ちょっと血肉食べさせてやってくれないか?』なんて、私は試食コーナーのソーセージか?って話なんですよ。」
「ごほッ!」
飲んでいたペットボトルのお茶が、気管に入った。
スーパーで買い物をする傑。
試食コーナーでソーセージ販売する名無し。
想像しただけでシュールな絵面で面白いが、名無しからすればたまったものじゃないだろう。
しかし我慢できなかった僕は、どうしてもこの渾名を呟かずにはいられなかった。
ファーストドライブ!#05
「……ななし=シャウエッセン=名無し…」
「勝手にミドルネームにしないでください!」