ファーストドライブ!
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「よっと。」
助手席に乗った五条さんは、手始めに座席の位置を調節し始めた。勿論、一番後ろへ。
お陰で彼の足元は広々──のはずなのだが、不思議と五条悟という男が座ると、そう大して広そうに見えないのだから一種のトリックアートだろう。
早起きして借りに行った、レンタカー。
五条さんが思いついたように『高専の車、借りちゃえば?』と言ってくれたが、あれはあくまで社用車のようなものだし、遊びに使うのは正直憚られた。
それに──乗り心地のいい、黒塗りのセダンは車両本体価格を聞くのが恐ろしい。
万が一擦ってしまっても、車両保険も完備のレンタカーを選んでしまうのは当然の結果だった。
それに、あの車だと休日気分も味わえないだろう。
……と思ったのだが、運転しやすそうな普通車のコンパクトカーは、私は広々使えても五条さんにとっては本当に『コンパクト』らしい。
「車種、変えてもらいます?」と訊ねると、「大抵の車はこうだから」と彼は笑った。
平均よりはるかに大きな長身も、憧れはするがいい事ばかりではないようだ。
「なんというか…脚長おじさんですね…」
「せめてお兄さんにしてよ。」
「すみません、語呂的におじさんって言っちゃいました。」
サングラス越しの青い瞳が拗ねたように細められる。
見た目は若々しいが『四捨五入したら三十路ですよ』という言葉を、私はぐっと呑み込んだ。
年齢の話は巡り巡って自分に降かかる話なのだから、触れない方が吉である。
「……えっと、バックミラーよし。サイドミラーも調節したし…」
工事現場のように指差し確認をしながら、教習所で教わった基本を思い出す。
記憶力は悪くない方だと自負しているが、それでも確認してしまうのは当然だろう。
「名無し、無茶苦茶緊張してやんの」
なんて、五条さんはからかってくるけど。
「そりゃそうですよ。大事な五条さんを乗せているんですから。」
怪我でもさせた日には呪術界からバッシングの嵐だろう。
──言うまでもないが『特級呪術師』という肩書きをなしにしても、交通事故など起こして彼に怪我を負わせるなんてことは死んでも御免こうむる。
今回は少しでも五条さんの気分転換になればと思い、初めてドライブに誘ったのだ。
危なっかしい運転をして、彼を始終ハラハラさせるのも当然『なし』だ。
そんな私の心情を知ってか知らずか、五条さんは車の天井を仰ぎながら声を上げる。
「……名無しちゃ〜ん、よく聞こえなかったからもう一回言ってくれる?」
「えっ。だ、大事な五条さんを、乗せているんですから、緊張するのは当然……って、何か気に障られました…?」
失言をしてしまったかと息を詰まらせる。
しかし五条さんは「いやいや。全然。」と笑うばかりで、理由は教えてくれなかった。なんだったのだろう。
ファーストドライブ!#02
「それでは〜、箱根へレッツラゴー!」
「五条さん、それ死語ですよ。」
助手席に乗った五条さんは、手始めに座席の位置を調節し始めた。勿論、一番後ろへ。
お陰で彼の足元は広々──のはずなのだが、不思議と五条悟という男が座ると、そう大して広そうに見えないのだから一種のトリックアートだろう。
早起きして借りに行った、レンタカー。
五条さんが思いついたように『高専の車、借りちゃえば?』と言ってくれたが、あれはあくまで社用車のようなものだし、遊びに使うのは正直憚られた。
それに──乗り心地のいい、黒塗りのセダンは車両本体価格を聞くのが恐ろしい。
万が一擦ってしまっても、車両保険も完備のレンタカーを選んでしまうのは当然の結果だった。
それに、あの車だと休日気分も味わえないだろう。
……と思ったのだが、運転しやすそうな普通車のコンパクトカーは、私は広々使えても五条さんにとっては本当に『コンパクト』らしい。
「車種、変えてもらいます?」と訊ねると、「大抵の車はこうだから」と彼は笑った。
平均よりはるかに大きな長身も、憧れはするがいい事ばかりではないようだ。
「なんというか…脚長おじさんですね…」
「せめてお兄さんにしてよ。」
「すみません、語呂的におじさんって言っちゃいました。」
サングラス越しの青い瞳が拗ねたように細められる。
見た目は若々しいが『四捨五入したら三十路ですよ』という言葉を、私はぐっと呑み込んだ。
年齢の話は巡り巡って自分に降かかる話なのだから、触れない方が吉である。
「……えっと、バックミラーよし。サイドミラーも調節したし…」
工事現場のように指差し確認をしながら、教習所で教わった基本を思い出す。
記憶力は悪くない方だと自負しているが、それでも確認してしまうのは当然だろう。
「名無し、無茶苦茶緊張してやんの」
なんて、五条さんはからかってくるけど。
「そりゃそうですよ。大事な五条さんを乗せているんですから。」
怪我でもさせた日には呪術界からバッシングの嵐だろう。
──言うまでもないが『特級呪術師』という肩書きをなしにしても、交通事故など起こして彼に怪我を負わせるなんてことは死んでも御免こうむる。
今回は少しでも五条さんの気分転換になればと思い、初めてドライブに誘ったのだ。
危なっかしい運転をして、彼を始終ハラハラさせるのも当然『なし』だ。
そんな私の心情を知ってか知らずか、五条さんは車の天井を仰ぎながら声を上げる。
「……名無しちゃ〜ん、よく聞こえなかったからもう一回言ってくれる?」
「えっ。だ、大事な五条さんを、乗せているんですから、緊張するのは当然……って、何か気に障られました…?」
失言をしてしまったかと息を詰まらせる。
しかし五条さんは「いやいや。全然。」と笑うばかりで、理由は教えてくれなかった。なんだったのだろう。
ファーストドライブ!#02
「それでは〜、箱根へレッツラゴー!」
「五条さん、それ死語ですよ。」