芒種の死
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謝れば、よかったのだろうか。
でもあのタイミングで『すみません』と口にしたところで、酷く薄っぺらい謝罪にしかならないだろう。
沈黙すると決めたのは私なのだから、最後まで『聞き分けのない生徒』として意地を張った方がいいと判断した。
後ろめたい気持ちは、勿論ある。だからこそ困ったように笑った五条さんの顔を直視出来なかった。
「それにしても酷い熱と怪我じゃん。呪霊、強かった?」
ひたりと額に触れた手。
特別体温が低い人ではないのに、その手が冷たく感じるのは私の体温が高いせいだろう。
「そう、ですね。祓った後は腕が、」
半分溶けてた。
熱で浮かされふわふわした思考のまま、滑り落ちるように答えるところだった。
一番大物だった呪霊の止めを刺すために口の中に刃を突っ込んだら、毒で肉が溶けて腕の骨まで見えた──なんてことは完全に蛇足だろう。
頼んでいないのに勝手にかかる反転術式と、スリップダメージのような執拗い毒で、腕は再生と腐食が繰り返され目も当てられない惨状だった。
毒は、取り込んでしまえば時間がかかるものの耐性がつく。
あの実験所に監禁されている間、生物毒やら化学毒を散々試された結果、ちょっとやそっとで動けなくなることはなくなった。
が、呪霊の毒となれば話は別だ。
全く同じ成り立ちの呪霊が存在しないように、呪霊の毒は耐性がつかない。
つまり毎回『初見』になる呪霊の毒は、他の術師と同じように毒で死にかけるし、普通に効く。
二度三度同じ呪霊から同じ毒を受ければ多少耐性がつくのだが、結局その場限りの対策になってしまう。
「まぁ、すごいことになってました。」
わざわざ五条さんに言うことではない。
余計な心配をかけて、彼の心労をわざわざ嵩増しすることもないだろう。
もしかしたら見るに堪えない傷の状態を新田さんから報告を受けているかもしれないが。
……あぁ。それはそれで、なんか嫌だな。
「痕、残る?」
ぽそりと呟いて、重ねられる手。
包帯の結び目がある手の甲に触れる、五条さんの指先は少しだけ硬くて、ちょっとだけくすぐったかった。
「多分、残らないかと。
……あの、あまり綺麗じゃないので触らない方が」
手の甲の小さい傷はあっという間に治ったが、毒の牙が突立った腕は未だに見てて気持ちのいいものではない。
赤黒く変色した皮膚は酷いし、生々しい膿はまだ出てくる。
なんなら発熱と毒でまた嘔吐してしまう可能性だってある。
看病は嬉しい反面、申し訳なさと……あまり格好悪い姿を見られたくないという感情が殴り合っていた。
「何言ってんの、頑張った証拠じゃん。あ、それともここ痛い?」
治って、腐って、治って、治って、腐っていく。
三歩進んで二歩下がるような治り方をする傷を気味悪がることなく『頑張った証拠』だとこの人は讃えてくれる。
「よく頑張ったね、お疲れ様。」
芒種の死#04
撫でられる頭。
普段なら素直に嬉しいその行為がどこか後ろめたく、胸が苦しいのはきっと──
でもあのタイミングで『すみません』と口にしたところで、酷く薄っぺらい謝罪にしかならないだろう。
沈黙すると決めたのは私なのだから、最後まで『聞き分けのない生徒』として意地を張った方がいいと判断した。
後ろめたい気持ちは、勿論ある。だからこそ困ったように笑った五条さんの顔を直視出来なかった。
「それにしても酷い熱と怪我じゃん。呪霊、強かった?」
ひたりと額に触れた手。
特別体温が低い人ではないのに、その手が冷たく感じるのは私の体温が高いせいだろう。
「そう、ですね。祓った後は腕が、」
半分溶けてた。
熱で浮かされふわふわした思考のまま、滑り落ちるように答えるところだった。
一番大物だった呪霊の止めを刺すために口の中に刃を突っ込んだら、毒で肉が溶けて腕の骨まで見えた──なんてことは完全に蛇足だろう。
頼んでいないのに勝手にかかる反転術式と、スリップダメージのような執拗い毒で、腕は再生と腐食が繰り返され目も当てられない惨状だった。
毒は、取り込んでしまえば時間がかかるものの耐性がつく。
あの実験所に監禁されている間、生物毒やら化学毒を散々試された結果、ちょっとやそっとで動けなくなることはなくなった。
が、呪霊の毒となれば話は別だ。
全く同じ成り立ちの呪霊が存在しないように、呪霊の毒は耐性がつかない。
つまり毎回『初見』になる呪霊の毒は、他の術師と同じように毒で死にかけるし、普通に効く。
二度三度同じ呪霊から同じ毒を受ければ多少耐性がつくのだが、結局その場限りの対策になってしまう。
「まぁ、すごいことになってました。」
わざわざ五条さんに言うことではない。
余計な心配をかけて、彼の心労をわざわざ嵩増しすることもないだろう。
もしかしたら見るに堪えない傷の状態を新田さんから報告を受けているかもしれないが。
……あぁ。それはそれで、なんか嫌だな。
「痕、残る?」
ぽそりと呟いて、重ねられる手。
包帯の結び目がある手の甲に触れる、五条さんの指先は少しだけ硬くて、ちょっとだけくすぐったかった。
「多分、残らないかと。
……あの、あまり綺麗じゃないので触らない方が」
手の甲の小さい傷はあっという間に治ったが、毒の牙が突立った腕は未だに見てて気持ちのいいものではない。
赤黒く変色した皮膚は酷いし、生々しい膿はまだ出てくる。
なんなら発熱と毒でまた嘔吐してしまう可能性だってある。
看病は嬉しい反面、申し訳なさと……あまり格好悪い姿を見られたくないという感情が殴り合っていた。
「何言ってんの、頑張った証拠じゃん。あ、それともここ痛い?」
治って、腐って、治って、治って、腐っていく。
三歩進んで二歩下がるような治り方をする傷を気味悪がることなく『頑張った証拠』だとこの人は讃えてくれる。
「よく頑張ったね、お疲れ様。」
芒種の死#04
撫でられる頭。
普段なら素直に嬉しいその行為がどこか後ろめたく、胸が苦しいのはきっと──