五条悟の引越し事情
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「家電も買い直すんですか?」
「うん。冷蔵庫とかは何でもいいんだけどね。洗濯機とか…あー、4Kのテレビは欲しいかな。50インチくらいなら職員寮でも置けるでしょ」
そう言いながら電器屋さんのテレビの合間を歩いていく五条さん。
家電の棚の間を歩いている最中も頭一つ飛び抜けているものだから、『店内でこの人を見失うことはないのだろうな』と思うと、少しばかりほっとした自分がいた。
50インチのテレビとなると、かなり大きい。
最近発売された4Kのテレビとなると20万はゆうに超えるので、特級呪術師ともなると金銭感覚が一般人とはかけ離れているとしみじみ感じた。
「映画ですか?」
「そ。映画。シャーロック・ホームズの映画借りたんだよね。名無しも見る?」
「いいですね。」
「その時はポップコーンとコーラ用意しよっか。映画見てると欲しくなるよね〜」
完全に映画館スタイルではないか。
そのうち音響にもこだわり始めて、ドルビーデジタルのスピーカーを部屋の四隅に置き始めかねない。
「ミステリー系の映画って、ポップコーン食べるのつい忘れちゃいませんか?」
「えー、そんなことないけど。ちなみにその映画、ホームズが黒幕のモリアーティを道連れにして滝壺に落ちて死ぬよ。」
「なんでそういうネタバレ、息を吐くようにするんですか?!」
今の流れはネタバレをする流れではなかったはず。
時々こうして五条さんは悪気と悪意100%の嫌がらせをしてくる。
露骨に不満そうか顔をすれば、以前『嫌そうな顔も可愛いね』なんて妄言を吐かれた。六眼は節穴だろうか。
余談だが、前回嫌がらせで教えられた映画のネタバレは、全く違う結末だった。
聞いていた話と全くオチが違い、呆然と映画を見ている私の隣で、五条さんはというと……ニタニタと人の顔を見て笑っていた。タチが悪い。
半年程前の出来事を鮮明に思い出しながら、私は「はぁ」と溜息を吐き出す。
「小説と同じオチなんですね…」
「なぁんだ、原作読んでたの。こういうのも読むんだ?」
「息抜きでたまに。」
小説が原作の映画が発表される度に、五条さんが勧めてきそうな映画の原作を読むようになったのはいつからだろうか。
自分でも笑ってしまうが、どうやら何度も繰り返されるネタバレを根に持ってしまっているようだった。
「んー、じゃあカウボーイ&エイリアンもあるけど見る?」
「なんですか、その香ばしいタイトル。」
どこからリサーチしてくるのだろう。タイトルから既にB級の匂いしかしない。
お目当てのテレビの前に置かれていたお買い上げカードを手に取り、フラフラと家電の棚を物色する五条さん。
最新のデジタル家電の棚から一本逸れば、とある生活家電が壊れてしまったことを思い出した。
「あ、五条さん。すみません、ドライヤー見てもいいですか?」
「どしたの?」
「いえ。寮にあったものがついに壊れてしまいまして。」
元々寮に住んでいた先輩が置いていった物だろう、年季の入ったドライヤーを有難く使わせて貰っていたのだが、この間遂にご臨終してしまった。
「これは?パナソニックの。」
「結構しますね。」
「長く使うんだし、どうせならいいの買った方がお得じゃない?名無しだってそこそこ貰ってるでしょ?」
五条さんが手に持ったドライヤーは最新モデルのものだった。
卒業生が置いていった2005年製の製品よりも洗練されたデザインで、大きさの割に意外と軽い。使い心地も良さそうだ。
『長く使うから』という意見は尤もだが、貯金をしたいという本音も現実である。
「卒業後のお金とか貯めておかなきゃと思って。」
「堅実ぅ。」
高専卒業後、身の振り方がどうなるかまだ分からないが、手元にお金があるに越したことはない。
誰しもが五条さんのようにシャツ一枚に25万円を躊躇いなく出せるわけないのだから。
……そう考えたら4Kテレビと五条さんのシャツはほぼ同じ値段なのか。
金銭感覚がバグってしまいそうにな値段設定に眩暈を覚える。普通の金銭感覚って、一体何だろう。
「ドライヤーをご覧になられているんですか?こちらの最新式モデル、とても人気でやっと再入荷出来たんですよ。」
私がプライスカードと睨めっこしていると、五条さんよりも随分と歳上の女性店員さんが声を掛けてきた。
営業スマイルなのだろうが、気さくそうな笑顔を浮かべた柔らかい雰囲気の女性だ。
『価格が高くて迷っている』と正直に答えてしまえばいいのかもしれないが、冷やかしだとガッカリされてしまうだろうか。
元々見知らぬ人との会話が弾むほど社交的ではなかったが、数年に渡る監禁生活も相まって──少しだけ。本当に少しだけ、今までよりも見知らぬ人に対して身構えてしまう自分がいて、ちょっとだけ自己嫌悪がじわりと滲んだ。
「えっと、」と言葉に迷い、言い淀んでいると、女性店員はニコニコと機嫌のよさそうな顔で爆弾発言を落とした。
「どうですか、奥様。旦那様に買って頂いては」
きっといい笑顔だったのは、五条さんの手元にテレビのお買い上げカードが見えたからだろう。それは分かる。
……誰が奥様で、誰が旦那様なのか。
息をするのも忘れるくらい真っ白になった頭の片隅で、ここにいる登場人物を洗い出す。
五条さん、女性店員、私。配役はつまり。
「ち、違っ…私は奥さんじゃなくて、」
女性店員が誰を何と勘違いしているのか理解した途端、熱で逆上せるような気恥しさに声が裏返った。うそ、やだ。かっこ悪い。
動揺した反応が面白かったのか、隣にいた五条さんは「ぶはっ」と吹き出す。
何笑ってるんですか。余計恥ずかしくなるから素知らぬ顔をして欲しかった!
「五条さん!笑いすぎですよ!」
腹の底からカッカッと沸騰するような熱。
……穴があったら入りたい。
何が恥ずかしいって、
(この人と、夫婦だと)
一瞬でも嬉しいと思った自分が浅ましくて、烏滸がましくて、どうしようもなく愚かで。
浮かれた自分が恥ずかしくて顔も上げられないのに、頭の芯の部分だけが血の気が引く程に冷めきっていく。
「ククッ…。も〜、僕の奥さんったら照れ屋さんなんだから。」
ひとしきり笑い、五条さんが「僕も欲しいからこのドライヤー、白いのと黒いの用意してくれる?」と呆気にとられている店員さんにお願いする。
ドライヤーを二つ購入することで色々察した店員さんは、何とも言えない苦笑いを浮かべながら、商品を用意すべく早足で去っていってしまった。
五条悟の引越し事情#02
「……兄妹って設定はどこ行ったんですか?」
「ん?やっぱり無理があるんじゃないかな。店員さんもあぁ言ってたし、新婚の若夫婦ってことで」
五条さんは鼻歌を歌うくらい、上機嫌だった。
「うん。冷蔵庫とかは何でもいいんだけどね。洗濯機とか…あー、4Kのテレビは欲しいかな。50インチくらいなら職員寮でも置けるでしょ」
そう言いながら電器屋さんのテレビの合間を歩いていく五条さん。
家電の棚の間を歩いている最中も頭一つ飛び抜けているものだから、『店内でこの人を見失うことはないのだろうな』と思うと、少しばかりほっとした自分がいた。
50インチのテレビとなると、かなり大きい。
最近発売された4Kのテレビとなると20万はゆうに超えるので、特級呪術師ともなると金銭感覚が一般人とはかけ離れているとしみじみ感じた。
「映画ですか?」
「そ。映画。シャーロック・ホームズの映画借りたんだよね。名無しも見る?」
「いいですね。」
「その時はポップコーンとコーラ用意しよっか。映画見てると欲しくなるよね〜」
完全に映画館スタイルではないか。
そのうち音響にもこだわり始めて、ドルビーデジタルのスピーカーを部屋の四隅に置き始めかねない。
「ミステリー系の映画って、ポップコーン食べるのつい忘れちゃいませんか?」
「えー、そんなことないけど。ちなみにその映画、ホームズが黒幕のモリアーティを道連れにして滝壺に落ちて死ぬよ。」
「なんでそういうネタバレ、息を吐くようにするんですか?!」
今の流れはネタバレをする流れではなかったはず。
時々こうして五条さんは悪気と悪意100%の嫌がらせをしてくる。
露骨に不満そうか顔をすれば、以前『嫌そうな顔も可愛いね』なんて妄言を吐かれた。六眼は節穴だろうか。
余談だが、前回嫌がらせで教えられた映画のネタバレは、全く違う結末だった。
聞いていた話と全くオチが違い、呆然と映画を見ている私の隣で、五条さんはというと……ニタニタと人の顔を見て笑っていた。タチが悪い。
半年程前の出来事を鮮明に思い出しながら、私は「はぁ」と溜息を吐き出す。
「小説と同じオチなんですね…」
「なぁんだ、原作読んでたの。こういうのも読むんだ?」
「息抜きでたまに。」
小説が原作の映画が発表される度に、五条さんが勧めてきそうな映画の原作を読むようになったのはいつからだろうか。
自分でも笑ってしまうが、どうやら何度も繰り返されるネタバレを根に持ってしまっているようだった。
「んー、じゃあカウボーイ&エイリアンもあるけど見る?」
「なんですか、その香ばしいタイトル。」
どこからリサーチしてくるのだろう。タイトルから既にB級の匂いしかしない。
お目当てのテレビの前に置かれていたお買い上げカードを手に取り、フラフラと家電の棚を物色する五条さん。
最新のデジタル家電の棚から一本逸れば、とある生活家電が壊れてしまったことを思い出した。
「あ、五条さん。すみません、ドライヤー見てもいいですか?」
「どしたの?」
「いえ。寮にあったものがついに壊れてしまいまして。」
元々寮に住んでいた先輩が置いていった物だろう、年季の入ったドライヤーを有難く使わせて貰っていたのだが、この間遂にご臨終してしまった。
「これは?パナソニックの。」
「結構しますね。」
「長く使うんだし、どうせならいいの買った方がお得じゃない?名無しだってそこそこ貰ってるでしょ?」
五条さんが手に持ったドライヤーは最新モデルのものだった。
卒業生が置いていった2005年製の製品よりも洗練されたデザインで、大きさの割に意外と軽い。使い心地も良さそうだ。
『長く使うから』という意見は尤もだが、貯金をしたいという本音も現実である。
「卒業後のお金とか貯めておかなきゃと思って。」
「堅実ぅ。」
高専卒業後、身の振り方がどうなるかまだ分からないが、手元にお金があるに越したことはない。
誰しもが五条さんのようにシャツ一枚に25万円を躊躇いなく出せるわけないのだから。
……そう考えたら4Kテレビと五条さんのシャツはほぼ同じ値段なのか。
金銭感覚がバグってしまいそうにな値段設定に眩暈を覚える。普通の金銭感覚って、一体何だろう。
「ドライヤーをご覧になられているんですか?こちらの最新式モデル、とても人気でやっと再入荷出来たんですよ。」
私がプライスカードと睨めっこしていると、五条さんよりも随分と歳上の女性店員さんが声を掛けてきた。
営業スマイルなのだろうが、気さくそうな笑顔を浮かべた柔らかい雰囲気の女性だ。
『価格が高くて迷っている』と正直に答えてしまえばいいのかもしれないが、冷やかしだとガッカリされてしまうだろうか。
元々見知らぬ人との会話が弾むほど社交的ではなかったが、数年に渡る監禁生活も相まって──少しだけ。本当に少しだけ、今までよりも見知らぬ人に対して身構えてしまう自分がいて、ちょっとだけ自己嫌悪がじわりと滲んだ。
「えっと、」と言葉に迷い、言い淀んでいると、女性店員はニコニコと機嫌のよさそうな顔で爆弾発言を落とした。
「どうですか、奥様。旦那様に買って頂いては」
きっといい笑顔だったのは、五条さんの手元にテレビのお買い上げカードが見えたからだろう。それは分かる。
……誰が奥様で、誰が旦那様なのか。
息をするのも忘れるくらい真っ白になった頭の片隅で、ここにいる登場人物を洗い出す。
五条さん、女性店員、私。配役はつまり。
「ち、違っ…私は奥さんじゃなくて、」
女性店員が誰を何と勘違いしているのか理解した途端、熱で逆上せるような気恥しさに声が裏返った。うそ、やだ。かっこ悪い。
動揺した反応が面白かったのか、隣にいた五条さんは「ぶはっ」と吹き出す。
何笑ってるんですか。余計恥ずかしくなるから素知らぬ顔をして欲しかった!
「五条さん!笑いすぎですよ!」
腹の底からカッカッと沸騰するような熱。
……穴があったら入りたい。
何が恥ずかしいって、
(この人と、夫婦だと)
一瞬でも嬉しいと思った自分が浅ましくて、烏滸がましくて、どうしようもなく愚かで。
浮かれた自分が恥ずかしくて顔も上げられないのに、頭の芯の部分だけが血の気が引く程に冷めきっていく。
「ククッ…。も〜、僕の奥さんったら照れ屋さんなんだから。」
ひとしきり笑い、五条さんが「僕も欲しいからこのドライヤー、白いのと黒いの用意してくれる?」と呆気にとられている店員さんにお願いする。
ドライヤーを二つ購入することで色々察した店員さんは、何とも言えない苦笑いを浮かべながら、商品を用意すべく早足で去っていってしまった。
五条悟の引越し事情#02
「……兄妹って設定はどこ行ったんですか?」
「ん?やっぱり無理があるんじゃないかな。店員さんもあぁ言ってたし、新婚の若夫婦ってことで」
五条さんは鼻歌を歌うくらい、上機嫌だった。