雪白と帰り花
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「この位の雑魚、京都管轄でも十分じゃん」
茜色に染まるビルの屋上にて、僕は祓った呪霊の死骸を足蹴にして辺りを見回した。
誰も聞いちゃくれない愚痴のような独り言をぼやき、安っぽいフェンスに身体を預ける。
(名無し…は、まだ任務中かな〜)
北と南。青森と福岡。
遥か遠い地で、さぞかし奮闘していることだろう。
といっても、呪物の回収だ。
今の彼女の実力ならなんてことはない任務だろう。
(特級呪物、両面宿儺の指…ね。)
高専の忌庫にも保管してある特級呪物だ。
各地に散らばったそれは、実に合計20本あるという。
呪霊を近寄らせぬ為に、より強力な──呪霊も恐慄く呪物を安置する。
一見、理にかなっているように見えるが、結局のところただの付け焼刃だ。何の解決にもなっていない。
実際、両面宿儺の指に施した封印も緩んできている。
だからこそ再び封印を施し直す為に高専で回収をし始めているのだが──。
「なんか臭うよねぇ…」
階級を与える為ならば、高専の関係者かそれに連なる呪術師を『監査役』として付けるはずだ。
今回はそれすらない。
いくらこの業界が人手不足とはいえ、そんなことありうるのか?
(そこに舞い込んできた僕の出張。福岡は元々京都の管轄だし、何より)
もう一度呪霊の死骸を足蹴にする。
トマトのように潰れた頭蓋。
それはリンゴを潰すよりも容易く、資料にて見積もられていた階級よりも随分と歯応えのないものだった。
(一級は言い過ぎだよね。買い被って評価しても、精々準一級に相当するか怪しいくらいだもん)
七海も本を読みながら祓える程度の小物だった。
お陰でこっちは本当にターゲットが合っているのか、再三確認してしまったではないか。弱すぎて。
まさにとんだ肩透かしをくらった気分で──
……いや。
呪霊を祓わせるのが目的じゃないとすれば?
僕だって一応人間だ。
遠く離れれば、移動時間だって人並にかかる。
都内圏内なら術式で『トぶ』ことも出来るが、ここは福岡だ。
ポケットにしまい込んでいたスマホを取り出し、着信履歴から見慣れた番号へダイヤルする。
声はなるべく、冷静を努めて。
「伊地知、ちょっとお願いしたいことあるんだけど。」
あぁ、でも嫌だなぁ。
こういう悪い予感だけは当たっちゃうんだから。
雪白と帰り花#断章
「やられた。」
もっと調べるべきだったのだ。
彼女の任務先……現地で手配された補助監督の名前は、登録しているどの名簿にも見当たらなかった。
正確には名簿に載っていたが、問い合わせてみたら既に死体になっていた。
つまり名無しを現地に送り届けた補助監督は『名前を借りた別の何か』だ。
「伊地知。悪いけど飛行機のチケット、青森行の手配して。僕もすぐ空港に向かうから」
茜色に染まるビルの屋上にて、僕は祓った呪霊の死骸を足蹴にして辺りを見回した。
誰も聞いちゃくれない愚痴のような独り言をぼやき、安っぽいフェンスに身体を預ける。
(名無し…は、まだ任務中かな〜)
北と南。青森と福岡。
遥か遠い地で、さぞかし奮闘していることだろう。
といっても、呪物の回収だ。
今の彼女の実力ならなんてことはない任務だろう。
(特級呪物、両面宿儺の指…ね。)
高専の忌庫にも保管してある特級呪物だ。
各地に散らばったそれは、実に合計20本あるという。
呪霊を近寄らせぬ為に、より強力な──呪霊も恐慄く呪物を安置する。
一見、理にかなっているように見えるが、結局のところただの付け焼刃だ。何の解決にもなっていない。
実際、両面宿儺の指に施した封印も緩んできている。
だからこそ再び封印を施し直す為に高専で回収をし始めているのだが──。
「なんか臭うよねぇ…」
階級を与える為ならば、高専の関係者かそれに連なる呪術師を『監査役』として付けるはずだ。
今回はそれすらない。
いくらこの業界が人手不足とはいえ、そんなことありうるのか?
(そこに舞い込んできた僕の出張。福岡は元々京都の管轄だし、何より)
もう一度呪霊の死骸を足蹴にする。
トマトのように潰れた頭蓋。
それはリンゴを潰すよりも容易く、資料にて見積もられていた階級よりも随分と歯応えのないものだった。
(一級は言い過ぎだよね。買い被って評価しても、精々準一級に相当するか怪しいくらいだもん)
七海も本を読みながら祓える程度の小物だった。
お陰でこっちは本当にターゲットが合っているのか、再三確認してしまったではないか。弱すぎて。
まさにとんだ肩透かしをくらった気分で──
……いや。
呪霊を祓わせるのが目的じゃないとすれば?
僕だって一応人間だ。
遠く離れれば、移動時間だって人並にかかる。
都内圏内なら術式で『トぶ』ことも出来るが、ここは福岡だ。
ポケットにしまい込んでいたスマホを取り出し、着信履歴から見慣れた番号へダイヤルする。
声はなるべく、冷静を努めて。
「伊地知、ちょっとお願いしたいことあるんだけど。」
あぁ、でも嫌だなぁ。
こういう悪い予感だけは当たっちゃうんだから。
雪白と帰り花#断章
「やられた。」
もっと調べるべきだったのだ。
彼女の任務先……現地で手配された補助監督の名前は、登録しているどの名簿にも見当たらなかった。
正確には名簿に載っていたが、問い合わせてみたら既に死体になっていた。
つまり名無しを現地に送り届けた補助監督は『名前を借りた別の何か』だ。
「伊地知。悪いけど飛行機のチケット、青森行の手配して。僕もすぐ空港に向かうから」