雪白と帰り花
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爆ぜる、斬撃。
煙幕のように舞い上がる綿雪と、火花のように飛び散る赤。
踏み荒らされた雪は熔け、抜かるんだ土も相まって足場が悪い。
切り落とされそうになった腕も皮一枚で繋がっている状態だ。
痛みで視界が眩む中、ぐちゅりと生々しい肉の音を鳴らしながら腕を押さえ込む。
血管、神経、骨、筋肉、皮膚。
瞬きをする間に再び接合する腕へ嫌気を差している場合ではない。今この時は不本意ながらも感謝するべきだろう。
振り下ろされる拳を紙一重で避けるが、その動きを予測していたかのように両面宿儺の副腕の拳がとんでくる。
──見えていても避けられない。
身体の動きがついていかない。
『死なない』という大きなアドバンテージが霞む程に、この男──両面宿儺と殺し合うのは圧倒的不利だった。
「ゲホッ、やり、にくいな…もう!」
粉砕された骨が、元通りに戻る。
が、蓄積されたダメージと疲労は増すばかり。
一方的に流された血は失血死を疑うくらい夥しく、雪解けの泥と赤が混じりまさに地獄絵図そのものだった。
不純物が混じりに混じった雪解けで生成した氷の刃は驚く程に脆い。
一度態勢を立て直したい所だが、目の前の男が逃してくれるとは思えなかった。
「何をしている、両面宿儺!それは死なない!とっとと持ち帰れるように手足を捥いでしまえ!」
山伏の姿をした呪詛師が声を荒らげる。
呪物を基に喚んだ呪霊へ跨った男は、苛立ちを隠すことなく表情を苦々しそうに歪ませた。
──残酷な子供のように無邪気な笑みを浮かべていた両面宿儺。
まるで水を差されたように笑みは消え失せ、四対の瞳が男を忌々しそうに睨みつける。
「持ち帰るだと?」
「呪物だぞ、当たり前だろう!金もたんまり貰ってんだ。こんな辺鄙な場所、とっとと離れて、」
雪白と帰り花
飛び散る肉片。
四散する赤。
呪詛師が乗っていた呪霊が微塵切りになり、瞬きをするより早くミンチへ様変わりする。
肉塊と血の海になった地面へ尻餅をついた呪詛師は、一体何が起こったのか理解が追いついていない様子だった。
「チッ」と忌々しそうに零れる舌打ち。
それは呪詛師からではない。私でもない。
先程まで『殺し合う』ことを心から愉しんでいた男が鳴らしたものだ。
「オイ。」
「……私に話しかけてます?」
「お前しかいないだろうが」
『呪詛師もいますけど』と言葉を呑み込み、私は無遠慮に彼へ視線を向ける。
「立て。場所を変える。」
「は、うわっ!」
担ぎ上げられた身体が軋む。
それもそうだ。さっきまで散々骨を砕かれ、肉を斬られていたのだから。
しかも、私を軽々と担いだこの男本人に。
「なっ、八百比丘尼を置いていけ、両面宿儺!お前の主は俺だぞ!」
「ただの呪詛師風情が、誰が誰の主人だと?驕るなよ、虫けらが。」
疾風よりも速く、駆ける脚。どうやら一先ず逃げるらしい。
筋肉隆々だというのに、雪の上を跳ぶように軽やかに走る──が、足跡を辿れば行先が知られるのは容易だろう。
「追え、追え!」
呪詛師の声が山へ響く。
逃げた先で殺し合いが再開されるのだろうが、とりあえず呪詛師に捕まるよりマシだろう。
空気中の水分を圧縮。凍結。
呪力によって気圧傾度力の差を急激につけてやれば、視界を覆い、足跡を簡単に消してしまう猛吹雪の出来上がり。
突然横殴りに打ち付けてきた牡丹雪に動じることなく、私を抱えたままの両面宿儺は「上出来だ」と満足そうに口角を上げるのであった。
煙幕のように舞い上がる綿雪と、火花のように飛び散る赤。
踏み荒らされた雪は熔け、抜かるんだ土も相まって足場が悪い。
切り落とされそうになった腕も皮一枚で繋がっている状態だ。
痛みで視界が眩む中、ぐちゅりと生々しい肉の音を鳴らしながら腕を押さえ込む。
血管、神経、骨、筋肉、皮膚。
瞬きをする間に再び接合する腕へ嫌気を差している場合ではない。今この時は不本意ながらも感謝するべきだろう。
振り下ろされる拳を紙一重で避けるが、その動きを予測していたかのように両面宿儺の副腕の拳がとんでくる。
──見えていても避けられない。
身体の動きがついていかない。
『死なない』という大きなアドバンテージが霞む程に、この男──両面宿儺と殺し合うのは圧倒的不利だった。
「ゲホッ、やり、にくいな…もう!」
粉砕された骨が、元通りに戻る。
が、蓄積されたダメージと疲労は増すばかり。
一方的に流された血は失血死を疑うくらい夥しく、雪解けの泥と赤が混じりまさに地獄絵図そのものだった。
不純物が混じりに混じった雪解けで生成した氷の刃は驚く程に脆い。
一度態勢を立て直したい所だが、目の前の男が逃してくれるとは思えなかった。
「何をしている、両面宿儺!それは死なない!とっとと持ち帰れるように手足を捥いでしまえ!」
山伏の姿をした呪詛師が声を荒らげる。
呪物を基に喚んだ呪霊へ跨った男は、苛立ちを隠すことなく表情を苦々しそうに歪ませた。
──残酷な子供のように無邪気な笑みを浮かべていた両面宿儺。
まるで水を差されたように笑みは消え失せ、四対の瞳が男を忌々しそうに睨みつける。
「持ち帰るだと?」
「呪物だぞ、当たり前だろう!金もたんまり貰ってんだ。こんな辺鄙な場所、とっとと離れて、」
雪白と帰り花
飛び散る肉片。
四散する赤。
呪詛師が乗っていた呪霊が微塵切りになり、瞬きをするより早くミンチへ様変わりする。
肉塊と血の海になった地面へ尻餅をついた呪詛師は、一体何が起こったのか理解が追いついていない様子だった。
「チッ」と忌々しそうに零れる舌打ち。
それは呪詛師からではない。私でもない。
先程まで『殺し合う』ことを心から愉しんでいた男が鳴らしたものだ。
「オイ。」
「……私に話しかけてます?」
「お前しかいないだろうが」
『呪詛師もいますけど』と言葉を呑み込み、私は無遠慮に彼へ視線を向ける。
「立て。場所を変える。」
「は、うわっ!」
担ぎ上げられた身体が軋む。
それもそうだ。さっきまで散々骨を砕かれ、肉を斬られていたのだから。
しかも、私を軽々と担いだこの男本人に。
「なっ、八百比丘尼を置いていけ、両面宿儺!お前の主は俺だぞ!」
「ただの呪詛師風情が、誰が誰の主人だと?驕るなよ、虫けらが。」
疾風よりも速く、駆ける脚。どうやら一先ず逃げるらしい。
筋肉隆々だというのに、雪の上を跳ぶように軽やかに走る──が、足跡を辿れば行先が知られるのは容易だろう。
「追え、追え!」
呪詛師の声が山へ響く。
逃げた先で殺し合いが再開されるのだろうが、とりあえず呪詛師に捕まるよりマシだろう。
空気中の水分を圧縮。凍結。
呪力によって気圧傾度力の差を急激につけてやれば、視界を覆い、足跡を簡単に消してしまう猛吹雪の出来上がり。
突然横殴りに打ち付けてきた牡丹雪に動じることなく、私を抱えたままの両面宿儺は「上出来だ」と満足そうに口角を上げるのであった。