雪白と帰り花
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青森県、1月。
除雪された道路を走る、スタッドレスを履いたセダン車。
その車窓から流れる街並みをぼんやり眺めながるのは、東京から派遣されたななし名無しだ。
出勤前だろうか。寒そうに肩を竦めて歩く、通勤バッグを持った中年の会社員。
その横を元気よく走り抜けていく小学生。
店の軒先の除雪をしていた老年の女性が小学生へ声を掛けると、無邪気に走っていた彼らは大人しく歩き始めた。恐らく『走ると転ぶよ』と諌めたのだろう。
ありふれた雪国の光景。
初めて見る街並み。
それでも――どこか懐かしさを感じるのは何故だろう。
鈍色の雪雲に覆われた空は、昼だというのに薄暗い。
北西の風に吹かれて、スノードームの雪のようにちらついていた白銀は灰色の空へ舞い上がった。
雪白と帰り花#01
時は遡り、20時間前。
「呪物の回収、ですか?」
「そ。無事回収出来たら晴れて階級付き、だってさ」
二人しかいない教室は相変わらずだだっ広い。
教卓の目の前に置かれた生徒用の学習机。
椅子に座った名無しの背筋はピンと伸ばされている一方、五条は資料を片手に頬杖をついていた。
「呪物は呪物でも、特級呪物の回収だから気を抜かないこと……って、名無しが任務、手ェ抜いたことないもんね」
「いえ。心してかかります。」
相変わらず生真面目な返事を聞き、五条は「頼もしいことで。」と満足そうに笑う。
……が、その表情はほんの一瞬だけ。
任務の詳細が書かれた資料で、地図が印刷されたページをトントンと指差しながら彼は口を開く。
「大丈夫?山奥だよ?虫とか蛇とかこの時期出ないと思うけど、雪がすんごいよ?やっぱ僕、ついて行こうか?」
「五条さん、別の任務でしょう。この任務が無事に終わったら私も階級持ちになれるんですから、過保護も程々にしないと。」
階級は貰えていないのだが、慢性的な人手不足故に名無しの単独任務はこれが初めてではない。
といっても単独の場合、呪霊の吹き溜まりになっている廃ビルを調査したり、はたまた祓ったり。
三級・四級の呪術師があたる、雑務に近い任務を黙々とこなす日々だった。
高専に入学してから10ヶ月目にして、ようやく『試される』為の任務が回ってきた。
人手不足が祟って仕方なくなのか、それとも上層部が『呪物』から『呪術師』として認めはじめてくれたのか。
ただ、真意を確かめる術は無い。
どちらにせよ、漸く巡ってきたチャンスだ。わざわざ辞退する理由は見当たらなかった。
ふう、と小さく息をつき、名無しがそっと呟く。
「――頑張りますね。」
生真面目な彼女の声音がいつも以上に真剣で、資料を最終チェックしていた五条はおもむろに顔を上げた。
「やっと呪術師として認めてもらえるチャンスですから。『五条悟の教え子は凄いんだぞ』って証明してきますね。」
そう。恩師である五条の顔に泥を塗る訳にはいかない。
余計な肩肘は張らず、しかし気合いは十二分に。
――結局のところ、五条が忌み嫌う上層部を見返す方法なんて方法が限られているのだ。
なら、出来ることから一つずつ。
階級がつけば、五条が消化試合のようにこなしている任務の数も、少しは減るかもしれないと淡い期待を持って。
「……ズルくない?そんなこと言われたら僕が一緒に行きた〜い!って駄々こねてるみたいじゃないの」
「お気づきですか?」
五条から資料を受け取りながら、名無しは悪戯っぽい笑みを浮かべるのであった。
除雪された道路を走る、スタッドレスを履いたセダン車。
その車窓から流れる街並みをぼんやり眺めながるのは、東京から派遣されたななし名無しだ。
出勤前だろうか。寒そうに肩を竦めて歩く、通勤バッグを持った中年の会社員。
その横を元気よく走り抜けていく小学生。
店の軒先の除雪をしていた老年の女性が小学生へ声を掛けると、無邪気に走っていた彼らは大人しく歩き始めた。恐らく『走ると転ぶよ』と諌めたのだろう。
ありふれた雪国の光景。
初めて見る街並み。
それでも――どこか懐かしさを感じるのは何故だろう。
鈍色の雪雲に覆われた空は、昼だというのに薄暗い。
北西の風に吹かれて、スノードームの雪のようにちらついていた白銀は灰色の空へ舞い上がった。
雪白と帰り花#01
時は遡り、20時間前。
「呪物の回収、ですか?」
「そ。無事回収出来たら晴れて階級付き、だってさ」
二人しかいない教室は相変わらずだだっ広い。
教卓の目の前に置かれた生徒用の学習机。
椅子に座った名無しの背筋はピンと伸ばされている一方、五条は資料を片手に頬杖をついていた。
「呪物は呪物でも、特級呪物の回収だから気を抜かないこと……って、名無しが任務、手ェ抜いたことないもんね」
「いえ。心してかかります。」
相変わらず生真面目な返事を聞き、五条は「頼もしいことで。」と満足そうに笑う。
……が、その表情はほんの一瞬だけ。
任務の詳細が書かれた資料で、地図が印刷されたページをトントンと指差しながら彼は口を開く。
「大丈夫?山奥だよ?虫とか蛇とかこの時期出ないと思うけど、雪がすんごいよ?やっぱ僕、ついて行こうか?」
「五条さん、別の任務でしょう。この任務が無事に終わったら私も階級持ちになれるんですから、過保護も程々にしないと。」
階級は貰えていないのだが、慢性的な人手不足故に名無しの単独任務はこれが初めてではない。
といっても単独の場合、呪霊の吹き溜まりになっている廃ビルを調査したり、はたまた祓ったり。
三級・四級の呪術師があたる、雑務に近い任務を黙々とこなす日々だった。
高専に入学してから10ヶ月目にして、ようやく『試される』為の任務が回ってきた。
人手不足が祟って仕方なくなのか、それとも上層部が『呪物』から『呪術師』として認めはじめてくれたのか。
ただ、真意を確かめる術は無い。
どちらにせよ、漸く巡ってきたチャンスだ。わざわざ辞退する理由は見当たらなかった。
ふう、と小さく息をつき、名無しがそっと呟く。
「――頑張りますね。」
生真面目な彼女の声音がいつも以上に真剣で、資料を最終チェックしていた五条はおもむろに顔を上げた。
「やっと呪術師として認めてもらえるチャンスですから。『五条悟の教え子は凄いんだぞ』って証明してきますね。」
そう。恩師である五条の顔に泥を塗る訳にはいかない。
余計な肩肘は張らず、しかし気合いは十二分に。
――結局のところ、五条が忌み嫌う上層部を見返す方法なんて方法が限られているのだ。
なら、出来ることから一つずつ。
階級がつけば、五条が消化試合のようにこなしている任務の数も、少しは減るかもしれないと淡い期待を持って。
「……ズルくない?そんなこと言われたら僕が一緒に行きた〜い!って駄々こねてるみたいじゃないの」
「お気づきですか?」
五条から資料を受け取りながら、名無しは悪戯っぽい笑みを浮かべるのであった。
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