僕達のロズウェル事件簿
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「で、振られた瞬間に呪いが解けて、『じゃあ、私は高専へ戻りますね。休日を楽しんでください』って置いて行かれた、ってワケ。」
酒を奢るから僕の話を聞いてください。
なんて。
珍しく下出に出たメッセージが届いたらこれだ。
私は駆けつけ一杯のビールを飲み干しながら。
五条はすっかりアイスが沈んでしまったクリームソーダのジョッキを抱えながら、死んだ顔をしている。
「それは告白したことにならないんじゃない?」
「じゃあ、フラれたこともノーカン?」
「いや。どう見ても振られてる。」
「理不尽……」
二杯目の焼酎とたこわさを注文し、店員が去った後、私は頬肘をついて小さく溜息をついた。
「そもそも軽薄すぎて冗談だと思われてるに一票。そんなのが告白だと思っているなら前世からやり直したら?」
「硝子さぁ、辛辣じゃない?僕、こう見えて傷心よ?」
さぞかし今までは連戦連勝だったのだろう。
というより、『五条悟』という餌へ入れ食い状態だったに違いない。
五条とは何だかんだの腐れ縁で8年程の付き合いになるが、女関係で拗れたり爛れた話は聞けども、振られたなんて話は一度も聞いたことがなかった。
それがどうだ。4つ下の女の子に『ありえないでしょう』と気持ちがいい程に一刀両断されているではないか。
「ま、天狗になってたクズの鼻を明かしてくれた、名無しの肩を持つのは当然の流れだよ」
「来る者拒まず、去る者追わずってスタンスだっただけじゃん。」
「だからクズって言われるんだ。やーいクズ。」
運ばれてきたたこわさをつまみながら、水のように透き通った焼酎をお猪口へ手酌する。
いつもより辛口で批判をするものの、残念ながら彼の恋愛観が狂っているのは事実だ。
この焼酎くらい辛口批評を贈れば、流石の五条も本気で落ち込みそうなので、そこは手心を加えてやることにしよう。
「まともに告白すらしてないのにへこむのはどうかと思うけどね」
「まともな告白って何さ」
マドラースプーンでクリームソーダの氷を音を立てながら掻き混ぜる五条の顔は、至って真剣だ。
私も恋愛経験なんて世間一般から見れば乏しい方だろうが、少なくとも目の前の男よりは経験が少なくとも『まとも』だと理解した。
「今まで五条と付き合った女の子に同情するよ。」
「振られた痛みを初体験してるとこなんだから、追い打ちかけるのやめてくんない?」
告白したことなんてないのに、あんなひっきりなしに取っかえ引っ変えしていたのか。
怪しいフェロモンでも出ているんじゃないかと笑ってしまいそうになるが、そういえば夏油もよくモテていた。
この同級生のクズ共は、顔はいいのに性格が破綻している。
一般家庭を一応知っている夏油の方がまだ救いようがあったかもしれないが……。
残念ながら現在、恋愛相談を受けているのは『やっかいな男の方』からだ。
『恋愛相談なんて面倒だ』と思いつつも、面白半分、厄介事にならないための予防がほぼ半分。
あとは、ほんの少しの同情心。
「で?去る者追わずの五条はとっとと諦め「無理。」
清々しい程の即答。
まぁ、これで諦めるなら五条自身もこんな頭を抱えることはなかっただろう。
「なんだ、即答じゃん。」と私は笑いながら、小さな杯に残った焼酎を注ぎ、一気に呷った。
「分かってるくせに聞いてくるあたり、硝子もいい性格してるよね」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
三杯目は洋酒にするか、日本酒にするか。
魚が食べたい口だったので、飲み慣れた獺祭を頼むことにした。
あとは、ホッケの藁焼きでも頼んでおこう。
「そもそもこんな優良物件をフるって、あり得る?」
「自分で言っちゃうのがヤバいって自覚してる?」
「いやいや。聞けよ硝子。顔がいい。背が高い。収入もガッポリよ?優良物件じゃん」
確かに優良物件かもしれないが――
「恋愛って、そうじゃないだろ」
当たり前のこと。
友人関係も恋愛関係も、もっと言えば夫婦関係も『ウマが合う』かどうかが一番重要ではないのか。
「……そうじゃないの?」
「恋愛音痴か。」
初心者にも程がある。
身体と術式と知識ばかりが大人になるばかりで、人格形成は残念すぎるのが五条悟という男であることを、私はすっかり忘れていた。というより慣れすぎていた。
慣れって怖いな。
自惚れでなければ、友人と呼べる関係は今や私くらいなものではないだろうか。
親友はいるにはいるが――いや、この際『いた』と言うべきか。
高専に入るまでの『五条悟』の人となりは、時々聞く本家の話と御三家、それだけでしか察することが出来ないが……まぁ、幼少から懸賞金が賭けられている環境を考慮したら、対人関係なんてお察しだろう。
そんな彼が保護した少女に――今や彼の生徒だが――すっかり惚れてしまっている。
『子供みたいな大人が捨て犬のような少女を拾ってきた』『どうせすぐ飽きるのだろう』とばかり思っていたが、こんなに夢中になるなんて。
そして、五条が『たった一人の女の子』にこうも心掻き乱されているとは、かつてのノストラダムスでも予想だにしていなかった未来だろう。
「五条は名無しのどういうとこがいいわけ。」
「笑顔が可愛いとこ。頑張り屋さんなとこ。抱きしめると安心するし、いい匂いがするし、ちんこが勃っちゃう。」
「最後のは聞かなかったとこにしといてやる。」
まさかとは思うが、呪いにかかっている間に手を出して……は、ないだろう。多分。
自分は名無しに対して『優良物件』であることを求めていないというのに、どうして分からないものだろう。
……五条の、相手を思いやる気持ちが決定的に欠けていることをこんな所で目の当たりにするとは。
名無しの恋愛観は聞いたことがないが、少なくともあの性格なら真っ先に『三高』を求めるようなことはしないだろう。
一般的な価値観と根本的に認識のズレがあるということを、五条は気づいているのだろうか。
「相手もそういうの求めてるとか考えたことないわけ?」
「今までの子は『顔が好き』『セックス気持ちいい』って言ってたけど?」
「五条家の情操教育がイカれてるのはよーくわかった。」
親の顔が見てみたい。
御三家は腐敗しきっていると五条からしょっちゅう愚痴を聞くが……さて。
五条の環境故か、倫理観も中々歪んでしまっているようだ。
そりゃあそんな女ばかりが周りにいたなら、名無しのような存在は清涼剤に近いだろう。欲しくもなる。
それに、同性から見てもあの子は可愛い。
気遣い上手で、愛想も悪くない。
性格は言わずもがな、変人揃いの高専の中では異常なくらい善人で、あの気難しい七海から『いい子ですね』とお墨付きまでもらっている。
五条が恋に落ちるのも無理はない。
「ちゃんと真面目に告白したらOKもらえると思う?」
嫌われていないと確信しているからか、それともただのバカか。
――五条は賢いとは思っていたが、私の思い過ごしかもしれない。
無理な話だが、今すぐ夏油を呼んで『お前の教育・指導不足』だと説教してやりたくなった。別に彼が五条のオカンというわけではないが。
医者も匙を投げる、とはこういうことだろう。
「小学生か。」
「だから相談してんじゃん」
なんで偉そうなんだ、コイツ。
私は「はーーー」と長く、深い溜息を吐き出して、痛烈な一言を五条へぶん投げた。
「多分、ムリ。」
「え。」
古いパソコンのように処理しきれない情報量で完全にフリーズする五条。
溶けて崩れたクリームソーダの氷が、カランと涼やかにジョッキを鳴らした。
そんな彼を尻目に、私は三杯目の日本酒を空にする。
ホッケの藁焼きも半分程残っている。もう一度日本酒を頼むか、とメニューを手に取った瞬間。
「そんなに僕、名無しに嫌われてる…?」
「そうじゃない。」
死んだような声で呟いた五条に対し、即答で否定してやる。
勘が鋭いくせにこういうところは鈍いらしい。
「あくまで推測だけど、ぶち当たるであろう問題は2つ。」と前置きをして、私は五条へ視線を向けた。
本当に珍しくしょぼくれている。自他共に『最強』と認める特級呪術師がこんなにしおらしくしているなんて初めて見る光景だ。
「一つ。教師と生徒である。
あの真面目な名無しのことだ。立場の違いもあるし、首を縦に振らすのは簡単じゃないだろうけど……まぁ五条がみっともなく駄々こねばこれはなんとかなるんじゃない?」
「もう一つは?」
思考停止した子供じゃあるまいし。
教えてもらえるのが当たり前のように問うてくる五条に対して、本日何度目かの溜息を吐き出した。
これは、私のあくまで推測。ただの予想だ。
それを教える訳にはいかない。
なぜなら五条の為にも、名無しの為にもならないからだ。
――結局のところ。
相談に乗ることは出来ても、考えて導き出して、彼女の心を動かすためにあれこれ作戦を考えるのは、五条自身なのだから。
「自分で考えな。」と私はつっけんどんに突き放し、本日四杯目の酒を注文するのであった。
酒を奢るから僕の話を聞いてください。
なんて。
珍しく下出に出たメッセージが届いたらこれだ。
私は駆けつけ一杯のビールを飲み干しながら。
五条はすっかりアイスが沈んでしまったクリームソーダのジョッキを抱えながら、死んだ顔をしている。
「それは告白したことにならないんじゃない?」
「じゃあ、フラれたこともノーカン?」
「いや。どう見ても振られてる。」
「理不尽……」
二杯目の焼酎とたこわさを注文し、店員が去った後、私は頬肘をついて小さく溜息をついた。
「そもそも軽薄すぎて冗談だと思われてるに一票。そんなのが告白だと思っているなら前世からやり直したら?」
「硝子さぁ、辛辣じゃない?僕、こう見えて傷心よ?」
さぞかし今までは連戦連勝だったのだろう。
というより、『五条悟』という餌へ入れ食い状態だったに違いない。
五条とは何だかんだの腐れ縁で8年程の付き合いになるが、女関係で拗れたり爛れた話は聞けども、振られたなんて話は一度も聞いたことがなかった。
それがどうだ。4つ下の女の子に『ありえないでしょう』と気持ちがいい程に一刀両断されているではないか。
「ま、天狗になってたクズの鼻を明かしてくれた、名無しの肩を持つのは当然の流れだよ」
「来る者拒まず、去る者追わずってスタンスだっただけじゃん。」
「だからクズって言われるんだ。やーいクズ。」
運ばれてきたたこわさをつまみながら、水のように透き通った焼酎をお猪口へ手酌する。
いつもより辛口で批判をするものの、残念ながら彼の恋愛観が狂っているのは事実だ。
この焼酎くらい辛口批評を贈れば、流石の五条も本気で落ち込みそうなので、そこは手心を加えてやることにしよう。
「まともに告白すらしてないのにへこむのはどうかと思うけどね」
「まともな告白って何さ」
マドラースプーンでクリームソーダの氷を音を立てながら掻き混ぜる五条の顔は、至って真剣だ。
私も恋愛経験なんて世間一般から見れば乏しい方だろうが、少なくとも目の前の男よりは経験が少なくとも『まとも』だと理解した。
「今まで五条と付き合った女の子に同情するよ。」
「振られた痛みを初体験してるとこなんだから、追い打ちかけるのやめてくんない?」
告白したことなんてないのに、あんなひっきりなしに取っかえ引っ変えしていたのか。
怪しいフェロモンでも出ているんじゃないかと笑ってしまいそうになるが、そういえば夏油もよくモテていた。
この同級生のクズ共は、顔はいいのに性格が破綻している。
一般家庭を一応知っている夏油の方がまだ救いようがあったかもしれないが……。
残念ながら現在、恋愛相談を受けているのは『やっかいな男の方』からだ。
『恋愛相談なんて面倒だ』と思いつつも、面白半分、厄介事にならないための予防がほぼ半分。
あとは、ほんの少しの同情心。
「で?去る者追わずの五条はとっとと諦め「無理。」
清々しい程の即答。
まぁ、これで諦めるなら五条自身もこんな頭を抱えることはなかっただろう。
「なんだ、即答じゃん。」と私は笑いながら、小さな杯に残った焼酎を注ぎ、一気に呷った。
「分かってるくせに聞いてくるあたり、硝子もいい性格してるよね」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
三杯目は洋酒にするか、日本酒にするか。
魚が食べたい口だったので、飲み慣れた獺祭を頼むことにした。
あとは、ホッケの藁焼きでも頼んでおこう。
「そもそもこんな優良物件をフるって、あり得る?」
「自分で言っちゃうのがヤバいって自覚してる?」
「いやいや。聞けよ硝子。顔がいい。背が高い。収入もガッポリよ?優良物件じゃん」
確かに優良物件かもしれないが――
「恋愛って、そうじゃないだろ」
当たり前のこと。
友人関係も恋愛関係も、もっと言えば夫婦関係も『ウマが合う』かどうかが一番重要ではないのか。
「……そうじゃないの?」
「恋愛音痴か。」
初心者にも程がある。
身体と術式と知識ばかりが大人になるばかりで、人格形成は残念すぎるのが五条悟という男であることを、私はすっかり忘れていた。というより慣れすぎていた。
慣れって怖いな。
自惚れでなければ、友人と呼べる関係は今や私くらいなものではないだろうか。
親友はいるにはいるが――いや、この際『いた』と言うべきか。
高専に入るまでの『五条悟』の人となりは、時々聞く本家の話と御三家、それだけでしか察することが出来ないが……まぁ、幼少から懸賞金が賭けられている環境を考慮したら、対人関係なんてお察しだろう。
そんな彼が保護した少女に――今や彼の生徒だが――すっかり惚れてしまっている。
『子供みたいな大人が捨て犬のような少女を拾ってきた』『どうせすぐ飽きるのだろう』とばかり思っていたが、こんなに夢中になるなんて。
そして、五条が『たった一人の女の子』にこうも心掻き乱されているとは、かつてのノストラダムスでも予想だにしていなかった未来だろう。
「五条は名無しのどういうとこがいいわけ。」
「笑顔が可愛いとこ。頑張り屋さんなとこ。抱きしめると安心するし、いい匂いがするし、ちんこが勃っちゃう。」
「最後のは聞かなかったとこにしといてやる。」
まさかとは思うが、呪いにかかっている間に手を出して……は、ないだろう。多分。
自分は名無しに対して『優良物件』であることを求めていないというのに、どうして分からないものだろう。
……五条の、相手を思いやる気持ちが決定的に欠けていることをこんな所で目の当たりにするとは。
名無しの恋愛観は聞いたことがないが、少なくともあの性格なら真っ先に『三高』を求めるようなことはしないだろう。
一般的な価値観と根本的に認識のズレがあるということを、五条は気づいているのだろうか。
「相手もそういうの求めてるとか考えたことないわけ?」
「今までの子は『顔が好き』『セックス気持ちいい』って言ってたけど?」
「五条家の情操教育がイカれてるのはよーくわかった。」
親の顔が見てみたい。
御三家は腐敗しきっていると五条からしょっちゅう愚痴を聞くが……さて。
五条の環境故か、倫理観も中々歪んでしまっているようだ。
そりゃあそんな女ばかりが周りにいたなら、名無しのような存在は清涼剤に近いだろう。欲しくもなる。
それに、同性から見てもあの子は可愛い。
気遣い上手で、愛想も悪くない。
性格は言わずもがな、変人揃いの高専の中では異常なくらい善人で、あの気難しい七海から『いい子ですね』とお墨付きまでもらっている。
五条が恋に落ちるのも無理はない。
「ちゃんと真面目に告白したらOKもらえると思う?」
嫌われていないと確信しているからか、それともただのバカか。
――五条は賢いとは思っていたが、私の思い過ごしかもしれない。
無理な話だが、今すぐ夏油を呼んで『お前の教育・指導不足』だと説教してやりたくなった。別に彼が五条のオカンというわけではないが。
医者も匙を投げる、とはこういうことだろう。
「小学生か。」
「だから相談してんじゃん」
なんで偉そうなんだ、コイツ。
私は「はーーー」と長く、深い溜息を吐き出して、痛烈な一言を五条へぶん投げた。
「多分、ムリ。」
「え。」
古いパソコンのように処理しきれない情報量で完全にフリーズする五条。
溶けて崩れたクリームソーダの氷が、カランと涼やかにジョッキを鳴らした。
そんな彼を尻目に、私は三杯目の日本酒を空にする。
ホッケの藁焼きも半分程残っている。もう一度日本酒を頼むか、とメニューを手に取った瞬間。
「そんなに僕、名無しに嫌われてる…?」
「そうじゃない。」
死んだような声で呟いた五条に対し、即答で否定してやる。
勘が鋭いくせにこういうところは鈍いらしい。
「あくまで推測だけど、ぶち当たるであろう問題は2つ。」と前置きをして、私は五条へ視線を向けた。
本当に珍しくしょぼくれている。自他共に『最強』と認める特級呪術師がこんなにしおらしくしているなんて初めて見る光景だ。
「一つ。教師と生徒である。
あの真面目な名無しのことだ。立場の違いもあるし、首を縦に振らすのは簡単じゃないだろうけど……まぁ五条がみっともなく駄々こねばこれはなんとかなるんじゃない?」
「もう一つは?」
思考停止した子供じゃあるまいし。
教えてもらえるのが当たり前のように問うてくる五条に対して、本日何度目かの溜息を吐き出した。
これは、私のあくまで推測。ただの予想だ。
それを教える訳にはいかない。
なぜなら五条の為にも、名無しの為にもならないからだ。
――結局のところ。
相談に乗ることは出来ても、考えて導き出して、彼女の心を動かすためにあれこれ作戦を考えるのは、五条自身なのだから。
「自分で考えな。」と私はつっけんどんに突き放し、本日四杯目の酒を注文するのであった。
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