僕達のロズウェル事件簿
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『学生って言ったらスタバでしょ』
そう言って連れてこられたコーヒーチェーン店。
お洒落な雰囲気ではあるが同時に親しみやすさも感じる店内。
ガヤガヤとした店内は居心地が悪くもなく……しかし手放しで『落ち着く』とは言えない。
有り体に言えば大衆向けの雰囲気であった。
本来ならこういった雰囲気が好きでも嫌いでもない私にとって、ダラダラと時間を潰すには丁度いい――はず、なの、だが。
(視線が痛い。)
背中に目がついていなくても分かる。
男女問わず……いや、圧倒的に女性からの視線が多い。
私一人だけだったらそう目立つ事もないのだが、隣に立つのはモデルが霞む程の容姿を持つ男性だ。
わざわざ脱色したわけでもない、天然の地毛である銀髪は遠目からでも非常に目立つ。
全身真っ黒の出で立ちに、黒いサングラス。
いつもの黒い目隠しだったら『怪しい人』で終わるのだが、如何せん今日はサングラスだ。
黒塗りになったレンズの横からは、隠すのが勿体ない程の青が垣間見える。
横顔のアングルで見たらよく分かる。彼が絶世の美形だと。
そして次に比べられるのは隣にいる私だろう。当然の流れだ。
ただの連れ合いなら周りからの興味は一瞬で失せるのだろうが、呪いのせいで繋いだ手が離せない始末。
一見すれば滑稽なくらい不釣り合いなカップルに見えることだろう。
ここまで視線を集中砲火で受けるとは、正直予想外だった。
「名無し、何にする?」
「……え。」
周囲にばかり意識を向けていたせいで、今の状況がどういったものか思い出すのに数瞬かかってしまった。
「す、すみません。ボーッとしてました」
ここはコーヒーチェーン店。
立っているのは注文口。
レジの前に立っている緑色のエプロンを着けた店員さんは愛想のいい顔で待っており、五条さんは、サングラス越しの瞳を意外そうに丸めていた。
「じゃあ、アイスのカフェラテの、トールサイズで…」と真っ先に目に付いたメニューを頼み、会計を終わらせる。
受渡し口からぶら下がったランプの下で、私は取り繕うように五条さんへ声を掛けた。
「五条さんは何を注文されたんですか?」
「ん?バニラアドショットチョコレートソースダークモカチップクリームフラペチーノ。」
「……なんて?」
飛び出てきたのは呪文メニュー。もしかしたら新手の早口言葉かもしれない。
「とびきり甘いヤツだよ」と答えながら、彼は笑う。
そういえばマグカップのコーヒーにも角砂糖を手掴みで掴んで投入していたことを思い出した。
角砂糖によるコーヒーへの暴挙や、てんこ盛りカスタマイズから察するに、本当に五条さんは甘党のようだ。……糖尿病にならなければいいのだが。
「あ、ごめんね。これテイクアウトに変更してもらっていーい?」
「はい、かしこまりました。」
#10.それはありえない
「あぁいう雰囲気、苦手?」
代々木公園の、ベンチの一角。
適当に軽食も注文し、ピクニックがてら外で食べたのだが…はてさて。
残暑が未だに残る秋口も、風が吹けばそれなりに涼しく気持ちいいものだ。
秋になれば紅葉で色づいた並木道がそれはもう立派になるのだろうが――それはまたもう暫く先の話。
「珍しく居心地悪そうだったから」
少し意外そうに目を丸くした名無しは、咀嚼していたサラダラップを飲み込んで口を開いた。
「すみません、そういうわけじゃ…」
「で、理由は?」
苦手というわけではないが、居心地は悪かったらしい。
一見矛盾しているようで有り得なくもない理由を的確に尋ねられ、名無しは気まずそうに視線を泳がせた。
「…黙秘権は」
「あるわけないでしょ。」
即答。
単純そうで思慮深い。
屈託ないようで甘え下手。
素直なくせに嘘が上手な彼女の本音を聞き出すには、のらりくらりと躱される退路を絶ってしまうのが一番だ。
折角のデートもどきなのだから、楽しんでもらいたいというのは僕のエゴかもしれないが。
口の中に根菜類が残っているのか、それとも言葉を選んでいる最中だからか。
もごもごと所在なさげに口元をまごつかせ、しばしの沈黙の後、彼女はそっと言葉を紡いだ。
「……女の人達の視線が刺さるなぁ、と思って。」
そんなことを気にしていたのかと納得し「あぁ。」と僕は小さく返事を返した。
「気にしなくていいのに〜」
「いや、まぁ、五条さんはそうでしょうけど」
視線を集めることに慣れた僕からすれば、そんなことは日常茶飯事だ。
気にしていたらキリがないし、周りの目なんて『どうでもいい』というのが本音だった。
黄色い声も雑音にしかならないし、容姿に対する賛美も聞き飽きた。
本当に欲しい言葉は彼女からだけだというのに、滅多に聞けないのが現実である。
悩ましげにウンウンと唸る表情も可愛い。
図太い神経をしていると思っていたが、こういうところは年相応で繊細な一面があるのだと微笑ましくなる。
「傍から見たら手を繋いでスタバに入るって、痛々しい学生カップルに見えているんだろうな、と。」
「僕は気にしないけど。」
「私は小心者なんですよ。」
彼女は『痛々しく』見られた、というのが恥ずかしかったということだろうか。
つまり――消去法で導き出した答えに、僕は柄にもなく浮き足立った。
「僕の恋人だと思われてるのは別にいいんだ?」
その問いかけに対して、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべる名無し。
……あれ。これは、ちょっと予想外。
顔を赤らめて慌てふためくかと思いきや。
「良いも何も、それはありえないでしょう」
と。
からりと晴れた空のような笑顔で、僕は人生で初めて振られてしまった。
そう言って連れてこられたコーヒーチェーン店。
お洒落な雰囲気ではあるが同時に親しみやすさも感じる店内。
ガヤガヤとした店内は居心地が悪くもなく……しかし手放しで『落ち着く』とは言えない。
有り体に言えば大衆向けの雰囲気であった。
本来ならこういった雰囲気が好きでも嫌いでもない私にとって、ダラダラと時間を潰すには丁度いい――はず、なの、だが。
(視線が痛い。)
背中に目がついていなくても分かる。
男女問わず……いや、圧倒的に女性からの視線が多い。
私一人だけだったらそう目立つ事もないのだが、隣に立つのはモデルが霞む程の容姿を持つ男性だ。
わざわざ脱色したわけでもない、天然の地毛である銀髪は遠目からでも非常に目立つ。
全身真っ黒の出で立ちに、黒いサングラス。
いつもの黒い目隠しだったら『怪しい人』で終わるのだが、如何せん今日はサングラスだ。
黒塗りになったレンズの横からは、隠すのが勿体ない程の青が垣間見える。
横顔のアングルで見たらよく分かる。彼が絶世の美形だと。
そして次に比べられるのは隣にいる私だろう。当然の流れだ。
ただの連れ合いなら周りからの興味は一瞬で失せるのだろうが、呪いのせいで繋いだ手が離せない始末。
一見すれば滑稽なくらい不釣り合いなカップルに見えることだろう。
ここまで視線を集中砲火で受けるとは、正直予想外だった。
「名無し、何にする?」
「……え。」
周囲にばかり意識を向けていたせいで、今の状況がどういったものか思い出すのに数瞬かかってしまった。
「す、すみません。ボーッとしてました」
ここはコーヒーチェーン店。
立っているのは注文口。
レジの前に立っている緑色のエプロンを着けた店員さんは愛想のいい顔で待っており、五条さんは、サングラス越しの瞳を意外そうに丸めていた。
「じゃあ、アイスのカフェラテの、トールサイズで…」と真っ先に目に付いたメニューを頼み、会計を終わらせる。
受渡し口からぶら下がったランプの下で、私は取り繕うように五条さんへ声を掛けた。
「五条さんは何を注文されたんですか?」
「ん?バニラアドショットチョコレートソースダークモカチップクリームフラペチーノ。」
「……なんて?」
飛び出てきたのは呪文メニュー。もしかしたら新手の早口言葉かもしれない。
「とびきり甘いヤツだよ」と答えながら、彼は笑う。
そういえばマグカップのコーヒーにも角砂糖を手掴みで掴んで投入していたことを思い出した。
角砂糖によるコーヒーへの暴挙や、てんこ盛りカスタマイズから察するに、本当に五条さんは甘党のようだ。……糖尿病にならなければいいのだが。
「あ、ごめんね。これテイクアウトに変更してもらっていーい?」
「はい、かしこまりました。」
#10.それはありえない
「あぁいう雰囲気、苦手?」
代々木公園の、ベンチの一角。
適当に軽食も注文し、ピクニックがてら外で食べたのだが…はてさて。
残暑が未だに残る秋口も、風が吹けばそれなりに涼しく気持ちいいものだ。
秋になれば紅葉で色づいた並木道がそれはもう立派になるのだろうが――それはまたもう暫く先の話。
「珍しく居心地悪そうだったから」
少し意外そうに目を丸くした名無しは、咀嚼していたサラダラップを飲み込んで口を開いた。
「すみません、そういうわけじゃ…」
「で、理由は?」
苦手というわけではないが、居心地は悪かったらしい。
一見矛盾しているようで有り得なくもない理由を的確に尋ねられ、名無しは気まずそうに視線を泳がせた。
「…黙秘権は」
「あるわけないでしょ。」
即答。
単純そうで思慮深い。
屈託ないようで甘え下手。
素直なくせに嘘が上手な彼女の本音を聞き出すには、のらりくらりと躱される退路を絶ってしまうのが一番だ。
折角のデートもどきなのだから、楽しんでもらいたいというのは僕のエゴかもしれないが。
口の中に根菜類が残っているのか、それとも言葉を選んでいる最中だからか。
もごもごと所在なさげに口元をまごつかせ、しばしの沈黙の後、彼女はそっと言葉を紡いだ。
「……女の人達の視線が刺さるなぁ、と思って。」
そんなことを気にしていたのかと納得し「あぁ。」と僕は小さく返事を返した。
「気にしなくていいのに〜」
「いや、まぁ、五条さんはそうでしょうけど」
視線を集めることに慣れた僕からすれば、そんなことは日常茶飯事だ。
気にしていたらキリがないし、周りの目なんて『どうでもいい』というのが本音だった。
黄色い声も雑音にしかならないし、容姿に対する賛美も聞き飽きた。
本当に欲しい言葉は彼女からだけだというのに、滅多に聞けないのが現実である。
悩ましげにウンウンと唸る表情も可愛い。
図太い神経をしていると思っていたが、こういうところは年相応で繊細な一面があるのだと微笑ましくなる。
「傍から見たら手を繋いでスタバに入るって、痛々しい学生カップルに見えているんだろうな、と。」
「僕は気にしないけど。」
「私は小心者なんですよ。」
彼女は『痛々しく』見られた、というのが恥ずかしかったということだろうか。
つまり――消去法で導き出した答えに、僕は柄にもなく浮き足立った。
「僕の恋人だと思われてるのは別にいいんだ?」
その問いかけに対して、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべる名無し。
……あれ。これは、ちょっと予想外。
顔を赤らめて慌てふためくかと思いきや。
「良いも何も、それはありえないでしょう」
と。
からりと晴れた空のような笑顔で、僕は人生で初めて振られてしまった。