僕達のロズウェル事件簿
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「思ったんですけど、私の腕を切り落としたら解決しませんかね」
ようやくベッドに引きずり込んだ後、可憐な少女の口から出てきた言葉とは思えない、物騒な台詞が転げ落ちた。
不老不死の呪いは、厄介の一言に尽きる。
彼女のような性格なら尚更だろう。
自分自身の命の価値は徐々に狂い、体の一部ですらトイレットペーパー程度の消耗品だと錯覚している。
痛くないわけが無い。
火の中へ飛び込む蛾のように、自ら痛みを伴う選択をしなくてもいいのに。
僕が言うのもなんだが、その歪んだ価値観は矯正する必要がありそうだ。
「それはやめといた方がいいんじゃない?
……こういう類の呪いは『縛り』のような条件をつけるから、祓った後もしつこく呪いが続いてるわけだし。正攻法で解呪しなかった場合、どんなしっぺ返しが来るか分からないしね。まぁ、飽きるまで付き合うのが得策だよ。」
名無しは、賢い。
常に無理のない範囲での最善の選択を、ちゃんと理解して選び取れる子だ。
……『無理のない範囲』に自分自身を勘定に入れていないのは困ったものだが。
「なるほど、じゃあダメですね」と言いながら小さく頷く彼女を見て、僕はつい盛大な溜息を漏らしてしまった。
「あのさ、大前提で僕がそれを許すと思ってんの?」
許すわけがない。
『くっつくなら大丈夫でしょ、やってみよっか』と言うとでも思ったのか。
いや、普段なら言うかもしれない。
何とも思っていない相手なら躊躇うことなく言っていただろう。
どうしても、この子にそんな軽率な発言を向けるのは、僕自身が許せなかった。
「えっと、くっつくし、なんなら生えてくるのでいいかな、って」
「…………すみません、悪癖ですね。」
「本当に。」
呆れて無言の圧を掛けてやれば、僕が怒っている原因を察したのか名無しが発言を改めた。
「ま、悪い癖だと分かってるならいいや」
自由の利く右手でくしゃりと頭を撫でれば、反省・困惑・照れが混じった苦笑いを、困ったように小さく浮かべる。
風呂上がりの黒髪はいつもよりふわふわで、ずっと指に絡めて遊べそうだった。
「ご迷惑じゃないですか?」
「いんや。僕は別にこの状況、満更でもないし〜」
言葉に、裏はない。
心の底からの本心なのだ。
身体を捩り、隣で姿勢よく横になっていた名無しへ身体を向ける。
傷一つない、生まれたての赤子のように透き通った黒い双眸。
それは薄暗い部屋の中でも眩しいくらい真っ直ぐなものだった。
「それは、面倒な会議に出なくていいからですか?」
「それは盲点だったかも。」
なるほど、そう解釈したか。
彼女らしい――いや、『五条悟』を理解して、咀嚼して、いかにもいつもの僕が考えつきそうな結論だった。
まぁ本当の理由は、もっと陳腐で、浮ついてて、途轍もなく単純な――そう。
『名無しと一緒にいられるから』なんて答えたら、きっと『またまたご冗談を』って笑われるに違いない。
名無しの髪を弄んでいた手をするりと背中へ回せば、相変わらず薄い身体に目眩がする。
――細いのにやわらかい。
こんな細い体に内臓が本当に入っているのか疑わしくなるくらいだ。
会った当初の骨と皮だけのような肉付きではないにせよ、力を込めてしまえば折れてしまいそうな身体に高揚とは違う高鳴りを感じた。
僕の使っている物とは違うシャンプーの匂い。
恐らくドラッグストアで売っているような、市販のシャンプーや石鹸だろう。
どれも高価なものじゃないはずなのに、彼女が纏うだけでこんなにもいい香りになるのはどういう仕組みなんだ。
「あの、五条さん、私を抱き枕か何かと勘違いされていませんか…?」
「えー、だって名無し抱き心地いいんだもん」
同居していた時も感じていたこと。
腕の中に名無しをすっぽり収めれば、不思議と気持ちが満たされた。
一応弁明しておくと、スキンシップで他の女を抱き締めたことは何度もあったが、こんな気持ちになったのは名無しが初めてだった。
落ち着くのに、落ち着かない。
満たされているのに、もっと欲しくなる。
――何となく、自覚はしていた。
『あーあ教師なのに』と笑う自分と、『でも仕方ないよね』と開き直る自分が鬩ぎ合う。
(あぁ、そっか。僕、名無しが好きなんだ。)
ストンと、理解した。
友愛とは全く色の違う、チリチリと燻るようなこの感情 の名前は、きっと――
#05.はじめての呪い
「名無し、いい匂い。」
残暑がまだまだ厳しい、秋の夜。
綿入りのタオルケットを肩まで引き摺りあげて、僕は微睡むような惰眠を貪るのであった。
ようやくベッドに引きずり込んだ後、可憐な少女の口から出てきた言葉とは思えない、物騒な台詞が転げ落ちた。
不老不死の呪いは、厄介の一言に尽きる。
彼女のような性格なら尚更だろう。
自分自身の命の価値は徐々に狂い、体の一部ですらトイレットペーパー程度の消耗品だと錯覚している。
痛くないわけが無い。
火の中へ飛び込む蛾のように、自ら痛みを伴う選択をしなくてもいいのに。
僕が言うのもなんだが、その歪んだ価値観は矯正する必要がありそうだ。
「それはやめといた方がいいんじゃない?
……こういう類の呪いは『縛り』のような条件をつけるから、祓った後もしつこく呪いが続いてるわけだし。正攻法で解呪しなかった場合、どんなしっぺ返しが来るか分からないしね。まぁ、飽きるまで付き合うのが得策だよ。」
名無しは、賢い。
常に無理のない範囲での最善の選択を、ちゃんと理解して選び取れる子だ。
……『無理のない範囲』に自分自身を勘定に入れていないのは困ったものだが。
「なるほど、じゃあダメですね」と言いながら小さく頷く彼女を見て、僕はつい盛大な溜息を漏らしてしまった。
「あのさ、大前提で僕がそれを許すと思ってんの?」
許すわけがない。
『くっつくなら大丈夫でしょ、やってみよっか』と言うとでも思ったのか。
いや、普段なら言うかもしれない。
何とも思っていない相手なら躊躇うことなく言っていただろう。
どうしても、この子にそんな軽率な発言を向けるのは、僕自身が許せなかった。
「えっと、くっつくし、なんなら生えてくるのでいいかな、って」
「…………すみません、悪癖ですね。」
「本当に。」
呆れて無言の圧を掛けてやれば、僕が怒っている原因を察したのか名無しが発言を改めた。
「ま、悪い癖だと分かってるならいいや」
自由の利く右手でくしゃりと頭を撫でれば、反省・困惑・照れが混じった苦笑いを、困ったように小さく浮かべる。
風呂上がりの黒髪はいつもよりふわふわで、ずっと指に絡めて遊べそうだった。
「ご迷惑じゃないですか?」
「いんや。僕は別にこの状況、満更でもないし〜」
言葉に、裏はない。
心の底からの本心なのだ。
身体を捩り、隣で姿勢よく横になっていた名無しへ身体を向ける。
傷一つない、生まれたての赤子のように透き通った黒い双眸。
それは薄暗い部屋の中でも眩しいくらい真っ直ぐなものだった。
「それは、面倒な会議に出なくていいからですか?」
「それは盲点だったかも。」
なるほど、そう解釈したか。
彼女らしい――いや、『五条悟』を理解して、咀嚼して、いかにもいつもの僕が考えつきそうな結論だった。
まぁ本当の理由は、もっと陳腐で、浮ついてて、途轍もなく単純な――そう。
『名無しと一緒にいられるから』なんて答えたら、きっと『またまたご冗談を』って笑われるに違いない。
名無しの髪を弄んでいた手をするりと背中へ回せば、相変わらず薄い身体に目眩がする。
――細いのにやわらかい。
こんな細い体に内臓が本当に入っているのか疑わしくなるくらいだ。
会った当初の骨と皮だけのような肉付きではないにせよ、力を込めてしまえば折れてしまいそうな身体に高揚とは違う高鳴りを感じた。
僕の使っている物とは違うシャンプーの匂い。
恐らくドラッグストアで売っているような、市販のシャンプーや石鹸だろう。
どれも高価なものじゃないはずなのに、彼女が纏うだけでこんなにもいい香りになるのはどういう仕組みなんだ。
「あの、五条さん、私を抱き枕か何かと勘違いされていませんか…?」
「えー、だって名無し抱き心地いいんだもん」
同居していた時も感じていたこと。
腕の中に名無しをすっぽり収めれば、不思議と気持ちが満たされた。
一応弁明しておくと、スキンシップで他の女を抱き締めたことは何度もあったが、こんな気持ちになったのは名無しが初めてだった。
落ち着くのに、落ち着かない。
満たされているのに、もっと欲しくなる。
――何となく、自覚はしていた。
『あーあ教師なのに』と笑う自分と、『でも仕方ないよね』と開き直る自分が鬩ぎ合う。
(あぁ、そっか。僕、名無しが好きなんだ。)
ストンと、理解した。
友愛とは全く色の違う、チリチリと燻るようなこの
#05.はじめての呪い
「名無し、いい匂い。」
残暑がまだまだ厳しい、秋の夜。
綿入りのタオルケットを肩まで引き摺りあげて、僕は微睡むような惰眠を貪るのであった。