僕達のロズウェル事件簿
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつもの実地教育だったはずだ。
何事もなく平和的に終わるはずだった。
「どうされたんですか、それ」
――つい、聞いてしまった。
海岸近くに停めた車は残暑の日差しも相まって、肉でも焼けるのではないかと勘違いしてしまいそうなくらい熱い。
黒いセダンだから尚更だろう。
車の中で待っていればいいものを、横暴な先輩といたいけな学生である後輩が呪霊を祓っている最中だからか、エアコンの効いた涼しい車内で待っているのは何だか気が引けてしまった。
――近所のコンビニエンスストアで買った冷たいお茶と、恐らく五条さんが『疲れたからなんかアイス食べたいよね。ね、伊地知』と要求してくるだろうから、小型のクーラーボックスに保冷用の氷とハーゲンダッツのクリスピーサンドを用意していた。
完璧な待ち時間だったはずだ。
それがどうしてこうなった。
蛸の墨らしきものを頭から被った、五条さんとななしさん。
炎天下の中『手を繋いで』戻ってきた。
余談かもしれないが、五条さんはここ最近でずば抜けて機嫌が良く、鼻歌が聞こえてきそうだ。
一方、ななしさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。可愛い顔が勿体ない。
「仲良しさんっぽいでしょ。」
「いや、いえ。そうじゃなくて」
私が聞きたいのはそこじゃない。
「えへ。離れなくなっちゃった」
「は!?」
祓った呪霊の、所謂『鼬の最後っ屁』。
妙な呪いで手が離れなくなったらしい。あぁ、頭が痛い。
――高専へ二人を送り届けた後、時間差で『そういえば無下限術式で避けられたのでは』と気付いた時、ななしさんの気苦労を察して何だが胃が痛くなった……気がした。
#01.御手を拝借
「どうするんですか、当面の間」
「まぁなんとかなるっしょ」
高専へ戻る道すがら、テイクアウトした夕飯代わりのピザを食べながら五条さんはあっけらかんと笑った。
勿論、店に寄ってくれたのも買ってきてくれたのも伊地知さんだ。
……今度何かお礼をしなければ。
「呪霊は祓ったし、呪いの効果は……短くて1日、長くて1ヶ月くらいでなくなるんじゃない?」
「なんてアバウトな…」
いや、肝心の呪霊を祓ってしまったのだからアバウトなのは仕方がない。
仕方がないことなのだが。
「でも良かったね。『ずっと手を繋いでおく呪い』なんて、可愛いもんじゃないの。」
「かわ…?まぁ…五条さんの命に関わる呪いじゃなくて確かによかった、ん、です…けど」
人肌くらいに冷めてしまったマルゲリータを頬張りながら、私は繋いだまま離れない右手へ視線を落とした。
――大きな手。
薄い私の手のひらを握り潰せそうな力強い手。
眩しい程に綺麗な顔立ちとは裏腹に、ゴツゴツと骨張った五条さんの手は『男の人の手』そのものだった。
「冷静に考えてください。衣食住はどうされるんですか?」
「ん〜?どこでも一緒だね。」
『トロですか』と喉まで出かかった言葉をぐっと呑み込み、私は半ば呆れながら溜息を零してしまった。
「……あの、お風呂とか…」
なんならトイレだってそうだ。
挙げてしまえばキリがない。
呪いの程度は可愛らしいものかもしれないが、それは人間の尊厳やプライバシーを度外視した評価だろう。
私の言わんとしていることが伝わったのだろう。
目の前の保護者兼担任である特級呪術師は、心底面白そうにニヤリと笑った。
「名無し、やらし〜」
「どうしてそうなるんですか!他にも、色々、」
「トイレとか?一緒に入るしかないんじゃない?
大丈夫だよ、名無しの大きい方見ても幻滅したりしないからさ」
「う、わぁ…………」
悪びれなく言い放つ五条さん。
こういうところが七海さんの表情を歪ませる原因になっているのだろう。
その発言、食事中に聞きたくなかった。
「五条さんの新しい側面を見る度にドン引きしてしまうのは何ででしょうね…」
「マジ顔で言うのはやめようよ」
じゃあ小学二年生レベルの御下劣話を突然ぶち込んでくるのをやめてください。
……と言ってもきっと直らないのだろう。
でなければ彼の周りのまともな大人達が頭を抱えることなどないはずだ。
トマトソースベースのピザに茄子やベーコン、サラミなどボリュームたっぷりのピザを頬張りながら、五条さんはむぅと口先を尖らせる。
口の端についたままの真っ赤なソースも相まって、何だか幼く見えてしまったのは内緒だ。
「ほら、五条さん。ソースついてますよ」
毛穴レスの肌を、ピザと同封されていた紙ナプキンでそっと撫でる。
トマトソースというよりケチャップに近い、ジャンクなソースを拭われながら五条さんはそっと呟いた。
「……………ずっとこれでもいいかもね……」
「縁起でもないことを言わないでください。」
何事もなく平和的に終わるはずだった。
「どうされたんですか、それ」
――つい、聞いてしまった。
海岸近くに停めた車は残暑の日差しも相まって、肉でも焼けるのではないかと勘違いしてしまいそうなくらい熱い。
黒いセダンだから尚更だろう。
車の中で待っていればいいものを、横暴な先輩といたいけな学生である後輩が呪霊を祓っている最中だからか、エアコンの効いた涼しい車内で待っているのは何だか気が引けてしまった。
――近所のコンビニエンスストアで買った冷たいお茶と、恐らく五条さんが『疲れたからなんかアイス食べたいよね。ね、伊地知』と要求してくるだろうから、小型のクーラーボックスに保冷用の氷とハーゲンダッツのクリスピーサンドを用意していた。
完璧な待ち時間だったはずだ。
それがどうしてこうなった。
蛸の墨らしきものを頭から被った、五条さんとななしさん。
炎天下の中『手を繋いで』戻ってきた。
余談かもしれないが、五条さんはここ最近でずば抜けて機嫌が良く、鼻歌が聞こえてきそうだ。
一方、ななしさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。可愛い顔が勿体ない。
「仲良しさんっぽいでしょ。」
「いや、いえ。そうじゃなくて」
私が聞きたいのはそこじゃない。
「えへ。離れなくなっちゃった」
「は!?」
祓った呪霊の、所謂『鼬の最後っ屁』。
妙な呪いで手が離れなくなったらしい。あぁ、頭が痛い。
――高専へ二人を送り届けた後、時間差で『そういえば無下限術式で避けられたのでは』と気付いた時、ななしさんの気苦労を察して何だが胃が痛くなった……気がした。
#01.御手を拝借
「どうするんですか、当面の間」
「まぁなんとかなるっしょ」
高専へ戻る道すがら、テイクアウトした夕飯代わりのピザを食べながら五条さんはあっけらかんと笑った。
勿論、店に寄ってくれたのも買ってきてくれたのも伊地知さんだ。
……今度何かお礼をしなければ。
「呪霊は祓ったし、呪いの効果は……短くて1日、長くて1ヶ月くらいでなくなるんじゃない?」
「なんてアバウトな…」
いや、肝心の呪霊を祓ってしまったのだからアバウトなのは仕方がない。
仕方がないことなのだが。
「でも良かったね。『ずっと手を繋いでおく呪い』なんて、可愛いもんじゃないの。」
「かわ…?まぁ…五条さんの命に関わる呪いじゃなくて確かによかった、ん、です…けど」
人肌くらいに冷めてしまったマルゲリータを頬張りながら、私は繋いだまま離れない右手へ視線を落とした。
――大きな手。
薄い私の手のひらを握り潰せそうな力強い手。
眩しい程に綺麗な顔立ちとは裏腹に、ゴツゴツと骨張った五条さんの手は『男の人の手』そのものだった。
「冷静に考えてください。衣食住はどうされるんですか?」
「ん〜?どこでも一緒だね。」
『トロですか』と喉まで出かかった言葉をぐっと呑み込み、私は半ば呆れながら溜息を零してしまった。
「……あの、お風呂とか…」
なんならトイレだってそうだ。
挙げてしまえばキリがない。
呪いの程度は可愛らしいものかもしれないが、それは人間の尊厳やプライバシーを度外視した評価だろう。
私の言わんとしていることが伝わったのだろう。
目の前の保護者兼担任である特級呪術師は、心底面白そうにニヤリと笑った。
「名無し、やらし〜」
「どうしてそうなるんですか!他にも、色々、」
「トイレとか?一緒に入るしかないんじゃない?
大丈夫だよ、名無しの大きい方見ても幻滅したりしないからさ」
「う、わぁ…………」
悪びれなく言い放つ五条さん。
こういうところが七海さんの表情を歪ませる原因になっているのだろう。
その発言、食事中に聞きたくなかった。
「五条さんの新しい側面を見る度にドン引きしてしまうのは何ででしょうね…」
「マジ顔で言うのはやめようよ」
じゃあ小学二年生レベルの御下劣話を突然ぶち込んでくるのをやめてください。
……と言ってもきっと直らないのだろう。
でなければ彼の周りのまともな大人達が頭を抱えることなどないはずだ。
トマトソースベースのピザに茄子やベーコン、サラミなどボリュームたっぷりのピザを頬張りながら、五条さんはむぅと口先を尖らせる。
口の端についたままの真っ赤なソースも相まって、何だか幼く見えてしまったのは内緒だ。
「ほら、五条さん。ソースついてますよ」
毛穴レスの肌を、ピザと同封されていた紙ナプキンでそっと撫でる。
トマトソースというよりケチャップに近い、ジャンクなソースを拭われながら五条さんはそっと呟いた。
「……………ずっとこれでもいいかもね……」
「縁起でもないことを言わないでください。」
1/11ページ