紫黒の雨水
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最初は、白髪の男が『変なもの』を連れて来たとしか思えなかった。
紫黒の雨水#01
「なんだ、それ。」
俺は、柄にもなく声が震えた。
人の形をした『それ』。
見ようとして見ているわけでもないのに、その『呪い』は濃く、目が逸らせず、息が詰まるほどだった。
仕事帰りに寄ったのだろう。
この男は教職をしていると聞いているので、もしかしたらその『女の形をしたもの』は奴の生徒か同僚かもしれない。
――しかし呪術師が、呪いを連れて来るか?普通。
俺や津美紀よりも少し上か、そう歳が変わらなさそうな女。
俺の術式とは全く異なる……そう、例えるなら、深い深い、身の毛もよだつような夜の海。
沼よりも濃い、得体の知れないもの。そのものだった。
「なんのこと?」
「しらばっくれんな。」
「ごめんねぇ、名無し。恵ったら今反抗期みたい。」
「気にしませんよ。あ、これ手土産のケーキです。よかったらお二人でどうぞ。」
名無しと呼ばれた女は、角がキッチリと立ったケーキ箱を津美紀へ差し出した。
俺は、考えるまでもなくその箱に手を伸ばし――
「あっ!恵、なんてこと!」
叩き、落とした。
津美紀が本気で怒っている声。
白髪の男はサングラスの向こうで僅かに目を見開いているだけで、特に表情は微動だにしていなかった。
肝心の女はというと――
「いえ。大丈夫です。まぁ真っ当な反応ですよね。」
うんうんと頷きながらケーキ箱を拾い上げ、隣にいた白髪の……五条悟へ手渡した。
「じゃあ、私は高専へ先に戻ってますね。」
「ん。気をつけてね。」
「大丈夫ですよ、子供じゃありませんから」
くしゃりと女を撫でる五条。
そんな得体の知れないものに平気で触れられる神経が、俺には理解できなかった。
「じゃあね、津美紀さん。恵くん。またね」
怒った素振りを微塵も見せず、俺と津美紀が住むアパートを後にする女。
――それが、俺がななし名無しに、初めて会った日のこと。
寒い寒い、中二の冬だった。
紫黒の雨水#01
「なんだ、それ。」
俺は、柄にもなく声が震えた。
人の形をした『それ』。
見ようとして見ているわけでもないのに、その『呪い』は濃く、目が逸らせず、息が詰まるほどだった。
仕事帰りに寄ったのだろう。
この男は教職をしていると聞いているので、もしかしたらその『女の形をしたもの』は奴の生徒か同僚かもしれない。
――しかし呪術師が、呪いを連れて来るか?普通。
俺や津美紀よりも少し上か、そう歳が変わらなさそうな女。
俺の術式とは全く異なる……そう、例えるなら、深い深い、身の毛もよだつような夜の海。
沼よりも濃い、得体の知れないもの。そのものだった。
「なんのこと?」
「しらばっくれんな。」
「ごめんねぇ、名無し。恵ったら今反抗期みたい。」
「気にしませんよ。あ、これ手土産のケーキです。よかったらお二人でどうぞ。」
名無しと呼ばれた女は、角がキッチリと立ったケーキ箱を津美紀へ差し出した。
俺は、考えるまでもなくその箱に手を伸ばし――
「あっ!恵、なんてこと!」
叩き、落とした。
津美紀が本気で怒っている声。
白髪の男はサングラスの向こうで僅かに目を見開いているだけで、特に表情は微動だにしていなかった。
肝心の女はというと――
「いえ。大丈夫です。まぁ真っ当な反応ですよね。」
うんうんと頷きながらケーキ箱を拾い上げ、隣にいた白髪の……五条悟へ手渡した。
「じゃあ、私は高専へ先に戻ってますね。」
「ん。気をつけてね。」
「大丈夫ですよ、子供じゃありませんから」
くしゃりと女を撫でる五条。
そんな得体の知れないものに平気で触れられる神経が、俺には理解できなかった。
「じゃあね、津美紀さん。恵くん。またね」
怒った素振りを微塵も見せず、俺と津美紀が住むアパートを後にする女。
――それが、俺がななし名無しに、初めて会った日のこと。
寒い寒い、中二の冬だった。
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