萌黄の清明
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「げ。」
車の中。
もうすぐ京都駅に着く――というところで、五条の携帯が一鳴りした。
「……歌姫〜、悪いんだけど本家寄ってくんない?」
「は?」
「近くに来たなら顔を出せ、だってさ。」
めんどくせ。
反抗期の中学生のように忌々しそうに呟き、大袈裟に溜息を吐き出す五条。
「……あの、本家って?」
京都駅のターミナルは目の前だったというのに、駅から離れていく車。
大通りを北上し、向かう先は京都の辺境。
「んー、五条家の本家。」
「…………はい?」
萌黄の清明#09
時代劇に出てくる、立派な武家屋敷はこんな感じだった気がする。
『お帰りなさいませ、悟様』
屋敷を歩く度、次々と頭を垂れる家人。
それは五条よりも若い人間から、五条よりも随分歳を取っている大人まで。
《ななし、預かっておこうか?》
歌姫がそう申し出てくれたが、当の五条は《いや…》と珍しく歯切れ悪く断っていた。
歌姫のところで大人しく待っておく。なぜそう主張しなかったのかと、名無しは激しく後悔していた。
なにせ、物凄く、居心地が悪い。
五条の後ろにつき、縮こまって歩く。
頭を下げているのは五条に対して、と分かっているが、それでも人とすれ違う度に会釈してしまう。
……張子の虎にでもなった気分だった。
『名無しはここで待っててくれる?』
そう言われて無駄に広い和室に通されて、一時間ほどだろうか。
ポケットからスマホの画面をちらりと見れば、時間はすっかり夕飯時だった。
出されたお茶はすっかり温くなってしまい、上品な味の茶菓子も食べてしまった。
何度目かの足の痺れを感じ、厚みがあるフカフカの座布団の上でそろりと足を崩す。
これで痺れが切れたのは三度目くらいだろうか。流石に長時間の正座は慣れない。
(凄い目で、見られたなぁ)
茶を出してくれた若い女性。
怯えた顔。
青ざめた表情。
目が合えば露骨に避けられ、出してくれた湯呑みは小さく揺れる程に震えていた。
五条家は、呪術師の家系。御三家の一つ。
ならばここにいる人間殆どが呪術師なのだろう。
そんな中『最強』と名高い五条悟が、得体の知れない『特級呪具』を持って帰ってきたとしたら――
(呪いの形を視認できなくても、感知することが出来るとしたら。)
お茶を出してくれた人や、家の中ですれ違った人達には悪いことをした。
さぞかし気持ち悪いことこの上なかっただろうに。
(……早く五条先生、来てくれないかな)
膝を崩し、ぼんやりと畳に視線を落とす。
暇つぶしに畳の目の数でも数えようか。
名無しは小さく溜息をついて、瞼をそっと落とした。
車の中。
もうすぐ京都駅に着く――というところで、五条の携帯が一鳴りした。
「……歌姫〜、悪いんだけど本家寄ってくんない?」
「は?」
「近くに来たなら顔を出せ、だってさ。」
めんどくせ。
反抗期の中学生のように忌々しそうに呟き、大袈裟に溜息を吐き出す五条。
「……あの、本家って?」
京都駅のターミナルは目の前だったというのに、駅から離れていく車。
大通りを北上し、向かう先は京都の辺境。
「んー、五条家の本家。」
「…………はい?」
萌黄の清明#09
時代劇に出てくる、立派な武家屋敷はこんな感じだった気がする。
『お帰りなさいませ、悟様』
屋敷を歩く度、次々と頭を垂れる家人。
それは五条よりも若い人間から、五条よりも随分歳を取っている大人まで。
《ななし、預かっておこうか?》
歌姫がそう申し出てくれたが、当の五条は《いや…》と珍しく歯切れ悪く断っていた。
歌姫のところで大人しく待っておく。なぜそう主張しなかったのかと、名無しは激しく後悔していた。
なにせ、物凄く、居心地が悪い。
五条の後ろにつき、縮こまって歩く。
頭を下げているのは五条に対して、と分かっているが、それでも人とすれ違う度に会釈してしまう。
……張子の虎にでもなった気分だった。
『名無しはここで待っててくれる?』
そう言われて無駄に広い和室に通されて、一時間ほどだろうか。
ポケットからスマホの画面をちらりと見れば、時間はすっかり夕飯時だった。
出されたお茶はすっかり温くなってしまい、上品な味の茶菓子も食べてしまった。
何度目かの足の痺れを感じ、厚みがあるフカフカの座布団の上でそろりと足を崩す。
これで痺れが切れたのは三度目くらいだろうか。流石に長時間の正座は慣れない。
(凄い目で、見られたなぁ)
茶を出してくれた若い女性。
怯えた顔。
青ざめた表情。
目が合えば露骨に避けられ、出してくれた湯呑みは小さく揺れる程に震えていた。
五条家は、呪術師の家系。御三家の一つ。
ならばここにいる人間殆どが呪術師なのだろう。
そんな中『最強』と名高い五条悟が、得体の知れない『特級呪具』を持って帰ってきたとしたら――
(呪いの形を視認できなくても、感知することが出来るとしたら。)
お茶を出してくれた人や、家の中ですれ違った人達には悪いことをした。
さぞかし気持ち悪いことこの上なかっただろうに。
(……早く五条先生、来てくれないかな)
膝を崩し、ぼんやりと畳に視線を落とす。
暇つぶしに畳の目の数でも数えようか。
名無しは小さく溜息をついて、瞼をそっと落とした。