萌黄の清明
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最近、名無しは暇さえあれば本を買っている。
それが漫画や雑誌なら年相応だと笑えるのだが、買ってくるのは小難しい本ばかり。
僕でもスラスラ読めるものから、明らかに専門書めいたものまである。
内容は難解。
自主練の時間は本を片手に色々試しているようだ。
先日はいかに鋭い氷の刃を生成できるか、媒介で持ち歩いている水を用いての実験。
次の日は術式で水圧を限界まで高めた『水の刀』を生成しての試験。これは水圧の維持が難しくて途中で術が解けていた。
一週間ほど前は空気中の水分を『分解』し、水素と酸素を生成、呪力を用いて爆発させる実験。
他にも火や草木の種、媒介の金属を利用した試行錯誤の実験が繰り返されている。
知識を取り込んで、術式を構築して、武器にする。
延々とその繰り返し。
多少無理をして怪我しても、すぐ治るからか自身の安全には配慮していないことが欠点か。
本人曰く『周りには気を付けているのでご安心ください』と言っていたが、五条が心配なのはそこじゃない。
「あーあ、また寝落ちしてる。」
出張から帰ってきて寮へ顔を出せば、まだ夜は肌寒いというのに机にうつ伏して眠っているではないか。
備え付けの勉強机の上には積み上げられた本。
付箋が至る所に挟まれ、術式の走り書きメモが書かれたルーズリーフが机の上に散乱していた。
受験前の学生の机よりも散らかっているかもしれない。
シャーペンを握りしめたまま眠っているせいか、途中で文字がミミズのように伸びている。
読みやすい、整然とした字がゆるゆると砕け、最後は何を書いているのか分からない暗号になっているのは少し面白かったが。
「名無し〜。ここで寝てると風邪引くよ〜」
「んー……」
起きているのか無意識なのか。
何とも気のない返事だけが返ってきて、再び寝息が繰り返される。
眠りが比較的浅い彼女がここまで熟睡しているのは、本当に珍しい。
――いや、さほど珍しくもなくなったか。
最近はずっとこんな感じだ。
夜に部屋を訪れたら、大抵途中で行き倒れている。
なので時折こうして高専へ『とんで』様子を見に来るのだが……。
(無防備だなぁ。)
寝顔もさることながら、抱き上げても起きやしない。
昼間あれだけ呪力が空っぽになるまで術式を行使しているのだから、疲労感が半端ではないのはわかってはいるが。
「……悪〜いオオカミに食べられちゃうぞ?」
なんて。
寮のベッドに横たわらせ、布団を肩まで掛けてやる。
出会った当初より随分と肉付きがよくなった頬を撫でれば、擽ったそうに寝顔がそっと緩む。
それがなんだか嬉しくて、頬から目尻へ、目尻から柔らかい耳たぶへ。五条は堪能するように指を滑らせた。
(あー、可愛い。)
これは父性ではない。自覚している。
まだ彼女の前では『五条先生』としての理性がちゃんと上回っている。
だからまだ大丈夫だ。……まだ。
萌黄の清明#04
「……これじゃあ人魚姫というより、眠り姫だねぇ。」
キスしたら起きてくれるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、五条はそっと名無しの唇を指先でなぞった。
それが漫画や雑誌なら年相応だと笑えるのだが、買ってくるのは小難しい本ばかり。
僕でもスラスラ読めるものから、明らかに専門書めいたものまである。
内容は難解。
自主練の時間は本を片手に色々試しているようだ。
先日はいかに鋭い氷の刃を生成できるか、媒介で持ち歩いている水を用いての実験。
次の日は術式で水圧を限界まで高めた『水の刀』を生成しての試験。これは水圧の維持が難しくて途中で術が解けていた。
一週間ほど前は空気中の水分を『分解』し、水素と酸素を生成、呪力を用いて爆発させる実験。
他にも火や草木の種、媒介の金属を利用した試行錯誤の実験が繰り返されている。
知識を取り込んで、術式を構築して、武器にする。
延々とその繰り返し。
多少無理をして怪我しても、すぐ治るからか自身の安全には配慮していないことが欠点か。
本人曰く『周りには気を付けているのでご安心ください』と言っていたが、五条が心配なのはそこじゃない。
「あーあ、また寝落ちしてる。」
出張から帰ってきて寮へ顔を出せば、まだ夜は肌寒いというのに机にうつ伏して眠っているではないか。
備え付けの勉強机の上には積み上げられた本。
付箋が至る所に挟まれ、術式の走り書きメモが書かれたルーズリーフが机の上に散乱していた。
受験前の学生の机よりも散らかっているかもしれない。
シャーペンを握りしめたまま眠っているせいか、途中で文字がミミズのように伸びている。
読みやすい、整然とした字がゆるゆると砕け、最後は何を書いているのか分からない暗号になっているのは少し面白かったが。
「名無し〜。ここで寝てると風邪引くよ〜」
「んー……」
起きているのか無意識なのか。
何とも気のない返事だけが返ってきて、再び寝息が繰り返される。
眠りが比較的浅い彼女がここまで熟睡しているのは、本当に珍しい。
――いや、さほど珍しくもなくなったか。
最近はずっとこんな感じだ。
夜に部屋を訪れたら、大抵途中で行き倒れている。
なので時折こうして高専へ『とんで』様子を見に来るのだが……。
(無防備だなぁ。)
寝顔もさることながら、抱き上げても起きやしない。
昼間あれだけ呪力が空っぽになるまで術式を行使しているのだから、疲労感が半端ではないのはわかってはいるが。
「……悪〜いオオカミに食べられちゃうぞ?」
なんて。
寮のベッドに横たわらせ、布団を肩まで掛けてやる。
出会った当初より随分と肉付きがよくなった頬を撫でれば、擽ったそうに寝顔がそっと緩む。
それがなんだか嬉しくて、頬から目尻へ、目尻から柔らかい耳たぶへ。五条は堪能するように指を滑らせた。
(あー、可愛い。)
これは父性ではない。自覚している。
まだ彼女の前では『五条先生』としての理性がちゃんと上回っている。
だからまだ大丈夫だ。……まだ。
萌黄の清明#04
「……これじゃあ人魚姫というより、眠り姫だねぇ。」
キスしたら起きてくれるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、五条はそっと名無しの唇を指先でなぞった。