青藍の冬至
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消毒液の、匂い。
白い壁紙。ふわりと揺れるカーテン。
冷たい空気が僅かに開けられた窓の隙間から吹き抜けると同時に、ストーブの上にあるヤカンから漏れる湯気がゆらりと霞む。
暖かく、湿度もある。そして換気がキチンとされている清潔な部屋。
消毒液や包帯が陳列された棚を見て、ここは医務室なのだと理解した。
「起きたかい?」
くるりと回る事務椅子。
白衣と黒髪を揺らして振り返ったのは、
「……えっと、家入さん…?」
「おや。覚えておいてくれたのかい?光栄だね」
特徴的な泣きぼくろ。
寝不足なのかほんのり出来た隈。
それでも一目で『美人』だと形容できる姿は、それはとても印象的だった。
「頭が痛いとか、フラフラしたりとかはない?」
「だ、大丈夫です。診てくださってありがとうございます」
気を失う前の光景と、今目の前に広がる光景。
それがあまりにも違いすぎて、状況が呑み込めていないのが現実だ。
確かに言えることは……ここは高専で、私は生きている。
「…………あの、五条さんは」
「起きて早々アイツに会いたい?」
「い、いえ。そういうのじゃなくて」
確かにあの森に五条さんがいた。
消去法で彼が高専へ連れ帰ってくれたのだろう。出来ればお礼が言いたかった。
「はぁい、呼んだ?」
「う、わ!?」
「五条。窓から入るのはよしな…」
少しだけ開いていた窓が前ぶれなくガラリと開け放たれる。
そこから股下何mあるのか勘繰りたくなる程の長い脚が、お世辞にも行儀がいいとは言えない仕草で侵入してきた。
――噂をすればなんとやら。
五条悟が『待ってました』と言わんばかりのタイミングで顔を出した。
「だってぇ、廊下に回るのが面倒だったんだよー。
――っと、名無しも元気そうで何より。」
「い、いえ。お陰様で…。」
驚いたせいで心臓がバクバクと早鐘を鳴らしている。
……次から彼の噂話をする時は身構えておくことにしよう。
「硝子、どう?」
「至って健康体だよ。ぶっちゃけ、私は何もしてない。身体を拭いたくらいだよ」
肩を竦める家入さん。
……本当だ。あれだけ泥と血で汚れていたのに、すっかり綺麗になっている。
「あ、ありがとうございます」
「気にしないでいい。とりあえず、暫くは様子見で安静にしておくんだよ」
「はい、家入さん。」
「硝子でいいよ。皆名前で呼んでるしね」
「じゃ、じゃあ、硝子さん」
そう名前を呼べば「ん。」と満足気に頷く硝子さん。
少しだけむず痒くて、私は思わず口元を緩めた。
「さぁて。帰ろうか、名無し」
「そうですね…………………あ。」
「どしたの?」
「えぇっと、靴がなくて…」
五条さんが手を差し伸べてくれる。
が、重要なことに今気がついてしまった。
呪霊に足を食われた時に靴も食べられてしまっている。
裸足で帰れなくもないが……。
「そういうことなら私の予備の靴を貸そうか?」
「あ、じゃあ……」
「いやいや、大丈夫だよ。」
申し出を遮ったのは、五条さん。
医務室のベッドに浅く腰掛け、「ん。」と背中を向けてきた。
その意図が分からなくて小さく首を傾げる。
硝子さんは一瞬で理解したらしく、呆れたように溜息を吐いていた。
「ほら。おんぶしてあげるから帰ろう?」
「え。」
おんぶ。
……特級呪術師・五条悟の、おんぶ。
それは流石に、と断りたいところだが……助けを求めるように硝子さんへ視線を向ければ『諦めろ』と言わんばかりに首を振られた。
「それじゃあ、その、失礼します。」
遠慮がちに肩に手を乗せるとふわりと浮く身体。
慣れない体勢と突然宙に浮いた足が覚束なくて、咄嗟に背中にしがみついてしまった。
……なにこれ、恥ずかしい。子供じゃあるまいし。
「あの、五条さん。重たくないです?やっぱり歩きますよ?」
「もやしみたいな身体なのに重たいわけないでしょ。僕はもう少し肉付きがいい方が健康的でいいと思うけどなぁ〜」
と言うが、数ヶ月前に比べたらかなり健康的になった方だと思う。
それでも『もやし』と形容されるということは、まだまだ鍛える必要があるみたいだ。
……安静期間が終わったら筋トレから再開しよう。
「じゃ〜ね〜硝子。」
軽い足取りで医務室を出ていく五条さん。
私は慌てて硝子さんに会釈をした。
青藍の冬至#16
「…………やれやれ。アイツ、家まで一瞬で帰る手段あるだろうに。」
彼女の心底呆れたような呟きは、残念ながら誰も耳にすることはなかった。
白い壁紙。ふわりと揺れるカーテン。
冷たい空気が僅かに開けられた窓の隙間から吹き抜けると同時に、ストーブの上にあるヤカンから漏れる湯気がゆらりと霞む。
暖かく、湿度もある。そして換気がキチンとされている清潔な部屋。
消毒液や包帯が陳列された棚を見て、ここは医務室なのだと理解した。
「起きたかい?」
くるりと回る事務椅子。
白衣と黒髪を揺らして振り返ったのは、
「……えっと、家入さん…?」
「おや。覚えておいてくれたのかい?光栄だね」
特徴的な泣きぼくろ。
寝不足なのかほんのり出来た隈。
それでも一目で『美人』だと形容できる姿は、それはとても印象的だった。
「頭が痛いとか、フラフラしたりとかはない?」
「だ、大丈夫です。診てくださってありがとうございます」
気を失う前の光景と、今目の前に広がる光景。
それがあまりにも違いすぎて、状況が呑み込めていないのが現実だ。
確かに言えることは……ここは高専で、私は生きている。
「…………あの、五条さんは」
「起きて早々アイツに会いたい?」
「い、いえ。そういうのじゃなくて」
確かにあの森に五条さんがいた。
消去法で彼が高専へ連れ帰ってくれたのだろう。出来ればお礼が言いたかった。
「はぁい、呼んだ?」
「う、わ!?」
「五条。窓から入るのはよしな…」
少しだけ開いていた窓が前ぶれなくガラリと開け放たれる。
そこから股下何mあるのか勘繰りたくなる程の長い脚が、お世辞にも行儀がいいとは言えない仕草で侵入してきた。
――噂をすればなんとやら。
五条悟が『待ってました』と言わんばかりのタイミングで顔を出した。
「だってぇ、廊下に回るのが面倒だったんだよー。
――っと、名無しも元気そうで何より。」
「い、いえ。お陰様で…。」
驚いたせいで心臓がバクバクと早鐘を鳴らしている。
……次から彼の噂話をする時は身構えておくことにしよう。
「硝子、どう?」
「至って健康体だよ。ぶっちゃけ、私は何もしてない。身体を拭いたくらいだよ」
肩を竦める家入さん。
……本当だ。あれだけ泥と血で汚れていたのに、すっかり綺麗になっている。
「あ、ありがとうございます」
「気にしないでいい。とりあえず、暫くは様子見で安静にしておくんだよ」
「はい、家入さん。」
「硝子でいいよ。皆名前で呼んでるしね」
「じゃ、じゃあ、硝子さん」
そう名前を呼べば「ん。」と満足気に頷く硝子さん。
少しだけむず痒くて、私は思わず口元を緩めた。
「さぁて。帰ろうか、名無し」
「そうですね…………………あ。」
「どしたの?」
「えぇっと、靴がなくて…」
五条さんが手を差し伸べてくれる。
が、重要なことに今気がついてしまった。
呪霊に足を食われた時に靴も食べられてしまっている。
裸足で帰れなくもないが……。
「そういうことなら私の予備の靴を貸そうか?」
「あ、じゃあ……」
「いやいや、大丈夫だよ。」
申し出を遮ったのは、五条さん。
医務室のベッドに浅く腰掛け、「ん。」と背中を向けてきた。
その意図が分からなくて小さく首を傾げる。
硝子さんは一瞬で理解したらしく、呆れたように溜息を吐いていた。
「ほら。おんぶしてあげるから帰ろう?」
「え。」
おんぶ。
……特級呪術師・五条悟の、おんぶ。
それは流石に、と断りたいところだが……助けを求めるように硝子さんへ視線を向ければ『諦めろ』と言わんばかりに首を振られた。
「それじゃあ、その、失礼します。」
遠慮がちに肩に手を乗せるとふわりと浮く身体。
慣れない体勢と突然宙に浮いた足が覚束なくて、咄嗟に背中にしがみついてしまった。
……なにこれ、恥ずかしい。子供じゃあるまいし。
「あの、五条さん。重たくないです?やっぱり歩きますよ?」
「もやしみたいな身体なのに重たいわけないでしょ。僕はもう少し肉付きがいい方が健康的でいいと思うけどなぁ〜」
と言うが、数ヶ月前に比べたらかなり健康的になった方だと思う。
それでも『もやし』と形容されるということは、まだまだ鍛える必要があるみたいだ。
……安静期間が終わったら筋トレから再開しよう。
「じゃ〜ね〜硝子。」
軽い足取りで医務室を出ていく五条さん。
私は慌てて硝子さんに会釈をした。
青藍の冬至#16
「…………やれやれ。アイツ、家まで一瞬で帰る手段あるだろうに。」
彼女の心底呆れたような呟きは、残念ながら誰も耳にすることはなかった。