銀朱に交わる
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苦しい。苦しい。息が、できない。
気管に入り込んだ冷たい水。冷たいのに、喉が焼けるように痛い。
何度息絶えても、息を吹き返せばそこは水の中。
呼吸がまともに出来ない。目を開いても滲む視界。
足掻こうにも手は縛られ、脚は無様に宙を蹴る。
──いっそ死ねたら。
そう願う程に、延々と拷問のような『実験』は続いた。
『あは。凄い凄い!本当に死なない!次はどうやって殺してみようかな!生きたまま内臓引きずり出そうか?毒を飲ませても楽しそうだなぁ』
海よりも川よりも冷たい水から引き上げられ、息もままならない。
誰かが助けてくれる訳もなく、気管に詰まった水を吐き出すように咳き込めば、ひゅーひゅーと空気が喉を裂いた。
当然、その様子を一部始終観察していた研究所の所長である九重直次が、苦痛に喘ぐ『特級呪物』様子を気にかけるわけがない。
『誰にも殺せない、誰にも壊されない。僕だけの、僕だけの、 』
***
「…………ッ!!」
布団から飛び起きれば、そこは眠る前に見た景色。
上品な調度品が整えられた和室。
畳の匂い。
柔らかい布団。
時計を見れば深夜だったせいもあり、夕方までは疎らにあった人の気配は、今や皆無だった。
鈴虫と、蟋蟀の涼やかな鳴き声が秋の入りを告げる。
どれもこれも先程見た、悪夢のような過去にはなかったものだ。
カビと死臭が立ち込める地下室。
薬品の臭い。
冷たい術台。
絶えず人の気配があり、一時たりとも心が安らぐ瞬間がなかったあの場所。
ただの悪い夢だったらよかったのだが、あれは紛れもなく過去に経験した地獄だ。
(…折角借りた浴衣、汗でびしょびしょ…)
冷や汗なのか脂汗なのか判別がつかない程に、寝汗で濡れてしまった浴衣。
それはまるで先程まで水に沈められていたかのように、寒くて、寒くて、震える程に寒かった。
身体も、心も、憶えている。
痛かったことも、苦しかったことも、それはそれは残酷なくらい鮮明に。
だから思い出さないようにしていたのに。
記憶に蓋をして、ただひたすらあの人の役に立つために術式を磨き、身体を鍛え、死ぬための術を模索して、我武者羅に走ってきた。
それでも彼は現れた。
まるで忘れたフリをすることなど『赦さない』と言わんばかりに。
所詮お前がしていることは呪術師の真似事で、一歩間違えれば《こうなる》と見せ付けられた。
「…………嫌だなぁ…」
銀朱に交わる#10
気管に入り込んだ冷たい水。冷たいのに、喉が焼けるように痛い。
何度息絶えても、息を吹き返せばそこは水の中。
呼吸がまともに出来ない。目を開いても滲む視界。
足掻こうにも手は縛られ、脚は無様に宙を蹴る。
──いっそ死ねたら。
そう願う程に、延々と拷問のような『実験』は続いた。
『あは。凄い凄い!本当に死なない!次はどうやって殺してみようかな!生きたまま内臓引きずり出そうか?毒を飲ませても楽しそうだなぁ』
海よりも川よりも冷たい水から引き上げられ、息もままならない。
誰かが助けてくれる訳もなく、気管に詰まった水を吐き出すように咳き込めば、ひゅーひゅーと空気が喉を裂いた。
当然、その様子を一部始終観察していた研究所の所長である九重直次が、苦痛に喘ぐ『特級呪物』様子を気にかけるわけがない。
『誰にも殺せない、誰にも壊されない。僕だけの、僕だけの、 』
***
「…………ッ!!」
布団から飛び起きれば、そこは眠る前に見た景色。
上品な調度品が整えられた和室。
畳の匂い。
柔らかい布団。
時計を見れば深夜だったせいもあり、夕方までは疎らにあった人の気配は、今や皆無だった。
鈴虫と、蟋蟀の涼やかな鳴き声が秋の入りを告げる。
どれもこれも先程見た、悪夢のような過去にはなかったものだ。
カビと死臭が立ち込める地下室。
薬品の臭い。
冷たい術台。
絶えず人の気配があり、一時たりとも心が安らぐ瞬間がなかったあの場所。
ただの悪い夢だったらよかったのだが、あれは紛れもなく過去に経験した地獄だ。
(…折角借りた浴衣、汗でびしょびしょ…)
冷や汗なのか脂汗なのか判別がつかない程に、寝汗で濡れてしまった浴衣。
それはまるで先程まで水に沈められていたかのように、寒くて、寒くて、震える程に寒かった。
身体も、心も、憶えている。
痛かったことも、苦しかったことも、それはそれは残酷なくらい鮮明に。
だから思い出さないようにしていたのに。
記憶に蓋をして、ただひたすらあの人の役に立つために術式を磨き、身体を鍛え、死ぬための術を模索して、我武者羅に走ってきた。
それでも彼は現れた。
まるで忘れたフリをすることなど『赦さない』と言わんばかりに。
所詮お前がしていることは呪術師の真似事で、一歩間違えれば《こうなる》と見せ付けられた。
「…………嫌だなぁ…」
銀朱に交わる#10