銀朱に交わる
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火が爆ぜる音。水が焔を融かす音。
森を染める赤は燃えては燻り、雨水で烟り、噎せ返るような煙で辺りは覆い尽くされている。
喉を焼く紫の羅 は不快感を煽るに十分で、視界を奪うには十二分であった。
「クソッ、あンの女!馬鹿みたいに燃やしやがっ…うわッ!」
毒づいた京都校の術師の脚に絡む蔦。
先程までなかった罠に困惑するより早く、側頭部に鈍い衝撃が走った。
「よっ、と。」
奇襲に成功した名無しは軽い足取りで地面に立つ。
手にはシラクチカズラの種。ハシカズラ、サルナシとも呼ばれている。
なにせ吊橋を作るための材料になる植物だ。呪力を与えて『縄にした』それは、ちょっとやそっとじゃ切れやしない。
気絶した京都校の男子生徒を縛り上げ、風上に生えている楠の下へ引き摺れば、数十分前にお眠りになった京都校生徒二人の横へ寝かせた。
(これで三人目。)
脳震盪を狙ったから暫くは目覚めないだろう。
これで戦力の半分は削いだ。
(猪野くんは──連絡がないから順調だと思うけど)
裸足で立っていた地面に指先で触れれば、地面を通して行っていた呪力探知がより正確になる。
雨で泥濘になった土。留まることを知らない雨水。
自然物の《それ》に呪力はなくとも、性質を理解し呪力を流せば、それはまるで手足のように。もしくは身体中に張り巡らされた血管や神経のように。
慣れ親しんだ気配を探ることは、実に容易なことだった。
ここから北東へ2km先、よく知った呪力が一人分。恐らくこれは猪野だろう。
他、等級が与えられているであろう、呪力がひとつ、ふたつ、みっつ──
よっつ。
それだけは、呪力が《異質》だった。
人ならざるスピードで、一直線に、真っ直ぐに。
木々の間を最短で走る速度は、猛獣の類よりも随分と鋭い。
人ではない。知っている。
このドロリとした濃い呪力は──。
茂みから飛び出して来たものは、口が大きく、歯並びの悪い黄ばんだ歯。
目は退化しているのだろう。鼻らしき器官を動かし、辺りの様子を確認しているようだった。
捕食する為の口も大きいが、獲物を入れる腹袋も大人二人はゆうに入るであろう大きさだ。
反面、手足は細いものの、筋張った四肢は力強く地面を蹴っている。
異形の怪物といった風貌。そして真っ先に食らいついてきたのは──
(こっち。)
頭から丸呑みするつもりだったのか。
その場から飛び退けば、私が立っていた場所を土ごと食らいついた。
跳ねる泥と、揺れる地面。
知能指数はあまり高くない呪霊のようだが、あれに喰らわれたらひとたまりもないだろう。
(『血』は流していない。それでも場所が分かるってことは、視力がないからその分嗅覚が優れているのか。
それに茂みへ隠した術師には気付いていない。いや、気付いているのかもしれないけれど、狙いは間違いなく)
私だ。
銀朱に交わる#04
舌打ちを零すと同時に、少しだけ安堵した。
私狙いなら、戦闘不能にした京都校の呪術師を喰らうのは『後から』だろう。
知っている。知っている。
呪力探知で感じた僅かな違和感。纏った残穢。
自らの血肉となっている、人ならざる『それ』と同じ気配。
(誰が、血を与えた!)
森を染める赤は燃えては燻り、雨水で烟り、噎せ返るような煙で辺りは覆い尽くされている。
喉を焼く紫の
「クソッ、あンの女!馬鹿みたいに燃やしやがっ…うわッ!」
毒づいた京都校の術師の脚に絡む蔦。
先程までなかった罠に困惑するより早く、側頭部に鈍い衝撃が走った。
「よっ、と。」
奇襲に成功した名無しは軽い足取りで地面に立つ。
手にはシラクチカズラの種。ハシカズラ、サルナシとも呼ばれている。
なにせ吊橋を作るための材料になる植物だ。呪力を与えて『縄にした』それは、ちょっとやそっとじゃ切れやしない。
気絶した京都校の男子生徒を縛り上げ、風上に生えている楠の下へ引き摺れば、数十分前にお眠りになった京都校生徒二人の横へ寝かせた。
(これで三人目。)
脳震盪を狙ったから暫くは目覚めないだろう。
これで戦力の半分は削いだ。
(猪野くんは──連絡がないから順調だと思うけど)
裸足で立っていた地面に指先で触れれば、地面を通して行っていた呪力探知がより正確になる。
雨で泥濘になった土。留まることを知らない雨水。
自然物の《それ》に呪力はなくとも、性質を理解し呪力を流せば、それはまるで手足のように。もしくは身体中に張り巡らされた血管や神経のように。
慣れ親しんだ気配を探ることは、実に容易なことだった。
ここから北東へ2km先、よく知った呪力が一人分。恐らくこれは猪野だろう。
他、等級が与えられているであろう、呪力がひとつ、ふたつ、みっつ──
よっつ。
それだけは、呪力が《異質》だった。
人ならざるスピードで、一直線に、真っ直ぐに。
木々の間を最短で走る速度は、猛獣の類よりも随分と鋭い。
人ではない。知っている。
このドロリとした濃い呪力は──。
茂みから飛び出して来たものは、口が大きく、歯並びの悪い黄ばんだ歯。
目は退化しているのだろう。鼻らしき器官を動かし、辺りの様子を確認しているようだった。
捕食する為の口も大きいが、獲物を入れる腹袋も大人二人はゆうに入るであろう大きさだ。
反面、手足は細いものの、筋張った四肢は力強く地面を蹴っている。
異形の怪物といった風貌。そして真っ先に食らいついてきたのは──
(こっち。)
頭から丸呑みするつもりだったのか。
その場から飛び退けば、私が立っていた場所を土ごと食らいついた。
跳ねる泥と、揺れる地面。
知能指数はあまり高くない呪霊のようだが、あれに喰らわれたらひとたまりもないだろう。
(『血』は流していない。それでも場所が分かるってことは、視力がないからその分嗅覚が優れているのか。
それに茂みへ隠した術師には気付いていない。いや、気付いているのかもしれないけれど、狙いは間違いなく)
銀朱に交わる#04
舌打ちを零すと同時に、少しだけ安堵した。
私狙いなら、戦闘不能にした京都校の呪術師を喰らうのは『後から』だろう。
知っている。知っている。
呪力探知で感じた僅かな違和感。纏った残穢。
自らの血肉となっている、人ならざる『それ』と同じ気配。
(誰が、血を与えた!)