銀朱に交わる
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
京都、禪院家の屋敷にて。
(そういや今年の学年なら、悟君トコの『アレ』も出るんとちゃう?)
《呪霊提供》の打診の電話を取りながら彼は口角をニタリと吊り上げる。
「まぁ、ウチの『蔵』にあるヤツでよければえぇですよ。活きがいいヤツ、用意しときますわ」
二級程度の呪霊ならごまんといる。
しかし、さて。
この血を与えれば少しは楽しめるかもしれない。
禪院直哉は汚れた雑巾を摘むように、赤々とした血液パックを僅かに揺らす。
この血の持ち主。人のかたちをした特級呪物。
そして、
『少しは退屈しのぎになるんじゃない?』
以前、悪びれなく笑いながら渡してきた男。
さて。彼は今、何処で一体何をしているのやら。
銀朱に交わる#02
《京都姉妹校交流試合》
呪術高等専門学校の京都校と東京校、この両校が交流するため開催される試合だ。
原則各校の二年〜三年が参加する決まりとなっているが、去年は東京校が該当学年の生徒在籍数がゼロ。
その為、開催されなかったのだが──。
今年は二年に名無し。一年に猪野が在籍している。
少人数の為、参加を見送りにすることも出来たのだが、名無しが『大丈夫ですよ』と頷き、五条が『余裕っしょ』と書類にサインし、猪野が『勿論、俺も参加します!』と意気込んだ結果、参加する運びとなった。
そして京都校に無事到着した。
したのだが。
「京都校って広いっスね、ななし先輩。」
「迷子にならないように気をつけようね、猪野くん。」
「俺方向音痴なんっスよ〜!今回は《無理矢理参加させられた》んっスから、不安で不安で……。
試合中も、絶ッ対置いていかないでくださいね!」
「大丈夫だよ。団体戦も二人だけの参加だけど、怪我しないようにしっかりサポートするから。精一杯頑張ろう」
いつもより弱気な猪野。
いつもより甲斐甲斐しく世話をする名無し。
引率している五条は一見通常通りの表情だが、猪野だけは気付いていた。
(やっば。五条さん、むっちゃ機嫌悪ィ〜〜〜!)
三人を遠巻きに見る京都校の生徒の視線は、正直痛くも痒くもない。
むしろ《しっかり観察しておけよ》と思うくらいだ。
正直、猪野は生き地獄だった。
《作戦》とはいえ、名無しにべったりの後輩役を演じるなど。
五条の地雷を尽く踏み抜いているような気がして、生きた心地がしなかった。
***
一か月前、東京校。
『あっちは六人参加。こっちは二人のみ。数だけ見れば圧倒的に不利なわけっスけど、どうやって勝つつもりなんっスか?』
昼下がりのグラウンドの隅で、炭酸飲料を片手に座り込む猪野と、スポーツドリンクを一気に呷る名無しが木陰で休んでいた。
夏真っ盛りの日差しは空を焼くようにジリジリと照りついており、高く昇った入道雲が青に映える。
滲んだ汗をタオルで拭いながら、猪野は立ちっぱなしの名無しを無遠慮に見上げた。
『人数のハンデで、東京校が雑魚呪霊を撃破した時のポイントは京都校の倍だから、やっぱり呪霊を祓っていく遊撃役 と、京都校の人のターゲット取りする囮役 に別れた方がいいかと思って』
『二人で固まってた方が襲撃のリスク減らないっスかね?』
『二級呪霊を祓えば試合終了になるから、機動力は落としたくないかな』
防戦なら固まっていた方が安全かもしれない。勿論、時と場合によるが。
しかし今回はポイント奪取がルールだ。
時間内に二級呪霊を祓えなければ、祓った雑魚呪霊の数で勝敗が決まる。
最優先は、二級呪霊を祓うこと。
次に優先されるべきは京都校への妨害、敷地に放たれた低級呪霊を並行して祓うことだ。
『でも、あっち も同じこと考えてそうじゃないっスか?』
『意見割れてるだろうね。こっちが固まって動くか、別行動するか。』
『ヤマ賭けするにはちょっとリスキーっスよねぇ』
なにせこちらの人数は二人のみだ。
単独で動くならお互いのフォローは期待出来ない。
だからこそ、その状況を逆手に取る。
『こっちの手の内や人となりは知られていないから、いくらでも騙しようがあるかな。こっちは少人数だし、しっかり《見くびって》もらえばいくらでも手の打ちようはあるよ。』
相手は古い歴史を持つ、呪術の総本山。京都校。
八百比丘尼の話を聞いているかもしれないが、それはそれ。
名無しの階級は未だ三級。猪野の階級も三級。
そして交流戦初参加の二人となれば、侮るには十分な理由だろう。
そして、そこにあともう一押し。
『ななし先輩、何企んでいるんっスか…?』
恐る恐る猪野が訊ねると、悪戯っぽい笑みを浮かべて名無しは笑う。
そう。彼女の担任が、ロクでもないことを企んでいる時の笑顔に、それはとてもとても似ていたとか。
『猪野くん、演技って得意?』
(そういや今年の学年なら、悟君トコの『アレ』も出るんとちゃう?)
《呪霊提供》の打診の電話を取りながら彼は口角をニタリと吊り上げる。
「まぁ、ウチの『蔵』にあるヤツでよければえぇですよ。活きがいいヤツ、用意しときますわ」
二級程度の呪霊ならごまんといる。
しかし、さて。
この血を与えれば少しは楽しめるかもしれない。
禪院直哉は汚れた雑巾を摘むように、赤々とした血液パックを僅かに揺らす。
この血の持ち主。人のかたちをした特級呪物。
そして、
『少しは退屈しのぎになるんじゃない?』
以前、悪びれなく笑いながら渡してきた男。
さて。彼は今、何処で一体何をしているのやら。
銀朱に交わる#02
《京都姉妹校交流試合》
呪術高等専門学校の京都校と東京校、この両校が交流するため開催される試合だ。
原則各校の二年〜三年が参加する決まりとなっているが、去年は東京校が該当学年の生徒在籍数がゼロ。
その為、開催されなかったのだが──。
今年は二年に名無し。一年に猪野が在籍している。
少人数の為、参加を見送りにすることも出来たのだが、名無しが『大丈夫ですよ』と頷き、五条が『余裕っしょ』と書類にサインし、猪野が『勿論、俺も参加します!』と意気込んだ結果、参加する運びとなった。
そして京都校に無事到着した。
したのだが。
「京都校って広いっスね、ななし先輩。」
「迷子にならないように気をつけようね、猪野くん。」
「俺方向音痴なんっスよ〜!今回は《無理矢理参加させられた》んっスから、不安で不安で……。
試合中も、絶ッ対置いていかないでくださいね!」
「大丈夫だよ。団体戦も二人だけの参加だけど、怪我しないようにしっかりサポートするから。精一杯頑張ろう」
いつもより弱気な猪野。
いつもより甲斐甲斐しく世話をする名無し。
引率している五条は一見通常通りの表情だが、猪野だけは気付いていた。
(やっば。五条さん、むっちゃ機嫌悪ィ〜〜〜!)
三人を遠巻きに見る京都校の生徒の視線は、正直痛くも痒くもない。
むしろ《しっかり観察しておけよ》と思うくらいだ。
正直、猪野は生き地獄だった。
《作戦》とはいえ、名無しにべったりの後輩役を演じるなど。
五条の地雷を尽く踏み抜いているような気がして、生きた心地がしなかった。
***
一か月前、東京校。
『あっちは六人参加。こっちは二人のみ。数だけ見れば圧倒的に不利なわけっスけど、どうやって勝つつもりなんっスか?』
昼下がりのグラウンドの隅で、炭酸飲料を片手に座り込む猪野と、スポーツドリンクを一気に呷る名無しが木陰で休んでいた。
夏真っ盛りの日差しは空を焼くようにジリジリと照りついており、高く昇った入道雲が青に映える。
滲んだ汗をタオルで拭いながら、猪野は立ちっぱなしの名無しを無遠慮に見上げた。
『人数のハンデで、東京校が雑魚呪霊を撃破した時のポイントは京都校の倍だから、やっぱり呪霊を祓っていく
『二人で固まってた方が襲撃のリスク減らないっスかね?』
『二級呪霊を祓えば試合終了になるから、機動力は落としたくないかな』
防戦なら固まっていた方が安全かもしれない。勿論、時と場合によるが。
しかし今回はポイント奪取がルールだ。
時間内に二級呪霊を祓えなければ、祓った雑魚呪霊の数で勝敗が決まる。
最優先は、二級呪霊を祓うこと。
次に優先されるべきは京都校への妨害、敷地に放たれた低級呪霊を並行して祓うことだ。
『でも、
『意見割れてるだろうね。こっちが固まって動くか、別行動するか。』
『ヤマ賭けするにはちょっとリスキーっスよねぇ』
なにせこちらの人数は二人のみだ。
単独で動くならお互いのフォローは期待出来ない。
だからこそ、その状況を逆手に取る。
『こっちの手の内や人となりは知られていないから、いくらでも騙しようがあるかな。こっちは少人数だし、しっかり《見くびって》もらえばいくらでも手の打ちようはあるよ。』
相手は古い歴史を持つ、呪術の総本山。京都校。
八百比丘尼の話を聞いているかもしれないが、それはそれ。
名無しの階級は未だ三級。猪野の階級も三級。
そして交流戦初参加の二人となれば、侮るには十分な理由だろう。
そして、そこにあともう一押し。
『ななし先輩、何企んでいるんっスか…?』
恐る恐る猪野が訊ねると、悪戯っぽい笑みを浮かべて名無しは笑う。
そう。彼女の担任が、ロクでもないことを企んでいる時の笑顔に、それはとてもとても似ていたとか。
『猪野くん、演技って得意?』