銀朱に交わる
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「京都姉妹校交流試合?」
「そ。東京校と京都校、姉妹校の術者同士の試合。二年生・三年生が試合に出るんだけど、去年は二年も三年もいなかったからね。」
体術の訓練が終わり、自販機の前で五条は甘ったるいミルクセーキを呷る。
蝉が鳴き始めた夏。アスファルトからは茹だるような陽炎が立ち上り、容赦ない日差しは刺すように校舎を照りつける。
日陰と冷たいスポーツ飲料に生気を取り戻した名無しは小さく首を傾げた。
「今年卒業した四年生が試合に出たんだけど、まー負けちゃってね。前回勝った方の敷地で行うルールだから今年も京都で行われるんだけど……如何せん東京校は名無しと猪野の二人でしょ?人数足りないから出ないって言い訳は通じると思うんだけど、どうする?」
東京校は閉校になるのでは?と疑ってしまう程の生徒不足だ。
呪いの聖地である京都校に人が集まるのは仕方ないとはいえ、今は名無しと猪野の二人のみ在籍している状態である。
「階級の査定は入るんですか?」
「勿論。むしろそれをアピールする場でもあるし」
呪術師が相手するのは、何も『呪霊』だけではない。
悪質な呪詛師を制圧する任務も学年が上がれば今後は出てくるだろう。
呪術師同士の『交流試合』は、対人戦闘を想定した訓練の場でもある。
「私は参加でお願いします。単独任務、早く受けられるようになった方がいいでしょうし」
監視の目は避けられないとはいえ、術師同士のトラブルを顧みれば単独任務の方が気分は些かマシだ。
「よしきた。……と言っても、団体戦どうしようかなぁ。歌姫に聞いたとこ、あちらさん六人は参加するんだよね」
飲み終えた空き缶を器用にゴミ箱へ放り投げる五条。
カン、コンッと投入口で子気味良い音を立て、見事に空き缶はゴミ箱へ滑り落ちて行った。
「個人戦だけにする?」
無理に入学したての猪野を交流戦に駆り出すこともないだろう。
「ちなみにルールは?」
ポカリを半分以上飲んだ名無しが汗を拭いながら問う。
団体戦はルールが殆ど変わらない。
変わるとすれば放たれる低級呪霊の数や、ロケーションが変わるくらいで、そう毎年大差ない。
だからこれは呪霊を狩る──という目的地を提示した上で『いかに相手の術師を無力化するか』という点が要になってくる。
「なるほど。低級呪霊を狩るのもよし。ボスの二級呪霊を真っ先に祓いに行ってもいいし、京都校の術者を倒しに行ってもいい。そういうことですね。」
人数が多ければ役割を分担するのが定石だろうが、こちらが参加する人数の最大人数はたったの二名のみとなる。
「参加してもいいけど、勝てるの?二人で。」
煽るような言葉を使うのは、敢えてだ。
まぁ、そんなことで焚き付けられるまでもなく、名無しの意思は決まっているのだが。
「猪野くんが出てくれるなら、十分勝算はありますよ」
彼女の中で、負けるつもりで挑む勝負なんてものは最初から存在しないらしい。
銀朱に交わる#01
参加の可否を京都校にいる歌姫へ電話で伝え終え、五条は深く椅子に腰掛け直した。
スマホのロック画面は、初夏に行った旅行先での彼女の写真。
本来なら、こんな普通の《教師と生徒》らしいやり取りは難しいだろう。
けれど先程の会話のように、彼女が驚く程《普通》の対応をしてくれているから何事もなかったように振る舞える。
だから五条も気にしない素振りをしているのだが──。
「はぁ」と誰もが聞き逃すような小さな溜め息を吐き出し、スマートフォンのスケジュールアプリに『京都姉妹校交流試合』の予定をねじ込む。
……確かこの辺りの日付で御三家の会合があったことを思い出す。まぁ上手く予定通り交流試合が済めば日程の調整は利くだろう。
それよりも、だ。
「もう少し意識してくれてもいいんじゃないの?」
五条の一人言は誰に聞き届けられることもなく、静かに空気へ融けた。
「そ。東京校と京都校、姉妹校の術者同士の試合。二年生・三年生が試合に出るんだけど、去年は二年も三年もいなかったからね。」
体術の訓練が終わり、自販機の前で五条は甘ったるいミルクセーキを呷る。
蝉が鳴き始めた夏。アスファルトからは茹だるような陽炎が立ち上り、容赦ない日差しは刺すように校舎を照りつける。
日陰と冷たいスポーツ飲料に生気を取り戻した名無しは小さく首を傾げた。
「今年卒業した四年生が試合に出たんだけど、まー負けちゃってね。前回勝った方の敷地で行うルールだから今年も京都で行われるんだけど……如何せん東京校は名無しと猪野の二人でしょ?人数足りないから出ないって言い訳は通じると思うんだけど、どうする?」
東京校は閉校になるのでは?と疑ってしまう程の生徒不足だ。
呪いの聖地である京都校に人が集まるのは仕方ないとはいえ、今は名無しと猪野の二人のみ在籍している状態である。
「階級の査定は入るんですか?」
「勿論。むしろそれをアピールする場でもあるし」
呪術師が相手するのは、何も『呪霊』だけではない。
悪質な呪詛師を制圧する任務も学年が上がれば今後は出てくるだろう。
呪術師同士の『交流試合』は、対人戦闘を想定した訓練の場でもある。
「私は参加でお願いします。単独任務、早く受けられるようになった方がいいでしょうし」
監視の目は避けられないとはいえ、術師同士のトラブルを顧みれば単独任務の方が気分は些かマシだ。
「よしきた。……と言っても、団体戦どうしようかなぁ。歌姫に聞いたとこ、あちらさん六人は参加するんだよね」
飲み終えた空き缶を器用にゴミ箱へ放り投げる五条。
カン、コンッと投入口で子気味良い音を立て、見事に空き缶はゴミ箱へ滑り落ちて行った。
「個人戦だけにする?」
無理に入学したての猪野を交流戦に駆り出すこともないだろう。
「ちなみにルールは?」
ポカリを半分以上飲んだ名無しが汗を拭いながら問う。
団体戦はルールが殆ど変わらない。
変わるとすれば放たれる低級呪霊の数や、ロケーションが変わるくらいで、そう毎年大差ない。
だからこれは呪霊を狩る──という目的地を提示した上で『いかに相手の術師を無力化するか』という点が要になってくる。
「なるほど。低級呪霊を狩るのもよし。ボスの二級呪霊を真っ先に祓いに行ってもいいし、京都校の術者を倒しに行ってもいい。そういうことですね。」
人数が多ければ役割を分担するのが定石だろうが、こちらが参加する人数の最大人数はたったの二名のみとなる。
「参加してもいいけど、勝てるの?二人で。」
煽るような言葉を使うのは、敢えてだ。
まぁ、そんなことで焚き付けられるまでもなく、名無しの意思は決まっているのだが。
「猪野くんが出てくれるなら、十分勝算はありますよ」
彼女の中で、負けるつもりで挑む勝負なんてものは最初から存在しないらしい。
銀朱に交わる#01
参加の可否を京都校にいる歌姫へ電話で伝え終え、五条は深く椅子に腰掛け直した。
スマホのロック画面は、初夏に行った旅行先での彼女の写真。
本来なら、こんな普通の《教師と生徒》らしいやり取りは難しいだろう。
けれど先程の会話のように、彼女が驚く程《普通》の対応をしてくれているから何事もなかったように振る舞える。
だから五条も気にしない素振りをしているのだが──。
「はぁ」と誰もが聞き逃すような小さな溜め息を吐き出し、スマートフォンのスケジュールアプリに『京都姉妹校交流試合』の予定をねじ込む。
……確かこの辺りの日付で御三家の会合があったことを思い出す。まぁ上手く予定通り交流試合が済めば日程の調整は利くだろう。
それよりも、だ。
「もう少し意識してくれてもいいんじゃないの?」
五条の一人言は誰に聞き届けられることもなく、静かに空気へ融けた。
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