晴着に花めく
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「どう思う?アイツら。」
二次会会場に選ばれたのは、七海さんが教えてくれた隠れ家のような雰囲気のバーだった。
静かなバーカウンターから眺める、シェイカーを振る五十代くらいであろうマスターの姿は、男の私でも見惚れるくらい様になっていた。
上品な磨りガラスのグラスを傾けながら、もう何杯目か数えるのも馬鹿馬鹿しいくらい、家入さんは日本酒を煽っていた。
そして、先程の台詞である。
「どうと言われましても」
「私はもう一度五条がこっぴどく振られるに、魔王一本。」
曖昧な返答をしたというのに、家入さんは容赦なく芋焼酎の一升瓶を要求してくる。
「一回で済めばいいんですけど。あの人は一度、こっぴどい挫折を味わえばいいんですよ」
「七海さん、辛辣ですね…」
球体の氷を浮かべたウイスキーを傾けながら、舌打ち混じりで七海さんが毒づく。
「そりゃあまぁ、五条持ち前の顔面も武器にならない。金にも靡かない。当然家柄も。強敵だろうね、あの子は」
「えっと…それ、五条さんが勝てる見込みないのでは?」
口に出した瞬間、我ながら『とんでもないな』とダブルミーニングで思った。
あの五条さんが呪術の範疇じゃないとはいえ『勝てないかも』という可能性が生まれてしまったことと、聞かれたら間違いなく過去最大級の嫌味を言われるだろう──ということ。
自分の発言に驚けばいのか肝を冷やせばいいのか。
ほろ酔いになっていたアルコールが、一気に消し飛んだ気分になった。
「伊地知、今の発言五条が聞いたら大変なことになるぞ?」
「やめてください家入さん…」
からからと笑いながら、耳聡い先輩は悪戯っぽく笑う。
しかし以外にも頷かず、私を挟んで家入さんの反対側に座る七海さんは呆れた様子でナッツを口へ放り込んだ。
「大丈夫でしょう。あの人、鬱陶しいくらい執拗い人ですから」
つまり七海さんは『一度痛い目を見ればいい』とは思っているものの『勝算がある』と思っているらしい。
「おや?珍しい。七海が五条の肩を持つなんて」
残っていた日本酒を一気に飲み干し、家入さんが珍獣を見るように楽しげな視線で七海さんへ微笑む。
が、当然。先輩の勝利を純粋に願ったものではなく──
「ななしさんがあの破天荒な人の手綱を握ってくれるなら、願ったり叶ったりですから」
五条さんの、手網。
190cm超えのあの人の首元に付けられた首輪と紐。そしてそれを握るななしさん。
絵面的に、五条さんなら嬉々としてやりそうだが、間違いなくななしさんは嫌そうに顔を歪めるだろう。
というより、あの人なら全力で嫌がる飼い主を、笑いながらお姫様抱っこして自由に逃走しかねない。
呪術師の実力は最強にして最優なのだが、如何せん素行と態度は最低にして最悪だ。
「……大型犬に引きずられる飼い主を何故か思い浮かべてしまいました。」
「犬ならまだ可愛らしいだろうけどね。盛りのついた猫科の猛獣だろう、あれは」
なるほど、気まぐれだからか。
……などと思っても口には出さない。いや、出せない。
面白半分で家入さんが口を滑らせ、五条さんの耳に届いた瞬間、私の頭に拳骨が落ちるだろうから。頭に立派な月面クレーターが出来てしまう。
「まぁ、友人には幸せになってもらいたいからね。なるようになるさ」
バーカウンターに立つマスターへ聞き覚えのないカクテルを注文した家入さんは、手持ち無沙汰なのかドライフルーツをのんびり咀嚼し始めた。
「家入さんもそんなこと仰るんですね。」
「言っておくが名無しの方だぞ?」
なるほど。
本日二度目の納得である。
「可愛い妹分にして、友人。五条には勿体ないけど──」
晴着に花めく#幕間
「五条の図々しさが、きっとあの子には必要なのさ。」
作りたてのカクテルを受け取り、家入さんは笑いながらゆっくりと傾けるのであった。
二次会会場に選ばれたのは、七海さんが教えてくれた隠れ家のような雰囲気のバーだった。
静かなバーカウンターから眺める、シェイカーを振る五十代くらいであろうマスターの姿は、男の私でも見惚れるくらい様になっていた。
上品な磨りガラスのグラスを傾けながら、もう何杯目か数えるのも馬鹿馬鹿しいくらい、家入さんは日本酒を煽っていた。
そして、先程の台詞である。
「どうと言われましても」
「私はもう一度五条がこっぴどく振られるに、魔王一本。」
曖昧な返答をしたというのに、家入さんは容赦なく芋焼酎の一升瓶を要求してくる。
「一回で済めばいいんですけど。あの人は一度、こっぴどい挫折を味わえばいいんですよ」
「七海さん、辛辣ですね…」
球体の氷を浮かべたウイスキーを傾けながら、舌打ち混じりで七海さんが毒づく。
「そりゃあまぁ、五条持ち前の顔面も武器にならない。金にも靡かない。当然家柄も。強敵だろうね、あの子は」
「えっと…それ、五条さんが勝てる見込みないのでは?」
口に出した瞬間、我ながら『とんでもないな』とダブルミーニングで思った。
あの五条さんが呪術の範疇じゃないとはいえ『勝てないかも』という可能性が生まれてしまったことと、聞かれたら間違いなく過去最大級の嫌味を言われるだろう──ということ。
自分の発言に驚けばいのか肝を冷やせばいいのか。
ほろ酔いになっていたアルコールが、一気に消し飛んだ気分になった。
「伊地知、今の発言五条が聞いたら大変なことになるぞ?」
「やめてください家入さん…」
からからと笑いながら、耳聡い先輩は悪戯っぽく笑う。
しかし以外にも頷かず、私を挟んで家入さんの反対側に座る七海さんは呆れた様子でナッツを口へ放り込んだ。
「大丈夫でしょう。あの人、鬱陶しいくらい執拗い人ですから」
つまり七海さんは『一度痛い目を見ればいい』とは思っているものの『勝算がある』と思っているらしい。
「おや?珍しい。七海が五条の肩を持つなんて」
残っていた日本酒を一気に飲み干し、家入さんが珍獣を見るように楽しげな視線で七海さんへ微笑む。
が、当然。先輩の勝利を純粋に願ったものではなく──
「ななしさんがあの破天荒な人の手綱を握ってくれるなら、願ったり叶ったりですから」
五条さんの、手網。
190cm超えのあの人の首元に付けられた首輪と紐。そしてそれを握るななしさん。
絵面的に、五条さんなら嬉々としてやりそうだが、間違いなくななしさんは嫌そうに顔を歪めるだろう。
というより、あの人なら全力で嫌がる飼い主を、笑いながらお姫様抱っこして自由に逃走しかねない。
呪術師の実力は最強にして最優なのだが、如何せん素行と態度は最低にして最悪だ。
「……大型犬に引きずられる飼い主を何故か思い浮かべてしまいました。」
「犬ならまだ可愛らしいだろうけどね。盛りのついた猫科の猛獣だろう、あれは」
なるほど、気まぐれだからか。
……などと思っても口には出さない。いや、出せない。
面白半分で家入さんが口を滑らせ、五条さんの耳に届いた瞬間、私の頭に拳骨が落ちるだろうから。頭に立派な月面クレーターが出来てしまう。
「まぁ、友人には幸せになってもらいたいからね。なるようになるさ」
バーカウンターに立つマスターへ聞き覚えのないカクテルを注文した家入さんは、手持ち無沙汰なのかドライフルーツをのんびり咀嚼し始めた。
「家入さんもそんなこと仰るんですね。」
「言っておくが名無しの方だぞ?」
なるほど。
本日二度目の納得である。
「可愛い妹分にして、友人。五条には勿体ないけど──」
晴着に花めく#幕間
「五条の図々しさが、きっとあの子には必要なのさ。」
作りたてのカクテルを受け取り、家入さんは笑いながらゆっくりと傾けるのであった。