青藍の冬至
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掻っ攫ってしまおうと思っていた。
呪術師が、未来ある呪術師を『呪具』に作り替えられるなんてとんだ悲劇だ。
しかし、誤算が起きた。
決行する前に現れたのは、全てを持ち合わせている『最強』。
彼が颯爽と『人魚姫』を奪っていった。
非呪術師に消費されるばかりの、あの笑えない世界へ。
呪いと恨みが蔓延る、陸の上へ。
青藍の冬至#10
寒空の下、ほわりと息をゆっくり吐き出す。
歩く度に買い物袋がガサリと音を立て、袋から飛び出た白ネギがゆらゆら揺れた。
《今日は寒いから鍋が食べたいなぁ〜》
なんて呑気なメッセージが、恐れ多くも買ってもらったスマホにとんできた。
今日は茨城出張から帰ってくる日だ。
比較的近県とはいえ、出張に対して文句を言っていたのを思い出す。
雪がチラついてきた曇天を見上げ、私はもう一度ほわりと息を吐き出した。
***
『五条さんって、出張多いですね』
新作の呪骸を披露してくれるという夜蛾学長へ、何となしに訊ねた。
それがつい数週間前。
『特級呪術師だからな。』
『とっきゅう。』
それは、初耳だ。
だって何も言っていなかった。聞いていなかった。
ぽかんと口を開いた私の顔を見て、夜蛾学長は『あー…』と声を小さく漏らしていた。
『悟から聞いてないのか。』
『初耳です。』
肝心な事を伝えないのは、彼の悪いクセらしい。
夜蛾学長は暫し考え込み、呪骸の羊毛フェルトをチクチク刺しながら小さく呟いた。
『名無し。』
『はい。』
『難しいとは思うが、聞かなかったことにしてくれ。』
『……き、機密だったとか?』
『いや。そんなことはない。だが……』
言い澱み、再び考え込む。
これは悩んでいるというより、言葉を選んでいると言うべきだろうか。
『悟に、今まで通り接してやってくれ。』
『えぇっと、その意味は?』
『言ったら意味がなくなるからな』
強面の顔が困ったように笑う。
それが《これ以上追求しないでくれ》と言っているようで、私は小さく頷くしかなかった。
『いい子だ。』
くしゃりと撫でてくれた手のひらは、五条さんのものより、一回り分厚くて大きかった。
***
(普段通り、かぁ)
そう考えたら今まで中々失礼な対応だったのではなかろうか。
というよりあんなフランクでいいのか、特級呪術師。
今まで疑問に思っていたあれやこれが一つずつ合点がついていく。
アスファルトにうっすら積もっていく白い雪。スニーカーで踏めばサクサクと子気味良い音が鳴った。
(今頃帰り支度の用意でもしてるかな)
車移動だとしたら、もしかしたら車に乗っているかもしれない。
――帰ってきたらすぐに夕飯を出してあげたい。もう少し急ごう。
大通りから少し外れて、閑静な住宅街へ。
天気が悪いせいか人ひとり歩いておらず、昼間だというのに少しだけ気味が悪かった。
……いや、いる。一人だけ。
三度笠を被り、五条袈裟を纏った男の人。
黒くて長い髪。
慈愛に満ちた柔らかい目元がふわりと細められる。
「キミが、八百比丘尼のななし名無しかな?」
水面が凪いだような、穏やかな声。
呪術師が、未来ある呪術師を『呪具』に作り替えられるなんてとんだ悲劇だ。
しかし、誤算が起きた。
決行する前に現れたのは、全てを持ち合わせている『最強』。
彼が颯爽と『人魚姫』を奪っていった。
非呪術師に消費されるばかりの、あの笑えない世界へ。
呪いと恨みが蔓延る、陸の上へ。
青藍の冬至#10
寒空の下、ほわりと息をゆっくり吐き出す。
歩く度に買い物袋がガサリと音を立て、袋から飛び出た白ネギがゆらゆら揺れた。
《今日は寒いから鍋が食べたいなぁ〜》
なんて呑気なメッセージが、恐れ多くも買ってもらったスマホにとんできた。
今日は茨城出張から帰ってくる日だ。
比較的近県とはいえ、出張に対して文句を言っていたのを思い出す。
雪がチラついてきた曇天を見上げ、私はもう一度ほわりと息を吐き出した。
***
『五条さんって、出張多いですね』
新作の呪骸を披露してくれるという夜蛾学長へ、何となしに訊ねた。
それがつい数週間前。
『特級呪術師だからな。』
『とっきゅう。』
それは、初耳だ。
だって何も言っていなかった。聞いていなかった。
ぽかんと口を開いた私の顔を見て、夜蛾学長は『あー…』と声を小さく漏らしていた。
『悟から聞いてないのか。』
『初耳です。』
肝心な事を伝えないのは、彼の悪いクセらしい。
夜蛾学長は暫し考え込み、呪骸の羊毛フェルトをチクチク刺しながら小さく呟いた。
『名無し。』
『はい。』
『難しいとは思うが、聞かなかったことにしてくれ。』
『……き、機密だったとか?』
『いや。そんなことはない。だが……』
言い澱み、再び考え込む。
これは悩んでいるというより、言葉を選んでいると言うべきだろうか。
『悟に、今まで通り接してやってくれ。』
『えぇっと、その意味は?』
『言ったら意味がなくなるからな』
強面の顔が困ったように笑う。
それが《これ以上追求しないでくれ》と言っているようで、私は小さく頷くしかなかった。
『いい子だ。』
くしゃりと撫でてくれた手のひらは、五条さんのものより、一回り分厚くて大きかった。
***
(普段通り、かぁ)
そう考えたら今まで中々失礼な対応だったのではなかろうか。
というよりあんなフランクでいいのか、特級呪術師。
今まで疑問に思っていたあれやこれが一つずつ合点がついていく。
アスファルトにうっすら積もっていく白い雪。スニーカーで踏めばサクサクと子気味良い音が鳴った。
(今頃帰り支度の用意でもしてるかな)
車移動だとしたら、もしかしたら車に乗っているかもしれない。
――帰ってきたらすぐに夕飯を出してあげたい。もう少し急ごう。
大通りから少し外れて、閑静な住宅街へ。
天気が悪いせいか人ひとり歩いておらず、昼間だというのに少しだけ気味が悪かった。
……いや、いる。一人だけ。
三度笠を被り、五条袈裟を纏った男の人。
黒くて長い髪。
慈愛に満ちた柔らかい目元がふわりと細められる。
「キミが、八百比丘尼のななし名無しかな?」
水面が凪いだような、穏やかな声。