short story
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『出張』から帰ってきた、土曜日の深夜。
その日は名無しと夕飯を食べる約束をしていたのだが――もう時刻は23時を回る。
『先に食べていいよ』とメッセージを送っているものの、反応がない。
返事のレスポンスが基本的に早い名無しらしくない状況に、ほんの少しだけ焦っていた。
帰りが遅くなったから怒っているのだろうか。
それとも何かトラブルに巻き込まれたのだろうか。
いや、そもそも名無しは新幹線の遅延で怒ったりはしない。
電気系統のトラブルだったらしく、復旧まで数時間を要したのは予想外だったが。
トラブル……といっても、彼女はもう一級呪術師だ。
自分の身くらい片手で守れる程に逞しくなった。
浮かんでは消える不安。
女々しい『でもでもだって』の思考回路に、五条本人も辟易していた。
それでも一番大事な恋人のこととなると少しばかり過保護になってしまうのが、この五条悟という男なのだった。
五条が住んでいるマンションの、ドアノブを捻る。
鍵は――無防備にも開いていた。
「名無しちゃ〜ん、ただいまぁ〜」
殊更声音を明るくし、玄関で靴を脱ぎ捨てる。
――部屋が、暗い。
しかし動いてはいないものの、確実に人の気配がひとつ。
そろりと廊下を音もなく歩き、部屋へ入れば――。
(…………寝てる。)
珍しい。
この時間帯はそもそも彼女がまだ起きている時間だというのに。
余程疲れていたのか、それとも待ちぼうけに飽きてしまったのか。
ソファの背もたれ側に顔を埋め、背中を向けて繰り返される寝息。
海の漣のように穏やかでゆるゆると押しては引いてく呼吸に、五条はそっと安堵した。
対面式キッチンには用意された夕飯。あとは温めるだけで立派なディナーになる。
それを見た瞬間『ぐぅ』と情けなく鳴る腹の虫。
新幹線内で軽食は食べたものの、この時間となると腹はかなり減っていた。
「名無し、ただいま。」
「ん…………」
もそりと動くだけで起きる気配がない。
さて、どうしたものか。
五条が不意に視線を落とす。
名無しが大事そうに抱える何か。
それは随分と見覚えのあるもので、……なんなら今朝まで袖を通していたものだ。
朝、ソファへ投げ捨てた五条の部屋着。
黒い長袖のTシャツ。
それを抱えて名無しは熟睡していた。
「え、可愛い」
意図せず零れた本音。
本人が帰ってきたのだからそんなものより僕を抱きしめて欲しい。
いやいや、気持ちよさそうに寝ているんだからそっとしておいてあげたいでしょ?
それとこれとは別。こんな可愛い姿見せといて触れたいと思うのは生理現象だよ。
脳内五条会議が開かれ、0.2秒で閉廷した。
本能に忠実。それが五条悟という男だった。
「ね、名無し。お・き・て?」
耳に息をそっと吹きかけ、驚いた猫のように名無しが飛び起きたのは言うまでもない。
sweet home
「ところで、名無しも仕事で疲れていたのはわかったけどさぁ」
「?、なんです?」
「僕の着てたTシャツ、そんなにいい匂いした?」
寝起きでまだ頭がぼんやりしているのか。
五条の発言が理解出来ず、小さく首を傾げる名無し。
辺りを一巡。
視線が縫いとめたのは手元の布。もとい、くたくたになったTシャツ。
言っていた意味を瞬時に理解してしまったのか、顔を真っ赤にして弁明をし始めた。
「ち、ちがっ…!わざとじゃないです!これは寝てる時に無意識にですね!?」
火消しをしようとしているのだろうが、残念ながら五条にとってこの発言は『火に油』だ。
つまるところ無意識のうちに五条の匂いを探していた、と。
「名無しさぁ、僕のことどうしちゃいたいワケ?」
遅くなった夕飯の前に、メインディッシュを頂こうか。
哀れな子羊のように慌てふためく名無しをソファに優しく押し倒して、五条は影を落とすように覆い被さった。
その日は名無しと夕飯を食べる約束をしていたのだが――もう時刻は23時を回る。
『先に食べていいよ』とメッセージを送っているものの、反応がない。
返事のレスポンスが基本的に早い名無しらしくない状況に、ほんの少しだけ焦っていた。
帰りが遅くなったから怒っているのだろうか。
それとも何かトラブルに巻き込まれたのだろうか。
いや、そもそも名無しは新幹線の遅延で怒ったりはしない。
電気系統のトラブルだったらしく、復旧まで数時間を要したのは予想外だったが。
トラブル……といっても、彼女はもう一級呪術師だ。
自分の身くらい片手で守れる程に逞しくなった。
浮かんでは消える不安。
女々しい『でもでもだって』の思考回路に、五条本人も辟易していた。
それでも一番大事な恋人のこととなると少しばかり過保護になってしまうのが、この五条悟という男なのだった。
五条が住んでいるマンションの、ドアノブを捻る。
鍵は――無防備にも開いていた。
「名無しちゃ〜ん、ただいまぁ〜」
殊更声音を明るくし、玄関で靴を脱ぎ捨てる。
――部屋が、暗い。
しかし動いてはいないものの、確実に人の気配がひとつ。
そろりと廊下を音もなく歩き、部屋へ入れば――。
(…………寝てる。)
珍しい。
この時間帯はそもそも彼女がまだ起きている時間だというのに。
余程疲れていたのか、それとも待ちぼうけに飽きてしまったのか。
ソファの背もたれ側に顔を埋め、背中を向けて繰り返される寝息。
海の漣のように穏やかでゆるゆると押しては引いてく呼吸に、五条はそっと安堵した。
対面式キッチンには用意された夕飯。あとは温めるだけで立派なディナーになる。
それを見た瞬間『ぐぅ』と情けなく鳴る腹の虫。
新幹線内で軽食は食べたものの、この時間となると腹はかなり減っていた。
「名無し、ただいま。」
「ん…………」
もそりと動くだけで起きる気配がない。
さて、どうしたものか。
五条が不意に視線を落とす。
名無しが大事そうに抱える何か。
それは随分と見覚えのあるもので、……なんなら今朝まで袖を通していたものだ。
朝、ソファへ投げ捨てた五条の部屋着。
黒い長袖のTシャツ。
それを抱えて名無しは熟睡していた。
「え、可愛い」
意図せず零れた本音。
本人が帰ってきたのだからそんなものより僕を抱きしめて欲しい。
いやいや、気持ちよさそうに寝ているんだからそっとしておいてあげたいでしょ?
それとこれとは別。こんな可愛い姿見せといて触れたいと思うのは生理現象だよ。
脳内五条会議が開かれ、0.2秒で閉廷した。
本能に忠実。それが五条悟という男だった。
「ね、名無し。お・き・て?」
耳に息をそっと吹きかけ、驚いた猫のように名無しが飛び起きたのは言うまでもない。
sweet home
「ところで、名無しも仕事で疲れていたのはわかったけどさぁ」
「?、なんです?」
「僕の着てたTシャツ、そんなにいい匂いした?」
寝起きでまだ頭がぼんやりしているのか。
五条の発言が理解出来ず、小さく首を傾げる名無し。
辺りを一巡。
視線が縫いとめたのは手元の布。もとい、くたくたになったTシャツ。
言っていた意味を瞬時に理解してしまったのか、顔を真っ赤にして弁明をし始めた。
「ち、ちがっ…!わざとじゃないです!これは寝てる時に無意識にですね!?」
火消しをしようとしているのだろうが、残念ながら五条にとってこの発言は『火に油』だ。
つまるところ無意識のうちに五条の匂いを探していた、と。
「名無しさぁ、僕のことどうしちゃいたいワケ?」
遅くなった夕飯の前に、メインディッシュを頂こうか。
哀れな子羊のように慌てふためく名無しをソファに優しく押し倒して、五条は影を落とすように覆い被さった。