short story
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薄いわけでもなく、かといってぽっちゃりしているわけでもなく。
健康的で柔らかい薄紅色の唇。
出会った当初は痛々しいくらいに荒れていたが、今や五条にとって魅惑の唇だ。
『不老不死』の呪いにかかった彼女は、今でも15、6歳の姿のまま。
実年齢は24歳なのだから、それなりに大人らしい格好もしたければ、化粧にだって興味があるはずの年頃だ。
なので普段は見た目の年相応…女子高校生がしているような、薄化粧なのだが――。
「名無し、口紅の色変えた?」
五条がそう問えば、一瞬驚いたような顔をして、「はい。」と照れくさそうに笑う。
「先日の任務報告をさっきしてきたんですけど…その時、冥冥さんに会いまして」
***
時は、30分程遡る。
報告を終え、自販機で温かいミルクティーを飲んでいる時だった。
仕事関係で高専に用があった冥冥と久しぶりに再会し、他愛ない話をしている時のこと。
「おや…名無し、口紅が取れてしまったね。」
「あ。」
ミルクティーの缶のふちには、薄付きのリップグロス。
淡いオレンジピンクが銀色の缶にほんのり色を乗せていた。
「可愛らしい色を使っているんだね。」
「ハッキリした色を選ぶ勇気がないんですよねぇ…」
「ふむ。どれ、ちょっと顔を貸してご覧。」
冥冥が取り出したのは小さな化粧ポーチ。
彼女が取り出したのは黒と金の装飾が入ったケースの、鮮やかな色のルージュ。
白く長い指で持ち上げられる顎。
手慣れた手つきでスルリと紅を引き、冥冥は妖艶な目元を満足気に細めた。
「ふふっ…似合うじゃないか。」
「鏡がないから見えないです…」
「部屋に戻って見るといい。きっと五条君も気付くだろう。感想を聞いてみなさい」
編んだ前髪を幽艷に揺らし、冥冥はクスクスと愉しそうに笑う。
……悪戯を仕込んだ時の子供のように見えるのは、気の所為だろうか。
「私の色だね、名無し。」
***
「……というわけです。本当に五条さんが気づいたのはビックリしましたけど。」
ふわふわと笑う名無しを横目で見ながら、五条はこめかみを軽く押えた。
常日頃から損得勘定に重きを置いている冥冥が、意外や意外。名無しを大層気に入っているのは知っていたが。
(な〜〜〜にが私の色、だ。)
名無しを、時々会う孫のように猫可愛がる歌姫の方が随分とマシだ。
冥冥は正直油断も隙もない。
「……似合ってるけどさぁ。何?名無しはそっちの方が気に入ってるの?」
つい拗ねた子供みたいな言い方をしてしまう。
すると、きょとんと目を丸くする名無し。
その後、少し恥ずかしそうに困ったような表情を浮かべ、鮮やかに色付いた唇を動かした。
「というより、こっちの方が客観的に見て大人っぽく見えるのかなぁ…と。」
「大人っぽく見られたいの?」
「………………だって五条さんと少しでも釣り合いたいじゃないですか……」
………………。
なんて、なんて可愛い理由なんだ。
確かに二人の外見の年齢は年々離れるばかりだ。
更に長身の五条と、平均身長に少し足りない名無しが並べば、一見すれば『兄妹』に間違えられることが多々あった。
外見が似ているわけではないのだが、二人の間柄を訊ねる時に『恋人』か『兄妹』のどちらを訊かれるか…と言われたら、背丈や年齢差から『後者』で尋ねられることがほぼ十割だ。
それを気にしているなんて。
なんて可愛らしい。
勿論、五条としては『そんなこと気にしなくていい』と抱きしめて、撫で回して、存分に甘やかしたい気持ちでいっぱいだ。
それでも何とか『五条悟の恋人らしく見られたい』という名無しの背伸びが、何とも言えず、愛おしさでいっぱいになった。
「はーーー……名無しさぁ…」
「はい?」
「僕をどうしちゃいたいわけ。」
これが所謂『萌え』という感情なのか。
新たな境地を開いた五条悟の、平和なとある土曜日。
ルージュの伝言
「口紅さ、僕が選んであげるから、とりあえずそれ落としてきなよ。」
「え。やっぱり似合いませんでしたか?」
「似合うけど。なんかマーキングされてるみたいで嫌だなぁ、って。」
「…マーキング?」
「それとも僕が落としてあげようか?キスで。」
「いえ、落としてきます!」
脱兎の如く立ち上がった名無しの背中を見送りながら「なぁんだ、残念。」とクスクス笑う五条であった。
健康的で柔らかい薄紅色の唇。
出会った当初は痛々しいくらいに荒れていたが、今や五条にとって魅惑の唇だ。
『不老不死』の呪いにかかった彼女は、今でも15、6歳の姿のまま。
実年齢は24歳なのだから、それなりに大人らしい格好もしたければ、化粧にだって興味があるはずの年頃だ。
なので普段は見た目の年相応…女子高校生がしているような、薄化粧なのだが――。
「名無し、口紅の色変えた?」
五条がそう問えば、一瞬驚いたような顔をして、「はい。」と照れくさそうに笑う。
「先日の任務報告をさっきしてきたんですけど…その時、冥冥さんに会いまして」
***
時は、30分程遡る。
報告を終え、自販機で温かいミルクティーを飲んでいる時だった。
仕事関係で高専に用があった冥冥と久しぶりに再会し、他愛ない話をしている時のこと。
「おや…名無し、口紅が取れてしまったね。」
「あ。」
ミルクティーの缶のふちには、薄付きのリップグロス。
淡いオレンジピンクが銀色の缶にほんのり色を乗せていた。
「可愛らしい色を使っているんだね。」
「ハッキリした色を選ぶ勇気がないんですよねぇ…」
「ふむ。どれ、ちょっと顔を貸してご覧。」
冥冥が取り出したのは小さな化粧ポーチ。
彼女が取り出したのは黒と金の装飾が入ったケースの、鮮やかな色のルージュ。
白く長い指で持ち上げられる顎。
手慣れた手つきでスルリと紅を引き、冥冥は妖艶な目元を満足気に細めた。
「ふふっ…似合うじゃないか。」
「鏡がないから見えないです…」
「部屋に戻って見るといい。きっと五条君も気付くだろう。感想を聞いてみなさい」
編んだ前髪を幽艷に揺らし、冥冥はクスクスと愉しそうに笑う。
……悪戯を仕込んだ時の子供のように見えるのは、気の所為だろうか。
「私の色だね、名無し。」
***
「……というわけです。本当に五条さんが気づいたのはビックリしましたけど。」
ふわふわと笑う名無しを横目で見ながら、五条はこめかみを軽く押えた。
常日頃から損得勘定に重きを置いている冥冥が、意外や意外。名無しを大層気に入っているのは知っていたが。
(な〜〜〜にが私の色、だ。)
名無しを、時々会う孫のように猫可愛がる歌姫の方が随分とマシだ。
冥冥は正直油断も隙もない。
「……似合ってるけどさぁ。何?名無しはそっちの方が気に入ってるの?」
つい拗ねた子供みたいな言い方をしてしまう。
すると、きょとんと目を丸くする名無し。
その後、少し恥ずかしそうに困ったような表情を浮かべ、鮮やかに色付いた唇を動かした。
「というより、こっちの方が客観的に見て大人っぽく見えるのかなぁ…と。」
「大人っぽく見られたいの?」
「………………だって五条さんと少しでも釣り合いたいじゃないですか……」
………………。
なんて、なんて可愛い理由なんだ。
確かに二人の外見の年齢は年々離れるばかりだ。
更に長身の五条と、平均身長に少し足りない名無しが並べば、一見すれば『兄妹』に間違えられることが多々あった。
外見が似ているわけではないのだが、二人の間柄を訊ねる時に『恋人』か『兄妹』のどちらを訊かれるか…と言われたら、背丈や年齢差から『後者』で尋ねられることがほぼ十割だ。
それを気にしているなんて。
なんて可愛らしい。
勿論、五条としては『そんなこと気にしなくていい』と抱きしめて、撫で回して、存分に甘やかしたい気持ちでいっぱいだ。
それでも何とか『五条悟の恋人らしく見られたい』という名無しの背伸びが、何とも言えず、愛おしさでいっぱいになった。
「はーーー……名無しさぁ…」
「はい?」
「僕をどうしちゃいたいわけ。」
これが所謂『萌え』という感情なのか。
新たな境地を開いた五条悟の、平和なとある土曜日。
ルージュの伝言
「口紅さ、僕が選んであげるから、とりあえずそれ落としてきなよ。」
「え。やっぱり似合いませんでしたか?」
「似合うけど。なんかマーキングされてるみたいで嫌だなぁ、って。」
「…マーキング?」
「それとも僕が落としてあげようか?キスで。」
「いえ、落としてきます!」
脱兎の如く立ち上がった名無しの背中を見送りながら「なぁんだ、残念。」とクスクス笑う五条であった。