short story
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微睡むような昼下がり。
窓を開け放てば、遮光カーテンが花嫁のヴェールのようにふわりと躍る。
風は秋らしく乾いており、少し肌寒いと感じるくらいだ。
しかし空は絵に描いたような秋晴れ。注ぐ日差しは暖かく、そこにブランケットとソファがあれば、当然丸くなって寝てしまうのは必然だった。
丸二日、徹夜明けの任務があれば尚更。
今朝任務から帰ってきて、さぁ朝食を作ろうとエプロンを着た時のこと。
朝食を食べに来た一年生達に、寮母の仕事は『今日はしなくていい』と必死に止められてしまった。
そんなに疲れた顔をしていたのか。いや、疲れていたのは事実なのだが。
お言葉に甘えて管理人室のソファでうたた寝をさせてもらっている。
怪我はたちまち治ってしまう身体だが、疲れは人並みに取れないらしい。
くぁ、と大きな欠伸をひとつ零し、ブランケットに丸まりなおした時だった。
「ただいまぁ。」
不意に聞こえてきたのは五条の声。
そういえば彼も三日間程の出張だったはず。
革靴が雑に脱ぎ捨てられる重い音。
ガチャッと開けられるドアの音。
数歩の足音の後、次に聞こえてきたのはソファが僅かに軋む音だった。
そして身体にかかる、容赦ない重み。
「ぐぇ……おかえりなさい、五条さん…」
「ただいま。うわ〜最高のお昼寝スポットじゃん、いいなぁ。僕もい〜れ〜て♡」
「のしかかっておいて、それはないんじゃないんです…?」
余裕のある二人掛けのソファも、寝転がってしまえば狭いベッドに他ならない。
更に言えば、190cmをゆうに超える五条にしてみればただの狭い寝床に他ならない。
「重いです、五条さん…」
「僕の愛みたいでしょ?」
「へぇ、この程度なんですか?」
なんて冗談を言えば、五条は楽しそうに破顔する。
「何言ってんの、僕が本気出したら床抜けちゃうよ?」
「その時は修理費、お願いしますね。」
ついでにフローリングも全部張り替えてもらおうか。
なんて図々しいことを名無しがぼんやり考えていると、五条の指が目元をそっと撫でる。
「それにしても酷い顔。丸一日呪霊の相手してたんだって?」
「よくご存知ですね。」
「新田から報告もらっているもん」
普段は軽薄なくせに過保護なのは相変わらずのようだ。
本当は二人がかりでしてしまえばそう徹夜する程の仕事ではなかったのだが、人手不足故だろう。
もしかしたら、上層部からの嫌がらせかもしれないが。
「じゃあ寝させてくださいよ…せっかくお昼寝しようとしていたのに…」
二度目の欠伸を、今度は噛み殺して。
じとりと名無しが五条を見上げれば、彼は空色の瞳を柔らかく細めて機嫌よく笑った。
「奇遇だね。僕も昼寝しようかと思ってた。」
「私のベッドで良ければ空いてますよ。どうぞ、ご自由に」
「僕もここがいい〜」
駄々をこねる子供のようだが、五条の我儘は今に始まったことではない。
名無しは呆れたように眉を寄せ、ソファと五条の間から転がり落ちるように脱出する。
「じゃあ私がベッドで寝ます」と溜息混じりにそう告げた次の瞬間、腕を引かれ、腰を抱かれ、瞬きを二・三度する内にソファへ逆戻りした。
「わっ!」
「どう?五条悟ベッド。」
ソファに寝そべってにこにこと上機嫌の五条。
それはソファを占領出来たからか、愛しの恋人を捕まえることが出来たからか。
名無しは観念したように胸板へ頬を当てる。
筋肉質な胸筋の下でトクトクと緩やかな音を立てる心臓。
心地のいい音。
五条からは決して見えない角度で小さく微笑み、するりと一度だけ頬擦りした。
「……硬〜い。」
「ドキドキするとか言わなくなったあたり、図太くなったよね、お前」
「言わなくなっただけですよ」
ソファの外へ足を投げ出し、五条は名無しを抱え直す。
どうやらこのまま眠るらしい。
『重くないですか?』とか『寝心地悪くないですか?』とか聞いたところで、きっと『全然。』と彼は笑うのだろう。質問を投げ掛けること自体、やめた。
「落とさないでくださいね。」
「僕がそんなヘマすると思う?」
「それもそうですね」
立派な胸板を遠慮なく枕にすることにしよう。
なんと今なら子守唄のように寝かしつけてくれる、心臓の音付きだ。
秋の風。昼下がりの日差し。
窓の外からは枯葉の乾いた葉擦れの音。
頬に当るのは蕩けるような体温。腕の中に抱えるのはやわらかな体温。
これを幸せと言わずして何と言うのか。
キミとソファ
「おやすみなさい、五条さん」
「ん。おやすみ、名無し。」
窓を開け放てば、遮光カーテンが花嫁のヴェールのようにふわりと躍る。
風は秋らしく乾いており、少し肌寒いと感じるくらいだ。
しかし空は絵に描いたような秋晴れ。注ぐ日差しは暖かく、そこにブランケットとソファがあれば、当然丸くなって寝てしまうのは必然だった。
丸二日、徹夜明けの任務があれば尚更。
今朝任務から帰ってきて、さぁ朝食を作ろうとエプロンを着た時のこと。
朝食を食べに来た一年生達に、寮母の仕事は『今日はしなくていい』と必死に止められてしまった。
そんなに疲れた顔をしていたのか。いや、疲れていたのは事実なのだが。
お言葉に甘えて管理人室のソファでうたた寝をさせてもらっている。
怪我はたちまち治ってしまう身体だが、疲れは人並みに取れないらしい。
くぁ、と大きな欠伸をひとつ零し、ブランケットに丸まりなおした時だった。
「ただいまぁ。」
不意に聞こえてきたのは五条の声。
そういえば彼も三日間程の出張だったはず。
革靴が雑に脱ぎ捨てられる重い音。
ガチャッと開けられるドアの音。
数歩の足音の後、次に聞こえてきたのはソファが僅かに軋む音だった。
そして身体にかかる、容赦ない重み。
「ぐぇ……おかえりなさい、五条さん…」
「ただいま。うわ〜最高のお昼寝スポットじゃん、いいなぁ。僕もい〜れ〜て♡」
「のしかかっておいて、それはないんじゃないんです…?」
余裕のある二人掛けのソファも、寝転がってしまえば狭いベッドに他ならない。
更に言えば、190cmをゆうに超える五条にしてみればただの狭い寝床に他ならない。
「重いです、五条さん…」
「僕の愛みたいでしょ?」
「へぇ、この程度なんですか?」
なんて冗談を言えば、五条は楽しそうに破顔する。
「何言ってんの、僕が本気出したら床抜けちゃうよ?」
「その時は修理費、お願いしますね。」
ついでにフローリングも全部張り替えてもらおうか。
なんて図々しいことを名無しがぼんやり考えていると、五条の指が目元をそっと撫でる。
「それにしても酷い顔。丸一日呪霊の相手してたんだって?」
「よくご存知ですね。」
「新田から報告もらっているもん」
普段は軽薄なくせに過保護なのは相変わらずのようだ。
本当は二人がかりでしてしまえばそう徹夜する程の仕事ではなかったのだが、人手不足故だろう。
もしかしたら、上層部からの嫌がらせかもしれないが。
「じゃあ寝させてくださいよ…せっかくお昼寝しようとしていたのに…」
二度目の欠伸を、今度は噛み殺して。
じとりと名無しが五条を見上げれば、彼は空色の瞳を柔らかく細めて機嫌よく笑った。
「奇遇だね。僕も昼寝しようかと思ってた。」
「私のベッドで良ければ空いてますよ。どうぞ、ご自由に」
「僕もここがいい〜」
駄々をこねる子供のようだが、五条の我儘は今に始まったことではない。
名無しは呆れたように眉を寄せ、ソファと五条の間から転がり落ちるように脱出する。
「じゃあ私がベッドで寝ます」と溜息混じりにそう告げた次の瞬間、腕を引かれ、腰を抱かれ、瞬きを二・三度する内にソファへ逆戻りした。
「わっ!」
「どう?五条悟ベッド。」
ソファに寝そべってにこにこと上機嫌の五条。
それはソファを占領出来たからか、愛しの恋人を捕まえることが出来たからか。
名無しは観念したように胸板へ頬を当てる。
筋肉質な胸筋の下でトクトクと緩やかな音を立てる心臓。
心地のいい音。
五条からは決して見えない角度で小さく微笑み、するりと一度だけ頬擦りした。
「……硬〜い。」
「ドキドキするとか言わなくなったあたり、図太くなったよね、お前」
「言わなくなっただけですよ」
ソファの外へ足を投げ出し、五条は名無しを抱え直す。
どうやらこのまま眠るらしい。
『重くないですか?』とか『寝心地悪くないですか?』とか聞いたところで、きっと『全然。』と彼は笑うのだろう。質問を投げ掛けること自体、やめた。
「落とさないでくださいね。」
「僕がそんなヘマすると思う?」
「それもそうですね」
立派な胸板を遠慮なく枕にすることにしよう。
なんと今なら子守唄のように寝かしつけてくれる、心臓の音付きだ。
秋の風。昼下がりの日差し。
窓の外からは枯葉の乾いた葉擦れの音。
頬に当るのは蕩けるような体温。腕の中に抱えるのはやわらかな体温。
これを幸せと言わずして何と言うのか。
キミとソファ
「おやすみなさい、五条さん」
「ん。おやすみ、名無し。」