short story
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「「は?」」
お互い、顔を見合せて声を上げた。
サンタ帽を被った虎杖──と見せかけて、額や頬に紋様が浮かんだ様子から察するに、中身は両面宿儺だ。
現に頬骨に複眼がギョロりと相手を目付けていた。
一方、任務から帰ってきたばかりだというのに完璧なコスチュームを着込んだ五条悟。
薄暗い寮の廊下でもぼんやり浮かび上がる白銀の髪に、ドンキ〇ーテで買ったにしては本格的なサンタ服に、外野がいれば『凝りすぎだろ』と呆れられたに違いない。
似合うか似合わないか、と問われれば、両者共に感想に困る仕上がりである。
「似合わんな。」
「いや、お前は似合う問題以前じゃない?流石の僕もドン引きなんだけど。」
特級呪物がサンタクロースの真似事など、笑うに笑えない。何のジョークだ。
「こんな夜更けに何の用?この先には管理人室しかないんだけど」
「小娘に用がある以外に何があるのか?」
「夜這い役は間に合ってるよ。」
残念なことに目的地は同じらしい。
皆まで言う必要はないかもしれないが、目的も恐らく──
「今宵は『くりすます』なのだろう?」
そう。昨日は12月24日。今は12月25日、深夜1時を回ったところだ。
日本人が一番はしゃぐ喧騒を越え、良い子は寝静まる夜更けである。
「呪いの王がクリスマスに興味あるの、面白すぎでしょ」
「馳走を食って貢ぎ物を受け取る祭事だろう。都で行われていたものと何ら変わらん。」
宿儺曰く、程度や文化の差はあれど、平安時代と似たようなものらしい。
「……その格好で嫌な予感してたけどさ、まさか用意してんの?プレゼント。」
「当然だろう。小僧に選ばせたから間違いはない」
彼が手に持っていた、四角く、薄い箱。
包装してもらうのを失念したせいか、保護用のビニールの上からリボンをかけられたそれは──
『ポケッ〇モンスター スカーレッ〇』
確かにバイオレットを買った彼女は『攻略したらスカーレットも欲しいですね』と言っていたが……。
男子高校生の虎杖らしいプレゼントのアドバイスに、五条は何とも言えない表情になった。
確実に喜ぶであろうプレゼントではある。間違いない。
しかし考えて見てほしい。
『両面宿儺がポ〇モンを買う。』
呪術界が(別の意味で)震撼しそうな事実である。
「まぁ、なるほど…?」
「まさか貴様は『ばいおれっと』ではなかろうな?」
「いや?」
発売日にダウンロード購入していることは、知っている。なぜなら恋人だから。
そして選んだものも『友人』のようなものではなく、勿論『恋人』らしいものだ。
「僕は下着だよ。なんせサイズ知ってるし?」
ブラのサイズは勿論、ウエストだって服の号数だって好みの色だって。なんなら月ものの周期だって知っている。
『そんなことに脳のキャパシティ使わないでください』と呆れ返られたのは、もう随分と前の話だ。当然だが、毎月その情報は更新済みである。
しかし宿儺は顔を顰めていた。
マウントを取られた事実ではなく、意外にも真っ当な理由でだ。
「流石の俺も襦袢を送るのは『どんびき』だぞ。品がないな、今の時代は」
「分かってないな、これだから時代遅れは。プレゼントが一つなんて、僕言ってないんだけど」
平安男子(?)らしい感想ではあるが、当人の五条は悪びれた様子は一切ない。
というより、ななし名無しはこんな時でなければプレゼントを受け取らないのだ。
クリスマスに金を使わなければいつ使うのか?今でしょ。
「聞いておらんぞ。」
「ま、僕のは恋人の『特権』ってやつだし?」
可愛い恋人に(限度はあるが)貢ぎ放題なのは最早特権と言ってもいい。
なぜなら教師と生徒という立場の時は、プレゼント一つに『あげる』『いえ、受け取る立場ではないですし』と問答を繰り返したものだ。
「…はっ。小娘の馳走も食いっぱぐれた男が何を言う」
「どっかの誰かが受肉したせいで忙しさが倍増なワケ。っていうかお前が食べたんじゃなくて悠仁が食べてるんじゃん」
普段は虎杖が身体の主導権を握っているため、精々宿儺は頬や手に目や口を顕現させる程度。
つまり、今のように身体を譲って貰わねば、料理を『食べる』なんてことは出来ないのだが──
「手製の『ろーすとびーふ』は美味かったぞ。」
「ケヒッ、」と笑いながら宿儺が口角を上げる。
それと同時に五条の纏う空気が3℃ほど冷え込んだ。
「……は?何?食べた訳?」
「そう申しておるだろう。」
「熱々のクリスマスディナー、僕食べてないんだけど?」
「ケヒッ、そいつはご愁傷様だな。」
「よーし、祓っちゃおうかな〜!」
腕をぐるりと回し、五条がアイマスクに手をかけた瞬間。
──ガチャ。
「五月蝿いですよ、何時だと思ってるんですか。」
管理人室のドアが開き、怪訝そうに眉を寄せた名無しが出てくる。
「名無し。」
「小娘。」
冷え冷えとした廊下に満ちた、剣呑な空気が途端に緩む。
先に声を上げたのは、五条の方だった。
「たっだいま〜!キミのルッキングガイ、五条悟だよ♡あとメリクリ♡」
「おかえりなさい、五条さん。メリークリスマスです。」
ホップステップジャンプで飛びつき、抱擁を交わす五条。
通常運転の彼女はポンと一度抱きしめ返し、僅か一秒で身体を離した。
「……で、宿儺殿はどうしてここに?というかその格好…似合うと申し上げていいのか面白いと笑えばいいのか反応に困るんですけど」
困惑した表情で宿儺を見遣る名無しの視線は、些か冷ややかだ。
「何。そこの小僧よりは真っ当な『さんたくろーす』に扮しているだけだ。受け取れ。」
渡されたプレゼント、もといゲームソフト。
平安時代を生きた呪いの王に渡されたプレゼントは実に現代っ子向けのものだ。
素直に喜べばいいのか、なにか意図があるのか。惑うには十分なプレゼントである。
「あ、ありがとう…ございます?」
「髪が長ければ簪もありかと思ったが、まぁ今回はこれでいいだろう。」
「ええっと…まぁ…短い方が楽ですから」
そう答える名無しの目の前に、突き出される大袋のプレゼント。
それは勿論五条から。真っ赤な袋にリボンをかけられたそれは、プレゼントが複数個入っているのか。
一昨年ほど前までは『ひとつで十分です』と固辞していたが、今は半ば諦めている。
勿論嬉しくないと言えば嘘になるが、貰うには些か過分だと苦笑いしてしまうのも事実だった。
「はーい、本命で大トリのプレゼント。僕からのプレゼントもど〜ぞ。」
「ありがとうございます。……あの、中身を聞いても?」
宿儺の言っていた『そこの小僧よりは真っ当な』という一言が酷く引っかかったのだ。
いつもは開封する前に尋ねたりなどはしないが、今回だけは特別。虫の知らせというやつだろう。
五条は満面の笑みで、悪びれなく答えた。
「エッチなランジェリー♡」
「クリスマスってクーリングオフ使えますかね?」
「聞いた事ないからないんじゃない?」
「受け取りますけど、焼却炉で燃やしていいですか?」
「環境に優しくないよ、名無し。高温で燃やさなきゃダイオキシン出ちゃうよ?」
「宿儺殿、お願いします。」
「仕方あるまい。」
「恋人のプレゼントをノータイムで燃やそうとするのやめてくれない?」
開けたくない。開けた瞬間床に叩きつけてしまう自信しかない。
しかし恋人からのプレゼントである。それは憚られてしまう──が、どうしてそのチョイスなのか。
問い詰めてもきっと『それ着た名無しとエッチしたいから』と満面の笑みで言うに違いない。それが五条悟という男なのだから。
重々しい溜息を吐き出して、名無しは問う。
「……あの、深夜ですし、帰」
「泊まるけど?」「こやつを残して戻るとでも?」
「うわぁ…………」
サンタさん、サンタさん。
この問題児二人へ投げつける木炭を私にください。
木炭プリーズ、サンタクロース
「っていうか名無し、起きてた?」
「ポケモ〇してたので。」
「えっ、僕の帰りを待つために?」
「色違い探しのためです。食事、召し上がられますか?温めるので座っててください。」
「オイ、あの切り株のケーキはまだあるのか?」
「ありますけど…えっ、まだ食べるんですか?」
「俺は食ってない。」
「……それでも実質食べるのは虎杖君では?太りませんかね」
「小僧の身体なぞ知ったことか。出せ。」
「う、うわ、横暴……」
「ちょっと。僕のも残しといてよ。」
「保証すると思ってるのか?」
「よーし、やっぱ祓っちゃおうかなー!聖夜だし?ゲテモノはないに限るよね?」
「聖夜くらい穏やかに過ごしたいんですけど……」
名無しの切実な呟きは、東京の寒空へとけて消えた。
お互い、顔を見合せて声を上げた。
サンタ帽を被った虎杖──と見せかけて、額や頬に紋様が浮かんだ様子から察するに、中身は両面宿儺だ。
現に頬骨に複眼がギョロりと相手を目付けていた。
一方、任務から帰ってきたばかりだというのに完璧なコスチュームを着込んだ五条悟。
薄暗い寮の廊下でもぼんやり浮かび上がる白銀の髪に、ドンキ〇ーテで買ったにしては本格的なサンタ服に、外野がいれば『凝りすぎだろ』と呆れられたに違いない。
似合うか似合わないか、と問われれば、両者共に感想に困る仕上がりである。
「似合わんな。」
「いや、お前は似合う問題以前じゃない?流石の僕もドン引きなんだけど。」
特級呪物がサンタクロースの真似事など、笑うに笑えない。何のジョークだ。
「こんな夜更けに何の用?この先には管理人室しかないんだけど」
「小娘に用がある以外に何があるのか?」
「夜這い役は間に合ってるよ。」
残念なことに目的地は同じらしい。
皆まで言う必要はないかもしれないが、目的も恐らく──
「今宵は『くりすます』なのだろう?」
そう。昨日は12月24日。今は12月25日、深夜1時を回ったところだ。
日本人が一番はしゃぐ喧騒を越え、良い子は寝静まる夜更けである。
「呪いの王がクリスマスに興味あるの、面白すぎでしょ」
「馳走を食って貢ぎ物を受け取る祭事だろう。都で行われていたものと何ら変わらん。」
宿儺曰く、程度や文化の差はあれど、平安時代と似たようなものらしい。
「……その格好で嫌な予感してたけどさ、まさか用意してんの?プレゼント。」
「当然だろう。小僧に選ばせたから間違いはない」
彼が手に持っていた、四角く、薄い箱。
包装してもらうのを失念したせいか、保護用のビニールの上からリボンをかけられたそれは──
『ポケッ〇モンスター スカーレッ〇』
確かにバイオレットを買った彼女は『攻略したらスカーレットも欲しいですね』と言っていたが……。
男子高校生の虎杖らしいプレゼントのアドバイスに、五条は何とも言えない表情になった。
確実に喜ぶであろうプレゼントではある。間違いない。
しかし考えて見てほしい。
『両面宿儺がポ〇モンを買う。』
呪術界が(別の意味で)震撼しそうな事実である。
「まぁ、なるほど…?」
「まさか貴様は『ばいおれっと』ではなかろうな?」
「いや?」
発売日にダウンロード購入していることは、知っている。なぜなら恋人だから。
そして選んだものも『友人』のようなものではなく、勿論『恋人』らしいものだ。
「僕は下着だよ。なんせサイズ知ってるし?」
ブラのサイズは勿論、ウエストだって服の号数だって好みの色だって。なんなら月ものの周期だって知っている。
『そんなことに脳のキャパシティ使わないでください』と呆れ返られたのは、もう随分と前の話だ。当然だが、毎月その情報は更新済みである。
しかし宿儺は顔を顰めていた。
マウントを取られた事実ではなく、意外にも真っ当な理由でだ。
「流石の俺も襦袢を送るのは『どんびき』だぞ。品がないな、今の時代は」
「分かってないな、これだから時代遅れは。プレゼントが一つなんて、僕言ってないんだけど」
平安男子(?)らしい感想ではあるが、当人の五条は悪びれた様子は一切ない。
というより、ななし名無しはこんな時でなければプレゼントを受け取らないのだ。
クリスマスに金を使わなければいつ使うのか?今でしょ。
「聞いておらんぞ。」
「ま、僕のは恋人の『特権』ってやつだし?」
可愛い恋人に(限度はあるが)貢ぎ放題なのは最早特権と言ってもいい。
なぜなら教師と生徒という立場の時は、プレゼント一つに『あげる』『いえ、受け取る立場ではないですし』と問答を繰り返したものだ。
「…はっ。小娘の馳走も食いっぱぐれた男が何を言う」
「どっかの誰かが受肉したせいで忙しさが倍増なワケ。っていうかお前が食べたんじゃなくて悠仁が食べてるんじゃん」
普段は虎杖が身体の主導権を握っているため、精々宿儺は頬や手に目や口を顕現させる程度。
つまり、今のように身体を譲って貰わねば、料理を『食べる』なんてことは出来ないのだが──
「手製の『ろーすとびーふ』は美味かったぞ。」
「ケヒッ、」と笑いながら宿儺が口角を上げる。
それと同時に五条の纏う空気が3℃ほど冷え込んだ。
「……は?何?食べた訳?」
「そう申しておるだろう。」
「熱々のクリスマスディナー、僕食べてないんだけど?」
「ケヒッ、そいつはご愁傷様だな。」
「よーし、祓っちゃおうかな〜!」
腕をぐるりと回し、五条がアイマスクに手をかけた瞬間。
──ガチャ。
「五月蝿いですよ、何時だと思ってるんですか。」
管理人室のドアが開き、怪訝そうに眉を寄せた名無しが出てくる。
「名無し。」
「小娘。」
冷え冷えとした廊下に満ちた、剣呑な空気が途端に緩む。
先に声を上げたのは、五条の方だった。
「たっだいま〜!キミのルッキングガイ、五条悟だよ♡あとメリクリ♡」
「おかえりなさい、五条さん。メリークリスマスです。」
ホップステップジャンプで飛びつき、抱擁を交わす五条。
通常運転の彼女はポンと一度抱きしめ返し、僅か一秒で身体を離した。
「……で、宿儺殿はどうしてここに?というかその格好…似合うと申し上げていいのか面白いと笑えばいいのか反応に困るんですけど」
困惑した表情で宿儺を見遣る名無しの視線は、些か冷ややかだ。
「何。そこの小僧よりは真っ当な『さんたくろーす』に扮しているだけだ。受け取れ。」
渡されたプレゼント、もといゲームソフト。
平安時代を生きた呪いの王に渡されたプレゼントは実に現代っ子向けのものだ。
素直に喜べばいいのか、なにか意図があるのか。惑うには十分なプレゼントである。
「あ、ありがとう…ございます?」
「髪が長ければ簪もありかと思ったが、まぁ今回はこれでいいだろう。」
「ええっと…まぁ…短い方が楽ですから」
そう答える名無しの目の前に、突き出される大袋のプレゼント。
それは勿論五条から。真っ赤な袋にリボンをかけられたそれは、プレゼントが複数個入っているのか。
一昨年ほど前までは『ひとつで十分です』と固辞していたが、今は半ば諦めている。
勿論嬉しくないと言えば嘘になるが、貰うには些か過分だと苦笑いしてしまうのも事実だった。
「はーい、本命で大トリのプレゼント。僕からのプレゼントもど〜ぞ。」
「ありがとうございます。……あの、中身を聞いても?」
宿儺の言っていた『そこの小僧よりは真っ当な』という一言が酷く引っかかったのだ。
いつもは開封する前に尋ねたりなどはしないが、今回だけは特別。虫の知らせというやつだろう。
五条は満面の笑みで、悪びれなく答えた。
「エッチなランジェリー♡」
「クリスマスってクーリングオフ使えますかね?」
「聞いた事ないからないんじゃない?」
「受け取りますけど、焼却炉で燃やしていいですか?」
「環境に優しくないよ、名無し。高温で燃やさなきゃダイオキシン出ちゃうよ?」
「宿儺殿、お願いします。」
「仕方あるまい。」
「恋人のプレゼントをノータイムで燃やそうとするのやめてくれない?」
開けたくない。開けた瞬間床に叩きつけてしまう自信しかない。
しかし恋人からのプレゼントである。それは憚られてしまう──が、どうしてそのチョイスなのか。
問い詰めてもきっと『それ着た名無しとエッチしたいから』と満面の笑みで言うに違いない。それが五条悟という男なのだから。
重々しい溜息を吐き出して、名無しは問う。
「……あの、深夜ですし、帰」
「泊まるけど?」「こやつを残して戻るとでも?」
「うわぁ…………」
サンタさん、サンタさん。
この問題児二人へ投げつける木炭を私にください。
木炭プリーズ、サンタクロース
「っていうか名無し、起きてた?」
「ポケモ〇してたので。」
「えっ、僕の帰りを待つために?」
「色違い探しのためです。食事、召し上がられますか?温めるので座っててください。」
「オイ、あの切り株のケーキはまだあるのか?」
「ありますけど…えっ、まだ食べるんですか?」
「俺は食ってない。」
「……それでも実質食べるのは虎杖君では?太りませんかね」
「小僧の身体なぞ知ったことか。出せ。」
「う、うわ、横暴……」
「ちょっと。僕のも残しといてよ。」
「保証すると思ってるのか?」
「よーし、やっぱ祓っちゃおうかなー!聖夜だし?ゲテモノはないに限るよね?」
「聖夜くらい穏やかに過ごしたいんですけど……」
名無しの切実な呟きは、東京の寒空へとけて消えた。