short story
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それはとある初夏の出来事だった。
「虎杖くん。壊れたエアコンの修理日決まったんだけど……」
任務もない。授業もない。
実質『自習』という名の自由時間と聞いていたので、名無しは一年生の教室へ寮のメンテナンスの件で教室を訪れたのだが──
「あれ?どっか行っちゃった?」
「男子達はコンビニ行ったわよ、ついさっきね」
「棘達も行ったから、多分ダラダラ菓子でも選ぶんだろ」
学校からコンビニまでは徒歩でもかなり距離がある。
パンダはおそらくコンビニの近くで待っているのだろう。
そしておにぎりの具しか語彙がない狗巻だが、おしゃべりで、社交的で、後輩にもよく好かれている。更に言えば男子高校生特有の悪ノリも大好きである。
会話が成立するかどうかはさておき、男子高校生3人でお菓子コーナーを物色している姿は容易に想像できた。
「ふーん、そっか。じゃあライン送っとこうかな」
ポケットから取り出したスマホをたぷたぷと操作しながら、名無しはシステム手帳とメッセージの文面を誤字がないか慎重に確認する。
そんな彼女の手元を見て、釘崎に『されるがまま』になっていた真希は、濡れた指先をぱたぱたと乾かしながら笑った。
「野薔薇。そこにいい練習台いるじゃん」
勝気な笑みを浮かべて指さした先にいるのは、名無し。
「あ、盲点でした。」と小さく呟き、何かを企む子供のような笑顔で、釘崎は名無しに頼み込んだ。
「ね、名無し。ちょっとお願いがあるんだけど」
Pale Blueを纏って
「指先、どしたの?」
時計の針が23時を回ったくらいのこと。
相変わらず多忙を極める五条が、寮の管理人室に転がりこんできたのは、もうすぐ日付が変わろうとしていた頃合だった。
五条は五条で『教師用の職員寮』があるにも関わらず、任務から帰ってくれば学生寮の管理人室に直行するのは当たり前の日常になっている。
それを咎めるつもりもない上、普通になりつつある名無しは内心『絆されてるな』と笑うのだが、当然ながら悪い気はしなかった。
冷めてしまった味噌汁を温め直しながら、五条へ見せびらかすように色が差した指先を自慢した。
「いいでしょう。人生初ネイルです」
「いいね。さしずめ、野薔薇の仕業かな?」
「はい。グラデーションネイルの練習台になってと言われまして。」
セルフネイルをする為にYouTubeの動画を見ながら塗っていたのだが、その表情が任務と同じくらい真剣で、思わずふくふくと笑ってしまった。
勿論、嘲りなどは一切なく、ただ単純に『可愛いな』と微笑ましくなる純粋な気持ちで。
「上手ですよね。」と忖度なしに上機嫌で褒める名無しを眺め、五条はアイマスクを取り外してやわりと目元を緩ませる。
楽しそうに今日あったことを話してくれる彼女が好きだ。
五条の目が届かないような些細なことでも嫌な顔一つせず、大切そうに話してくれる彼女が好きだ。
可愛い生徒を誰よりも大事にしてくれる彼女が好きだ。
生徒に向ける親愛とは異なる、少しだけドロリとした、胸焼けしそうな愛おしさ。
それと同時に今日も健やかに彼女が過ごせたことを心から喜ぶ自分もいて──有り体に言えば、名無しの顔を見れば疲れが吹き飛ぶのだ。本当に。
何より『ただ一人の女の子として』交流があることに、五条は言葉にせずとも感極まるような嬉しさが込み上げていた。
結局のところ、ななし名無しという女の幸せを誰よりも一番願っているのは、他の誰でもない。この五条悟なのだから。
「で、なんで青?」
味噌汁を汁茶碗に注ぎ、深夜だからか白米をいつもより控えめに盛った茶碗を置いた名無しに覆い被さるように抱きしめる五条。
杓文字を盛った指先はやわらかなペールブルーからホワイトに代わる色に彩られている。
五条の自惚れでなければ、これは。
「深い意味は、ないですよ。もうすぐ夏ですし、」
「ふーん?」
少し歯切れが悪くなった名無しの言葉を、五条が聞き逃すはずがない。
ニタニタと底意地の悪い笑みを浮かべながら確信に近い問いを投げかけた。
「それって、僕の色?」
「…………………………似合いませんか?」
誤魔化しても無駄だと悟ったのだろう。
照れと、僅かな緊張が入り交じった瞳で見上げられたら、仮に似合っていなくとも『似合っている』と世辞を述べたくなる破壊力があることを、彼女はもう少し自覚した方がいい。
白い指先にふわりと彩る淡いブルー。
主張しすぎない雪のような色味は実に彼女らしく、よく似合っていた。
けど。
「似合うけど、今度は僕が塗ってあげる。」
可愛い生徒が塗ったものだとしても、身に纏うもの全部染めたい──というのは、我儘とも独占欲とも言い難い。
そう。それはどちらかというと嫉妬に近しいもので。
白い手を取り細い指先に唇を落とせば、恥ずかしそうに視線を逸らす仕草すら愛おしい。
「……爪が伸びたら、お願いします」と小声で答えた名無しの言葉に、五条は満足そうに頬を綻ばせるのであった。
「虎杖くん。壊れたエアコンの修理日決まったんだけど……」
任務もない。授業もない。
実質『自習』という名の自由時間と聞いていたので、名無しは一年生の教室へ寮のメンテナンスの件で教室を訪れたのだが──
「あれ?どっか行っちゃった?」
「男子達はコンビニ行ったわよ、ついさっきね」
「棘達も行ったから、多分ダラダラ菓子でも選ぶんだろ」
学校からコンビニまでは徒歩でもかなり距離がある。
パンダはおそらくコンビニの近くで待っているのだろう。
そしておにぎりの具しか語彙がない狗巻だが、おしゃべりで、社交的で、後輩にもよく好かれている。更に言えば男子高校生特有の悪ノリも大好きである。
会話が成立するかどうかはさておき、男子高校生3人でお菓子コーナーを物色している姿は容易に想像できた。
「ふーん、そっか。じゃあライン送っとこうかな」
ポケットから取り出したスマホをたぷたぷと操作しながら、名無しはシステム手帳とメッセージの文面を誤字がないか慎重に確認する。
そんな彼女の手元を見て、釘崎に『されるがまま』になっていた真希は、濡れた指先をぱたぱたと乾かしながら笑った。
「野薔薇。そこにいい練習台いるじゃん」
勝気な笑みを浮かべて指さした先にいるのは、名無し。
「あ、盲点でした。」と小さく呟き、何かを企む子供のような笑顔で、釘崎は名無しに頼み込んだ。
「ね、名無し。ちょっとお願いがあるんだけど」
Pale Blueを纏って
「指先、どしたの?」
時計の針が23時を回ったくらいのこと。
相変わらず多忙を極める五条が、寮の管理人室に転がりこんできたのは、もうすぐ日付が変わろうとしていた頃合だった。
五条は五条で『教師用の職員寮』があるにも関わらず、任務から帰ってくれば学生寮の管理人室に直行するのは当たり前の日常になっている。
それを咎めるつもりもない上、普通になりつつある名無しは内心『絆されてるな』と笑うのだが、当然ながら悪い気はしなかった。
冷めてしまった味噌汁を温め直しながら、五条へ見せびらかすように色が差した指先を自慢した。
「いいでしょう。人生初ネイルです」
「いいね。さしずめ、野薔薇の仕業かな?」
「はい。グラデーションネイルの練習台になってと言われまして。」
セルフネイルをする為にYouTubeの動画を見ながら塗っていたのだが、その表情が任務と同じくらい真剣で、思わずふくふくと笑ってしまった。
勿論、嘲りなどは一切なく、ただ単純に『可愛いな』と微笑ましくなる純粋な気持ちで。
「上手ですよね。」と忖度なしに上機嫌で褒める名無しを眺め、五条はアイマスクを取り外してやわりと目元を緩ませる。
楽しそうに今日あったことを話してくれる彼女が好きだ。
五条の目が届かないような些細なことでも嫌な顔一つせず、大切そうに話してくれる彼女が好きだ。
可愛い生徒を誰よりも大事にしてくれる彼女が好きだ。
生徒に向ける親愛とは異なる、少しだけドロリとした、胸焼けしそうな愛おしさ。
それと同時に今日も健やかに彼女が過ごせたことを心から喜ぶ自分もいて──有り体に言えば、名無しの顔を見れば疲れが吹き飛ぶのだ。本当に。
何より『ただ一人の女の子として』交流があることに、五条は言葉にせずとも感極まるような嬉しさが込み上げていた。
結局のところ、ななし名無しという女の幸せを誰よりも一番願っているのは、他の誰でもない。この五条悟なのだから。
「で、なんで青?」
味噌汁を汁茶碗に注ぎ、深夜だからか白米をいつもより控えめに盛った茶碗を置いた名無しに覆い被さるように抱きしめる五条。
杓文字を盛った指先はやわらかなペールブルーからホワイトに代わる色に彩られている。
五条の自惚れでなければ、これは。
「深い意味は、ないですよ。もうすぐ夏ですし、」
「ふーん?」
少し歯切れが悪くなった名無しの言葉を、五条が聞き逃すはずがない。
ニタニタと底意地の悪い笑みを浮かべながら確信に近い問いを投げかけた。
「それって、僕の色?」
「…………………………似合いませんか?」
誤魔化しても無駄だと悟ったのだろう。
照れと、僅かな緊張が入り交じった瞳で見上げられたら、仮に似合っていなくとも『似合っている』と世辞を述べたくなる破壊力があることを、彼女はもう少し自覚した方がいい。
白い指先にふわりと彩る淡いブルー。
主張しすぎない雪のような色味は実に彼女らしく、よく似合っていた。
けど。
「似合うけど、今度は僕が塗ってあげる。」
可愛い生徒が塗ったものだとしても、身に纏うもの全部染めたい──というのは、我儘とも独占欲とも言い難い。
そう。それはどちらかというと嫉妬に近しいもので。
白い手を取り細い指先に唇を落とせば、恥ずかしそうに視線を逸らす仕草すら愛おしい。
「……爪が伸びたら、お願いします」と小声で答えた名無しの言葉に、五条は満足そうに頬を綻ばせるのであった。