short story
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【任務は無事終わったが、無事ではない。】
そんな頓珍漢な報告を受けた五条は、彼女に同行していた伊地知を脅……懇切丁寧に教えてもらい、何があったか全て洗いざらい聞いた後、大層機嫌良く学生寮の管理人室へ飛び込んだ。
サトラレの憂鬱
「名無し、シュークリームとプリンどっちが食べたぁい?」
有名パティスリーのシュークリームとプリン。
普段なら『ご飯』の一言に反応する犬宜しく、目を輝かせて背筋を伸ばすのだが──
五条の機嫌の良さから察してしまった名無しは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
勿論、追い返しても無駄ということを知っているため、テーブルを勧め、当然のようにお茶を用意した。
さて。
任務を終えた名無しの身に何が起こったのか。
耳を傾けてみれば一目瞭然ならぬ、一耳瞭然だ。
「……五条さんの好きな方を召し上がってください。」
《シュークリーム食べたいです!》
「…………。」
「…………。」
「…ぷふっ!うわー、ホントだ。本音聞こえるじゃん。変な呪い受けちゃったねー」
「し、仕方ないじゃないですか。護衛の任務ついて、庇ったらこうなったんですから」
《もう、何笑ってるんですか!困ってるんですよ!》
二重音声のように聞こえてくる声。有効範囲はおおよそ1m。
どこかの漫画だったかドラマだったか、そう。先天性R型脳梁変性症とかナントカ。
通称名『サトラレ』。
当然だがそんなものはフィクションで、漫画やドラマの中の話に過ぎない。
だが頓痴気な術式も現実にあるようで、予告状で脅された議員の護衛任務をしていた名無しがとっさに庇い、受けてしまった呪いは『サトラレ』そのものだ。
──平たく言えば、考えていることが周りの人間に伝わる呪いである。
「くくっ、覚えとこ。名無しはプリンよりシュークリーム派、っと。」
「そんなしょうもないこと、覚えなくて結構です…!」
《クッキーシューが好きです!》
「はいはい、薄皮しっとり生地よりザクザクした方が好きなんだねー」
「あぁあぁぁぁ〜〜〜」
知られて恥ずかしい内容ではないのだが、こうも遠慮なく自己主張する本音を聞かれるのは、中々耐え難いものがある。
呪いの元ネタになった漫画やドラマはシリアスな内容だったのに、どうしてこうなった。
「いやぁ、これ庇って正解じゃない?任務先は議員のお偉いさんだったんでしょ?こんな呪いを喰らったらお天道様に晒せないあんな事やこんな事から、お熱を上げてるキャバ嬢の源氏名まで周りにモロバレなわけでしょ?死にたくなるよねー」
「お陰で私のプライバシーはゼロなわけですけどね!」
《ちゃんと護衛しました!褒めてください!》
ほとほと困った名無しの表情とは裏腹に、彼女の本心は実に素直だった。
誰しも褒められて悪い気はしないのだろうが…こうも心の声が丸聞こえだと流石の五条も吹き出しそうになる。
例えるなら、そう。忠犬だ。
肩を震わせて笑いを噛み殺しながら、普段より何倍もストレートな元・教え子(の心の声)に促されるまま、ふわふわした黒髪を無遠慮に撫で回した。
「に、にやにや笑わないでください」
《五条さんに撫でられるの好きです。》
「えー、でも僕に撫でられるの好きなんでしょ?」
いくら虚勢を張っても火に油を注ぐ結果にしかならない。
惚れた弱みというか、五条の性格の悪さか露見しているというか。
何にせよ嬉しい反面、素直になれない名無しは大層不満そうに歯噛みするばかり。
「普段天邪鬼だから、本音が筒抜けなのはなんか新鮮だね。名無しが僕のことだぁ〜い好きなのは知ってるけど、本心はこうも素直なんだ〜?へ〜〜〜?」
「そうやって、からかってばっかりだと、」
《勿論、大好きですよ》
遮るように間髪入れず主張してくる心の声。
脅し文句を言う前に放たれた、嘘のつけない可愛い本音。
名無しは顔を真っ赤にしながら「あーーー!あーーーー!あの呪詛師もっとシめとけばよかった!」と頭を抱えて蹲ってしまった。
……普段の丁寧語も吹き飛ぶ程に恥ずかしかったらしい。
赤裸々な本音を真っ向から否定しないあたり、呪いの方が一枚上手のようだ。
一人で見事自爆している名無しを見て、五条はスマホ片手に断りなくカメラのシャッターを切る。
勿論、脅しやネタにするなんて卑怯な真似はしない。
ちょっと、こう……そう。コレクションが増えるだけで。
「……かっっっわいい〜〜〜。」
裸眼に焼き付けるように、すっかりトレードマークになってしまったアイマスクを下げ、とろけるように綻ばせた青い双眸で見下ろす。
普段墓穴を掘るようなことをしない分、名無しがやらかしている姿は愛おしさも一入である。
名無しに取っては失敗談──いや、黒歴史になる出来事の一つだろうが。
「五条さんに一欠片の優しさがあるのなら、聞こえないふりしてください。」
「えー、嫌♡」
「うわ……」
蛞蝓を見るような、心底嫌そうな表情で名無しは項垂れる。
あからさまにガッカリした名無しを見て良心が痛む──わけもなく。
「あ。」
五条は名案を思いついたらしい。
口元を愉しそうに吊り上げ、唯一無二の六眼を弓形に細めた。
──余談だが、大抵『こういう笑い方』をする五条の名案は、名無しにとって頭を抱えたくなるような迷案である。
「これでセックスしたら名無しの本音ダダ漏れになっちゃうんじゃない?」
意味を理解する為の所要時間、数秒。
名無しにかかった呪いすらフリーズした、空白の時間。
一瞬青ざめたかと思いきや、全身の血が顔に集まったかのように頬や耳を朱色へ染め上げた。
最中は普段の五割増で天邪鬼になってしまいがちなのだが──つまり、あられもない本音が暴かれるということで。
「しっ、しまっ、しません!」
承諾するわけがない。
そういった行為が『嫌い』というわけではない──むしろ五条悟を独り占めできる貴重な時間である故に本音は好きなのだが──如何せん五条は執拗い上、顔を覆いたくなるような痴態を見て大喜びするタイプなのだ。
角砂糖をガムシロップで溶かすように、きちんと角の立った名無しの理性をグズグズに壊してくる。
それはもう丁寧に、丁重に、心底嬉しそうに、愉しそうに、悪びれなく。
更に余談だが、翌日の事後は名無しにとって散々なものになる。
腰が痛いとか、恥ずかしくて死にたくなるとか。
「楽しみだな〜」
舌なめずりをしながらにじり寄ってくる五条から逃げられるはずもなく。
今日も甘い呪いを重ねられるのであった。
そんな頓珍漢な報告を受けた五条は、彼女に同行していた伊地知を脅……懇切丁寧に教えてもらい、何があったか全て洗いざらい聞いた後、大層機嫌良く学生寮の管理人室へ飛び込んだ。
サトラレの憂鬱
「名無し、シュークリームとプリンどっちが食べたぁい?」
有名パティスリーのシュークリームとプリン。
普段なら『ご飯』の一言に反応する犬宜しく、目を輝かせて背筋を伸ばすのだが──
五条の機嫌の良さから察してしまった名無しは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
勿論、追い返しても無駄ということを知っているため、テーブルを勧め、当然のようにお茶を用意した。
さて。
任務を終えた名無しの身に何が起こったのか。
耳を傾けてみれば一目瞭然ならぬ、一耳瞭然だ。
「……五条さんの好きな方を召し上がってください。」
《シュークリーム食べたいです!》
「…………。」
「…………。」
「…ぷふっ!うわー、ホントだ。本音聞こえるじゃん。変な呪い受けちゃったねー」
「し、仕方ないじゃないですか。護衛の任務ついて、庇ったらこうなったんですから」
《もう、何笑ってるんですか!困ってるんですよ!》
二重音声のように聞こえてくる声。有効範囲はおおよそ1m。
どこかの漫画だったかドラマだったか、そう。先天性R型脳梁変性症とかナントカ。
通称名『サトラレ』。
当然だがそんなものはフィクションで、漫画やドラマの中の話に過ぎない。
だが頓痴気な術式も現実にあるようで、予告状で脅された議員の護衛任務をしていた名無しがとっさに庇い、受けてしまった呪いは『サトラレ』そのものだ。
──平たく言えば、考えていることが周りの人間に伝わる呪いである。
「くくっ、覚えとこ。名無しはプリンよりシュークリーム派、っと。」
「そんなしょうもないこと、覚えなくて結構です…!」
《クッキーシューが好きです!》
「はいはい、薄皮しっとり生地よりザクザクした方が好きなんだねー」
「あぁあぁぁぁ〜〜〜」
知られて恥ずかしい内容ではないのだが、こうも遠慮なく自己主張する本音を聞かれるのは、中々耐え難いものがある。
呪いの元ネタになった漫画やドラマはシリアスな内容だったのに、どうしてこうなった。
「いやぁ、これ庇って正解じゃない?任務先は議員のお偉いさんだったんでしょ?こんな呪いを喰らったらお天道様に晒せないあんな事やこんな事から、お熱を上げてるキャバ嬢の源氏名まで周りにモロバレなわけでしょ?死にたくなるよねー」
「お陰で私のプライバシーはゼロなわけですけどね!」
《ちゃんと護衛しました!褒めてください!》
ほとほと困った名無しの表情とは裏腹に、彼女の本心は実に素直だった。
誰しも褒められて悪い気はしないのだろうが…こうも心の声が丸聞こえだと流石の五条も吹き出しそうになる。
例えるなら、そう。忠犬だ。
肩を震わせて笑いを噛み殺しながら、普段より何倍もストレートな元・教え子(の心の声)に促されるまま、ふわふわした黒髪を無遠慮に撫で回した。
「に、にやにや笑わないでください」
《五条さんに撫でられるの好きです。》
「えー、でも僕に撫でられるの好きなんでしょ?」
いくら虚勢を張っても火に油を注ぐ結果にしかならない。
惚れた弱みというか、五条の性格の悪さか露見しているというか。
何にせよ嬉しい反面、素直になれない名無しは大層不満そうに歯噛みするばかり。
「普段天邪鬼だから、本音が筒抜けなのはなんか新鮮だね。名無しが僕のことだぁ〜い好きなのは知ってるけど、本心はこうも素直なんだ〜?へ〜〜〜?」
「そうやって、からかってばっかりだと、」
《勿論、大好きですよ》
遮るように間髪入れず主張してくる心の声。
脅し文句を言う前に放たれた、嘘のつけない可愛い本音。
名無しは顔を真っ赤にしながら「あーーー!あーーーー!あの呪詛師もっとシめとけばよかった!」と頭を抱えて蹲ってしまった。
……普段の丁寧語も吹き飛ぶ程に恥ずかしかったらしい。
赤裸々な本音を真っ向から否定しないあたり、呪いの方が一枚上手のようだ。
一人で見事自爆している名無しを見て、五条はスマホ片手に断りなくカメラのシャッターを切る。
勿論、脅しやネタにするなんて卑怯な真似はしない。
ちょっと、こう……そう。コレクションが増えるだけで。
「……かっっっわいい〜〜〜。」
裸眼に焼き付けるように、すっかりトレードマークになってしまったアイマスクを下げ、とろけるように綻ばせた青い双眸で見下ろす。
普段墓穴を掘るようなことをしない分、名無しがやらかしている姿は愛おしさも一入である。
名無しに取っては失敗談──いや、黒歴史になる出来事の一つだろうが。
「五条さんに一欠片の優しさがあるのなら、聞こえないふりしてください。」
「えー、嫌♡」
「うわ……」
蛞蝓を見るような、心底嫌そうな表情で名無しは項垂れる。
あからさまにガッカリした名無しを見て良心が痛む──わけもなく。
「あ。」
五条は名案を思いついたらしい。
口元を愉しそうに吊り上げ、唯一無二の六眼を弓形に細めた。
──余談だが、大抵『こういう笑い方』をする五条の名案は、名無しにとって頭を抱えたくなるような迷案である。
「これでセックスしたら名無しの本音ダダ漏れになっちゃうんじゃない?」
意味を理解する為の所要時間、数秒。
名無しにかかった呪いすらフリーズした、空白の時間。
一瞬青ざめたかと思いきや、全身の血が顔に集まったかのように頬や耳を朱色へ染め上げた。
最中は普段の五割増で天邪鬼になってしまいがちなのだが──つまり、あられもない本音が暴かれるということで。
「しっ、しまっ、しません!」
承諾するわけがない。
そういった行為が『嫌い』というわけではない──むしろ五条悟を独り占めできる貴重な時間である故に本音は好きなのだが──如何せん五条は執拗い上、顔を覆いたくなるような痴態を見て大喜びするタイプなのだ。
角砂糖をガムシロップで溶かすように、きちんと角の立った名無しの理性をグズグズに壊してくる。
それはもう丁寧に、丁重に、心底嬉しそうに、愉しそうに、悪びれなく。
更に余談だが、翌日の事後は名無しにとって散々なものになる。
腰が痛いとか、恥ずかしくて死にたくなるとか。
「楽しみだな〜」
舌なめずりをしながらにじり寄ってくる五条から逃げられるはずもなく。
今日も甘い呪いを重ねられるのであった。