七海建人の災難
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「ホントは名無しと入れ替わるつもりで持って帰ったのにさぁ……。っていうか何。僕がいない間に二人でナニしてたわけ?」
不貞腐れた表情を浮かべる七海……の身体に入った五条。
彼が新潟出張土産に買ってきていた笹団子を黙々と頬張る七海(の姿をした五条)は些かシュールである。
「はぁ……普通に仕事ですよ。」
「はー?僕はソロプレイで任務だったのに?僕の名無しと一緒に仕事なんて、いいご身分だこと〜」
「まぁ…七海さんとの任務はやりやすくて私は助かるんですけど」
マグカップに注いだ緑茶を啜りながら、名無しはぽそりと本音を零す。
五条との任務も楽といえば楽なのだが、実際一番連携を取りやすく、任務をスムーズに進めやすいのは七海とだった。
五条とはお互い心配する必要のないスタンドプレイ。七海とはソロプレイもこなしつつのチームプレイなのだ。
二人で任務、というところへ焦点を当てれば、七海と組みやすいのは当然の結果だった。
その事を彼へ賞賛と共に伝えたところ『私もななしさんとの任務が一番やりやすい』と褒められたのだが──この件は五条へ黙っておいた方が良さそうだ。面倒な反応が帰ってくるに違いない。
「っていうか私と入れ替わるつもりだった、って。息を吐くように恐ろしいこと言うのやめて頂けません?何するつもりですか」
「ん?性感帯開発。」
「うわ……聞きたくなかった……。」
付き合いたての頃は顔を真っ赤にして声を荒らげていた名無しも、今となっては五条のセクハラ発言にも慣れたもので、ゲンナリした表情で項垂れている。
仮に『開発』がされなかったとしても、きっと言葉にするのと憚られるような、あんなことやこんなことをするに違いない。
「いい歳した大人が何仰ってるんです。正気ですか?」
「七海ィ、呪術師はみ〜んなイカレポンチッチーズなんだよ。知ってた?」
「五条さん……CV.七海さんで口調悪いのはやめましょうよ…悪夢に出てきそう…」
確かに呪術師は相対的に見ると性格がちょっと『難アリ』の人間が多い。
しかし、よりによって『難アリ』ナンバーワンの五条と、『常識人』ナンバーワンの七海が入れ替わるとなると……七海の胃痛が心配だ。
丁寧語を喋る五条にも違和感があるが、それよりも七海の声帯で軽薄な言葉尻・あまり子供に聞かせたくない単語を放つ方が大問題だ。
今まで築き上げた『一級呪術師・七海建人』の人物像を破壊しかねないし、巡り巡って七海への風評被害にもなりうる。
「いや、見るんだったら僕とイチャつく夢を見てよ。」
「五条さん…見た目と声と会話内容で大混乱するので黙ってて貰えますか…」
五条の身体に移ってしまった七海はともかく、『七海の身体で好き放題するであろう五条悟』を野放しにするわけにはいかない。これは一種のモンスター爆誕である。
そう。こんな風に、思いつきで。
「あ、そーだ。一発芸しまーす。『満面の笑みを浮かべた七海の表情筋』。」
表情の起伏が緩やかな七海とは思えない、満面の笑み。
元々の造形もあって、一見すれば栄えあるアカデミー賞を受賞した映画俳優のような笑顔である。
白い歯を剥いて、少年のような屈託ない笑顔は後光が差すような眩さではあるが、ここまで来れば『お前誰だ』案件なのだ。お前誰だ?
「誰かさんのせいで私の笑顔の価値が低くなりそうです。」
自分では早々浮かべない表情に、五条の姿をした七海はそっと鳥肌を立てた。
が、その隣で後光に当てられた名無しの反応は、七海とは違うもので──
「………………あの、中身が五条さんなのでどっちにお願いしたらわかんないんですけど、お写真撮ってもいいですか?永久保存と、猪野くんに売りつけます。」
スマホを取り出した。
「ダメに決まってんじゃん。」「ダメです。」
七海の声で五条が。五条の声で七海が。
お互いちぐはぐの音声が混線している状況だが、二人が突きつけたのは即答の『No』だった。
「何故そこで五条さんが返事されるんです。事の発端は貴方ですよ」
「いや、どう考えても七海の写真を永久保存はアウトでしょ。その保存容量、僕の美貌を撮影するのに割いてよ。」
「「そっちですか。」」
呆れた五条の声(勿論喋っているのは七海である)と名無しの声が二重音声でハモる。
余談だが、五条の顔の造形の自画自賛っぷりに『ナルシストめ』と罵る人間はここには存在しない。
腹立たしい事だが、神はあの男に二物も三物も四物も与えまくっているのだ。甘やかしすぎでは?
「ななしさん。あんな気味の悪い笑みを撮ってどうするんですか。それに中身はあの五条さんですよ」
「おいコラ、『あの』ってどういう意味だ、七海ィ。」
ヤクザの三下のようにメンチ切りながら七海に詰め寄る五条。
スーツの姿をした七海の身体で睨みつけながら言うものだから、普段よりガラが悪い……と名無しは口が裂けても言えなかった。
「言葉のままですよ。」
「あの、でも七海さんの身体の、貴重な笑顔ですし……」
どうせだから撮っておきたい。
元気が出ない時に見て、『あの時は災難だったな』と思い返してそっと笑いたいのだ。
あと名無しの後輩である、七海を崇拝してやまない猪野へ自慢したい。
「あそこまで胡散臭い笑みは矜恃の問題で無理ですが、貴女が笑えと言うなら写真くらい撮っても構いません。」
「いいんですか!?」
「ただし、猪野君に売るのはダメです。」
「ちぇ、ダメですか。」
売るつもりはなかったのだが、念押しのように釘を刺されてしまった。
しかし言質は取ったので、あとはこっちのものだ。一眼レフでも用意すればいいのだろうか。
「こら、名無し!七海の写真取るくらいなら僕の写真撮ってよ!出来ればツーショット!」
「もうそれは日常茶飯事じゃないですか。あとロック画面にしてる私の隠し撮りは早く消してください。」
「いいじゃん。子供の写真をロック画面にする親の気持ちと一緒で、邪な気持ちはないよ。多分。」
「さっきまで『入れ替わって身体を開発するつもりだった』と高らかと宣言しておいて、邪な気持ちはないとおっしゃられても説得力ゼロなんですよね」
いつ撮ったのか、五条のスマホのロック画面は名無しの寝顔である。
名無し本人としては、写りがいいとは到底思えなく…どちらかというと間抜けな寝顔なので今すぐ記憶と共に消して欲しいのだが、五条は中々消してくれない。
むしろ『これが可愛いんじゃん』と機嫌を良くする始末だ。タチが悪い。
「……ところで、この後どうするんですか。私はフリーですが、貴方はそうもいかないでしょう」
「はぁ〜?フリー?激務の僕を差し置いて?僕の代わりに午後からの悠仁達の実習任務、引率してよ七海。」
「今は五条先生なんだからさぁー」と我儘を畳み掛けながら、普段の七海なら飲まないような砂糖たっぷりの甘ったるいミルクティーを呷る。
それに対し、重々しい溜息を肺の底から絞り出し、舌打ち付きで七海は渋々了承した。
「……チッ。仕方ないですね」
「お。やけに素直じゃん。先輩を敬う気になった?」
「貴方を野放しにするより、ななしさんに監視してもらった方が安全だと判断したまでです。」
嫌そうに目元を細めた五条……の姿をした七海。
六眼もただの眼球に成り果てているようで、空をはめ込んだような青い瞳が訝しげに細められている。
目つけるような視線を五条へ向けていた七海は、諦めたように名無しへ頭を下げた。
「というわけでななしさん、この人が過剰な糖分摂取したり世間に顔向け出来ないようなことをしないよう、監視をお願いしてもよろしいですか?」
「大丈夫ですよ。お任せ下さい!いざとなったら縄で縛り上げて高専の地下室へ捕獲しておきます!」
「……そっちの方が倫理的にどうなの?名無し。」
物騒な物言いをする教え子に首を傾げながら、五条は空になったミルクティーの缶をゴミ箱へ放り投げたのであった。
七海建人の災難#02
「そうだ。身体が入れ替わったことだし、気になってたんだよねー」
そう言って前触れなくズボンの中を見る五条。
に、面食らう名無し。
更に、自分の下腹部を断りなく見下ろす五条へ、七海の拳が側頭部にクリーンヒットした。
傍から見れば、突然七海を殴り飛ばす五条以外の何物でもない。
「イッッッッたァ!?ちょっと、これ!お前の身体!」
「私の身体なら好きにしていいでしょう。勝手に見ないで頂けませんか」
「いいじゃん、立派なものを持ってんだから。チン毛が何色か気になっモガッ!」
無下限がない五条の側頭部(身体は七海のものだが)から鈍い音が響く。
が、悪気もなければら反省の色もないため、物凄い形相で五条の喧しい口元を七海は手のひらで容赦なく塞いだ。
露わになった六眼が、いつもの倍冷ややかな色に見えるのは気のせいか。
「……五条さん、最低ですね…」
侮蔑を込めた名無しの呟きが、麗らかな高専の空へ溶けて消えた。
不貞腐れた表情を浮かべる七海……の身体に入った五条。
彼が新潟出張土産に買ってきていた笹団子を黙々と頬張る七海(の姿をした五条)は些かシュールである。
「はぁ……普通に仕事ですよ。」
「はー?僕はソロプレイで任務だったのに?僕の名無しと一緒に仕事なんて、いいご身分だこと〜」
「まぁ…七海さんとの任務はやりやすくて私は助かるんですけど」
マグカップに注いだ緑茶を啜りながら、名無しはぽそりと本音を零す。
五条との任務も楽といえば楽なのだが、実際一番連携を取りやすく、任務をスムーズに進めやすいのは七海とだった。
五条とはお互い心配する必要のないスタンドプレイ。七海とはソロプレイもこなしつつのチームプレイなのだ。
二人で任務、というところへ焦点を当てれば、七海と組みやすいのは当然の結果だった。
その事を彼へ賞賛と共に伝えたところ『私もななしさんとの任務が一番やりやすい』と褒められたのだが──この件は五条へ黙っておいた方が良さそうだ。面倒な反応が帰ってくるに違いない。
「っていうか私と入れ替わるつもりだった、って。息を吐くように恐ろしいこと言うのやめて頂けません?何するつもりですか」
「ん?性感帯開発。」
「うわ……聞きたくなかった……。」
付き合いたての頃は顔を真っ赤にして声を荒らげていた名無しも、今となっては五条のセクハラ発言にも慣れたもので、ゲンナリした表情で項垂れている。
仮に『開発』がされなかったとしても、きっと言葉にするのと憚られるような、あんなことやこんなことをするに違いない。
「いい歳した大人が何仰ってるんです。正気ですか?」
「七海ィ、呪術師はみ〜んなイカレポンチッチーズなんだよ。知ってた?」
「五条さん……CV.七海さんで口調悪いのはやめましょうよ…悪夢に出てきそう…」
確かに呪術師は相対的に見ると性格がちょっと『難アリ』の人間が多い。
しかし、よりによって『難アリ』ナンバーワンの五条と、『常識人』ナンバーワンの七海が入れ替わるとなると……七海の胃痛が心配だ。
丁寧語を喋る五条にも違和感があるが、それよりも七海の声帯で軽薄な言葉尻・あまり子供に聞かせたくない単語を放つ方が大問題だ。
今まで築き上げた『一級呪術師・七海建人』の人物像を破壊しかねないし、巡り巡って七海への風評被害にもなりうる。
「いや、見るんだったら僕とイチャつく夢を見てよ。」
「五条さん…見た目と声と会話内容で大混乱するので黙ってて貰えますか…」
五条の身体に移ってしまった七海はともかく、『七海の身体で好き放題するであろう五条悟』を野放しにするわけにはいかない。これは一種のモンスター爆誕である。
そう。こんな風に、思いつきで。
「あ、そーだ。一発芸しまーす。『満面の笑みを浮かべた七海の表情筋』。」
表情の起伏が緩やかな七海とは思えない、満面の笑み。
元々の造形もあって、一見すれば栄えあるアカデミー賞を受賞した映画俳優のような笑顔である。
白い歯を剥いて、少年のような屈託ない笑顔は後光が差すような眩さではあるが、ここまで来れば『お前誰だ』案件なのだ。お前誰だ?
「誰かさんのせいで私の笑顔の価値が低くなりそうです。」
自分では早々浮かべない表情に、五条の姿をした七海はそっと鳥肌を立てた。
が、その隣で後光に当てられた名無しの反応は、七海とは違うもので──
「………………あの、中身が五条さんなのでどっちにお願いしたらわかんないんですけど、お写真撮ってもいいですか?永久保存と、猪野くんに売りつけます。」
スマホを取り出した。
「ダメに決まってんじゃん。」「ダメです。」
七海の声で五条が。五条の声で七海が。
お互いちぐはぐの音声が混線している状況だが、二人が突きつけたのは即答の『No』だった。
「何故そこで五条さんが返事されるんです。事の発端は貴方ですよ」
「いや、どう考えても七海の写真を永久保存はアウトでしょ。その保存容量、僕の美貌を撮影するのに割いてよ。」
「「そっちですか。」」
呆れた五条の声(勿論喋っているのは七海である)と名無しの声が二重音声でハモる。
余談だが、五条の顔の造形の自画自賛っぷりに『ナルシストめ』と罵る人間はここには存在しない。
腹立たしい事だが、神はあの男に二物も三物も四物も与えまくっているのだ。甘やかしすぎでは?
「ななしさん。あんな気味の悪い笑みを撮ってどうするんですか。それに中身はあの五条さんですよ」
「おいコラ、『あの』ってどういう意味だ、七海ィ。」
ヤクザの三下のようにメンチ切りながら七海に詰め寄る五条。
スーツの姿をした七海の身体で睨みつけながら言うものだから、普段よりガラが悪い……と名無しは口が裂けても言えなかった。
「言葉のままですよ。」
「あの、でも七海さんの身体の、貴重な笑顔ですし……」
どうせだから撮っておきたい。
元気が出ない時に見て、『あの時は災難だったな』と思い返してそっと笑いたいのだ。
あと名無しの後輩である、七海を崇拝してやまない猪野へ自慢したい。
「あそこまで胡散臭い笑みは矜恃の問題で無理ですが、貴女が笑えと言うなら写真くらい撮っても構いません。」
「いいんですか!?」
「ただし、猪野君に売るのはダメです。」
「ちぇ、ダメですか。」
売るつもりはなかったのだが、念押しのように釘を刺されてしまった。
しかし言質は取ったので、あとはこっちのものだ。一眼レフでも用意すればいいのだろうか。
「こら、名無し!七海の写真取るくらいなら僕の写真撮ってよ!出来ればツーショット!」
「もうそれは日常茶飯事じゃないですか。あとロック画面にしてる私の隠し撮りは早く消してください。」
「いいじゃん。子供の写真をロック画面にする親の気持ちと一緒で、邪な気持ちはないよ。多分。」
「さっきまで『入れ替わって身体を開発するつもりだった』と高らかと宣言しておいて、邪な気持ちはないとおっしゃられても説得力ゼロなんですよね」
いつ撮ったのか、五条のスマホのロック画面は名無しの寝顔である。
名無し本人としては、写りがいいとは到底思えなく…どちらかというと間抜けな寝顔なので今すぐ記憶と共に消して欲しいのだが、五条は中々消してくれない。
むしろ『これが可愛いんじゃん』と機嫌を良くする始末だ。タチが悪い。
「……ところで、この後どうするんですか。私はフリーですが、貴方はそうもいかないでしょう」
「はぁ〜?フリー?激務の僕を差し置いて?僕の代わりに午後からの悠仁達の実習任務、引率してよ七海。」
「今は五条先生なんだからさぁー」と我儘を畳み掛けながら、普段の七海なら飲まないような砂糖たっぷりの甘ったるいミルクティーを呷る。
それに対し、重々しい溜息を肺の底から絞り出し、舌打ち付きで七海は渋々了承した。
「……チッ。仕方ないですね」
「お。やけに素直じゃん。先輩を敬う気になった?」
「貴方を野放しにするより、ななしさんに監視してもらった方が安全だと判断したまでです。」
嫌そうに目元を細めた五条……の姿をした七海。
六眼もただの眼球に成り果てているようで、空をはめ込んだような青い瞳が訝しげに細められている。
目つけるような視線を五条へ向けていた七海は、諦めたように名無しへ頭を下げた。
「というわけでななしさん、この人が過剰な糖分摂取したり世間に顔向け出来ないようなことをしないよう、監視をお願いしてもよろしいですか?」
「大丈夫ですよ。お任せ下さい!いざとなったら縄で縛り上げて高専の地下室へ捕獲しておきます!」
「……そっちの方が倫理的にどうなの?名無し。」
物騒な物言いをする教え子に首を傾げながら、五条は空になったミルクティーの缶をゴミ箱へ放り投げたのであった。
七海建人の災難#02
「そうだ。身体が入れ替わったことだし、気になってたんだよねー」
そう言って前触れなくズボンの中を見る五条。
に、面食らう名無し。
更に、自分の下腹部を断りなく見下ろす五条へ、七海の拳が側頭部にクリーンヒットした。
傍から見れば、突然七海を殴り飛ばす五条以外の何物でもない。
「イッッッッたァ!?ちょっと、これ!お前の身体!」
「私の身体なら好きにしていいでしょう。勝手に見ないで頂けませんか」
「いいじゃん、立派なものを持ってんだから。チン毛が何色か気になっモガッ!」
無下限がない五条の側頭部(身体は七海のものだが)から鈍い音が響く。
が、悪気もなければら反省の色もないため、物凄い形相で五条の喧しい口元を七海は手のひらで容赦なく塞いだ。
露わになった六眼が、いつもの倍冷ややかな色に見えるのは気のせいか。
「……五条さん、最低ですね…」
侮蔑を込めた名無しの呟きが、麗らかな高専の空へ溶けて消えた。