short story
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早朝、3時58分。
朝日が昇るより早く、目覚まし代わりに鳴らす予定だったアラームを鳴る前に止めて、僕は欠伸をひとつ大きくこぼした。
見慣れた寮の管理人室。天井の木目の模様だってすっかり覚えてしまった。
隣ですぅすぅと寝息を立てる名無しの寝顔も、随分と日常的な光景になったものだ。
昨夜、『朝早いんですから、今日は早めに寝てくださいね』と急かす名無しの言葉にウンウンと頷きながら、彼女をベッドに引きずり込んだ記憶はまだ新しい。
かなり早い時間から抱き潰し、散々細い体躯を掻き抱いたせいで今も彼女は夢の中。
白い肌に咲いたキスマークが視界に入り、僕は思わず目元を緩ませほくそ笑んだ。
頬に触れて、瞼にキスをして、やわらかな髪を指でくるりと遊びたい衝動に駆られるが、我慢我慢。
今から残念ながら任務だ。
最初のミッションは、すやすや眠る彼女を起こさず、なるべく音を立てずに支度を済ませること。
……あー、行きたくない。
僕は重々しい溜息をそっと零して、魅惑的なシーツの海からそっと抜け出した。
***
シャワーを済ませて、シャツを羽織る。
濡れてしまった髪をドライヤーで適当に乾かしていると、ぺたぺたとペンギンのような足音が背後から近づく。
残念。クエストは失敗のようだ。
「あー、起きちゃった?」
「んん……」
洗面台の前に立つ僕の腰にぎゅうっと回される細い腕。
顔を確認しなくても分かる。名無しだ。
まだぼんやり寝惚けているのか、背中にぐりぐりと押し当てられる額に愛くるしさが。腰より少し上に当たるやわらかい感触に僕の理性がグラグラと揺れた。
どうしてくれるの、僕これから仕事なのに。
「起こしてくださったらよかったのに…」
「いっぱいシたから起こすのは可哀想かな、って。」
「……そう思うならもう少し手加減してください」
『そもそもしなければいいのに』と言わないことに気がついて、ついつい頬が緩んでしまう。
本当にそういうところ可愛いよね。
「起きたら僕がいなくて寂しかった?」
「ん。」
短く返される返事。
寝起きでふわふわしているからか、素直すぎる返答に僕は心臓を鷲掴みにされるような胸の苦しさを感じた。
本当にこの子、僕をどうしたいの。
「可愛い」と思わず零れた本音を口にしながら正面から抱きしめて、ぼんやりした眠気眼にキスを落とした。
するとお返しと言わんばかりに、屈んで近くなった僕の頬を両手で包んで触れるだけの幼稚な口付けを返される。
これだけのことなのに、思い切り抱きしめて、ベッドに戻って、ずっと一日中名無しを満喫したいと考えてしまうあたり、ホント重症だと思う。僕自身笑っちゃう。
「も〜…サボりたくなっちゃうでしょ。」
「…サボるのはだめですよ」
「ダメ?」
「だめです。」
ふふ、と小さく笑いながら離れていく身体。
昨日の情事後、ベッドの下へ脱ぎ散らかした僕のTシャツを着せたのだが、そのままのようだ。
『着る』というより細い体に布を『被せている』と言った方がしっくりくる。
世間一般男子諸君が大好きなように、例に漏れず僕も『彼シャツ』なるものが好きなので、朝から眼福と言わざるを得ない。
数時間前の僕、本当にありがとう。朝から元気出る。何がとは言わないけど。
「朝ごはん、一応サンドイッチ作ったんですけど食べま「食べる。」
駅で適当に買おうかと思っていた僕からすれば、願ったり叶ったりだ。
それで昨晩の夕飯の後、台所でゴソゴソしていたのか。
使い捨てのランチボックスに詰めているところが本当に彼女らしい。
僕の手間が少しでも減るようにしてくれる細やかな気遣いが擽ったくて、僕はそっと頬を撫でてもう一度キスを贈った。
「三日後には帰ってくるから、待っててね。」
「はい。」
「何かあったらすぐ連絡ちょうだいね。」
「はい。」
「ん、じゃあいってきます」
管理人室の扉の前で僕がしゃがむと、はにかんで笑いながらキスをくれる。
ふわふわのマシュマロみたいな唇を照れくさそうに形を変えながら、綻ぶように笑う名無しの笑顔が、僕は大好きだ。
「いってらっしゃい、五条さん。」
そして朝がはじまる
寮を出て、管理人室に面した窓へ振り返ればガラス越しに見える小柄なシルエット。
まるで僕が振り返ることを最初から分かっていたように、ひらひらと控えめに手を振る姿が遠目にも分かった。
(……キスマーク消えるまでには帰ろっと。)
とっとと任務を終わらせてしまえば、二日で片付くだろう。
蝉がまだ鳴き始めない、朝の4時46分。
まだ誰も動き出していない、濁りのない澄んだ空気。
僅かに湿り気を帯びた夏の朝を肺いっぱいに吸い込んで、僕はサンドイッチを大事に抱えて高専の正門へ軽やかに歩き出した。
朝日が昇るより早く、目覚まし代わりに鳴らす予定だったアラームを鳴る前に止めて、僕は欠伸をひとつ大きくこぼした。
見慣れた寮の管理人室。天井の木目の模様だってすっかり覚えてしまった。
隣ですぅすぅと寝息を立てる名無しの寝顔も、随分と日常的な光景になったものだ。
昨夜、『朝早いんですから、今日は早めに寝てくださいね』と急かす名無しの言葉にウンウンと頷きながら、彼女をベッドに引きずり込んだ記憶はまだ新しい。
かなり早い時間から抱き潰し、散々細い体躯を掻き抱いたせいで今も彼女は夢の中。
白い肌に咲いたキスマークが視界に入り、僕は思わず目元を緩ませほくそ笑んだ。
頬に触れて、瞼にキスをして、やわらかな髪を指でくるりと遊びたい衝動に駆られるが、我慢我慢。
今から残念ながら任務だ。
最初のミッションは、すやすや眠る彼女を起こさず、なるべく音を立てずに支度を済ませること。
……あー、行きたくない。
僕は重々しい溜息をそっと零して、魅惑的なシーツの海からそっと抜け出した。
***
シャワーを済ませて、シャツを羽織る。
濡れてしまった髪をドライヤーで適当に乾かしていると、ぺたぺたとペンギンのような足音が背後から近づく。
残念。クエストは失敗のようだ。
「あー、起きちゃった?」
「んん……」
洗面台の前に立つ僕の腰にぎゅうっと回される細い腕。
顔を確認しなくても分かる。名無しだ。
まだぼんやり寝惚けているのか、背中にぐりぐりと押し当てられる額に愛くるしさが。腰より少し上に当たるやわらかい感触に僕の理性がグラグラと揺れた。
どうしてくれるの、僕これから仕事なのに。
「起こしてくださったらよかったのに…」
「いっぱいシたから起こすのは可哀想かな、って。」
「……そう思うならもう少し手加減してください」
『そもそもしなければいいのに』と言わないことに気がついて、ついつい頬が緩んでしまう。
本当にそういうところ可愛いよね。
「起きたら僕がいなくて寂しかった?」
「ん。」
短く返される返事。
寝起きでふわふわしているからか、素直すぎる返答に僕は心臓を鷲掴みにされるような胸の苦しさを感じた。
本当にこの子、僕をどうしたいの。
「可愛い」と思わず零れた本音を口にしながら正面から抱きしめて、ぼんやりした眠気眼にキスを落とした。
するとお返しと言わんばかりに、屈んで近くなった僕の頬を両手で包んで触れるだけの幼稚な口付けを返される。
これだけのことなのに、思い切り抱きしめて、ベッドに戻って、ずっと一日中名無しを満喫したいと考えてしまうあたり、ホント重症だと思う。僕自身笑っちゃう。
「も〜…サボりたくなっちゃうでしょ。」
「…サボるのはだめですよ」
「ダメ?」
「だめです。」
ふふ、と小さく笑いながら離れていく身体。
昨日の情事後、ベッドの下へ脱ぎ散らかした僕のTシャツを着せたのだが、そのままのようだ。
『着る』というより細い体に布を『被せている』と言った方がしっくりくる。
世間一般男子諸君が大好きなように、例に漏れず僕も『彼シャツ』なるものが好きなので、朝から眼福と言わざるを得ない。
数時間前の僕、本当にありがとう。朝から元気出る。何がとは言わないけど。
「朝ごはん、一応サンドイッチ作ったんですけど食べま「食べる。」
駅で適当に買おうかと思っていた僕からすれば、願ったり叶ったりだ。
それで昨晩の夕飯の後、台所でゴソゴソしていたのか。
使い捨てのランチボックスに詰めているところが本当に彼女らしい。
僕の手間が少しでも減るようにしてくれる細やかな気遣いが擽ったくて、僕はそっと頬を撫でてもう一度キスを贈った。
「三日後には帰ってくるから、待っててね。」
「はい。」
「何かあったらすぐ連絡ちょうだいね。」
「はい。」
「ん、じゃあいってきます」
管理人室の扉の前で僕がしゃがむと、はにかんで笑いながらキスをくれる。
ふわふわのマシュマロみたいな唇を照れくさそうに形を変えながら、綻ぶように笑う名無しの笑顔が、僕は大好きだ。
「いってらっしゃい、五条さん。」
そして朝がはじまる
寮を出て、管理人室に面した窓へ振り返ればガラス越しに見える小柄なシルエット。
まるで僕が振り返ることを最初から分かっていたように、ひらひらと控えめに手を振る姿が遠目にも分かった。
(……キスマーク消えるまでには帰ろっと。)
とっとと任務を終わらせてしまえば、二日で片付くだろう。
蝉がまだ鳴き始めない、朝の4時46分。
まだ誰も動き出していない、濁りのない澄んだ空気。
僅かに湿り気を帯びた夏の朝を肺いっぱいに吸い込んで、僕はサンドイッチを大事に抱えて高専の正門へ軽やかに歩き出した。