short story
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片やニヤニヤと笑う男。
一方、女の方は特売のセールを狙う主婦よりも真剣な眼差しである。
「じゃんけん、」
「ぽん」「ぽん!」
「はい、また僕の勝ちー」
「何でですか!?」
五条はチョキをそのままピースサインに変え、名無しに向けてニンマリと笑う。
パーを出した名無しはくるりとした瞳をかっ開き、自分の手と五条の手を何度も見比べていた。
当たり前だが見比べたところで結果は変わらない。
五条の名誉のために書き添えるが、後出しなどの不正もない。
「これで七回連続ですよ!?」
「良かったね。ラッキーナンバーじゃん。」
「連敗記録ですよ、嬉しいわけないじゃないですか」
目隠しで目元は隠れているが、五条の口元は満足そうに笑みを浮かべている。
対する名無しは表情が本気である。本気と書いてマジと読む。
「じゃ〜言ってもらおうか。」
「う、」
ここ数ヶ月で一番機嫌良さそうな五条。
――それもそうだろう。
普段『そういうこと』をあまり口にしない彼女から、愛の言の葉を貰えるのだから。
「……好き、ですよ。」
「えー、もっとこう、ほら。感情込めてさ〜」
「恥ずかしいんですよ…!」
七回連続で言っても慣れるわけがない。
好意を言葉にすることが大事なのは知っているが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
茹だった頬があまりにも恥ずかしくて、名無しは薄い手のひらで頬を覆い隠した。
「大体、言わなくったって知ってるくせに…」
「うん、知ってる。」
言葉にしない代わりに、行動に移しているつもりだ。
五条もそれに対して満足しているが、残念ながら彼は強欲なので『言葉も欲しい』というのは至極当然で。
『じゃんけんで負けた方が《好き》と言う』……と、なんともチープな勝負を名無しに持ち掛けたのが切っ掛けだ。
軽い気持ちで『一回だけですよ』と承諾した名無しだが、じゃんけんで負け越すのが嫌だったのか、勝つまでやる――と意地を張り、今に至る。見事な七連敗である。
「言う方は結構恥ずかしいんですよ。」
「へー、そうなんだ。僕、ずーっと勝ってるから分かんなーい。」
「む、ムカつく…!」
流石煽りに関しても特級である。
歌姫が『五条ムカつく』と豪語するのは無理もない。
五条は口角をニッと上げながら、優雅に長い足を組み直した。
「まだやる?僕はそろそろ満足したけど。」
「負け越しは嫌です。」
五条の思惑に嵌っていることは百も承知だ。
しかし負けず嫌いの名無しである。何としてでも一勝は持って帰りたい。
「そうこなくっちゃ」と五条は笑みを深く刻み、骨張った手をグッと握りしめた。
「じゃんけん、」
「ぽん!」
「か、勝った!」
「あーあ、負けちゃったー」
名無しはグー。五条はチョキ。
勝利した拳を天井に突き上げ、立派な成人女性だというのに子供のように無邪気にはしゃぐ。
汚名返上とまではいかないが、連敗記録もこれでストップだ。感動も一入だろう。
「やっと勝てた…!」
毎年甲子園を予選敗退していた高校生球児が、初戦を初めて突破したような喜びようだ。
一方、五条はというと――悔しがる素振りは微塵もなく、にっこりと笑みを深くするばかり。
いつもの黒いアイマスクへ親指を差し入れ、手馴れた手つきで外しながら五条は名無しの名前を呼んだ。
「名無し。」
「はい?」
ドン底だったテンションが花咲くように舞い上がっていた名無しが、満面の笑顔で振り返る。
掠めるように触れる唇。
視界いっぱいに広がるのは長い白銀の睫毛。
雨上がりの空を切り取ったような瞳と視線が絡んだまま、唇に触れた体温はすり抜けるように離れていった。
「愛してるよ。」
色と情愛を込めて。
底意地悪い笑みを潜め、それはそれはとても愛おしそうに。
勝負に勝った余韻は見事に吹き飛び、名無しは腰が抜けそうになってしまった。
勝負の行方は?
「す、好きって言う、話じゃないですか!」
「ん?愛してるの方が上位互換なんだからいいんじゃない?」
失念していた。
五条はこんなことで恥ずかしがるタマじゃなかった。
これではただ名無しだけが恥ずかしい目に遭うだけじゃないか。
気がついても時すでに遅し。
五条は……それはそれは綺麗に、美しく、形のいい唇を弓なりに細めた。
(名無しのじゃんけん、いつも同じパターンなんだよねぇ)
意外なところで単純な、恋人のささやかな弱点をそっと胸の内にしまい込み、五条悟は上機嫌で鼻歌を口ずさんだ。
一方、女の方は特売のセールを狙う主婦よりも真剣な眼差しである。
「じゃんけん、」
「ぽん」「ぽん!」
「はい、また僕の勝ちー」
「何でですか!?」
五条はチョキをそのままピースサインに変え、名無しに向けてニンマリと笑う。
パーを出した名無しはくるりとした瞳をかっ開き、自分の手と五条の手を何度も見比べていた。
当たり前だが見比べたところで結果は変わらない。
五条の名誉のために書き添えるが、後出しなどの不正もない。
「これで七回連続ですよ!?」
「良かったね。ラッキーナンバーじゃん。」
「連敗記録ですよ、嬉しいわけないじゃないですか」
目隠しで目元は隠れているが、五条の口元は満足そうに笑みを浮かべている。
対する名無しは表情が本気である。本気と書いてマジと読む。
「じゃ〜言ってもらおうか。」
「う、」
ここ数ヶ月で一番機嫌良さそうな五条。
――それもそうだろう。
普段『そういうこと』をあまり口にしない彼女から、愛の言の葉を貰えるのだから。
「……好き、ですよ。」
「えー、もっとこう、ほら。感情込めてさ〜」
「恥ずかしいんですよ…!」
七回連続で言っても慣れるわけがない。
好意を言葉にすることが大事なのは知っているが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
茹だった頬があまりにも恥ずかしくて、名無しは薄い手のひらで頬を覆い隠した。
「大体、言わなくったって知ってるくせに…」
「うん、知ってる。」
言葉にしない代わりに、行動に移しているつもりだ。
五条もそれに対して満足しているが、残念ながら彼は強欲なので『言葉も欲しい』というのは至極当然で。
『じゃんけんで負けた方が《好き》と言う』……と、なんともチープな勝負を名無しに持ち掛けたのが切っ掛けだ。
軽い気持ちで『一回だけですよ』と承諾した名無しだが、じゃんけんで負け越すのが嫌だったのか、勝つまでやる――と意地を張り、今に至る。見事な七連敗である。
「言う方は結構恥ずかしいんですよ。」
「へー、そうなんだ。僕、ずーっと勝ってるから分かんなーい。」
「む、ムカつく…!」
流石煽りに関しても特級である。
歌姫が『五条ムカつく』と豪語するのは無理もない。
五条は口角をニッと上げながら、優雅に長い足を組み直した。
「まだやる?僕はそろそろ満足したけど。」
「負け越しは嫌です。」
五条の思惑に嵌っていることは百も承知だ。
しかし負けず嫌いの名無しである。何としてでも一勝は持って帰りたい。
「そうこなくっちゃ」と五条は笑みを深く刻み、骨張った手をグッと握りしめた。
「じゃんけん、」
「ぽん!」
「か、勝った!」
「あーあ、負けちゃったー」
名無しはグー。五条はチョキ。
勝利した拳を天井に突き上げ、立派な成人女性だというのに子供のように無邪気にはしゃぐ。
汚名返上とまではいかないが、連敗記録もこれでストップだ。感動も一入だろう。
「やっと勝てた…!」
毎年甲子園を予選敗退していた高校生球児が、初戦を初めて突破したような喜びようだ。
一方、五条はというと――悔しがる素振りは微塵もなく、にっこりと笑みを深くするばかり。
いつもの黒いアイマスクへ親指を差し入れ、手馴れた手つきで外しながら五条は名無しの名前を呼んだ。
「名無し。」
「はい?」
ドン底だったテンションが花咲くように舞い上がっていた名無しが、満面の笑顔で振り返る。
掠めるように触れる唇。
視界いっぱいに広がるのは長い白銀の睫毛。
雨上がりの空を切り取ったような瞳と視線が絡んだまま、唇に触れた体温はすり抜けるように離れていった。
「愛してるよ。」
色と情愛を込めて。
底意地悪い笑みを潜め、それはそれはとても愛おしそうに。
勝負に勝った余韻は見事に吹き飛び、名無しは腰が抜けそうになってしまった。
勝負の行方は?
「す、好きって言う、話じゃないですか!」
「ん?愛してるの方が上位互換なんだからいいんじゃない?」
失念していた。
五条はこんなことで恥ずかしがるタマじゃなかった。
これではただ名無しだけが恥ずかしい目に遭うだけじゃないか。
気がついても時すでに遅し。
五条は……それはそれは綺麗に、美しく、形のいい唇を弓なりに細めた。
(名無しのじゃんけん、いつも同じパターンなんだよねぇ)
意外なところで単純な、恋人のささやかな弱点をそっと胸の内にしまい込み、五条悟は上機嫌で鼻歌を口ずさんだ。